私はナギサに会いに行っていた。
保護しているアリウスの生徒達は、アリウスへの行き方がわからないとのことで、
後回しになってしまうのは仕方のないことではある。
アリウスの問題は早急に解決したいが、現状のトリニティも無視するわけにはいかない。
"ミカの様子は大丈夫?"
「身体面は問題ないですが、精神面は十分ではないです」
ミネが先に答えてくれる。
「今はまだ火が弱いですが、時間が経つとどうなるのか……」
ナギサの言う懸念はご尤もだと思う。
ミカを取り巻く状況は、日に日に悪くなっていっている。
トリニティの裏切り者として捕らえたあの日からずっと。
古聖堂にミサイルが着弾し、混乱している時には
石を投げ入れられたり殴られたり蹴られたりするような
嫌がらせ……いや、イジメを受けたらしい。
もちろんそれを行った生徒には注意が入ったが、
どこまで効果があるのか未知数だ。
「3週間後に控えている聴聞会も出席の意志がありませんし……」
"……話し合ってみるしかないね"
幸いまだ時間はある。ゆっくりと話をしてみれば気が変わるかもしれない。
そう話して私もミカの元を訪れる。
前に訪れたのは古聖堂にミサイルがとんでくる前だったか。
そんな事を考えながら扉を開ける。
"ミカは元気?"
「あれ?先生、来てくれたんだ」
ミカが捕まっている部屋を見渡す。
急いで作ったからか、緩そうに見える鉄格子がある以外は、
普通の部屋といった様相で、本当に軟禁している部屋なのか?とすら思う。
「特に問題ないから心配しなくていいのに」
"この前石を投げられたって聞いたけど"
そう言うとミカは少しハッとしたような表情を浮かべたかと思うと、
すぐにその表情を消した。
「やだなぁ先生。あの時はきっと、
どこから襲われるかわからないから気をつけてたんだよきっと」
"持ち物も燃やされたって……"
「ちょうど新しいのに変えようと思ってたからよかったかも」
そう言ってミカは私に微笑みかける。
その笑顔は引きつっていて、無理をしているのは明白だった。
"ミカ……"
何か慰めるような言葉が考えついては消えていく。
ここでどんな言葉を投げかけても、きっとミカは救われない。
「先生と話すことなんてないよ。ナギちゃんと話してより良い
トリニティを作るのを手伝ってあげてよ」
"それなら、ミカもいないとね"
おそらくミカはこのまま聴聞会に出席せずに、退学になろうとしている。
そんなことにはさせない。
確かにミカは悪いことはした。それは事実ではある。
それでもナギサもセイアも、ミカが退学になることを望んではいないだろう。
「……それはできないかも。セイアちゃんもきっと私に会いたくないだろうし」
"なら一度話してみようか"
「でも、それはセイアちゃんが……」
"大丈夫、きっと話してくれるよ"
ナギサに連絡をしてセイアの病室を訪れる許可を貰う。
二つ返事で許可をしてくれたナギサも連れて、セイアの元へ訪れる。
病室の扉を開けると、たまたま起きていたセイアがこちらを見る。
「やあこんばんは。先生にナギサ、それにミカも」
ついこの前まで寝たきりだったのが嘘のように元気にセイアは話しかけてくる。
"こんばんは。体調はどうかな?"
「それなりに元気さ。突然意識を失ってしまうことはあるけどね」
そう言ってセイアは軽く笑う。
私達からしたら笑えなくはあるが。
「すまないね。久々に来てもらったところ申し訳がないが、
ミカと二人で話をしてもいいかい?」
ナギサはすこし考えたように見えたがすぐに頷く。
そうして扉の側で待機していると、着信音が聞こえる。
"ごめんナギサ、少し席を外すね"
「はい、分かりました。もし何か用事ができましたらそちらを優先してください」
周りに人が居ないのを確認すると、アロナに聞く。
"さっきの通知は何だったの?"
『えぇーっと…ちょっと待ってくださいね……』
すぐにファイルを見つけ出したアロナに内容を教えてもらう。
『どうやら、位置情報のようです。トリニティ総合学園の郊外ですね!』
どうしてそんなところの位置情報が送られてきたのかは
はっきりと分からないが、ひとまず確認しに行こう。
"ナギサに用事ができたから行くことを伝えておいて"
『分かりました!モモトークで送っておきますね』
そうして一目散に、送られてきた住所へと向かう。
すこし暗めの街並みを歩いていると、ようやく目的であった
住所へ辿り着くが、見た限り廃墟だった。
何か特別なところなど内容に見える廃墟の前に立っていると、
建物の奥から足音が聞こえる。
誰が来るんだ。と思い、警戒を強めていると、
見覚えのある生徒がこちらへと歩いてきてくれる。
"こんなところで何をしてるの?サオリ達は"
よく分からないが、おそらく彼女達を助ければ良いのだろう。
誰がどうやって連絡を送ったのかは明確に分からないが。
極めて冷静に、怒りなど微塵もなく、聞いた。
サオリは一瞬動揺したかと思うと、こちらへ頭を下げてくる。
「この通りだ!襲っておいて頼むのがおかしいことは
重々承知だが頼む姫を……アツコを助けるのを手伝ってくれ!」
思っていた数倍は凄い勢いで頭を下げたサオリに
できるだけ優しい声で聞く。
"そんな頭を下げないでいいよ。何があったのか教えてくれる?"
