"少しだけ休もうか。物資の確認もしておこう"
「分かった。ひとまず簡単に見つからない場所に移動しよう」
少し歩いて、とある建物に入って休む。
現状の整理がてら、アリウス自治区について整理する。
辿り着いたアリウス自治区は、少しボロボロではあるが、
一応建物と呼べる建物が並んだ街並みに人は一人も見当たらない。
普段からこんなものなのだろうかと思っていると、
サオリ達も違和感を感じているようで。
「おかしい。ここまで着いたのに人通りが少ないはずがない」
「な、なんか知らないものが増えています……」
「少し自治区から離れただけなのに違和感を感じるね」
アリウススクワッドである彼女達も違和感を感じるようで、
このような様子ではなかったようだ。
「それに前から変なものが増えていましたし……
ミメシスだっておかしいじゃないですか」
「そう、だな」
「冷静に考えてみるとユスティナ聖徒会のミメシスがいるのはおかしくない?」
"そうなの?"
青白い生徒であるミメシスの発生プロセスについて詳しく知らない。
「む?先生は知らないのか。そもそも私たちがエデン条約を襲撃した理由は、
ミメシスの確保のためだったのだ」
"そんな理由があったんだ"。
「その時姫はマエストロとか名乗ってるやつの指示に従った」
「そうして確保した戦力で、双方制圧する予定だったのですが……」
"結果は知っての通り、と"
「複製能力の確保も失敗した私たちは逃げることにしたのだが、
なぜ今ここにいるんだ?」
"本当にアツコしか複製能力がないの?"
ミメシスは確かにここにいるのだから、
ほかに複製能力を持っている生徒がいてもおかしくはないのでは?
「可能性はな───」
言葉が途中で詰まったサオリのことを考えると、何か心当たりがあるのだろうか。
"何か心当たりがあるの?"
「……いや、心当たりがないわけではないが、彼女は違う気がする」
"一応聞かせてくれる?"
「先生と一緒にいた仮面の生徒が制御できていたが……アリウスの生徒ではないハズだ」
グリムはサオリ達と敵対していたとはいえ、今現在アリウスにいるとは思えないし、
ホシノから聞いた私に協力者を増やしたいというのと矛盾する。
銃弾が私たちのいる部屋の窓を貫く。
現れた青白い生徒は、私たちのいる建物を取り囲んでいる。
「罠だったか……!」
サオリのその言葉に答えるように、ホログラムが出現する。
『ここは私の支配下なのですから、
貴方達の位置、目的、経路、すべてを把握しています』
あきらかに異形の頭をしている大人、いや、マダムはこちらに告げる。
『あなたたちがロイヤルブラッドを取り戻そうとしていることなどよくわかっています』
「や、やっぱり最初から……」
「てのひらの上だった、ってことか」
『ええ、貴方達の任務は最初から、聖徒会の顕現だけですので』
悠々と、マダムは話す。
『パスさえつなげば私が統制できます。一部は何者かに奪われてしまったようですが』
奪われた。つまりグリムは何らかの方法で青白い生徒の制御を奪えるらしい。
それさえわかれば、少しは楽に対処できるのだが。
『私にとってこの地区の憎悪を煽るのにちょうどよかったから
利用しただけで、私自身、遺恨などかけらもありませんしね』
サオリが睨むようにマダムを見つめる。
『ああ、でも、しっかりと聖徒会の顕現もした上、
ロイヤルブラッドも生贄に捧げてくれました。言いつけを守るいい子ですね。サオリは』
「やはり、最初から、守るつもりなど……」
そんなサオリの様子を気にも留めず、マダムは私に視線を向ける。
『不毛な話はここまでにして、話をしましょうか、先生』
"何の用?"
間違いなくコイツはクズだ。ただ、話次第でアツコを取り戻せるかもしれない。
話を聞くだけ聞いてやろう。
『そう怒らないでください。私はベアトリーチェ。ご察しの通りゲマトリアの一員です』
"アツコを返せ"
冷静な態度のベアトリーチェに腹が立つ。
『話に聞くのとは違い、ずいぶんと短絡的なのですね。
ゲマトリアで唯一成功している私と話でもしましょうか』
"必要ない。お前がやってることなんて、聞きたくもない"
『私の名誉のために言っておくと、特殊な力など使っていませんよ』
そう言ってベアトリーチェは語り始める。
耳を貸したくもないその発言は、要約すると、
もともと破綻しかけていたアリウスを、すこし小突いて乗っ取ったということだ。
『生の謙虚さを教える金言は無価値な空虚へと
堕落を警戒する自責は逃れられぬ罪悪感へと変えて』
『事実を捻じ曲げ、真実を隠し、本心を曲解し、嫌悪を助長し、憎悪を煽る』
自分のした、外道極まりない行為を、功績のように、コイツは語る。
『そうすることで、他人を、永遠に他人とすること。
楽園を夢見る地獄で、大人が子供を搾取し、支配し、捕食する』
『それこそが大人にとっての楽園なのですよ』
理解が追いつかない。黒服や、マエストロも、確かに話は通じなかった。
ただ、こいつは、格が違う。私と全く逆の価値観を振りまく邪悪だ。
『どうかここで、ロイヤルブラッドを放っておいてくれませんか?
