スターピースカンパニー市場開拓部第十三艦隊~地球を渇望する者達の狂騒譚~   作:らんかん

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⬛︎スターピースカンパニー
アルテナ・ジャズパライズ……市場開拓部第四艦隊司令官
イ・リュエ……市場開拓部第四艦隊副司令官
トパーズ……戦略投資部臨時編成艦隊司令官、十の石心『トパーズ』

⬛︎オムニックルパート主義派
グリース・コール……ルパート主義派第二艦隊司令官
カイコ・インクランド……ルパート主義派第二艦隊副司令官

《戦況》
⬛︎スターピースカンパニー
市場開拓部第四艦隊……艦数20000隻、欠損なし、弓系陣を展開し正面角度から突入する敵の迎撃
戦略投資部特別艦隊……艦数15000隻、欠損なし、サンライトスローンにおけるエネルギーの急速変換による敵艦隊中央の艦を完全停止、現在ミサイル・宇宙用魚雷における雷撃戦中

⬛︎オムニックルパート主義派
ルパート主義派第二艦隊……艦数22000隻、およそ1/3の艦を消失、前方は戦闘機による奇襲、後方は突如停止した中央の艦船と後方が衝突しており陣形の崩壊と指揮系統の混乱が見られる


ウォーロック会戦・後

「これがサンライトスローンの威力か_____!」

「ほう、我々の手に余る力だな。どうする、提督?」

「この気を逃すな!戦闘機は一度敵艦隊を通過しそのまま後方から機関部に集中砲火!第四艦隊も集中攻撃、相手の退路を断つ!」

「ムーンライトスローンより入電!」

「メモをよこしな」

「はい!」

 

 勇むブリッジの熱気は、最高潮に達していた。

 

 ムーンライトスローンの機能に、その名とは反対の光の名を宇宙(そら)より下賜されたのだろうサンライトスローン。その効果は相手の持っている熱エネルギーを別の不活性エネルギーに変換してしまうことで相手を機能不全に陥れる兵器だ。変換できないエネルギーにされてしまうと、艦全体のコントロールが破壊されて後続に多大なる悪影響を及ぼすのも無理ない話だ。

 

「なるほど、つまりサンライトスローンは相手の熱エネルギーを奪うことで急速かつ擬似的なエントロピーの任意停止みたいなことが出来るということか」

「どうやらそのようです。注釈の通りであれば、また補給しないと使えないようですが」

「あんなもんぽんぽんと撃たれるより回数制限を敢えて設けて運用に厳格な基準を設けていた方がいいだろう。賢い設計思想だよ」

 

 不敵に笑ってはモニターを見、相手の出方を伺うアルテナ。

 

 ちなみにこの不活性エネルギーというのは、彼らからはそう見えているだけのこと。本来は『崩壊エネルギー』というものだが、それの仔細を今知っている者はこの戦場にはいない。知っている人間は、ヴェルト・ヨウにかつて同じ列車に乗っていた______いや、そこまで言及するのはやめるべきか。浮黎の(ガーデン)に、添えるべきではない種子だ。この話の主軸にいる人間も、ましてや語り手も、今その資格はない。

 

 

 

 さて戦況はどうか。

 

 現在第四艦隊は厚みのある弓系陣で分断された敵の前方艦隊を半包囲状態にある。射撃は包み込むように、撃っているために敵の前はひっきりなしに爆発が続いているようだ。また艦隊の最後尾からは機関部を執拗に狙う戦闘機の攻撃の雨がオムニックの攻撃できる巣を破壊に追いやって止まらない。

 

「ええい!何をしている!艦隊は反撃に出ておらんのか!」

「ここまで来れば無理でしょう。大人しく投降するべきでは?」

「貴様!」

 

 オムニックらしくない仕草のまま、副官カイコに掴み掛かるグリース。顔も場面もあんまり変わりなく見えるものの、行動には金属音が鳴り響き、それが感情が如何に激しさを持つかの証拠にもなった。

 

「やはりあの言い合いの時間は無駄であった!私が貴様の上申なぞ聞き入れず、さっさと直進していれば____!」

「あの時にはまだ、貴方に理性と尊敬できる部分があった。しかし自ら捨てた今、もはや我らに勝ち目はありません。しかも言い合いの時間は無駄であったことは同意しますが、貴方が正しいかどうかは分かりかねます。寧ろすぐに離脱していた方が艦隊中央に線引きもされる事はなかったでしょう」

「貴様!」

 

 もう我慢ならぬ、となったグリースはカイコとの殴り合いに発展した。殴られた方も殴り返した以上、決着が付くまではそれが止まることもないだろう。

 

 だが、止まらないのは指示を仰ぐ奴らも同じこと。

 

