Millennium Research Institute 作:信楽焼のたぬき
黒服がその
デカグラマトン第三の預言者、“違いを痛感する静観の理解者”、その名もビナー。
最初の目的は、急に活動を開始したソレを観察することのみであった。
アビドスの生徒会長が偶然場に居合わせ交戦するという変数さえあったものの、ソレはその性能を遺憾なく発揮し、ついにキヴォトス人相手に致命傷を与えるまでに至った。
生徒会長…梔子ユメが力尽きるのが先か、ビナーが彼女にとどめを刺すのが先か。いずれにせよこれで終わりだと、誰もがそう思った、その刹那。
凄まじい轟音と共に、ビナーが地面に倒れ伏した。
一体何事かと瞬間動揺したが、すぐに一つの可能性に思い至る。この砂漠に向かってきていた謎の反応。鳥かドローンの類か、どちらでも大したことはないと思っていたのだが…。
眼を凝らして見てみれば、我々の知りえない技術と未知のエネルギーが使われているパワードスーツを着込んだ青年が空を翔けているではないか。
しかも、彼は砂嵐によって視界不良のなか、正確に梔子ユメの傍に降り立ち、さらに彼自身と彼女を守るように、砂嵐さえ遮断する紅いパルス防壁を展開した。
そして、あろうことかビナーを撃破してしまったのだ。
青年は動かなくなったビナーに近づき、その装甲を剥がし始めた。あのスーツは、どうやら石炭をダイヤモンドに変えてなお余りある力を発揮するらしい。
さらに、剥がした装甲を粒子レベルに分解してコアに収納したのも驚きだった。
それから何をするのか是非見たかったのだが、ビナーの再起動と“暁のホルス”の襲撃によって彼は左目に傷を負い、不利を悟ったのか紅い衝撃波を放って離脱した。
黒服は彼にいたく興味をもった。純粋に、一人の探求者、研究者として。
そして、影から彼を尾行し、ついにその居場所を突き止めたというわけだ。
話をしよう。
なんか急に出てきた全身真っ黒の人間…人間?に声をかけられ、さらに組織に勧誘された。
何を言っているのか分からないと思うが、俺も何が起こっているのか分からない。
これも神秘とやらの仕業なのか…?
「しかし、驚きましたよ。ミレニアムの地下、私達でさえ観測できない深さに、こんな都市が存在したとは。」
俺は考える。この誘いに乗った場合、俺が得られるメリットと降りかかるデメリットを。
そんな俺を横目に、目の前の男…黒服と名乗ったそいつは、どこ吹く風と言わんばかりに世間話をする。
「…まぁ、わざわざこんな地下深くを覗こうとする奴もいなかっただろうな。よほどの狂人でもない限り。」
なんとなく返事をしながら考え込んで、出した結論を黒服に言い渡す。
「さて、そんなことはどうだっていい。さっきの話の続きだ。」
「その誘い―――――――」
「悪いが、断らせてもらおう。」
「…ほう。なぜです?この誘いは、決してあなたに不利なモノではなかったはずだ。」
「では聞かせてもらおう、黒服とやら。仮に俺がお前たちについたとして、俺が被るデメリットは何だ?」
「あなたにとって不利なことは何一つありませんよ。ただここよりもずっと、あなたのその技術を有効的に使うことができる。」
「そう、お前の話は出来すぎている。『騙して悪いが』という教訓があってな、つまるところウマい話にはウラがある、ってわけだ。」
「そして、俺は所属を作りたくない。所属とはすなわち足枷だ。自由に飛び回る鴉にとって、それを縛り付ける籠など邪魔以外の何物でもないのだよ。」
「…あと、俺はこの都市最後の生き残りとして、コーラルを監視する責務がある。ほかの誰にも利用されないようにな。」
「…なるほど。あなたの意志は分かりました。残念ですが「あぁ、ちょっと待て。」…まだ何か?」
「いやなに、結果はともかく、勧誘に来た客人を手ブラで帰すのも体裁が悪い。まぁこんなところに気にするほどの世間体もないんだが…。」
「どうだ黒服、俺の知識をいくつか持って帰る気はないかね?」
「なるほど…面白い。いいでしょう、交渉成立です。」
「おっと、先に断っておくが、俺のスーツと技研製の兵器、そしてコーラル関連の物は無理だからな。俺もまだ分析が終わっていない。」
・
・
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「…そういえば、素材が足りない、と仰ってましたよね、ワタルさん。私たちにつけば、その素材を提供するのもやぶさかではないと思っていましたが…」
「案ずるな。策は既に練ってある。所属ナシ、フリーランスで金を稼ぐ方法だろう?」
「独立傭兵さ。」
「ほう、傭兵ですか。ククッ、確かにあなたなら、どんな依頼でも熟してみせそうですねぇ。」
「素材を買うには金が要る。この先、その辺に転がってる兵器どもを直すときはなおさら必要になるからな。」
「…では、先ほどの礼として、私から個人的にささやかな援助をして差し上げましょう。」
「それは助かる。」
「それでは、黒羽ワタルさん。非常に有意義な時間でした。またいつか、お会いしましょう。」
「…あぁ、ひとつ言い忘れてた。」
「俺は
あの日、砂漠でユメ先輩を喪ってから早三日。
私は虚ろな目をして日々を過ごしていた。
一人ぼっちの校舎は、二人だった時よりもひどく広く感じられた。
結局あの時、先輩を殺した*1あの男にも逃げられた。
…私、これからどんな顔をして生きていけばいいのかなぁ。
そんな時、電話がかかってきた。
「…黒服、から?」
それは、私の嫌悪する、ある一人の男からだった。
「…何の用だ。」
『ククッ、お久しぶりです、小鳥遊ホシノさん。』
「例の勧誘の話か? 今はそれどころじゃ…」
『あぁ、違います。今日は一つ、あなたに聞きたいことがありまして。』
「…聞きたいこと?」
『えぇ。アビドスに、“花屋”はありますか?』
「…なぜそれが知りたい。まさか、花を愛でる趣味でもあるのか?」
『ふむ、それも悪くないですが…それは今ではない。』
『ただ今は、“手向け”なければなりませんからね。』
その言葉を聞いた瞬間、私でも制御出来ないほどの憎悪の感情が沸き上がる。
「お前か…!お前がユメ先輩を殺したのか!!あの男も、お前の差し金なのか!?」
『ふむ…何を勘違いしているか知りませんが、とりあえず私の質問に答えてはくれませんか?』
「お前に言うことなど、もう何もない!!!」
私は、そのまま電話を切った。
そして、私は決意した。
絶対に、あの男を殺して、
ユメ先輩の、仇をとるんだって。
花はどこだ…? 手向けなければ…
色んなフラグをおったてた回でした。
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