スターピースカンパニー市場開拓部第十三艦隊~地球を渇望する者達の狂騒譚~   作:らんかん

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⬛︎スターピースカンパニー
アルテナ・ジャズパライズ……市場開拓部第四艦隊司令官
イ・リュエ……市場開拓部第四艦隊副司令官
トパーズ……戦略投資部臨時編成艦隊司令官、十の石心『トパーズ』

⬛︎オムニックルパート主義派
グリース・コール……ルパート主義派第二艦隊司令官
カイコ・インクランド……ルパート主義派第二艦隊副司令官


ウォーロック会戦・前

 ウォーロック星系へと跳んだ。

 

「リュエ、問題は?」

「確認したところ全部問題なし。あるとすれば、トパーズ率いる戦略投資部特別艦隊が無事であるかどうかと、こちらの指示に従ってくれるかどうかでしょう。提督の方が少なくとも一朝一夕のリードがあると考えますが」

「案外一朝一夕が正しいのかもしれないな、艦隊戦の戦術は引き離しているが大局を見極める力はそう変わらないと思っている。用兵が未熟という()()なら、お前で十分カバーは可能だ。そうだろう?」

「提督は無理難題を仰る」

 

 艦橋のメインモニターに敵と自身らの艦隊の凡そを把握させる戦況図が提示される。

 

 こちらはまず、アルテナ・ジャズパライズ率いる市場開拓部第四艦隊が20000隻。旗艦ユリシーズを中心に並列単縦陣を縦に積み重ねる陣形で巡航中、戦艦と空母を中心に巡洋艦をメインに採用している艦隊は、正面角度の相手の様子を伺っている状態。

 

 そしてトパーズ率いる戦略投資部臨時特別艦隊が15000隻。戦艦ムーンライトスローンを旗艦としているが、内容としてはその殆どは軽巡洋艦やフリゲート艦であり、戦艦は100隻程度。一番多いのはフリゲートだが、それに次いで多いのは他の艦隊からパクってきたと思わしき駆逐艦。真正面からやり合うのは危険である。

 

「敵方の素性は?」

「ウォーロック駐留の残留艦隊およそ2000隻を率いていた司令官ムール提督より『敵艦隊の電報より判明しましたのは敵がルパート主義のオムニック艦隊である』とのこと。残数およそ32000、ほぼ同数です。元の総数は不明ではありますが、少なくとも数の上では有利でしょう。相手よりは多少、一隻の必要撃墜数が少ないので」

「まあ、あってないようなものだがな。こっちは半分素人に任せてる、トパーズ提督のご威光が嵐の後光になり得るか見ものだ」

《必ず私があなた達を連れて帰る》

「……頼もしいものだな!」

 

 アルテナは笑顔でモニターを切り替えると、通信オンリーだったもう片方の旗艦ムーンライトスローンの司令官トパーズと繋げる。大きなスクリーンにあのご尊顔を拝めるとはいい時代になったものだ。

 

「そっちはどうだ、トパーズ提督」

《少し不思議な気分ね。浮かれているようで地に足がついてるというか、ブリッジの床に張り付いてるみたい。恐怖は感じないかな》

「それはいい。どうやら幸運の女神にもビギナーズラックという概念があるみたいで助かった」

「しかしどうしますかな、相手の方には警告文をこちらの艦隊から送っておいたのですが相手はオムニック。少なくとも特別艦隊がいるのも見抜いているでしょうし、そちらから突破して残った20000よりかは上の艦数で突破してくる可能性があります。生半可な手は通用しないはず」

「さて、どうしようかねえ」

 

 オムニック。この宇宙の中でよく見る機械生命体のようなもので、全てが機械ベースだが感性はほぼ人間といった種族だ。

 

 天才クラブと呼ばれる宇宙単位で見ても希少な才能を持っている者達の中にもいるようで、一番有名なのは皇帝ルパートとスクリュー星の王子スクリューガム。前者は皇帝戦争なるものを起こし「全ての有機生命体を浄化し、星々を精密に動く機械に作り替えよ」という民族浄化を口にし、後者はその命令と実行していたオムニックのみならず機械生命と呼ばれるものを命令から救い有機体生命との交流の架け橋を作った。

 

 今回第四艦隊と特別艦隊に相対するのは、オムニックのルパート主義といういわば”亡国の艦隊”もしくは”時代の漂流者”と呼ぶべき相手だろう。そのような相手だから、おそらく場数は踏んでいると見るアルテナ。

 

《はーい!私に提案がありまーす!》

「トパーズ提督、何か」

《ムーンライトスローンの切り札を切ってもいい?》

「何か積んであるのか?」

《うん、主砲に乗っけれる面白い機能があるの。今はまだ離れているでしょう、使っていいかな》

 

 彼女の顔はいたずら心に満ち溢れた、ちょっとばかり幼い笑み。まるでアッハが、彼女を一瞥してその策略に敬意を示し嘲笑を示した仮面を被せたよう。

 

