スターピースカンパニー市場開拓部第十三艦隊~地球を渇望する者達の狂騒譚~   作:らんかん

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⬛︎スターピースカンパニー
アルテナ・ジャズパライズ……市場開拓部第四艦隊司令官
マリーン・ジェーンビム……市場開拓部第四艦隊臨時参謀、ウォーロック駐留艦隊副司令官
テーバイ・ヒュリア……市場開拓部第四艦隊所属、分艦隊司令官
チェリン・ディ・ヴァーク……市場開拓部第七艦隊司令官

⬛︎オムニックルパート主義派
オイラー・ナズ……ルパート主義派第四艦隊司令官
ボルト・エン・アール……ルパート主義派第四艦隊副司令官
ファイ・コンパス……ルパート主義派第五艦隊司令官
ジス・アン……ルパート主義派第八艦隊司令官
◇墓誌
グリース・コール……市場開拓部第四艦隊、戦略投資部臨時特別艦隊に挟撃され戦死
カイコ・インクランド……同上

《戦況》
⬛︎スターピースカンパニー
市場開拓部第四艦隊……艦総数40000隻・20000隻の分艦隊二つ、欠損なし、アルテナ率いる第一分艦隊は第七艦隊の指示に従って後方に移った敵艦隊の半包囲のために展開。テーバイ率いる第二分艦隊は真正面の敵艦隊が全速力で突破することを逆手に取り、ワープすることで背後を取る作戦
市場開拓部第七艦隊……艦数40000隻、欠損なし、ティーベル恒星を後ろに回頭、ワープしてきた敵を一斉砲撃。戦闘機による周辺宙域哨戒中。

⬛︎オムニックルパート主義派
ルパート主義派第五艦隊……艦数28000隻、欠損17000隻、敵陣の後ろにワープしているものの、第七艦隊司令官チェリンの策略によってアルテナ率いる第一分艦隊の砲火に晒されながら敵陣左翼(第二分艦隊がいる方面)への挟撃を計画。。
ルパート主義派第八艦隊……艦数25000隻、欠損20000隻、テーバイ分艦隊に密集隊形で突撃中。


ティーベル星系の戦い・急

 この時点で、この戦いは決着が付いていると言っていいだろう。

 

 オムニックの将官達は揃って生き延びてきた本物のベテランである事には間違いなく、有機生命体が囚われがちである感情と思考の融合を別サーキットで走らせて怒りつつも適切な指示を出す。これによって、数多の戦いにおいて勝利をしてきたのだろう。皇帝戦争の時も、きっとそうであった。

 

 しかし、彼らはここで思い知る事になるのだ。

 

『カンパニーというナショナリズムに依存しない軍隊でその極地に立つ者は、等しく己の中に答えを持つ』

 

「よし、火がついた!」

「提督!」

「全艦、ありったけのビームとミサイルを、敵に叩きつけろ!」

 

 アルテナ艦隊と右翼を担っていた第七艦隊の一部は、通信機能が回復しない中で一切の乱れなく艦隊運動を組んで行動していた。総司令官の役割をチェリンに移し、強行偵察機のランプで上手い事指示を出しているようで、その光を頼りに出来る限り速度で運用し火力を出す形になる。

 

 現状は恒星を中心として第五艦隊がカンパニーの艦隊左翼に向かっていっており、第八艦隊も恒星の左側から急襲。しかし、現状左翼を担当していたテーバイ艦隊は順次ワープして第八艦隊に付いている形。第五艦隊は若干の角度をつけて左翼に向かっている最中だが、友軍の位置がまだ活発化した太陽のフレアによる電磁波の妨害でマップ上には表示されていない。漸く探知範囲に入った敵艦隊左翼もまた、数を減らしていっているため敵の攻撃が有効になっているとオイラーとファイは判断した。

 

 だが、この時すでにファイは戦死している。

 