彼女を生贄とすることで、私たち大人は素晴らしい福音を与えてくれるでしょう!』
『この世界を知ることに、
どれほどの価値があるでしょう!理解していただけますよね?』
"もういい"
"お前の言葉に耳を貸す価値なんてないことを確認できたよ"
『あなたの語る楽園は、エデン条約そのものですね。
友情で悪を退ける。わかりやすいもの』
私の言葉が聞こえていないのか、マダムは話し続ける。
『しかし、大人ならば教えるべきでしょう。真の楽園を』
『楽園こそ、原罪の始まった場所、怒り、憎悪、嫌悪、苦痛、遺恨の中だと!』
"お前は、生徒を、私たちを侮辱し、教えと学びも侮辱した"
"私は一人の大人として、お前を許すわけにはいかない"
『宣戦布告ですか?バシリカで待っていますよ。来れるものなら、ですが』
『あなたは私の敵です。始末しなさい』
そういって青白い生徒が銃をこちらに向けてくる。
"行くよ!アリウススクワッド!"
全員が、息をそろえて、走り始める。
"サオリは正面にいるミメシスをお願い。
ミサキは少し左向きに攻撃を、ヒヨリは前方の建物にいるスナイパーをお願い"
前方にいた青白い生徒をサオリが倒しながら前に出る。
ミサキの攻撃では当初の想定ほど多くは倒せなかったが、それでも十分な成果だろう。
ヒヨリに狙ってもらったスナイパーは姿を消していく。
次の指示を出そうとしていると、周囲にいたミメシスが倒される。
「間に合ってよかった」
冷静にミカはこちらを睨んでいるように見える。
"今はこうしてる場合じゃ……"
「先生、私は悪い子でしょ?
先生が今どんな状況なのかは分かってるつもりだけど、それはできないかな」
青白い生徒を全員なぎ倒したミカはこちらに向かってくる。
「何度も裏切ったんだし、一回も二回も変わらないだろうし」
"……ミカ、少しだけお灸をすえるよ"
そういってサオリ達を見る。
"手伝ってくれる?"
「勿論」
ミサキはそういうとロケットランチャーを構える。
「はぁ……本当、嫌われ役って損なんだから」
そういってミカが銃をサオリに向ける。
ヒヨリが銃弾を撃つ。それを避けることすらなく、ミカは正面から受ける。
その弾丸によってミカは傷つくことすらなく、そのまま立っている。
「そこまで痛くないかな。その程度じゃないでしょ?アリウススクワッドは」
平然としているミカの耐久力はやはり異様だ。
"アロナ、シッテムの箱を起動して"
『はい!相手は……ミカさんですね!支援します!』
大人のカードを使うつもりはないが、今の状態で余裕をもって受けられそうにない。
大人げないかもしれないが、シッテムの箱を使わせてもらおう。
"ヒヨリ、特殊弾をお願い"
答えることなく弾丸を切り替え、銃弾を撃つ。
"サオリ、次の一撃は集中して急所を狙って撃ってくれる?"
「分かった」
サオリは照準を合わせ、ミカへ向けて引き金を引く。
特に怪我などはないようだが、少しよろけたようだ。
体勢を少し崩してミカはせき込み始める。
「倒せた……のか?」
その発言に答えるように、ミカは立ち上がる。
「さすがに痛かったかなぁ。やっぱり先生がいると厄介だね」
"ミカがどうしてここにいるかはわからない。ただ、危ないからトリニティに戻って"
"きっとセイアも、ナギサも待ってるよ"
私の言葉を聞くや否や、ミカは目に涙を浮かべる。
「先生……ごめんね。私って、いつもこんなだよね……」
サオリ達は銃をおろしてミカを見つめている。
「私みたいな問題児は、先生のそばに居られないのは分かってる」
ミカの声はさらに弱々しくなる。
「でも、私には……帰る場所がないの。トリニティにも…他にも……」
「私はトリニティの裏切り者で者で、みんなの敵で、
何度もセイアちゃんを傷つけた魔女だから」
「学園から追い出されて、二度とナギちゃんとも、大切な人とも会えなくなって」
「私は……悪役で……人殺しだから……」
ミカは泣き崩れていたかと思うと、こちらを睨む。
「なのに、なのにどうして!私は大切なものをすべて失ったのに!奪われたのに!」
「貴方達はどうして……?」
サオリ達は何も答えられない。
「スクワッドを、そのままにはできない。サオリをそのままになんてできない」
「その女が、代償もなしに、庇護をうけるなんてダメ」
ふらふらとミカは歩き始める。
"ミカ!"
「だから先生、止めないでね」
建物の影へとミカは消えていく。追いかけていきたい気持ちもあるが、
時間制限のあるアツコを優先して助けるべきだろう。
"早くバシリカへ向かおうか"
「そうだな。先を急ごう」