《第二艦隊左翼!敵正面艦隊から包囲されています!突破はできそうにありません、どうしますか!?ご指示を!》

《第二艦隊右翼より、現在魚雷やミサイルによる砲撃の嵐に遭っています。このままでは全滅も時間の問題ですがご指示を下さい!》

《こちら第二艦隊後方!足止めを喰らっている上に戦闘機による攻撃が止みません!》

 

 他にも色々、泣き叫ぶ悲鳴があるが己の名誉に比べれば砂塵ほどの価値もないのだろう。2人の男は己の役目すら放棄して、ただ目の前の奴の否定に終始した。

 

 それが、ルパート主義派第二艦隊の最期を告げ、彼らがナヌークの視線に溺れる決定的な瞬間となる。

 

 

 

「リュエ、指示を出す」

「なにか?」

 

 状況を見ては引き方を考えていたアルテナは、副官リュエに指示を出した。

 

「戦闘機による攻撃を敵左翼に集中させ、トパーズの艦隊が雷撃戦での被害が出ないようにしろ」

「今更お気になされるのですか、カンパニーの人的損失は日常茶飯事ではありますが」

「引っ張り出しておいて沢山死なせるわけにもいくまい。それに被害は最小限に抑えたい、頼めるか」

「すでに音声ではなくアウトプット・プロトコルで編成と作戦は伝えてあります。トパーズ提督と連絡を取りますか?」

《こっちからかけるからその必要はないよ》

 

 メインモニターに、トパーズの顔が大きく映る。目が悪くてもそのご尊顔は曇る事が無さそうだ。

 

「トパーズ提督」

《どう?私の艦隊運動……と言っても、初撃を入れたら艦隊組んでビーム系列を無効化するバリア貼りつつ雷撃戦しながら下がってるだけなんだけどね》

「初めてにしては上出来だ、こちらからビームでは干渉できないようレールガンに撹乱煙弾をリュエがセットして待機してくれていたんだが、その必要は無かったようだ」

《いや、艦隊運動のミスやバリアを展開し続けながらの攻撃はエネルギーの消耗が激しい。だから君たちが援護を用意して待機してくれたのはとてもありがたいんだ》

「そう思ってもらえて何よりです、トパーズさん」

《ああ、あと一つわかった事があってね》

 

 なんだなんだ、と男2人はモニターを見ながらトパーズの報告を受け止める準備。2人が真っ直ぐ見るようになってから、彼女は話し始めた。

 

《ピアポイントのコロニーの方に、オムニックのテロリスト達がやってきてたんだ。ジェイドさんはピアポイント本星に居たから無事だしあそこは基本役員でも厳格なチェックがあるから入れないけど、コロニーは違うから》

「今戦ってる奴らとはグルってところか。因みに聞くが、何が目的なんだ?」

《捕まえた奴が話している限りだと『第十三艦隊のビッグプロジェクトでカンパニーが大きく動くためこの騒動にかこつけて戦略投資部を初めとしたスクリューガムの仲間を殺す』目的があったんだって。尤も、他のメンバーは遠くにいるし、基本的にコロニーは特別な用事でもないと寄らないから》

「……じゃああそこに居たら危なかったか」

《大正解》

 

 トパーズのウィンクが、ブリッジに降り注ぐ。しかしその興奮は全員内面にしまって、仕事に専念した。

 

《君は私とカブを一切危険なことに晒さないまま、事を運んだ。流石にこれは鉄墓を知恵で上回るだけはあるね。ここまで考えてたの?》

「考えてなかったと言えば嘘になるな。だが、ムーンライトスローンの実戦はノリだ」

「小官らは最初警備兵と共に本星まで送り込むか考えたが、どうにもどさくさに紛れて殺される可能性も捨てきれなかったからな。いっそ戦場の指揮官として連れた方が良いと判断した」

 

 結果的に今、最早描写する価値もなく、ひいては浮黎に対して不敬に値する俗物の死の記録が生み出されてる最中となった。

 

 味方艦隊の心配が無駄になる程、運用を極力シンプルにしながら生存と火力を両立させて混乱を生み出さないように努め、その軸を一切ブレたりしないよう固定したトパーズの力量が何よりも有り難いものであるとアルテナは痛感している。

 

「よし、じゃあトパーズ!先にピアポイントに戻って哨戒しながら待機しててくれ!こいつらを片付けたら直ぐに行く!」

《え、敵を殲滅してから戻らなくてもいいの?》

 

 トパーズは、相手を出来る限り倒してから戻るものだと思っていたのか若干素っ頓狂な声で聞き返した。

 

「理由を話そう」

 

 それに答えるアルテナ。

 

 ピアポイント周辺で伏せている艦隊がいる場合、余力のある特別艦隊が先んじてワープして哨戒した方がいいと考えていた。不意打ち奇襲があり得るが、ムーンライトスローンを囲むのは大小硬い艦船が大多数を占めており、波状攻撃のようにワープすれば戦える護送船団のような形で敵艦隊を荒らせると判断した。

 