「くれぐれもこちらに向けないように頼む、トパーズさん」

《大丈夫よリュエ士官、見ておいて》

「よし、信用しよう。リュエ、俺らも指示を出す」

「なんと?」

 

 彼女は一度置いておいて、アルテナは声を張り上げる。

 

「第四艦隊、全戦闘機発進準備!」

「ほう?一小節に三拍打ち込むつもりですかな?」

「そう言ったところだ。艦隊の隊列は弓系陣、四十層で横に展開しろ」

「戦艦比重は?」

「特別艦隊の後退援護を見越して左翼に」

「了解」

 

 副官イ・リュエは少し考えた後に、同じく声を張って指示を出す。

 

「第四艦隊、弓系陣四十層!戦艦は左翼を優先的に配置、レールガンに撹乱煙弾をセット!」

「……気が効く男だ」

 

 己の副官が自身の考えてることを見通すほどの男であることに、舌ではなく尻尾を巻きたくなるほど怖いが尊敬もしている。付き合いが浅いのにも関わらず、そこまで見通せるのは何故なのか。母親の時に虚無(IX)の名を出した以上、彼にとっては人とは恒星の一つでその特徴を観察しているのかもしれない。そう思ったアルテナは、一回ペレー帽を被り直してモニターを見る。

 

 そして同時刻。

 

「特別艦隊、今から10の分隊に分ける!私が率いるやつに戦艦と駆逐艦を集中!ムーンライトスローンを中心に十列五層並列単横陣!残りは後ろで分艦隊ごとで自由な配置について!駆逐艦は艦列の隙間に射撃の邪魔にならないように移動!戦艦は砲撃ではなくビームバリア用意、只今よりこの艦は『サンライトスローン』の実戦テストをするわ!終了後、ビームバリアを展開しながら魚雷とミサイルによる全面攻勢に移り敵艦隊撃滅に移る!」

 

 トパーズは、自分が乗っている月光の玉座に供えられた宝具の詳細と使い方を口にしながら指示を出す。その姿は凛々しく、声は一切の愛嬌を排していても彼女と分かり、かつ自信に満ち溢れていた。

 

 サンライトスローン。

 

 三つ目の崩壊を知る人間は知るだろうある宝具、月光の玉座たらしめる本性を。

 

 ただし、その宝具_____いや、月光そのものは果たして何故惑星を照らすのか。どこからその光が来るのかを知るものがこの一手を、この時点で知ることになる。歴史そのものが神であり、人間が神の視座を手に入れる時、それは当人が歴史を己に積み上げてきた事に他ならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こちらはルパート主義者艦隊。

 

「カンパニーの奴ら、どうにも好かんな」

 

 ルパート級戦艦を旗艦ブリッジには、同じような図が展開されていた。周辺の機械達はコフィンに詰め込まれて接続、パーソナルコンピューターそのもののパーツになることで処理速度の向上を上げていた。

 

 正面にはアルテナ率いる第四艦隊20000隻、右にはトパーズ率いる特別艦隊が15000隻。旗艦で率いる司令官グリース・コースの艦隊は32000隻の密集隊形。

 

「司令官」

「なんだ」

 

 副官のカイコ・インクランドというオムニック人は、司令官に近寄る。オムニックは基本的に機械であり、人間の形と顔をしていても筋肉はないので表情が一切変わらない。故に、声色と内容で相手の状態を理解するしかないのだ。

 

「こちらは数で多少の不利を負っています。ですが何より軍の内情が相手型に割れていると見ていいでしょう、この星系はピアポイント……カンパニーの本拠地に近い位置にあります。駐留艦隊を撃滅せし今、艦隊を引き摺り込むところまでは達成したのです。無事であった第四艦隊のアルテナ・ジャズパライズは必ずいますが、ピアポイントコロニーの方への兵士は送り込みました。今、ここで引くべきかと」

「何を申す、ワープして出てきたのは1万km!ほぼ交戦距離だ、逃げれもせぬ!」

 

 故に善く将たる者は、人を形せしめて我れに形無ければ、則ち我れは専まりて敵は分かる。

 

 優れた将というのは、敵には自軍の態勢を見せびらかすようにして、自分はそれを隠す。するとこちらは戦力を集中させれるが、敵は予測可能な範囲での対処をしようとして軍を分ける。孫氏の兵法の一つにも、こう書かれている。

 

 ルパート主義者側の副司令官カイコは、先に駐留部隊を奇襲して撃破したと言えども己らの手の内を晒した上で追加艦隊が来たことをほぼ嘆く形で上申。数にして35000は、出せる数を出したと考えてもいいのだが、その余力の無さを確信が無いままに攻めることは愚の骨頂とも言えた。

 

