スターピースカンパニー市場開拓部第十三艦隊~地球を渇望する者達の狂騒譚~ 作:らんかん
アルテナ・ジャズパライズ……市場開拓部第四艦隊司令官
イ・リュエ……市場開拓部第四艦隊副司令官
トパーズ……戦略投資部直属チーム《十の石心》『トパーズ』
ジェイド…戦略投資部直属チーム《十の石心》『ヒスイ』
惑星ピアポイントではなく、その周辺にある製造コロニーへと話は移る。
アステラが乗っている戦艦ユリシーズは、実のところカンパニーの突出した機能を持つ戦艦ではない。ごく普通の、指揮所能力を強化した旗艦用の戦艦だ。
彼がいたく気に入っているのは、その普遍性。事実鉄墓の援護でオンパロスに駆けつけた際、アステラの敬愛するSF小説の中で英雄が乗った戦艦と同じくトイレ全損という地味に笑えない被害を被ったユリシーズだが、カンパニー……いや、琥珀紀という宇宙の物語の中では戦艦のパーツ、ブロックを大した設備も無しで同型艦と交換可能。彼の艦が危惧していた帰りは“文字通り”トイレを借りることで事なきを得た。
なんとも呆れた話であるが、これは直ぐの援助が難しい田舎星系での戦いにおいては結構役に立つ。なにしろ戦艦同士で無事なパーツをそのままくっ付ければいいのだし、どうしても使えないスクラップは溶解炉にでも突っ込めばいい。時間はかかるがパーツを新しく新造出来るので、その場での戦艦再建も可能だ。
ただし、そう言った行動をする場合ひとつの鑑に人が沢山移るためキャパオーバーを起こす可能性もある。故に、パーツ交換や無事なパーツをくっつけて運用という行為は人の管理という点で質が落ちる可能性もあるためメリットだらけでも無い。
それでも専用艦を作るよりはカバーが効きやすく、扱い方も変わらないため最悪ユリシーズを放棄して旗艦を移しても指揮能力の低下を気にせず戦える。彼はそんな普遍性を持つ艦を愛していた。
『受け継ぐという行為の是非は、物的な同一性ではなく受け継いだ人間がその時代をその名で駆け抜ける意志と歴史で決まるんだ』
ある種、テセウスの船に対するアンサーを彼は持っていたと言っていい。今乗ってる船がユリシーズではなく、生き延びようとする意志と、その場で全力を尽くす皆でユリシーズという船が初めて完成すると考えていた。
そうして生き延びたメンバーが、幸運を受け継ぎ生きていく。自分の命さえ価値が決まりやすい宇宙の中で、金額で測れないものに巡り合わせた強運が彼の一番の強みなのかもしれない。
「イザーリン女史はなんて?」
「ユリシーズはすぐにでも出られるし直掩艦隊も大体無事で済んでいるけど如何せん被害が尋常じゃないので元第四艦隊以外を再編して物資積んで出発!は絶対にできないと。技術開発部が嘘ついてる可能性も否定できませんが、確率は限りなく低いとも思います」
「七大部門が全部絡んでくる以上、策略を下手に巡らせば足を引っ張るだけで終わってしまう可能性もあるからな。そんなことをするような奴らではないさ。それに彼女は自分の実力に自信を持っている、泥を塗られることを甘んじる性格でもあるまい」
彼はP44、降格したトパーズと同じ地位にいる。だから当然隣には副官がいるのだし、彼が行くルートにはそこそこ守ってくれる警備員もいるのだ。
堂々と練り歩いているわけでもないが、副官付き添いでかつ真面目な話をしていると風格というものが出るらしい。尤も、アルテナはギリギリ少年なので”人々が嫌う天才少年”にしか見えない。ここがピアポイント周辺で、上品な奴らしか集まれない場所でなければ最悪殺されてもおかしくは無い。
「少なくとも小官は、現状警戒するべき点はないと思いますが」
「そうだな。たまにはそういう時間がないと困る、何しろしばらくは警戒心が取れそうにないからな」
背伸びし、欠伸し、少しだけ止まる彼。
副官のイ・リュエはここがピアポイント周辺の豪華極めた場所で、少なくとも社員の中ではほぼ上位郡の人間が俗っぽい行動をしていることを咎めようかとも思ったものの、彼の品位は別に誰からも求められてないことを思い出して留まった。
「そういえば、主務からはなんと?」
「オスワルド主務のことか。音声のみの通信だったが、少し面白がっていたよ。『ヒスイと話を結んで何事もなかったやつは初めてだ』とな」
ジェイドとの契約というのは、必ず自分の大事な何かを差し出さないといけない。例えば好きな人の全てを知る代わりに、自分の会社が倒産すると言った具合。最初は告白も成功して喜んでいたのも束の間、会社が倒産。せっかく告白して手に入れた相手も将来性のない男とは破談すると言ったものだ。
