今は先生がシャーレに向かっているところだろうか。
ヘルメット団たちを鎮圧しながらそんなことを考える。
仮面をかぶりながら暴徒と化してるスケバンを片っ端から倒す。
倒しすぎない程度のダメージを与えて撤退までさせたら深追いはしない。
そうすれば、先生がシャーレに向かう途中である戦闘によって
仲良くなった生徒たちとの関係は築けるだろう。
未来の私は、連邦生徒会からシャーレに向かおうとしているところで先生と一緒に向かっていたが
今思えば、先生にいつ銃弾だけでなく砲弾や手榴弾などによる爆風でケガを負うかわからない状況で平然と戦闘をできたものだ。
シッテムの箱があれば防げるらしいが……
兵器を使用しているスケバンは基本的に鎮圧した。
残っているのは銃をつかっているスケバンくらいだ。
危険性が高いとはいえ、戦わないと交友関係を築けなくなってしまう。
それにワカモが撤退してしまわないように注意しながら先生が向かってくるのを待つ。
"そろそろシャーレに着くよ!"
…考えていたら先生が来たようだ。急いで隠れる。
先生は話を聞こうとするかもしれないが、彼に同行している生徒はこちらを警戒して戦闘になりかねない。
「そういえば、仮面の生徒はどうしたのかしら」
「ここまで一回も見かけませんでしたね」
「少なくともスケバンと争っていることはわかりますが…第三者であると考えるべきでしょう」
"急いでシャーレに向かおうか"
先生が一瞬こちらを見たような気がしたが気のせいだろう。先生にそんな能力はないはずだ。
ここからは直接戦闘ではなく援護射撃程度をしながら先生の護衛をするべきだろう。
シャーレはここからだと100mもない、直接鎮圧しなくてもきっとたどり着けるだろう。
そう思いながら先生の後ろをついていく。
「戦闘を開始します!先生、指揮をお願いします」
"任せて、そろそろシャーレだからこれが最後の戦闘になるかな"
どうやら先生たちが戦闘を開始したらしい。
先生の指揮を見ながら思う。先生はいつだってすごい、指揮が上手で、みんなを信じる。
未来の先生も同じだった。あの先生は私のしってる先生とは全く同じじゃないだろう。
「…ふざけんなよ。連邦生徒会の思いのままに行かせてたまるか……」
私の鎮圧が甘かった。意識を取り戻したスケバンが銃を握り発砲する。
もう一度、繰り返すようなことはダメだ、私のせいでまた……
そんなことを考えている場合ではない、私のことを責めるのは後だ急いで防がないと。
先生の後ろからの発砲だ。きっと先生の指揮を受けている彼女たちは気づいていない。
かといって体で防ぐのは困難だ。発砲された弾丸の速度的に間に合いそうにない。
ここから声を上げて防ぐようにするべきだろうか。
一番後ろにいるチナツでさえも先生の前だ、あそこから動いたとしても先生に到達してしまうのが先だろう。
…銃を手に取り、発砲する。
銃弾を撃って、速度を殺し向きを変えるしかない。
「お願い……」
先生に向かっている銃弾に向かって銃を撃つ。
銃弾が撃たれ、進んでいく。風の音と発砲音がやけに大きく聞こえる。
私が動くよりもはるかに早く弾丸は動く。
頼む、先生に当たる弾丸が逸れてくれと願う。
私のミスで先生が傷ついてしまう。それはダメだ、私のミスなら私が罰を受けるべきだ。
弾丸が接触する。
接触して弾丸が逸れる。
よかったあたってくれた。先生に弾丸が当たらなくてよかった。
私のミスのせいでもう一度、殺してしまうところだった。
もう一度、失敗してしまっていたらと思うと怖い。
「チッ、外れたか、さっさとリロードして……」
そんなことはさせない。リロードをしようとしている間に鎮圧しておく。
"何の音だろう?"
