スターピースカンパニー市場開拓部第十三艦隊~地球を渇望する者達の狂騒譚~   作:らんかん

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⬛︎スターピースカンパニー
アルテナ・ジャズパライズ……市場開拓部第四艦隊司令官
ジェイド…戦略投資部直属チーム《十の石心》『ヒスイ』


ヒスイも謳うは星の大海

『鉄墓の攻撃が来ます!』

『みんな、捕まれ!』

『この艦に直撃!』

 

 

「待たせたわ……あれ、寝てるのかしら」

 

 

『場所は!』

『第七・第五トイレです!』

『近寄らないように言っとけ……うわぁ!?ひっきりなしだな!』

『提督!大変です!』

『今度はどうした!』

『第一から第四トイレに被弾しました!』

『居住区は!』

『全くの無事です!』

 

 

「若い頃は皆、居眠りするのよね。でも起きてもらわないと困るし……」

 

 

『第六トイレにも被弾!鉄墓の光線で弾け飛んだ友軍の巡洋艦の破片が深く直撃した模様!』

『機関部は!』

『トイレで手詰まりなのか無事です!』

『ああんもう!』

 

 

 

 

 

『旗艦にユリシーズなんて名前をつけるんじゃなかったぁぁぁぁぁーっ!』

 

 

 

 

 

 

「起きて」

「ああ」

 

 銀髪碧眼の少年が、目を覚ます。

 

 目の前には十の石心が一人、翡翠のジェイドがそこにいた。紺と白を基調としたドレス風のスーツと、そこに残る甘い香りが鼻腔をくすぐるせいで違和感が身体を眠りの園から引き戻した。

 

 ここはスターピースカンパニーの本拠地ピアポイント、その中にある豪華な応接室の一角。

 

「すいません、寝てて……何時間、寝てました?」

「それは分からないけれど、私は今来たばかり。お話をしたいのだけれども、いいかしら?」

「ああ、どうぞ。すみませんほんと。ご挨拶も忘れてて」

「トパーズも最初は貴方と同じだったわ」

 

 ジェイドに不釣り合いな少年。いや、姿見がギリ少年なだけで歳そのものは割と取っている。宇宙には相対性理論という免れる事はできない理があり、それを厭わず人が飛び交っているせいでもはや誕生日などはあまり意味をなさない。

 

 彼の名前はアルテナ・ジャズパライズ。

 

 P50まであるカンパニーの階級の中でP44というそれなりの地位を持つ男。

 

 カンパニーのうち、未開発ないし未発見の文明がある惑星を発見して市場の拡大を主な業務とする《市場開拓部》の一人。ただその市場開拓の一環で現地住民を殺害、または侵略するために割と悪名が高い。

 

 何より深くは語られないが、彼の目の前にいるジェイドが所属する《戦略投資部》とは非常に仲が悪い。過去のいざこざがあり、どうもトップ同士からかなり派手に火花を散らしているようだ。

 

「あの子から聞いた通りね。市場開拓部の中でも、話を聞いてくれやすい人って」

「ここで大爆睡かますような男が、牙も爪も研いでるオオカミに見えます?」

「それはそうかもしれないわ」

 

 ジェイドは、微笑みをこぼした。抑えるように手を口に添えてるのも、和ませすぎないために溢れた笑みを抑えてるのだろうか。

 

「貴方、鉄墓の時に随分頑張ったそうね」

「運が良かっただけですよ。結局外部への移動とかを阻害するため中身を開拓者達にしばいてもらう必要があった、抑えるだけなら苦労はしません。二束三文が人の形をとって束になってるなら、それをいかに動かすか……分かるでしょう?」

 

 アルテナがやってきたこと。

 

 市場開拓部において台頭する敵対勢力の排除もまたやらなければならないことだが、彼はそのうち表向きにも排除しなければいけない反カンパニーの過激者集団の対処を担当。彼が率いていた第四艦隊は他のカンパニー所属の軍、艦隊と比べて損傷率が20%低く、制圧スピードが30%速いという特徴を持った。

 

 例えば1星系に25000隻の彼の分隊を置き、その星系に住む人間が隠していた30000隻で襲撃をかけてきたとする。本来であれば彼の分隊は不利であり、交戦せず下がって追加の部隊と共に倒すは定石。そこを彼はあえて12500隻で二つに分け、敵が片方に集中砲火するように仕向けつつ先に狙われなかった方を離脱させ、狙われた方を接敵直後にワープさせるようにして離脱。直後、敵艦隊後方から挟み込むように二つの艦隊をそのまま展開。有効射撃可能な艦を増やしつつ相手の攻撃が必然的に薄い場所から攻撃、尾から喰らい尽くすように壊滅させると言ったことをする。

 