「実は……」
そう言ってサオリは説明をしてくれる。
彼女の仲間である、秤アツコ。
彼女はロイヤルブラッドと言って、特別な血筋らしい。
そのことに目をつけたマダムから、生贄として育てられたらしい。
そしておそらく、明日の夜明け頃に、マダムによって何かされてしまうということ。
すべてを話してもらって、それでも冷静でいられたのは、
元凶であるマダムと直接対峙して、
アリウスを改善できると思ったからかもしれない。
「私をいつでも殺せるように、ヘイローを破壊する爆弾の起爆装置も渡す。
だから、だからどうか…頼む……」
弱々しい声でサオリは話す。
"明日の朝までがタイムリミットなんだね?"
再度確認をする。余裕があるのなら、準備をしてきたほうが
良かったが、明日の朝がタイムリミットなら、
いち早く行かなくてはならない。
「あ、あぁそうだ。」
サオリは同意してくれた。
"早く行こう"
「その、ヘイロー破壊爆弾の起爆装置を渡しておかなくてよいのか?」
"……それなら一応渡しておいてくれる?"
そう言ってポケットからハンドガンを取り出す。
「……何を?」
ゆっくりと狙いを定め、破壊する。
"よし、行こうか"
「いい……のか?」
"あんなものなんて、ないほうがいいし、それにサオリ達を信じてるからね"
「そうか……ありがとう。案内しよう」
そう言ってサオリ達に案内してもらいながら、アリウスへと向かった。
少し歩き、トリニティの外れにある森に来る。
"こんなところにあるの?"
「そうだ。少し待っていてくれ」
そう言って茂みの一部を動かすと、階段が現れる。
"こんなところにあったんだ……"
「そうだ。ひとまず入り口付近の見張りをしてるやつらに今日の地図を貰わないとな」
そう言って階段をゆっくりと降りていく。
降り終えて最初に見つけたのは、やたらと広い地下通路
……いや、地下迷宮だった。
ところどころ障害物が置かれているものの、
それなりに開けていて、見通しは悪くない。
そんな事を考えていると、走ってきたアリウスの子達が発砲してくる。
慌ててサオリがその弾丸を受け止めると、そのまま銃を向ける。
「どいてくれ。大事な用事がある」
「できない相談だな、裏切り者。マダムに誰も通すなと言われてるんだよ!」
そう言って更に発砲しようとした子が倒れる。
「も、申し訳ないですけど、私達も急がないといけないので……」
少し煙の出ている銃口をヒヨリは向けていた。
「はぁ……正面突破するよ、リーダー」
「仕方ない。先生、指揮を頼む」
"任せて"
道中、サオリ達からできることについては聞いている。
サオリはアサルトライフルを主に使うことと、少しは近接戦闘の心得があるとのこと。
ヒヨリはスナイパー、ミサキはロケットランチャーを用いた範囲殲滅。
アツコという今取り戻しに行っている子は前線に立っていたようだ。
少し指示さえ出せば、すぐにアリウスの警備をしていた子達は倒れた。
「先を急ごう」
そう言ってサオリは最初に倒された子のポケットを探ったかと思うと、
入れてあった紙を一枚取り出す。どうやらその紙が地図のようだ。
地図を見ながら歩みを進める。
地図でいうとそろそろ出口へとたどり着きそうだ。
たまたま出会ってしまった巡回をしている子たちを倒して進もうとしている時だった。
銃弾が背後から飛んでくる。
そちらへ振り向くと同時に、見覚えにある姿が目に入る。
「待っててくれたんだ!嬉しいな」
ひどく濁りきった瞳のミカがそこには立っていた。
あきらかにこちらを助けるのではなく、敵対していることが見てわかる。
「ミカ……」
「どうしたのかな?錠前サオリ」
「裁きは後で受ける。だから、今だけは見逃してくれないか?」
「話をするべきことがあるんじゃないかな?私たちは」
そういってミカはサオリへ向けて発砲する。
"どうしてミカがここにいるのかな?"
できればあまり多くの生徒を、巻き込みたくない。
アリウスの事件には確かにミカも関わっているが、なぜここにいるのだろうか?
私の声を聞いてようやく存在を認識したのか、ミカは激しく動揺しているように見える。
「どう、して?先生がアリウススクワッドと一緒にいるの?」
"危ないから、ミカはトリニティに……"
そう言い終える前に爆発音が響く。
「どうして、こうなっちゃうのかなぁ」
背後からアリウスの生徒たちが現れる。
"ミカ……"
「……すまない、先生。早く向かわなければ」
"……それもそうだね"
ミカのことは気になるが、時間制限のあるアツコのほうを優先しなければ。
そう思い、アリウス自治区へと向かう。
銃声が響く。
それによって戦っていた青白い生徒が姿を消す。
「こ、これでカタコンベから出られますね……」
「そうだな。早くアツコを助けに行くぞ」
カタコンベから出た私たちは、アリウスへとたどり着いた。