「ええい!ファイは、ファイと連絡が取れんのか!」

「ダメです!カンパニーの連中、水爆を数発撃ち込んだようでして!その火力があまりにも甚大で、第五艦隊の旗艦が!」

「仕方あるまい、あの男が一糸乱れぬ艦隊を生み出したのだからそれを無駄にしてはならぬ!全艦、ファイ公爵のためにも最善を尽くせ!敵艦隊左翼を後方に追い付かれる前に撃破し、第五艦隊と合流後恒星を囲むように弓陣形を取り伸びている敵を端から喰らい尽くせ!」

 

「強行偵察機にサインを出せ」

「なんと?」

「『左翼の状況を知らせよ』と」

 

 ブリッジ上部の机にあぐらをかいていたアルテナは、そのまま敵陣を見ている。後方側面についた第一分艦隊の砲火ははっきりと相手を捉える事に成功しており、射程ギリギリを追尾している状態のためこのままであれば何もない追撃戦になる可能性がある。その上でテーバイに任せた方がどうなっているか不安なため、下手したら速度を落として後退する前に倍以上の敵残存艦隊が一斉砲撃して全滅する可能性があった。

 

 臨時副官マリーンは、指示を出しながらも一切焦ったりする様子のないアルテナに

 

「テーバイ提督は大丈夫でしょうか。あの人のことはよく分かりませんが、少し心配です。いくら貴方の部下とは言っても」

「あいつは悪戯を本気でやるやつだよ、最も自分の命もかける火遊びが得意でね。まあ見ていろ、いつの間にか姿を消しているとかもあり得る」

「連絡艇よりケーブルによる接触回線が接続されました、第七艦隊からです!」

「繋げろ!」

 

 ユリシーズのブリッジにあるメインモニターに、連絡艇の責任者が顔を出す。人間であり、多少歳を取った普通の中年男性であった。お互いに敬礼する。

 

《こちら第七艦隊連絡艇、通信手のゴルガン・ギレと申します》

「ご苦労。俺がアルテナ・ジャズパライズだ。有線を入れたのは?」

《先刻そちらからすれ違った偵察機から戦況報告要請を受けたとのことで、急いで参った次第であります》

「状況を教えてくれ」

《ええ》

 

 ゴルガンと名乗った男は、手元に置いていたであろう書類をそのまま読み上げる。紙は二枚、大して多くはない。

 

《『第二分艦隊はワープして敵左翼艦隊の後方に付き、敵艦隊はそのまま前進を続けておりこのままでは数分後に完全に入れ替わる形となる』とのことです》

「そうか……よし、連絡艇を接舷させろ。ゴルガン達をユリシーズ内に入れつつ最大戦速で奴らを叩きのめす!」

《では、そのように》

 

 オーラスのリーチ、しかも逃げ切りの一手。捨て牌に上がり牌は無し。アガリは目前。不敵に微笑むアルテナに、マリーンは横から覗いている。

 

「そろそろ、終わりなのですか?」

「御名答。奴らは、悪戯三人衆の魔の手によって今から命を終える」

 

 ベレー帽を深く被った彼の目に、迷いも後悔もない。

 

 

 

 

 

「うん?あれえ、誰も居ませんねえ」

 

 ここから先は、あるオムニック達の壊滅を見よう。

 

 まず、第八艦隊の旗艦。名前はないが、少なくともジス・アンという商人上がりの才能ある指揮官が指揮する第八艦隊が前進を続けていた。全速前進で突破すれば、少なくとも損傷率を急激に増やし続けることもないままに突破できると考えていた。

 

 反対側を担当している方も、後退という一番の愚策はおかすまい。危険な賭けをしてワープするか、そのまま強行突破して陣形が崩れたところを恒星と挟んで包囲しながら壊滅。

 

 ____なのだが、先ほど前に陣取っていた軍隊が霞のように消えてしまっているのである。

 

「ふむ……いえ、ここは好気!全速力でここを突破し、可能ならば反対側の援護に回るのです!」

「大変です閣下!前方の艦隊が撃沈していきます!」

「なんですとぉ!」

 