「今回は珍しく彼方からお願いがあった、いや、確実に丸め込むのを条件として俺の願いを叶えてくれるという話だった。まあ裏切り者まみれになるのは避けられないしその代償として願いを叶えるだそうだから、第十三艦隊が空中分解しないための策を敢えて打っといた。ジェイドさんにしか頼めないことをな」
「それが_____」
「ここで言うのは厳禁な」
「そうですか」
お互いに沈黙する。副官にすら下手に口にださないよう注意すると言うことはそれだけ大事なことらしい。
二人が歩いていると、目の前からリボンをつけた次元プーマンがやってきた。猛スピードで走り回っては、リュエにぶつかる。当たってしまった副官は一切動じることもなかったが、どうやらその飼い主が一生懸命追いかけるようにやってきた。
「カブー!」
「あ」
素っ頓狂な声しか出さない自分の指揮官に呆れて、リュエはカブという名前らしいプーマンを抱き抱えて前に出る。
やってきたのは少女だ。全体的にビジネスカジュアルっぽく、美脚・強脚というべき健全な大腿が目を引く。白い髪だが赤いメッシュも入っていて、パッション溢れる少女だ。ピアポイントの近くにいるという事は、それなりに地位も高いだろう。
「あ、ごめーん!カブがそっちに行っちゃったみたいで」
「いえ。こちらを」
「ありがとう!もー、あんまりお兄さん達に____ん?」
リュエに一礼した彼女は、その隣で突っ立っていた銀髪の木偶の坊を見た。
見覚えがあるようだ。いや、そもそも彼女はジェイドの部下だろう。次元プーマンを飼っていて、ピアポイントがある星系まで来れるほどの階級で、何より特徴的な太もも。それで誰か分からないというのであればカンパニーでとてつもない冷遇をされて給料をもらってる人間だけ。
「あなた、もしかしてアルテナ・ジャズパライズ?」
「ああ、そうだが____あ!トパーズさん!?」
「そうそう、私はトパーズ。普通に呼び捨てでもいいよ」
「十の石心にんな無礼出来るわけ」
「ジェイドさんとやり合った男だからね、特別に許そうと思って。同じ階級でしょ?」
「ああ、じゃあ俺のことも普通にアルテナと。今あんたの家族を抱えたのが」
「副官のイ・リュエだ。よろしく頼む、トパーズさん」
「イ・リュエ?不思議な名前ね」
「小官もそう思っているが、母上に聞いてくれ。尤も今は死んで、IXの御許へと還っているがな。しかし、レディ・ヒスイはともかくトパーズさんはどうしてこちらに?ここは小官らのような味気の無いヴァイキング共の巣窟です。男女関係なくケモノしかいないのに」
人のこと玉ねぎの匂いで生死を判断するくらい頭が悪いやつだと思ってるのかと反論したくなるアルテナと、そんなこと気にせずカブが逃げないように抱き抱えたトパーズ。彼女は全く考えることもなく、自分がやっていることを伝えている。
「全部門が第十三艦隊に協力することになったでしょ?それで私たちも艦船用意のためにここに来たの。戦略投資部は、今回のプロジェクトに意味があると考えたから。十の石心を含め幹部は誰も行けないけど、一応貴方のサポートをする人も派遣する。私の部下の一人よ」
「へー、そりゃいい」
「地球という星の情報を一部持ってるの、真偽を確かめるために自ら立候補したんだ」
リュエとアルテナは顔を見合わせた。
地球の情報を持っていると豪語するという事は、相当なペテン師か、もしくはアルテナと同じく”地球からのメッセージを受信した運命の人間”の二択。どちらにしても目の前の幹部が目をかけているほど価値がある人間なので問題はないだろうが、仮に後者だと断定出来るようであれば旅の仲間には心強い。
「心強い方をお付けくださるとは、恵まれたものですな提督」
「やめろここは軍隊じゃない。あくまで武力の煮凝りだ、ここまで足を運ばせておいてトパーズに余計な礼儀を覚えさせたらどうする。ジェイドさんに嫌味言われるのは流石に堪えるぞ」
「そうですよ〜、でもここは市場開拓部四大司令官アルテナ提督の顔を立てないとね〜」
「ははは、まさか。賓客に招いた石心の方にそのような礼儀を強いる事はしたくありませんな」
「小官の語り口を真似てもさして似合わないな」
「おいてめえ!」
言い合いをしている若い衆、立場こそ上だが感性や態度というのは立場でそうそう変わるものではないと自覚させてくる。ふざけ合う事は大人でも出来るが、その大人のじゃれあいというのは教養のマウントを含むことが多い。結果としてあまり気持ちのいいものではなくなるが、若いとその心配はないようだ。
だが、そんなふざけ合いも長くは続かない。
『緊急事態発生!ウォーロック星系に所属不明の艦隊が接近、駐留艦隊が半壊状態にあり!直ちに第四艦隊は出撃せよ!繰り返す_____』
『第六第二艦隊は再編して宙域の警戒にあたれ!』
