聴聞会の前日、セイアに呼ばれて、私はトリニティの一室にいた。
「やあ、先生。ぜひともそこにかけてくれ」
部屋に置いてある椅子に座っていたセイアは、対面にある椅子を指しながらそう話す。
"何の話かな?"
椅子に座りながら呼ばれた理由を聞く。
「もう少し早く話したかったのだが、予定が立て込んでいてね」
そう言ってセイアは紅茶を少し飲んだかと思うと、
一息つき、こちらに向き直る。
「まずどうして呼んだのか話しておこう、私が話したいのは厄災、についてだ」
"厄災……!"
グリムが情報を探し求めている厄災について、セイアも知っている。
その事に少し驚きながら、セイアを見る。
「先生はグリムから聞いたことがあると思うが、
本当に僅かな情報だが改めて確認しておこう」
そう言ってセイアは話し始める。
「まず前提として理解しておくべきなのは、
厄災の訪れる時期は確定していないということだ」
"そうなの?"
グリムと直接話せていることが少ない為、
聞いたら教えてくれたのかもしれないが、知らなかった。
「話していなかったのか。……少し先生が知っている情報を教えてくれるかい?」
思っていたよりも私の知っていることが少ないと考えてのか、
私に先に話してもらうことにしてくれたらしい。
"私が知ってるのは、訪れるとキヴォトスが滅亡して、
みんなが死んじゃうってことだけなんだよね"
前にホシノから聞いた情報が、私の知っている厄災について知っているすべてだ。
「本当にそれだけなのか?」
他にホシノが言っていたこと……
"私の協力者を増やしたり、私を守って防ごうとしてるみたい"
そういえばそんなことを言っていたな、と思い出す。
「……それは本当か?」
セイアが驚いたような声になりながら私に聞いてくる。
"直接聞いたわけじゃないけど、真実だと思う"
ホシノ経由で聞いた情報ではあるが、ホシノが嘘をつく理由もないし、
ミレニアムの廃墟のときも、私が一人で行くと来た。
そう考えると嘘ではないだろう。
「だとすれば彼女は、どこまで知っているんだ?」
"セイアはどのくらい知ってるの?"
グリムが知っている情報と、セイアの知っている情報には差があるのだろうが、
どの程度の差があるのだろうか。
「先生が言った破滅が訪れるということと、その光景くらいだ。
砂漠の中にある一粒のダイヤモンドを見つけるくらい難しい、
ということは聞いたが無意味な情報だろう」
私の質問に答えたかと思うと、腕を組みながら考え始めている。
「どうして彼女は、先生が厄災を防ぐ、或いは厄災から守るカギだと考えているんだ?」
セイアがつぶやいたそれは、私もずっと思っている疑問だ。
彼女自身が、どうして私をそこまで信頼しているのかが全く分からない。
「先生、君は心当たりがあるかい?」
セイアは私に聞いてくれるが、心当たりが……ない?
信頼してくれている理由を考えると、違和感を感じるのは何故なんだろうか。
"ないはず"
「どうしてなんだ……?」
セイアは考え込んでいたかと思うと、不意に何かを思い出したのか、
テーブルをたたくように立ち上がる。
"どうかしたの?"
私がそう聞くと少し気恥ずかしくなったのか、座る。
「この話をする前に少し話しておきたいのだが、
私の予知夢、とよばれるものについてだ」
"予知夢……私やグリム、アズサが行ったやつかな?"
「それとも少し関係している。
簡単に言うと、私は生まれつき予知夢を視ることができるんだ」
そう言ってセイアは話を続ける。
「予知夢、と言っても過去、現在、未来のどこかを視ることができるものだが」
「先ほど考えていた時に、ずいぶんと前に見た予知夢のことを思い出してね」
話の流れから推測するに、その予知夢が関係あるのだろう。
「先生、確認だが、彼女はオッドアイだろう?」
"そうだね"
キヴォトスでも特徴的な瞳であるオッドアイなのだから、見間違えるはずがない。
「両目ともきれいな緑色ではないはずだ」
"そうだけど……まさか"
オッドアイではなく、両目の色が同じ、という不自然な確認をして来たということは……
「先生の予想通り、彼女がオッドアイではなく、両目が緑の光景が見えた」
"昔はオッドアイではなかったってことなんだね"
オッドアイに変化している、ということは、
オッドアイに変化する前後に何かがあったはずだ。
「……ただそれが何に関係しているのかはわからないが」
"そうだよね……"
新しく知ることはできたが、だからと言って何かが変わる、というわけでもない。
「今度話せる機会があれば聞いてみてくれ。何か答えてくれるかもしれない」
"そうしてみようかな"
「先生は、彼女の言う通り協力者を増やしてくれ。
現状、意味がある対策も探り探りだからね。意味があるらしいのならやってみてほしい」
"そうするつもりだよ"
言われなくてもやるつもりではある。
「もちろん。何かわかったら私からも連絡させてもらう」
"私も何かわかったら、すぐに連絡するね"
「それじゃあ明日の聴聞会で会おう」
"じゃあ、また明日"
聴聞会当日、厳かな雰囲気の中。
セイアをはじめとしたティーパーティーのみんなをはじめとして、
多くのトリニティの生徒が中央に座っているミカ一人に視線を向ける。
"……時間だね。始めようか"
私がそういうと同時に、大きな鐘の音が鳴る。
"最初にこの聴聞会の目的を確認するよ。
目的は、聖園ミカの外部誘致についての制裁の決定"
処刑場の火刑台の上にいるようにすら見えるミカを見る。
一つ、また一つと聴聞会のステップは進んでいく。
"判決は───"
退学ではなく、一定期間の奉仕活動にすることとする。
そう言い終える前に、置いてあったモニターが突然光る。
何事だ、と思いながらも、全員の視線がモニターに集まる。
『やあ!羽根付きの諸君!愚かな話し合いは楽しんだかい?』
映像には、黒色の背景の中、中央に一人で見覚えのある仮面をかぶっているのが見える。
声はボイスチェンジャーを使っているのか、普段よりもはるかに高い声だ。
どうしてグリムがこんなことをしているのか意味がわからない。
バシリカでミカを助けてくれてはいたが、今ここで聴聞会に顔を出してくる意味が。
『君たちって本当に愉快だよね。
セイアの襲撃も、ナギサの襲撃も、全部私が指示したっていうのに!』
普段とは全く違う口調で、劇の語り手のように愉快気に話す。
それも、罪をミカではなく、グリムに転嫁するように。
『まさか私と戦ったミカを魔女扱いするなんて。愉快にもほどがあるよ』
「グリムちゃん……?」
ミカが困惑するように小さな声でつぶやく。
『君たちが魔女と呼ぶ彼女は!トリニティを守るために行動した上、
私のやったことを自分がやったことにして庇っただけなのに!あはは!』
今ここで何かを言うべきでないと思っているのか、セイアは何も言わない。
『君たちが罪悪感でいっぱいになってくれるところを見れるようになったんだから、
ミカにも感謝してるよ!ありがとう~』
煽るような口調で言い終えたかと思うと、大きな声で笑う。
「出てきなさい!顔を見せずに文句を言うなんて、お里が知れるわ」
傍聴席のどこから、叫ぶような声が聞こえてくる。
『せいぜい頑張って私を探せば?それとも、ミカを魔女として断罪するの?