 ジスは机を叩きながら、カメラの映像をモニターに拡大しても爆風で何も見えはしない。何なら、その爆風の横から敵艦隊が見えている。

 

「各艦!出来る限りの最大速度で、突破するのです!」

「新たな敵……いや、アレは!」

 

「なに!?もうすでにこちらの動きを予測していたのか!」

「前方の艦隊は味方です!これ以上砲撃すれば悪戯に兵を減らすだけになります!」

「しかし、ジスは何故こちらに気付けんのだ!」

「おそらく電磁波妨害による機器の破損が著しいかと!敵艦隊がこちらを認識できていない……カメラもやられたか!」

 

 オイラー・ナズも、既に絶望していた。いや、その距離になって漸く理解したのである。

 

 確かに自身が指示したワープからの攻撃による一艦隊壊滅は間違っていなかったどころか、正しかった。後退して戦闘機の餌食になるよりも、アルテナの艦隊と損害を出した状態で戦うよりも、一番いい選択肢をした。

 

 実際に後ろにつき、味方と合流するように追撃する。それも間違いではない。何故ならば、陽動を突破ないし回避することによって罠の損害を抑えつつも戦力の合流を図れるからだ。後ろからの挟撃には絶対に耐えられないだろう、故に正しかった。

 

 しかし、その正しさが裏目に出てしまったのである。まさか敵と味方の位置がいつの間にか入れ替わってることなんてあり得ないのだし、ワープ航行による奇襲をさらに利用するなど先読みではなく心を読まれていると思っても仕方がない。

 

「我々は最後まであのコンダクターの指揮に鳴らされていたのだ……!無数のシンバルで轟音を響かせるのはさぞ満悦だっただろう!」

「どうしますか、閣下!」

「仕方ない、左方向への突破を図る!どの道包囲体制をとれておらず、ガラ空きのままだ!全速力で動けば、奴らも消耗戦の愚かさを知っているのだから追撃はすまい!」

 

 彼は無念を抱きつつも、全力をもって散華することは選ばなかった。いずれまた、戦う時が来るならば。その時こそ正面衝突と完全なる勝利で復讐を果たすべきだ。

 

 指示を出し、レーザーソールの機能も活用してそのままルパート主義派第五艦隊は敵味方の砲撃を受けながらも残れる奴らを1人でも多く出すために撤退していく。

 

 

 だが、第八艦隊はもう逃げられない。

 

 これ以上の戦いを長引かせないために、後ろからは第七艦隊、左右からは第四艦隊が迫ってきている。もう既に逃げ場のなくなった艦隊は、壊滅するのを待つだけになった。

 

「全艦砲撃!構うな、逃げられる前に全員ぶっ倒してこの宙域から離脱する!ミサイルも出せ、範囲攻撃で一挙に壊滅させる!」

「全員ありったけを撃ちまくれ!オレたちの勝利は目前だ、全員ぶっ倒したら勝利の女神が抱擁してくれるんだ!もっともっと、派手に祝砲でぶっ倒そう!」

 

 第八艦隊は、もう悲鳴を上げる暇もない。レーザー砲撃はひっきりなし、しかも針山のように細かくて鋭い射撃が右往左往してもあるせいで突撃しても爆破、後退しても爆発、敵前回頭をすれば当然撃ち抜かれて自滅。

 

 最早これまで、と言ったところか。砲撃が1時間近くも集中し、それでいて敵の反撃を許さずのままで露骨な接近もなし。自分達の軍を保全したままに、ついに敵の艦隊は一隻も残らずに散華した。

 

 オムニックの艦隊は、短命の有機生命体達による『幾重にも積み重なった罠』によって、敢えなく敗走したのである。

 

「よっしゃあ!やった、やったぞ!あの大艦隊を押し除けたんだ俺らは!やったー!」

「やっぱりアルテナ提督ってすげえや!陽動作戦を見破られても平気で対応しながら連携も取れる!この人についていけば安泰だー!」

 