 指揮官としては「そのシーンで出せる相手との火力の差を絶対に確保できる」「判断と艦隊運用が非常に迅速なので先手を取りやすく生き残りやすい」という点で評価されている為、P44まで階級が上がったようだ。

 

 腕を買われてカンパニーによるオンパロス外部からの鉄墓への火力支援にも参加。全権は彼になかったが、それでも彼が指揮した第四艦隊は他の艦隊と比べて42%も損傷が軽微だったために評価が上昇。いろんな権利も与えられた。

 

 なおその時に自身が登場していた第四艦隊の旗艦に、彼の思い出でもある、地球という星から流れてきた物語の象徴の一つ、ある戦艦の名前をとって『ユリシーズ』と名付けた戦艦に搭乗したが、何の因果かトイレに被弾が集中する代わりに轟沈を免れたどころか機関部、砲塔などがほぼ無事、中破で済んでいた。『トイレで死神も一緒に流した男』『暗澹たる手に石鹸を付けて洗わせた男』などとふざけた事まで言われる始末だが、少なくともその実力はおして知るべし、と言ったところ。

 

「いやまあそれはそれとして、敵対しているのにも関わらず話を持ちかけたいってのは聞いてたんですけど。何か?」

 

 そんな男に、翡翠の石を持つ戦略投資部の幹部は話を持ちかけたのだった。

 

「貴方、地球に行きたいって前から口にしてたのよね」

「ええ。そりゃ勿論」

 

 ジェイドは、アルテナの欲望を口にする。

 

「どうしてかしら」

「今手元にないんですけど、昔地球と言う星からやってきたある本を手に入れたんです。それこそまだ俺が、100cmにも満たないくらい小さい頃」

「そんな昔に?」

「ええ。

 で、その小説にどっぷりはまりましてね。俺はそれである程度の戦略とかを学んだので、このベースを基に色んな手柄を立てるに至った……侵略行為はともかくとして、守る為の行為にはかなり役立ちましたからその作者に会って話を聞いてみたい。生きてなくても、お礼に墓参りをしたい。そう思ってるんです」

 

 アルテナにとって、人生の目標と言えるべきものだった。その為に自分が出来る範囲を広げる為に積み重ね、今の地位にまで上り詰めた。

 

 彼の前にいる女性は、それを見て満足そうにしている。

 

「協力を持ちかける、と言うのは無理そうね」

「ポーンショップヒスイ、でしたっけ。願いが叶う代わりに大事な何かを差し出して、以後クリフォトを信仰させる質屋。正直頼れるなら地球に行くために頼りたい部分も無くはないんですが、頼ったらなぜそこに来たかったのか忘れてそうで」

「随分と賢いのね、貴方」

 

 ジェイドの微笑みに威圧感を感じるやつは、大概何処かで自信をなくしているか、後ろ暗いことがあるやつだ。今目の前に見えている景色よりも彼女が大きく見えるか小さく見えるか、どちらにせよそのままを捉えられないような人間は結局ちゃんとした把握が出来ず足元を掬われて蛇に喰われて終幕を迎える。

 

「で、協力を持ちかけるというのは?」

「市場開拓部で計画されてる第13艦隊編成計画に一枚噛ませて欲しいの」

「……は?」

 

 流石にここで動揺する彼。

 

 アルテナが所属していた市場開拓部では、英雄のナナシビトが所属する星穹列車のメンバーが一人、ヴェルト・ヨウの出身地である地球という星に対して非常に興味を寄せていた。特にヴェルトが持っていた杖はブラックホールを手軽に発生させれるが、この技術体系を持っていながら星系の外へと進出していない文明がどんなものか、市場開拓部長オスワルド・シュナイダーはそれを解き明かすべく地球方面への遠征を計画。

 

 その特異性のある太陽系を突き止め調査するべくアルテナ・ジャズパライズとその旗艦ユリシーズを中心とした第13艦隊を編成、地球へ向かわせようという話だ。

 

 オスワルド本人から話が聞かされていたので当然アルテナは知っていたが、それを敵対している組織の幹部が聞きつけていたということに驚きを隠し得ない。いや、若い彼じゃなければ敵対組織の情報を掴むこと自体には驚かないだろうが、妨害ではなく接触して利益を享受しようというところまで踏み込んでくるのなら結局驚嘆してしまう。

 

「驚いているようね」

「そりゃ驚きますよ。内容知った上で話持ちかけてくるなんて、個人的な取引ならともかく市場開拓部の一大プロジェクトに影から乗っかろうってびっくりする。一体どうして」

「私達はカンパニーの中でも星穹列車と友好的な関係を築いているの、あまりメンバーの顰蹙を買うような行動をカンパニー内でするようなことを避けたい」

 

 ジェイドは続ける。

 

 彼女は友好関係を保っている星穹列車のメンバー、ヴェルト・ヨウの故郷がオスワルド・シュナイダーの手によって見るも無惨な姿になることを危惧していた。それによって関係が壊れるのもまた避けたいことだ。