「ここで交戦すれば35000を時間稼ぎに他の星系からカンパニーの奴らがくるかもしれません。こちらも下手に死なせないため、下がるべきかと。一万kmの距離は射程を考えれば交戦距離ですが、それも相手の主砲クラスが精密射撃をして当たるかどうかの距離でしょう?例の提督の艦隊ならそういった戦艦も持ち得るでしょうが、隊列を組み直しそれをするための計算や攻撃のチャージにどれだけの時間が必要とお思いか」

 

 ブリッジのモニターは、正面艦隊の静止を映している。この艦隊から見れば不気味に見えているが、それに恐れ慄くのは下士官の仕事であり、もっと言うなら有機生命体のすることだ。オムニックは、ただ歯車を回して脳に情報という信号を送って思考するべし、というのだから。

 

「今よりワープ航行による演算とエネルギーチャージによって、この宙域を離脱することを提案します」

「腰抜けめ_____と、言いたいが。ならばこちらからも言わせてもらう、正面艦隊の突破を以てこの宙域を離脱は?正面は20000隻。後追いする形で15000隻が来たとて遅いだろう、まさか艦を衝突させてでも止めろとは言うまい。ワープ航行は速度も必要だ、紡錘陣形で突破してそのまま離脱を図る。交戦せずに逃げることはどの道出来まい、無防備にワープ準備に入って壊滅を卿は味わいたくあるまい。我らはアキヴィリと同じ轍を踏みはせぬ」

「ええ、ではそのように」

 

 副官も下がり、結論は出た。

 

 紡錘陣形を取って正面敵艦隊20000隻という激流に抗い、鯉のように上り詰めた後でワープにより一斉離脱。右にある15000隻に挟まれるよりも前に敵陣を中央突破することで同士討ちの危険性を見せつけて牽制する。後ろから追従するにしても、戦闘後の宙域を高速で無傷に突破することはデブリによる爆発事故の懸念もあるだろう。救助を無視して追うことを徹底させれるほど人間という頭のある有機物は非情にはなれないとグリースは判断したのである。

 

「では、第二艦隊紡錘陣形!これから正面の艦隊を突破し、全速力でこの宙域を離脱する!」

「待ってください!」

 

 オペレーターの声が響く。と、言っても声を張り上げる人間はおらず、コンピューターの一部になっているスピーカーからの声だが。

 

「なんだ!」

「艦隊中央部との連絡が取れません!」

「なんだと!?後方は!」

「連絡が取れてますが大慌てをしている様子!」

《こちら艦隊後方!前方の艦が一斉に停止して》

 

《うわあああああああああーッ!》

 

 オムニックは冷たい場所に生息するのが、生体ゆえの常だ。それでも尚、絶対零度に届きそうなほどの緊張感と恐怖、悪寒が環境を這い回る。

 

「報告はどうした!報告は!」

《こちら後方第二分隊!第一分隊が停泊した艦隊中央と接触して爆発を起こしている模様!このままでは艦隊前方と合流できません!》

《こちら先鋒!正面角度から大型戦闘機の急襲を______》

「んえぇい!どうなっておる!」

 

 モニターには、まるで見た者を神にと信仰を壊されたヨブのような、二度と味わえぬ最高の煌めきに変えてしまう最悪な光景が映っていた。

 

 ルパート主義派第二艦隊は紡錘陣形への組み直し途中て中央に大きな消しゴムで消されかのようにあったはずの戦艦たちが姿を消しており、それが防壁になるかのように衝突しては隊列ではなく小惑星の群れのような形をとっている。

 

「なんたること!15000の分艦隊から、何を!?」

「分かりませぬ。何しろ、急に分断をされた挙句に後方が無様極まる消え方をするなど前例のなきこと。遅すぎた……!」

「ええいなんとかなら、な______」

 

 もっと、彼らを絶望する変化の訪れを、モニターは映し出す。

 

 前方艦隊が自分達を包囲せんと弓系陣を強いて襲いかかってくるのだ。上下で40、横には左右百列を優に超える。まるで上から見れば、角度をつけた鰐が口を開こうとし、その後ろから尾が包み込まんとするように見える。

 

 ルパートではなく、ルパートの排熱に当てられたオムニックの艦隊は記憶(浮黎)にこう刻まれるだろう。

 

『機械の記憶とは刻まれるものではなく、万事熱量そのままに保存される』

 

 

 

 

 

『故に抽象化も思い出もなされず、有機生命体よりも妄想という憶質に溺れるのだ』

 

 

 

 

 

 と。




補足:陣形について
トパーズ、アルテナの陣形指示には○列○層と表記されてますね。
これは、360度自由に移動して艦を配置できる宇宙だからこその専用陣形の用語です。
列→横に展開する艦船の数 層→縦に展開する艦船の数
となっております。
そこに加えて現実の艦隊の陣形が入るので______
『十列五層並列単横陣』
の場合は、
『単横陣を横に十列並べて、縦に五層重ねてください』
です。

他にわかんないこととかあれば、感想ください。
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