そんなことをいいながら先生がこっちを見ている。
先生と目があう。
…仮面越しではあるが。
「仮面の生徒ですね。話をする気があるのかわかりませんが、こちらにいる先生は銃弾一発で死んでしまいます」
「そうよ、だから人殺しになりたくなければさっさと撤退してくれることを願うわ」
こちらに銃をむけながらチナツとユウカが話をする。
ここで戦って、もし流れ弾が先生に向かってしまったら先生が死んでしまう。
それだけは避けたい。
それに長引いてしまっては鎮圧したスケバンも復活してしまうかもしれない。
もうすこし援護をしようと思っていたが仕方ない。撤退しよう。
"……"
「よかった、撤退してくれたわね。先生、早くシャーレに向かいましょう」
こちらを見ながら先生は何かを話そうとしていたが、話すのをやめ、シャーレの方向へと向かった。
おそらくこの後先生はワカモに一目惚れされて、シッテムの箱を得て、
サンクトゥムタワーの管理者権限を連邦生徒会に返す。
というのが順当に言った場合の流れだろう。
撤退する、といいながら先生の後を付けているが
シャーレに入っていったことを考えると大丈夫だろう。
きっと気が付いてない。
現に入口を眺めているとワカモが顔を赤面させながら急いで出て行っている。
シャーレの建物の明かりがついて、リンが出てきたら今日のところは終わりだ。
これ以上の動きは今日はないはず。待っていたらシャーレに明かりが灯り。
リンが建物から出てくる……先生と一緒に。
"じゃあねまたね、リンちゃん"
「はぁ、リンちゃんと呼ぶのはやめてくださいといったでしょう。また会いましょう」
そういってリンは戻っていく。
仮面を外し帰宅をしようとする。
このまま先生はシャーレに戻り、初日の点検をして眠り、明日以降の業務で絶望するのだろう。
"こんにちは"
どうやら私の想定とは違ったらしい、こうなるのだったら仮面をつけたままにしておけばよかった。
いっそのこと無視してしまおうか、先生に良い印象を与えないかもしれないが
シャーレに加入するわけではない以上、印象が悪くても問題ないだろう。
"えっと、さっき助けてくれた子だよね?シャーレに向かうときに"
先生は何を言っているのだろうか。
確かに私はスケバン達を鎮圧したし、銃弾をそらしたりして先生を助けた。
ただそれは先生にはわからない形であったはずだ。
それに今は仮面をしていない。スケバンの鎮圧をしている仮面の生徒、というのと私は一致しないはずだ。
「どうしてそう思ったんですか?私は何もしてないですよ?」
「ほかの子だと思うのでその子に伝えてあげてください」
先生は苦笑いして話をしようとする
"仮面の子が暴徒を鎮圧してる。って話を聞いていたし、仮面の子は君だよね?"
「そんなわけないじゃないですか。私が暴徒を鎮圧する必要はないんですよ」
"いや、きっと君だよ。名前を教えてくれない?君のことを知ってみたいから"
ああ、やっぱり先生は先生だ。
人を信じることにおいては、生徒を信じることにおいては、すごい。
私が仮面の生徒である。というのを確信している。
たしかに服装は変えていないが、学院のときに着ていた改造制服ではなく、普通の制服だ。
周りをみても同じ服装の生徒はいる。
それでも、私を仮面の生徒だと見抜いている。
「…そうですね、名前を名乗るくらいはしておきましょう」
「ただ少し恥ずかしいのでグリム、と呼んでいただければ」
"…わかった、グリムって呼ばせてもらうよ"
"それで、どう?シャーレでお茶でも飲みながら話をしない?"
シャーレに所属してしまうと、同じ結末になってしまうだろう。
先生と話をしたい、というのが正直なところだが、
気づいたらシャーレに所属してしまう。ということになりかねない。
「すみません。予定があるのでこれで失礼します」
"…わかった"
そう言って先生は名刺を差し出す。
"もし、君が何か困ったならそこに連絡して。きっと力になるから"
「わかりました。もし何かあれば頼らせてもらいます」
まあ、頼るつもりなどないが。
今度こそ先生と別れて帰路へ向かう。
こちらへ手を振りながら先生はシャーレに入っていった。
当初の予定では先生と接触する予定などなかったが
先生との接触はより一層、私のみんなと先生を守るという決意を固くしてくれた。
そう考えると悪くない接触だった。
シャーレに入って始業の準備をしながら考える。
ユウカ、チナツ、ハスミ、スズミはシャーレにも所属してくれるらしい。
私一人ではできることは限られている。
みんなの力を借りることができる、というのは大きなことだろう。
道中の指揮をしている間に信用してくれたようだ。
道中の戦闘といえば気になることがある。
グリムだ。
彼女は明らかにスケバンと敵対していて、目が合って即座に撤退したよくわからない子と
敵対していたように見えるが、どういった立場だったのだろうか。
そして、リンと一緒にシャーレの建物から出た時に話すことができた……。
近くで見ると既視感を感じた。
電車で私の隣で眠っていた少女にそっくりだった。
深い青緑色の髪をしていて、あの時見た少女と同じような髪型をしていた。
顔を見るとオッドアイで、強く印象に残ってしまった。
いきなり大人である私にあったことある?などと聞かれたら怖がるだろうから触れなかったが
いつか彼女と仲良くなったら聞いてみようか。
彼女はグリムと名乗っていたが、偽名なのだろう。
きっとアロナなら調べれてしまうと思うが…。
ただ彼女が名前を明かしたくないのならきっとこちらから聞くべきじゃない。
シャーレ全体を見回りながら確認する。
コンビニやゲームセンター、食堂に菜園がある。
少し移動すれば簡単な図書室に射撃場がある。
そして何より……
私の執務室だ。シャーレの看板をドアに立てかけ入る。
新しい建物特有の変わった匂いを感じながら
私の座る場所を確認し、座ってみる。
備品として備えつけられているパソコンの初期設定を済ませながら。
モモトークの確認をしておく。
今度ユウカがシャーレの業務の手伝いをしてくれるらしい。
ある程度設定を終えて仮眠室で眠る。
今日はよい夢が見られそうだ。
この時の私は明日以降の業務量に絶望することになることを知らずに幸せに眠っていた。