 ユリシーズの通信手、観測手、ともかく色々なメンバーがはしゃいで大喜びしている。軍隊におけるいいところは、指揮を信じて己の為すべきをすればそれそのままが戦績に反映されて評価される事だろう。総司令官から参謀、そこから下士官に至るまで、巨大な毛細血管のように広がっているのだが、その繋がりは確実に認識できる。ましてや、勝ちがナショナリズムの是非だけに消費されない……カンパニーの軍隊とは、勝てば何物にも勝る快感を得れるのだ。

 

 歓喜に渡るブリッジで、アルテナはマリーンと口を交わす。

 

「やりましたね、提督……!やはり、ムール提督の言った通り貴方は天才なんです……!」

「いつまでヤン・ウェンリーごっこをすればいいか結構肝を冷やした。最初の時から既に通信妨害の手段は取る予定だったんだが、まさか陽動をいいことに倍の数で押してくるとは思いもしなかった」

「その割には落ち着いて何食わぬ顔で、指示を出していたように思いましたけど」

「いつも通りミサイルと戦闘機で誤魔化して時間を稼ぐだけだったからな、まさか戦闘機の攻撃に晒されながらワープを強行してくるとは夢にも思わなかった。そうなれば前進して逃げるつもりだったが、織り込み済みで動いてたチェリンがやばい。それにテーバイのやつ、まさか俺がいつもやってることを逆手に取るとはな。これじゃ俺はただのモブ提督だよ、ちぇっ」

「あんまり文句を言ってはいけませんよ、提督」

 

 マリーンの顔が近づいて、微笑んでは彼の頭をゆっくりと撫でる。満更でもなさそうだが、それでも恥ずかしいのかアルテナは目を逸らした。

 

「そもそもの作戦立案と、揺動を逆手に取られる事前提でカウンターを用意したのは提督なんです。他の提督方はそれを最大活用するために自分に与えられた権限のうちで最善を尽くしました。全部が全部、貴方が取ってしまってはきっと今頃暴動起こってますよ」

「……そりゃそうだな」

 

 頭を書いて、モニターを見る。自分が憧れた英雄仕草を真似しているが、この空気感と自分と他の人間との関係性は、真似だけでは味わえないものだ。

 

 外の光景には戦闘機がランプで合図を出しており、その内容は『急速離脱』……つまり急いでここから離れろとのことだ。

 

「提督」

「言う通りだな。よし、こっちもガイドビーコンを出せ。離脱命令を出して第七艦隊についていくぞ」

「了解!」

 

 彼が強いのは彼だけの才能ではない、周りもまた理解して手を回すことに長けているからこそ自分の作戦が多少粗があろうともそれで勝てるというのが身に染みてわかるだろう。

 

 ユリシーズ率いる第四艦隊は自然と一個に合流し、前方を行くリューベック率いる第七艦隊と一緒にティーベル星系を抜け出すのであった_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮黎は、ベールの底から目を開いた。

 

 いかな戦争であったかは大して見返す気も起きないのか、そのままゆっくりと花園に置いて去っていってしまう。

 

 其にとっての英雄譚とは、やはり聞かされるべきものか。それとも銀河打者達と比べれば、興味があってもそれくらい“余地”を残さないと美味しくいただけないものか。

 

 しかして彼女の心を知る人間はきっといない。彼女は全ての終わりにて初めて顕現する星神、つまりは隣に誰もいないのである。

 

 だが其の記憶には、少しは残った。

 

『艦隊戦という雑多な人間が力を得る唯一の戦いは、いつか宇宙を揺るがす力に昇華するのではないか』

 

 と。

 

 文明に影響を与えるのが戦乱なら、きっと彼らの戦いが何処かの大きな歴史を動かしたのではないか。

 

 浮黎は、量子もつれのように先程の記憶と連動する花を見つけに、ガーデンを其の御身で歩き続けるのだった。

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