そういった警報が、不安を煽って敵襲に対し撃滅するようアドレナリンを刺激して響き渡るのだ。
「ウォーロック星系と言えば」
「市場開拓部が最近入った星系だ、ここからはそう遠く離れてない。磁場の乱気流を完全に制御できる装置を作ったと言ってテラフォーミング試験に出てたし、一切文明の形跡はなく未開拓地域の人間はいないと聞いたが」
「おそらくカンパニー経済圏にない文明が同じ目的でやってきたのでしょう、それにしては些か好戦的すぎるような気がしますが」
まだ第十三艦隊は結成されておらず、彼がいるのは第四艦隊。それに出撃命令が出るということは、おそらくは所属不明の艦隊の出方を伺うためだろう。本気にしすぎて全部出すと、別の部隊の急襲でピアポイントまで接近される可能性まで考えたようだ。
そもそもが今ピアポイント周辺にいるのが鉄墓戦から帰ってきた強者達。彼の知り合いがいくつかいるので、おそらくは警備は問題ないだろう。
「本部の連中は賢いな、おかげで変な心配しなくて済みそうだ」
「そうも言ってられないでしょう。十の石心が今少なくとも二人いて、下手に死なせればオスワルドからしばかれるのを覚悟しなければなりません」
「とは言ってもこのコロニーからピアポイントまで持ってけるか?」
「送り届けるにしても警備兵も碌に付けれんでしょう、警備システムもどさくさで壊されたり電源の供給が絶たれ暗殺も考えられます。カブが賢くてもやはり動物、騙されるときは騙されるものです」
「じゃあ利用するしかないな」
アルテナは、カブを抱えて普通に動揺せず待っている若き女傑に進言することにした。
「トパーズ、戦略投資部がこっちに寄越す戦艦の中に旗艦になれるような船は?」
「あるよ。さっき言った子が名付けた専用旗艦ムーンライトスローンなんだけど」
「よし_____」
自分のバッジを外して、トパーズに渡す彼。その目には自信と勇気に満ち溢れた、若き将校の熱き信頼の証。
「トパーズ提督、今からムーンライトスローンと用意できてる適当な戦艦を連れて戦略投資部特別艦隊の艦隊長をやって貰おう。出来るか?」
「え?ええ、まあ、開拓者とマネーウォーズであれこれ戦略と戦術を学んだから大丈夫だけど。いいの?」
「ジェイドさんはオスワルドの暴走や策略を止めたいらしい、ならばここで戦っていたはずの二つの部署が共闘して外部の敵を追っ払ってしまえば俺もあんたも色んなところにいい顔が出来る。マネーウォーズで培った戦略眼が発揮されればついでに有用性の証明も出来るから」
「なるほどね……わかった!そうするよ!」
話が決まったところで、互いに抱えていた部下が走ってやってきた。
「トパーズ総監!避難です、お急ぎを!」
「ダメ!今から抜き打ちでムーンライトスローンの実戦テストに移行する!戦略投資部が今持っている総数15000隻を出して!私は旗艦で指示をするから!」
「し、しかし!」
「ここで安否待ってるだけじゃ、投資なんて出来やしないんだ!」
「分かりました!」
トパーズのやると決めたらやる精神は、心の強さと培った知識によってもはや成功する運命のようなものに見えるだろう。ベロブルグの不良債権は回収しきれてないが、少なくとも彼女が穏和に住民との決着を済ませたからこそ有効な関係が保たれている。一部では上層部のお気に入りだから一個の降格で済んだと言われたが、長期的な目で見ればカンパニーの情を見せて後悔もしない彼女は信頼を勝ち得る事ができる愛い性格。その上司は能力と人格を評価しているから、本来は階級落としも無しにしたかったのではないかとすら思えるほどだ。
そんなパッションを感じてやる気を出さないわけもなし。第四艦隊長アルテナ・ジャズパライズは副官のイ・リュエに対して指示を飛ばした。
「俺らも行くぞ。第四艦隊はパーツ交換が済んでいるはずだから全艦出撃、他の艦隊に関してはおそらくピアポイント本部のP45か46の役職持ちが勝手に指示を飛ばすから気にするな。いいな?」
「では我々も移動しましょうか、幸運の方舟に」
「荷が重すぎると幸運を入れる前に竜骨から逝くぞ」
「……そう、ですね」
アルテナは手を振り、トパーズと別れてユリシーズへと急ぐ。
別れた彼女もまた、ムーンライトスローンと名付けられた最新鋭艦に乗り込むためにやってきた部下と一緒に通路にある移動用のスクーターに乗って飛ばした。
最近は少しばかり、神の機嫌がいいらしい。
きっとこの戦いも、嵐が鏃の一擲で鐘を鳴らし、共鳴した兵どもの会戦を眺めているのだろう。
それとも、俗人を最大限に集めて一時の思春期が斜に構えたリアリズムを体験するべくアッハが仕組んだ戦いか。
いずれにせよ、浮黎の氷に焼き付けるシーンが増えたのは確かだ。