スターピースカンパニー市場開拓部第十三艦隊~地球を渇望する者達の狂騒譚~ 作:らんかん
アルテナ・ジャズパライズ……市場開拓部第四艦隊司令官
マリーン・ジェーンビム……市場開拓部第四艦隊臨時参謀、ウォーロック駐留艦隊副司令官
テーバイ・ヒュリア……市場開拓部第四艦隊所属、分艦隊司令官
チェリン・ディ・ヴァーク……市場開拓部第七艦隊司令官
オムニックの増援もなく、素早く離脱した第四艦隊・第七艦隊は警戒そのものは怠らないままに他の艦隊も警備している安全宙域に入った。既にその宙域にいた艦隊とは連絡を取り、通行を許可されて歓声を受けながらピアポイント付近のコロニーへと足を向けている。
今回の戦い、実のところミサイルやエネルギーの消耗は激しかったのだが、誰一人として死んでいないのである。確かに大艦隊同士による砲撃戦はあったのであるが、戦闘機とミサイルによる緻密なファーストキルは相当な戦果をもたらし、電磁波妨害が合わせて敵が機械生命体であることをひたすら逆手に取り続けた結果対空砲火さえも許さないでひたすらに撃破を繰り返した。敵の左右どちらの艦隊も、その屍によって壁を作った結果敵の火力はそれに吸われてまともに機能しなかった上、電磁波を強く受ける場所からやってきた分レーザーが曲がってしまい思うように当たらなかったりなど、とにかく敵に不利な状況を作り続けたアルテナ達は被害を抑えることに成功した。
目立った被害と言えば、中破艦が続出していることだろうか。やはり無理矢理でも相手に傷を負わせようとするやり方は、どこかに傷跡を残すもの。太陽フレアによる影響の減衰があったのも含め、直撃しても致命打になり得ず装甲を削られるに終始。
多少の戦いの傷は華、ならば完璧な凱旋が出来るであろうと戦った皆はすでに考えているのであった。
「やっぱり私たちは最高だよ!そうだろう、アルテナ提督!このような戦いを無傷で切り抜けた我々は、市場開拓部で最強の艦隊だ!」
「そりゃいいな。ま、ともかく仲良く動けることが一番だ。俺の才能は君たちの理解力あってこそだからな、ある種俺が死んでも代わりは……いや、その言い方じゃ味気ないか。後継者は沢山いる。それこそ一番喜ばしいことだ」
若干もみくちゃにされつつも、彼は満更でもなさそうな顔を見せる。視線にすら憂いが見えない辺り、先のことは一旦後回しにして今のムードを楽しんでいるようだ。紅茶を飲みながら、などとは優雅なモノだが無論何もせずにゆっくりしているわけではない。
「第二分艦隊、第七艦隊より連絡が入っています!リューベックとアガートラムからです!」
「よし、モニターに映せ!」
《やっほー!ようやくこっちは色々片付いて話ができる状態になったぜー!》
《アルテナもそろそろ頃合いかと思って連絡してみたんだけど、どう?忙しい?》
「リュエが居なくなっても雑務のエキスパートには恵まれているんだ。それも、マリーン・ジェーンビムという老練が年齢による甘さを抜きにしても高く評価する副官がな」
モニターに映る二人も、アルテナも、笑みを浮かべて口を開く。流石にカンパニーの活発な活動圏内ではセキュリティも厳しいお陰か、過信するではないにしろすでに安心して話ができるようにはなっていた。
《にしても、ちょっと危なかった。まさか挟撃を逆手に取られるなんて。予測はしていたとは思うんだけど》
「甘い発言かもしれないが、俺は艦隊をそのまま追撃に一個、左右に二個で来ると思ってた。そうでなかったから90000隻を一気に突っ込んで挟撃のダメージを抑えつつ逃げてるやつを破壊するとかだったらちょっと困ってたしな。だが、現実は陽動を同時に喰らって壊滅させることだった。正直先に言ったやり口よりかは全然楽だったよ」
《へえ〜……数はどっちにしろ下、おまけにシーンで見れば自分たちの倍の数の敵がいてそこまで言っちゃ得るのすげえ》
「だから説明する前に水爆を撃ち込んだ、お前達が嫌と言おうとも従わせるためにな」
苦笑いをするテーバイと、文句を言いたそうにしているチェリン。その二人を見て、話を続けるアルテナは紅茶がなくなったのに気落ちしている。
「敵が自分達よりも数で優っているときに、どうやって上回るか。答えは当然”敵よりも火力を出す”ことだ。相手の裏をかく必要もあるし、陣形とそれを巧みに運用する奴が数人必要。戦闘機も当然使わないと追い詰めるまでに至らない。元々からそこまで考えていたから、俺は指示を出す時も大して迷わなかった。驚きはしたがな」
