Millennium Research Institute 作:信楽焼のたぬき
話をしよう。
私が、人殺しと誤解され、弁解のチャンスも与えられず、おまけに左目に風穴が空いたレイヴンだ。
…もしや厄日か?
あの後命からがら技研都市に帰ってきた俺は、急いで左目に止血を施した。
道中、残りのリペアキットも使ったのだが、どうにも効きが悪い。
まるで、別の何かに修復を妨害されているようだ。
ギリギリのところで止血が完了し、俺はエアに原因の調査をお願いした。
"…なるほど。一つ分かったことがあります。”
"レイヴン。その機体のリペアキットは、コーラルとの親和性を利用して、破損箇所を修復するものです。”
"あなたの肉体も、例外ではありません。”
"ですが、先ほど受けた銃撃…あれには、キヴォトスの生徒が持つ『神秘』というエネルギーが込められていました。”
"そして『神秘』は、コーラルと非常に相性が悪い。”
"微々たる量であれば問題ありません。むしろ、総量が多くとも『
"結果、リペアのコーラルと神秘が互いに反発し、対消滅したようです。”
「…ふむ。だいたい分かった。」
要するに、だ。
『神秘』とは、この世界の
そして俺が『神秘』をこの身に受けた場合、よほどの量を一箇所に局所的に受けない限り、コーラルは神秘に打ち勝つことができる。
これは、俺のアセンブリ・スーツ…NULL 108のジェネレータが規格外の出力を持っていることの証明でもある。
…そしてまた、あのピンク髪の生徒が
(あってるか?)
"はい。そして、持ち帰ってきた『
"この素材であれば、コーラル兵装の侵食コーラルにも耐えることができる。”
「…ん?」
(待て、おかしくないか? コーラルは神秘に打ち勝つのだろう。侵食されて終わりじゃないのか?)
"心配は不要です。コーラル兵装は、攻撃手段としてコーラルを消費する設計上、侵食作用が極めて弱い状態になっています。そしてその状態であれば、侵食コーラルは神秘によって中和されるのです。”*1
(…なんとなく煮え切らないが、お前がそういうならそうなんだろう? 一応納得しておこう。)
なんだか引っかかるような感覚がするが、まあいい。
それよりも、今の俺にはやらねばならぬことがある。
それすなわち
"左目の機能回復、ですね。”
(Exactly)
そう、吹き飛んだ左目の修復である。
止血中に確認したが、俺の左目部分は空洞になっている。
かつての眼球と視神経の一部はなくなってしまったようだ。
そうすると、どうやって“眼”を補うか、という話になるのだが…
「…ッ、久しぶりだな、この感覚。」
久方ぶりに、脳に直接情報を叩きこまれる感覚が走る。
この痛みに慣れてしまった自分に内心恐怖したが、それはさておき、俺は情報を整理していく。
「…ほう」
今回俺が得たのは、『視覚を機械で補う方法』について。
具体的には、眼球代わりのカメラで視覚を補う理論や、視神経とカメラアイの導線を接続する方法。
そして、頭部パーツ『HC2000/BC SHADE EYE』の設計図だ。
俺はその意図を一瞬で理解した。
すなわち『複眼カメラアイ』
かのパーツは、右目部分にカメラがなく左目に三つのカメラアイが搭載されている。
そして、おれが失ったのは左目。
なるほど。
「おあつらえ向きだな。」
「エア、各種動力系を起動させろ。今から『眼』の作成に入る。久々に、心が躍るぜ」
「『眼』の動力源はどう確保しようか…外付けジェネレータか? SHADE EYEみたいに左耳にくっつけるか。」
「…待てよ、あれのオマージュならバイザーも必要だな。スーツの方にも改造を…」
"…レイヴン。止血したとはいえ、今のあなたは血液が不足しているのですから、あまり無茶なことは…レイヴン?”
"…まるで聞こえていないじゃないですか。まったく、一度集中するとすぐああなるんですから…”
"…変わりませんね。”
話をしよう。
結局、あのあと貧血でぶっ倒れたレイヴンだ。
…やはり厄日に違いない。
新しい『眼』の開発やそれの調整、加えて耳に装着する追加ジェネレータやスーツへのバイザー追加と、いろいろと夢中になって、自分が出血多量で死ぬところだったことを忘れていた。
今は、リペアで血液量を戻してベッドで安静にしている。
"…”
…エアの無言の圧がすごい。頼むから少しばかりその怒気を収めてはくれまいか?
"無茶はするなと、あれほど言いましたよね?。”
………
話を変えようか。
"逃げないでください”
そうはいったものの、カメラアイや追加ジェネレータの調整は最終段階まで来ているし、バイザーも既に取り付けが完了し、使える状態になっている。
追加モジュールを全部着けたら、俺の顔の左半分はSHADE EYEそっくりになるだろう。
生身の体に不自然に取り付けられた無骨なパーツ。これが俺たちに与えるロマンは山よりも高く海よりも深い。最高だね。
だが、新たな問題が浮上していた。
持ち帰ったビナーの装甲が、明らかに足りない、ということだ。
「どうしたものかねぇ…」
エアの話によると、EN兵装の発熱に耐える素材はこれ以外にもあるらしいのだが、コーラル兵装の侵食に耐えることができるのはこの素材しか存在しないらしい。
つまり、今手元にある装甲板は全て、コーラル兵装の開発に回す必要がある。
だが、代替素材…EN兵装の発熱に耐える素材は、残念ながら技研都市には存在しなかった。
どうするべきか…そうやって頭を捻っていた俺の目の前に、突然黒い靄が出現し、
「ククッ…はじめまして、黒羽ワタルさん。」
この男が現れた。
「…見ない顔だな。客か?」
「えぇ、私達は“ゲマトリア”。そして、私のことは“黒服”とでもお呼びください。何分、この呼ばれ方を気に入っているものでしてね。」
いつでも吹き飛ばせるように、俺は右手に出した
「それで、そのゲマトリアとやらが何の用だ。つまらん話だったら串刺しにするぞ。」
「ククッ、怖いですねぇ。それでは単刀直入に言いましょう。」
「黒羽ワタルさん。“ゲマトリア”に来ませんか?」
「私達は、観察者であり、探求者であり、そして研究者である。」
「あなたの持つ技術…ここで錆びさせるのは勿体ない。」
「そうは思いませんか?」
サイボーグ化…
強化人間だな。ヨシ!