少女は記憶を胸に   作:クロケル

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鳥籠

とある小道にて、彼女達は逃げていた。

「ミサキ、アツコ、ヒヨリ、移動するぞ。もう位置がバレた」

「……リーダー、間に合うの?」

「うわぁん、もうおしまいなんです!こんなことならもっとご飯を食べとくんでした!」

 

喋りこそしないが、その仮面の下で覚悟を固めている少女。

彼女達の名前は、アリウススクワッド。エデン条約を乗っ取り、襲撃をした存在だ。

 

そんな彼女達は、一応母校ではあるアリウスに追われていた。

「私が別の道から行くよ。時間稼ぎにはなるだろうから」

「……いや、それは危険だミサキ。考え直せ」

「そう」

 

そうして彼女達が足音を殺して逃げながら話していると、

まもなく廃墟に足音が響き渡る。

いやに規則的な足音はゆっくりと広がっていく。包囲されている。

そんなことはアリウススクワッドである彼女たちにしてみれば簡単に分かることだ。

 

敵にいるスナイパー。それによる攻撃によって、

気がついたらこの建物に逃げざるを得なくなってしまった。

ヒヨリをもってしても、

明かり一つない夜の街でスナイパーを探し出すことは不可能だった。

彼女達にとって幸いなのは

今いる建物に入ってからは狙撃が来ていないということだけである。

 

サオリは内心、

アリウスにいなかったような気すらしてくるスナイパーへの警戒を強めてゆく。

普段の態度からは分かりにくいが、ヒヨリはかなりの腕のスナイパーだ。

 

ただ、ほとんどすべてのスナイパーは

夜での戦闘は視界の問題で非常に精度が落ちやすく、

ヒヨリは思うように視界を確保できず、スナイパーを見つけられないだけで。

 

足音は刻一刻とサオリ達の下へと近づいてきていた。

「構えろ。正面突破するしかない」

そう言うと、誰からと言わずに戦闘準備を整える。

 

「発見した。裏切り者共だ。秤アツコは殺すなよ」

一番前に立っていた隊長である子が、後ろにいる隊員に再確認をするように呟く。

 

サオリの放った弾丸が、隊長である子の盾によって防がれ、

隊員の一人が撃った弾もアツコの盾によって防がれる。

お互いに最初の一撃は盾によって防がれた。

 

ミサキはリロードを済ませたロケットランチャーを、後方にめがけて撃つ。

しかし後方に着弾することはなく、弾道に盾が割り込んで来る。

 

そうして着弾したロケットランチャーは、激しい煙を巻き起こし

辺りが見えなくなる。

最初からミサキの狙いは目眩ましをすること。

 

後方にいる追手を倒せるに越したことはないが、

間違いなく割り込んで来るだろうと彼女は考えていた。

つまるところ、どっちに転んでもよかったのである。

 

目眩ましをした目的は、サオリの居場所をわかりにくくする必要があった。

煙が徐々に晴れていく。

 

ミサキ達には、確信があった。

きっとリーダーなら、サオリなら、少なくとも数人は倒してくれているハズだと。

 

実際、彼女達の思うことは間違っていない。

万全な状態のサオリはなんとか切り抜けられただろうし

今のように困窮していても有利は取れたはずだ。

 

煙が晴れる。倒れていたのは───たった一人。

ただその一人は、彼女たちにとっては衝撃的なものだった。

倒れていたのはサオリだったのだ。

動揺する間もなく今度はアツコに弾丸が飛んでいく。

 

煙が晴れた時には、対峙しているアリウスからの追手は銃を構えているだけで、

撃ってはいなかった。

正体不明のスナイパーによる狙撃。ヒヨリはただ一人それに気がついた。

 

これまで散々辛酸を舐めさせられてきたスナイパーに、またも苦しめられている。

その事実に気がついたとしても、どうしようもなかった。

 

目の前にいるアリウスの追手をどうにかしなければいけないし、

ここまで執拗に追ってくるスナイパー、それもアリウス所属を簡単に見つけられない。

 

消耗が激しい今、アリウスの追手に襲われても大丈夫なほど余裕がない。

連戦になっている以上、体力や疲労の回復はできていないのだ。

 

一人、また一人と倒すも、スナイパーの狙撃によってついにミサキも倒れる。

前線はアツコただ一人、後衛も、ヒヨリだけとなってしまった。

 

どうしてこんな夜の闇の中狙撃を成功させられているのか、

そんな疑問は尽きなかったが、

ヒヨリにはアツコの援護を精一杯することしかできなかった。

 

倒しながら時間を稼いで、サオリ達の復帰を待つのが賢明だろう。

そう判断してのことだった。

 

ただヒヨリは普通のスナイパーだ。

接近戦を仕掛けられてしまっては弱い。

闇に紛れて接近してきていた一人のアリウス生に、無すすべもなくやられてしまった。

 

「ついてこい秤アツコ。マダムがお呼びだ」

アツコは何もしない。頷くことも、首を振ることも。

 

「ついてこなければ裏切り者のお前の仲間達を殺して

お前を痛めつけて連れて行くことになる」

隊長である子が指示をするまでもなく、隊員たちはサオリ達に銃を向ける。

 

「付いて来てくれるな?」

少し悩んだ後に、アツコは頷く。

自身の命と、仲間の命を天秤にかけて、仲間の命を選んだだけのこと。

 

「よし、秤アツコを連れていけ。できるだけ早くな」

隊員達に連れられて、アツコは出ていく。

確認をして最後に隊長は部屋から出ようとする。

 

「ま…て……アツコを……どこに……」

なんとか這いずるようにサオリは起き上がって隊長をしている子に聞く。

 

「サオリ、私もできればこんな事はしたくなかった」

出ずに戻ってきた少女は、サオリの横に屈む。

 