それはそれで愉快だ!仲良く話していた友人の無実を信じないほど
薄っぺらい関係だったなんて、愉快極まりないね!』
「あんたの言うことなんて信用できるわけないじゃない!こいつは魔女よ!」
先ほどとはまた別のところから、グリムに対する声が聞こえてくる。
『だから言ってるじゃん。羽根つきどもはこんなに頭が悪いの?
ミカが魔女だと思うんだったら断罪したらいいじゃん。
私は愉快な気持ちになれるし、別にいいよ』
少しの間嘲笑するように話していたかと思うと、満足したのか。
『じゃあね愉快な羽根つき達~愉しませてもらうよ!』
そう言ってモニターの電源が落ちる。
グリムの乱入で混乱した傍聴席では、
ミカが本当に悪いと言っている生徒と、
グリムの声を信じてしまっている二派に分断されてしまっている。
この状態で判決を決めたとしても、すぐにナギサに再審要求が来てしまうだろう。
ガベルを叩き、会場全体が静まらせる。
"まだ話を聞かないといけない人がいるみたいだから、今日はひとまず閉会とするよ"
混乱に陥り、ガヤガヤとしていた傍聴席も、私の声が聞こえたのか、
騒がしいながらも、退場していく。
「助かりました。どうして、あんな……」
隣にいたナギサは混乱しながらも、先ほど起きたことを整理しているようだ。
「先生、少しいいかい?……ああ、もちろんナギサも。
この後、グリムを探した後のことなどの話があるだろうが、
それが終わり次第時間をもらいたい」
聴聞会を中止にして、次の聴聞会に関する会議を終えて少し。
「さて、残ってもらって悪いね。頭の整理はできたかい?ナギサ」
「はい。少しは整理できました」
先ほどの聴聞会は、グリムの発言によって、混乱に陥った。
ミカの無罪を願う子と、ミカは魔女だと断じる子。
ただそれだけでは分断されない。
ミカがパテル派にいると都合が悪いと考えていたり、
ナギサやセイアを引きずり下ろしたかったり考えていたり。
他にも様々な考えがあってあの混乱になったのだろう。
「先生、依頼があります」
「奇遇だね、ナギサ。私も先生に依頼をしたい」
改まってナギサとセイアに言われる。
「グリムさん……いえ、ヘリアさんを探し出してきてください。
なぜこんなことをしたのか聞かなければ」
「……ヘリアちゃんだったんだ」
ナギサが私に言ったと思うと、いつの間にか来ていたミカが開いていた椅子に座る。
「ミカ……!?」
「グリムちゃん……いや、ヘリアちゃんかな?私の聴聞会に乱入しちゃったから、
牢屋に閉じ込めたままにするわけにはいかない、ってことになっちゃって」
困惑しながらも、ミカはそう話す。
"ヘリアって……"
「先生には話していなかったのか。
グリムと名乗っている彼女は、ヘリアという名前だ」
「いつの日か、最近連絡が取らないといった友人です。
厄災に抗うために協力してほしい、とは言われましたが、
さすがにこれは見過ごせません」
ナギサがそういったかと思うと、セイアのスマホから通知音が聞こえる。
「……ヘリアからだ。ごめんなさい。だと」
ヘリアもきっと悪いとは思っているのだろう。
「私がやったことなのに、命を助けてもらった恩人なのに、
はいそうですかと責任転嫁するようなこと、絶対にしない、させない」
"確かナギサの話だとヘリアの母校は……"
「ワイルドハント芸術学院。ヘリアさんの母校です」
次の行先が決まった。
ここまで読んでくださりありがとうございます……!
本当に申し訳ありませんが、次回の投稿は少し期間が開きます。
ヘリア捜索はすべてオリジナルで構成するため、というのもありますが
リアルで忙しくなる、というのもあります。
できるだけ早く投稿できるようには頑張りますが、少々お待ちしていただきます。
再度になりますが、本当に申し訳ありません。
お気に入りやしおり等をしてお待ちいただけると非常に嬉しいです。