 何よりも、ピアポイントに合流すればジェイド含めて十の石心を集めて強固なところに彼女を送り届けれるのだ。当初の目的はそれで、謀殺の可能性をリュエと一緒に踏んだからこそムーンライトスローンの艦長兼特別艦隊長をやってもらっていたのである。

 

 今敵はほぼ壊滅状態で、自分達で解決できる範囲になった以上は危険だと思われる宙域に滞在させるわけではなく一度帰投してもらうことが一番だと彼は説明する。

 

《わかった!コロニー軍含めて敵が来てないか警戒するわ》

「気をつけてくれ」

《そっちもね!》

 

 それで、通信は切れた。あとは彼らの仕事である。

 

 元に戻ったモニターの戦況では、敵艦隊の後ろ部分は壊滅。前方はまだ残ってはいるが、最早抵抗能力はない。それでも反撃をしてくるということは、一切投降はしないようだ。

 

「投降勧告は出しますか?」

「もう遅いだろう」

 

 リュエは、彼の答えに何を反論するわけでもなく頷いて返す。その顔には『呆れたものだ』と声が聞こえてきそうなくらい呆れ返った目線を、敵陣の方へと向けていた。

 

 アルテナは、最後の指示を出すべく右手を挙げて構える。

 

 _____宇宙どこでも変わらず、戦闘戦争というものは指揮官を潰して初めて終えられるものだ。頭を取れば連携が崩れて戦況を変える穴となり、もしくはそのまま降伏の材料にも使える。

 

 最後の指示というのであれば、最早あれしかあるまい。砲火はこの声と共に、琥珀と名の付く前の世紀から決まっている。

 

「第四艦隊、敵残影部隊に集中砲火!レールガンは水爆に回せ、戦闘機は離脱しろ!」

 

 敵に慈悲なし、いや、慈悲が無ければこそ無常あり。

 

 既に最初から駐留艦隊を皆殺しにしておいて、自分らが命乞いをして助かるかどうかなど考えてみたら分かることはしないが、内面はそれ以上に崩壊している。アルテナ達は知る由もないだろう。

 

 そして、彼は右手を振り下ろして叫んだ。

 

 

 

 

 

「ファイア!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 _____この日、オムニックのある主義を盛んに語る者達がこの宇宙から消え、IXはその熱さえも甘美に感じながら飲み込んだ。彼らは自分達の主張を曲げることなく、そして死への道から逸れることもなく我が道を生き、歴史の句読点にその身を捧げたのである。

 

 嵐はこの戦に応えるような祝福代わりに残ったルパート主義派の艦隊を、チープ極まりない恒星の終わりへと変えてしまう。第四艦隊の砲火に己の意志と熱意を乗せるかのように、戦いの決着に対して狩の悦びを想起させるような景色を醸し出した。

 

 これが戦争というものであり、カンパニー市場開拓部がどこでも常としてきて、そして一切変えることのできないルールだ。どちらかが滅びるまでは行かずとも、必ず数十数百万の命は失われる。オスワルド・シュナイダーにとっては取るにたらぬことだ。

 

 今回の戦いでは、ルパート主義派の艦隊の消滅により12,789,000人の命がこの宇宙から消えた。市場開拓部第四艦隊は、大きく下回ったものの72名の戦闘機パイロットを失う事となった。それでも経験してきた戦いよりかは圧倒的に少ない数なのだが。幸いにも、戦略投資部は早期の後退と戦線離脱、そしてピアポイントのある星域での戦闘がなかったことで人的被害はゼロ。

 

 ルパート主義という過激派集団とはいえ、オムニックと人間が再び争う事になった。その結末は人間の勝利であり、策略さえ虚の突き方が痛烈だった為に完勝と言っても差し支えなかった。ただし、その勝ちはこの会戦のニュースが広まり過ぎればオムニックの名誉を深く傷つけてしまうはずだ。

 

 悲しみや混乱、怒りなどを人間はそのままではなく出来事を忘れない程度に、脳を刻みすぎないように抽象化して脳の細胞にそっと刷り込む。このような出来事も宇宙の歴史とし、かの浮黎の氷にはこう焼き付けられたのだろう。

 

『クリフォトは己の利益ではなく、宇宙のある歴史を守る為に愉悦と知恵の行人に勝利という存護を加えた』

 

 宇宙が終わりを告げ、一つの物語となった時にその過去から誕生する記憶の星神。この中のバクテリアサイズの記憶にアルテナ・ジャズパライズの名が刻まれる。

 

 其は、どのような感情を持つのか分からない。居るのは分かっているのに、その誕生はこの宇宙が終えた時、時空の揺らぎへと還った後のこと。彼と言えばいいかそれとも彼女か、ともかく記憶はそうやってアルテナの名を氷のディスクに焼き付ける。

 

 その記憶には、もう一つ。愉悦のアッハが、彼に運命を感じさせた締めくくりを加えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『宇宙の歴史が、また1ページ』

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