《全部計算尽くしってこと?》
「概ねな。だが、中破してても人員の死亡なしは流石に驚いた。それはまあ下士官達の常日頃からの準備の賜物だろうが、今回は味方の提督達に大きく救われたよ」
頭を書く彼は、少しばかり目を背ける。
最初から彼に逃げるという選択肢はなかった。もし自分の艦隊を囮にして逃がせば、第七艦隊の困りごとをただ引き受けるだけになるだろうし、一緒に逃げ回っても当然意味はない。敵の増援が来ていれば結局のところ各個撃破か一挙に破壊されて終了である。
見捨てる選択肢を捨てた瞬間から、ろくな逃げ腰の策はもう消えてしまっていたと言っていい。そのことを頭から投げ捨てた彼でも、敵の動きは恐ろしいモノだった。思い切りの良さがなければ最初から負けていたし、そうでなくてもピンチが重なったとも言っていい。
「まずチェリン。流石に戦闘機の扱いに手慣れているな、強行偵察機と実際のファイターを出すのは予定通りだったが、後ろの確認まで済ませるのは助かった。手を回そうと思ったんだが、流石に回らなかった。無茶振りに付き合わせて、本当にごめん」
《謝ってくれるないいや。指示に従わなかったらぶっ飛ばそうとは思ってたけど》
「おいおい物騒なことを言うな。助けに来たお礼がビンタなのは勘弁だ」
苦笑いするアルテナは、今度はテーバイの方に向く。一応は部下であるため、少しばかり具体的に褒めることにした。プライベートでうだうだ語るのは、チェリンのためにとっておくつもりだ。
「一番驚いたのはお前だよテーバイ、一体何を食ったら敵艦隊の後方にワープしようなんて思うんだ?」
《聞いて驚け我が弟よ!実は敵後方の偵察を行なっていた艦隊から裏に敵がいないと聞いたから、ワープしたんだぞ!理由聞きたいか?》
「今言っているのは事実だからな、理由を最初から話してくれ」
《それは当然敵の背後に付けば挟み撃ちの過程で勝手に同士討ちをしてくれるって思ったからだ!》
「……読んでいたのか!?」
聞いた方が驚いて、聞き返してしまう。まさか、反対側の戦況を把握・相手の攻撃を予測した上で敢行して見事術中に嵌めてしまうとは、恐ろしいと言うほかない。
《うーん、もっと内容話すと我が弟の策を越えようとして、それができそうな人間だった場合必ずワープすると踏んでいたんだ。こっちは動きが少し遅めだったのもあって、おそらくはそっちが担当する艦隊の方に総司令部があるってさ。それを考えれば、ワープしてさらに裏をかくことも容易であると踏んだのだ!》
可愛い顔でウィンクする、なんと言ってもパンクロードの妖精らしい俗称男の娘というより中性カワイイ提督はブリッジのメンバーの視線を釘付けにするが、彼が見ている画面に映っているのはアルテナだけだ。
しかし、そんな見た目に反して思考と判断はかなり鍛え上げられたモノであった。例えるのであれば、それは極限まで手だれに追いつこうとする努力の結晶でもある。
確かにアルテナの策を打ち破るべくあえて陽動を素早く破壊して第七艦隊を挟み込んで壊滅させる、これは正しかった。その上でテーバイは”相手の総指揮官ならば多少の犠牲を払って恒星の影響圏に留まったりはせずにワープして背後から自分の艦隊と前後で挟撃もしくはどちらもワープすれば回頭するカンパニーの艦隊に先制攻撃を仕掛けるだろう”と踏んでいた。
彼はその意味では悪戯の天才でもあり、悪道を覇道として歩めるほどの天才である。それでもアルテナの部下にいるのは、階級の問題以上にその司令官の下で働くのが良しと考えてるからだが。
《我が弟は火力を出せることに定評があるからな、先制攻撃さえ巧に取れる以上、きっと攻撃には抜かりないと考えた。無論最初は撃ち返すことも考えたのだろうが、電磁波妨害でレーダーがまずまともに機能しない以上正面の撃ち合いなどしないと考えた。こちらもそれは同じだったが、偵察隊の情報を見てこっちはそのまま突っ込んでくるだろうと判断したんだ》
「つまりは戦闘機を上手いこと動かしたチェリンの情報網に乗っかって判断したってことでいいんだな?」
《そうそう。だから感謝しているぞチェリンよ》
名前を呼ばれれば照れる少女は、照れ隠しに帽子を深く被った。