「……ここだけの話、マダムはアツコを使って何かをしようとしている。

それも、明日の夜明け頃」

「連れて…行くな……」

ポケットからいくつか弾薬を取り出すとサオリの銃の横に置く。

 

「サオリ、それはできないんだ」

「なら、せめて……取り戻すのを手伝って……くれ……」

追加で簡単な治療キットをサオリの横に置いて立ち上がる。

 

「じゃあなサオリ。期待しないでおくよ」

そう言って隊長の子が退出すると同時に、サオリは再度倒れる。

 

 

 

 

 

 

『アツコでしたっけ?連れて行かれましたよ。

これがあなたのやりたいことで合ってるんですか?』

「それなら順調だね。ケイ、先生に匿名で連絡を」

ケイが不満げな声で了承すると、再び視線を戻す。

 

『しかし……私が監視カメラの映像を

ハックして知らせなければどうするつもりだったんですか?』

ケイの協力の甲斐もあって、サオリ達を追い詰めることができた。

 

それなりに近づき、スコープ越しに様子を伺うと、

どこかから持ってきていたらしい医療キットで応急手当てをしているようだ。

 

ケイに音声を拾ってもらって、何を話しているかに耳を傾ける。

「この通りだ!襲っておいて頼むのがおかしいことは重々承知だが

頼む。姫を……アツコを助けるのを手伝ってくれ!」

頭を地面につくほど深く下げ、サオリは先生に懇願する。

 

後ろにいるヒヨリも、ミサキも同様だ。

そんな彼女達に視線を合わせるように先生も膝をついて話し始める。

"そんな頭を下げないでいいよ。何があったのか教えてくれる?"

「実は……」

 

そう言って説明された事情を聞きおえると、先生は立ち上がる。

"明日の朝までがタイムリミットなんだね?"

「あ、あぁそうだ。」

"早く行こう"

 

そういってサオリ、ヒヨリ、ミサキ、先生は

アリウスの入り口であるカタコンベの方向へ向かっていった。

『着いていくんですか?』

「うん、行こうか」

 

素早く先生たちは走っていくのに、急いでついていく。

カタコンベの経路は、ある程度把握してくれているはず。

未来では急いでいたため聞けていなかったが、大丈夫だよな?

 

最悪案内をすればいいだけか。

そう思いながらビルを駆け下りる。

 

 

 

少し経って、カタコンベのあるトリニティの外れ。

そこに辿り着いたかと思うと、茂みの中に隠れている階段が月光を浴びていた。

 

"こんなところにあったんだ……"

「そうだ。ひとまず入り口付近の見張りをしてるやつらに今日の地図を貰わないとな」

 

"今日の地図?"

「ああ、カタコンベは不思議なことに毎日構造が変化する」

"だから今日の構造を知る必要があると"

「そういうことだ。もっとも、どうやって変化しているのか見たことはないが」

 

あまり足音を立てずに移動している後ろを、私もついて行く。

『はぁ…音声阻害をこんなことにも使うことになるとは……』

「ありがとうね、ケイ」

『行きますよ。見失ってしまっては面倒です』

 

そう言って私達も階段を降りる。少し歩いた後にミカが来るはずだ。

その時に見つからないように注意しながら後をつけることにしよう。

 

階段を降りていくにつれて、徐々に戦闘音が大きくなっていく。

一度足を止めて、ケイに様子を探ってもらう。

検問所として機能していたのであろう階段下は、

サオリ達と見回りをしているアリウス生との戦場となっていた。

 

一人欠けているとはいえ、物資の補充もできている。

そんなアリウススクワッドを止めることができず、警備隊を蹴散らしていく。

 

その後ろを付いていき、サオリ達を見守る。

いつでも銃は撃てるように準備はしている。

このまま何事もなく進めれば良いのだが、そう上手くもいかない。

 

少し歩くとケイが話しかけてくる。

『背後からミカが来ています。気をつけてください』

その声を聞いて反射的に振り返ると、凄まじい勢いでこちらへ

走ってきているミカがいた。

 

急いで身を隠し、やり過ごそうとする。

しかし足音は一度目の前に止まったかと思うと、それ以降しなくなった。 

 

まさかバレた?

いやいくらミカでも見つけられないと思っていたのだが……

そうではなかったらしい。

 

それでも見つかっていない可能性にかけて無言を貫いていたのだが、

私の近くにあった木箱が一つ破壊される。

 

「早く出てこないと、貴方もこうなっちゃうよ」

確信を持ってこちらへ話しかけてくるミカ。

流石に逃げきることは不可能だと判断して姿を現す。

 

私が出てきたのを見ていたミカは

少し嫌そうな顔をしたかと思うと、こちらへ警告してくれる。

「なんだ〜グリムちゃんだったんだ。邪魔だから早くどっか行ってくれる?」

そう言ってミカは銃口をこちらに向ける。

 

どうしようか。ついて行くのをやめるつもりはないが、

かといってそれを素直にミカに伝えて良いものだろうか。

 

悩んでいると、奥の方からわずかに銃声が聞こえる。

「近くにいたんだ」

そう言ってミカは素早く体を動かし、銃声の方向

───サオリ達のいる方向へと走って行く。

 

私はそれをただ見ていた。

ミカが先生を未来通り信頼してくれるにはそうするべきだと思ったから。

分かっている。結果的に過ちを犯さないで済んだから良かっただけで、

あの状態のミカは、間違いなく誰かを殺せる精神状態なのは。

 

厄災で終わってしまわない為にも、

私の個人的な友人を助けたい、なんて思いは無視しなければならない。

銃声が聞こえる。きっと、ミカとサオリ達が戦い始めたのだろう。

 

そんな音を背景に、私はカタコンベの中を歩いた。

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