 

 ならば籠絡して止めようとするのか、と警戒するアルテナだったが彼女は別にそんなことはしないらしい。

 

「でもそれって止めるか破壊工作するかしかやることないでしょ?」

「貴方に色仕掛けしても効かなさそうなのは知ってるわ」

「普通に効きますよ」

「そう」

 

 ひどい会話だ、と反省する彼。

 

「で、どうやってそれを防ごうと?まさか話し合いだけで止められるわけじゃないでしょ?」

「ええ。止めようとすればカンパニーの中で戦争が起こる、それは知ってるわ。だから_____」

 

 彼女の目は、少しばかり真面目に冷たくなり、口調はそれとは裏腹に熱く渇望する何かを含んで声を響かせた。

 

「他の部署の責任者達を貴方の第13艦隊に各部署から一人ずつ送り込むことになったの。リーダーは貴方でいいのだけど、少なくとも幹部陣にはたくさんの所属から来た人たちを連れてってもらうわ」

「あれです?『戦略投資部だけじゃ戦争の火種になるからいっそ全部署から人材を流し込んで市場開拓部の暴走を止めて開拓者に悪い顔させないようにしよう』っていう」

「飲み込みが早いわね」

「政治には正直疎いですがね」

 

 実質的には市場開拓部の13艦隊ではなく、カンパニーの13艦隊。しかしあくまでその艦隊の所有は市場開拓部という状態にすることでオスワルドの機嫌を損ねることなく、武力のコントロールをする。ついでに開拓した市場で、利益を得ようという話で戦略投資部のダイヤモンドは色々な部署の人間に吹き込み、全部署が一枚噛むことになった。

 

「私は貴方を納得させるための代表として派遣されたと考えていいわ」

「仮に頷いたとしてもうちの主務が頷きますかねそれ。まさか、そちらのダイヤモンドさんが小賢しいスパイごっこで掌握しようなんてことないでしょう?面切って話をしてるんですかね今」

「鋭いわね、気づいた?オスワルドが黙れば一応貴方は従うような性格なのは知っているけれど、一応責任者にも利益があるようにしなければ反乱を起こす可能性も考えられなくもない」

「で、最悪基石の力を使って要求を確実に飲ませるってことですか」

「あまり見透かしたような言い方は、やめた方がいいわね。しかし、そう思ってもらって構わないわ」

「じゃあ、俺が何か言ったら」

「叶えてあげる」

 

 アルテナは何をもらうか考えようとしたが、そもそも一番やりたかった地球への旅はオスワルトの計画で達成。ならば、地球へ至るまでの準備をこの翡翠の石を持った淑女に用意してもらおうと考え至るまでには時間が掛からなかった。

 

「ああ、では一ついいですか?」

「何かしら」

「それは______」

 

 美女に耳打ちするのも己の吐息が掛かることに罪悪感を感じて気が引けた彼は、メモを書いてジェイドに渡す。

 

「物資や人材はもう飽きるほど揃う。うちの主務も戦略投資部嫌いを拗らせて、他の全部署と敵対するような真似もしないはず。だから基本的に望むものはないのだけれど、こればかりは十の石心の協力者がないと最悪成り立たない」

「……へえ、随分大胆なお願いをするのね。これが裏切り者を入れてでも叶えて欲しいこと?」

「裏切り者を仲間にするのは俺のすべきことで、そもそもが仕事。だけれど今伝えた依頼は、俺がしたい事で一番必要なもの。もしかしたらこれに関する情報があの天才の墓にあれば、仲間になった奴らを動かす指標になる。モチベーションの維持が高まれば、それだけ地球へと到達する確率が高くなるんです」

「ふふっ、面白い子ね。分かったわ、結果が得られなかった場合はどうするの?」

「それでも構いません、無が有るという価値はジェイドさんの方がよく知ってると思います」

「そうね」

 

 お互いに立つ。

 

「では、交渉成立ね。貴方の上司、オスワルド・シュナイダーへは私達の主務が言いくるめてくれるわ」

「どうやらパートナーが沢山増える予感がします」

「そうなることを願っているわ」

 

 二人は、手を差し出して握手。互いに笑顔を見せていて、冷たさはどこにも感じない。いや、周辺が金やキャンドルの光でそう見えてるだけで、雰囲気に張り替えられた冷たさが隠れているだけでもあるのだろう。

 

 この日、カンパニーの中で起こりはじめた計画は、船を鶯張りのように鳴らす宇宙の中の潮流となって嘶き始めた。

 

 カンパニー事業開拓部第十三艦隊の結成までの話______この銀髪の少年と、道行き出来た仲間達の喧々囂々で描かれたシーンを、浮黎という氷のフラッシュメモリに焼き付けることとする。

 

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