チェリン・ディ・ヴァークの率いる第七艦隊は、戦闘機群の使い方に一番長けていたと言ってもいい。強行偵察機と通常戦闘機を混ぜて戦いつつ、シュミレーションや事前の連絡手段などを細かに設定しているために一切の混乱なく動けるのである。
アルテナ・ジャズパライズの第四艦隊は火力を出すためには発進させたりはするものの、飛ばした後はそのまま破壊させて帰って来させるだけなので、色々なサインを利用した同時攻撃などは上手くできない。それを規定してもいいのだが、何しろチェリンのところのように動かそうとすれば自分が劇的な数のサインの交差に辟易・混乱してしまってまともに指示が出せなくなる。
それにそのようなことをせずとも、大筋から素早く決めて行動に移せばサインを必要とする前に決着するし、上手くいかなければ無用な戦いとして退却する。メリハリを持った動きをする上に、この判断も早く出来るが結局のところ”意図的に長引かせる”が彼の苦手のするところである。尤もそれは、彼のステータスを数値化した時に一番低い項目であるし、他人と比べて苦手だという話をしても、天才達や自分と同レベルの才能を持っている者達と比べての話だ。そうでなければ鉄墓戦を生き延びる、というのは難しい。
だが、この二人には必ず共通するところがある……それは『事前に行動を決める』ということだ。チェリンは"情報の高速伝達方法"を、アルテナは"敵の撃破方法"を。
『故に兵は拙速なるを聞くも、いまだ巧久を
この物語では何度も出てきた名言。聞き馴染みのある方で言えば『兵は拙速を尊ぶ』とも言う。
前提から破綻していて不可能だとわかっているほどの策でなければ、多少の粗があろうとも即座に行動して先手を取る。攻撃を受け続けていて旗色が悪いと思えば、その時点で何をしていようとも切り上げる。この逆をやればそれだけ被害が出て、何の益にもならない。素早さこそが、戦争の基本であるとのことだ。
その素早さに至るためには、やはり事前の打ち合わせこそが最適解なのだ。打ち合わせをスムーズに行うためには、基礎知識が必要になる。ともかく何よりの準備こそが、勝利の秘訣と言える中でこの二人は違う視点から同じ基礎を実行していた。
アルテナは必ず最初で敵の出鼻を挫いてそのままもつれ込んで撃滅するための策をしっかりと練り、マネージメントをこれでもかと素早く行うことで味方に混乱を招かずに撃破する。チェリンは情報の共有方法をしっかりと全兵に把握させ、その上でシュミレーションを重ねて混乱が起きないようにしてその時その時での対処法を迅速に練る準備をしつつ、大筋はしっかり決めて動かす。
チェリンという提督は『瞬間火力』を是としてそれを達成しながら安定させる詭道であり真似できる人間があまりにも少ないアルテナと比べて『攻防一如』で再現性の高さと司令官の実力で応用も出来る天才と秀才を兼ね合わせた司令官であったと言える。むしろ完成度という点で言えば、彼を凌駕していたと言っていい。銀河の英雄というプリセットを解釈して、それこそ英雄的な動きを現実に落とし込めてしまうやつより、一から自分の責任者としての立場を活用して確実なネットワークを作り上げる彼女が優れていることは言うまでもなかった。
詭道の第四艦隊と、王道の第七艦隊。無敵という迄にはいかないが、その完成度はあまりにも高かった。クリフォトが自ら城壁を築くほどの美しさを、兼ね備えていたのである。
さて、話をしているうちにある場所が見えてきた。
《あ、見えた!》
「おお、ようやくか」
《帰ってきた》
惑星ピアポイントの周辺にあるコロニー軍。色々なところからお帰りというメッセージと、祝砲が飛んでくる。光るだけで殺傷力のないレーザーは、艦隊を近くから綺麗に照らす。
モニター越しにお互いの顔を見る三人は、微笑んで勝利と生還を喜ぶのであった。
__________これがティーベル星系での戦いである。まだ、このルパートを信奉する集団とは戦うのだが、その花はまだガーデンから見つからない。
浮黎は今、瞳も閉じ、寝息を立て、過去という不動で永遠のほとりで眠りについている。起きる時はまた、今度は優しくて口当たりのいい話が待っているだろう。それでもこの記憶は止まりはしない、その時間を生きた人間にとっては未来というものがあるのだから。
故にアルテナ・ジャズパライズは、また日常へと戻っていったのだった。