スターピースカンパニー市場開拓部第十三艦隊~地球を渇望する者達の狂騒譚~   作:らんかん

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⬛︎スターピースカンパニー
アルテナ・ジャズパライズ……市場開拓部第四艦隊司令官
イ・リュエ……市場開拓部第四艦隊副司令官
トパーズ……戦略投資部直属チーム《十の石心》『トパーズ』
ジェイド…戦略投資部直属チーム《十の石心》『ヒスイ』


第四艦隊の帰港

 ピアポイントへの着陸許可を取り、ユリシーズ麾下第四艦隊は着陸。

 

「今回は案外手早く終わりましたな」

「ムール提督のことを考えれば時間も手間も掛かったものだ。駐留艦隊は十万隻あると言っていてが、どうもそれらが奇襲で壊滅するとはな。笑えん話だ」

「ただオムニックの艦隊が本来どれだけ居たのかも分かりません、ムール提督は無事である以上市場開拓部の上には報告がなされるでしょう。それを聞くのも、貴方には権利があります」

「さあ、どうだか。案外巨額の金をつかまされて終わりになりそうなものだがな」

 

 ユリシーズから連絡橋が伸び、二人はブリッジから離れて橋を闊歩。軍港に足を踏み入れる。お互いに大した話でもないように感じているのか、勝利に喜びも、亡くなったものに悲しみも抱いていない。

 

 彼らはそもそもが思想を持った政治機構の軍隊ではないのだ。民主主義国家でも専制主義国家でもない。カンパニーという企業、もっと言えば自由な資本主義の軍隊である。利益こそが存在価値でもあるならば、そもそもがナショナリズムではなく()()()が武力を持ったもの。

 

 そんな場所で提督をやっているからこそ、絶対人間とは100%ナショナリズムに迎合できぬ故に逃れられぬ苦悩に、左右されることはない。立場こそあれど、人々は自分の欲望のためにただひたすら仕事に専念できるのだ。ある小説家に会いにいくために地球を目指すアルテナ・ジャズパライズは、その熱中した小説の名将達と同じ苦しみを味わうこともない。

 

「お疲れ様」

「おつかれー!」

 

 二人の足を止めざるを得ない声が、港に響く。

 

「ジェイドさん!トパーズ!」

「お二人方、ご無事だったのですね」

 

 笑顔になるアルテナと、せめてと微笑むリュエは目の前の二人に急いで駆け寄った。

 

 十の石心、そのうちヒスイと黄玉が先に帰って待機していたようだ。相手の方も、どうやら笑顔で出迎えてくれている。

 

「二人とも無事で良かったわ。トパーズが珍しく気を揉んでいたのよ」

「小官らはあの手の戦いには一日の長があります。心配無用、とお伝えした方が良かったでしょうか。あまり我々に気を取られて、取り返しのつかないことになってしまうとそれこそこちらは心を痛める以外に出来ることがないので」

「大丈夫だよ!石心が二人もいて、警備員だっている。オムニックは近づけなかったし、私達も最大の警戒心を払っていたわ。それにあなた達が大丈夫でも、ちゃんと顔見ないと。ビジネスパートナーの心配くらいするでしょ?債務者じゃないんだから」

「良かったなリュエ、俺らビジネスパートナーらしいぞ」

「内通者を入れておいて冷たくする方がおかしいと小官は思うが」

「そゆこと言わないの!」

 

 提督二人は、頬を膨らませて互いを突くような言い草を少し交わす。

 

 市場開拓部をあまりよく思っていないのは当たり前、なんなら偏見で貴族じみた嫌味の言い合いさえ念頭に入れていたトパーズとジェイドも、少しばかり緊張感が解けてしまったのか片方は肩をすくめてため息をつき、もう片方は苦笑してはいるものの困り顔はどうしてもしてしまう。

 

「あ、あの」

「言わなくてもいいわ。彼らの最大の長所だもの、あまり言い詰めるのはやめましょう」

 

 フランクすぎる言い合いだが、そこに本気の敵意はなし。そしてこの態度を人を過剰に区別してやらないアルテナだからこそ部下を送り込む、ではなく送り出せると判断したのだから。しかし若いものである、若い上で同じようにやりあえるやつがいる。品位ではなく本心では、さすがにトパーズでも開拓者がいないと難しい相談だった。

 

「そろそろいいかしら。ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

「ん、ああ。あれでしょう?『なんでトパーズを中心に急な艦隊編成を強いて出撃をしたか』でしょう?」

 

 リュエとの会話を互いに合図して打ち切ってから、アルテナは疑問に思っているジェイドの方へと向く。姿勢そのものはピシッとはしていないものの、誠意は感じるようだ。若さゆえに滲みやすい感情、それを表す眼光は敬意と若干の申し訳なさを覗かせる。

 

「そうよ。エレーナを連れて行くなら、あなたの艦に同乗させて発進するでも良かったはず、35000隻の総司令官なんて貴方には訳ない話だと思ったのだけど」

 

 彼女の言うことは、この場の誰もが正しいと認めるだろう。

 

 トパーズ暗殺の危機を察知し、その場から離すのは正しい判断。急いで出発させてピアポイントに隠すとしても、連絡艇を安易に出す前に可能性を考慮して回避するのは英断。では、彼女に提督業を押し付けて勝ったのは意味があったのか。

 

 その意味を問うジェイドに、第四艦隊の提督は帽子を深く被り直して答えた。

 

「相手の自滅が今回の勝因ではありますが、自滅しないような賢い奴らだった場合少しばかり工夫をする必要がありました。前提、と申しましょうか」

「前提?」

「投資の前提は理解と存じます、ならば戦争の前提も同じだとは思いませんか?」

 

 アルテナの言葉は、強くはないが響きは良かったようだ。戦略投資部の理解がある一言は、どうやら彼の言葉に深い興味を抱かせるものだったらしい。

 

「戦争も同じで、基本は五事七計*1を以て戦前に勝算を立てます。常に全部測ることは、今回のような低級の会戦だと特にしませんが、少なくとも相手はピアポイントの近くの星系を攻撃したと言うことは第四艦隊の内情を把握されてるに等しいと考えました」

 

 己にその実感はなかったが、第四艦隊はどうやら提督業を生業としている奴らにとっては知れ渡っているとも言われた。ふざけ極まったものであれば『トイレの星神』『生体ピラミッドを絶対に崩させない豊穣の意志』とも呼ばれたが、真面目なものにすれば即座に迷わず陣形を組みながら過去と同じ対処をこなしたり同じような方法に結局状況がたどり着いて敵を殲滅する『浮黎の液体金属』や仮に初めてのケースに当たったとしても悲鳴や報告をしっかり聞いて指示を出し大体なんとかしてる為『ヌース楽団のコンダクター』とも呼ばれてたりする。

 

 無論それらは宇宙には無数いる英雄の一つであり、十の石心と比べればもはや石ころの価値すらないものだ。しかし同業者にはそうやって知られている以上、情報というのは基本的に漏れている、特に機密情報に指定してないものに関しては相手に知れ渡っていると考えていた。

 

「その場合、30000隻でも厳しい戦いを強いられたでしょう。何せちゃんと動かせるのが20000隻、他は大して間に合わない距離にいますからね。故に戦略投資部の戦力も欲しかったのです。ジェイドさんの言う通り指示に困る数ではないですが、何せ所属も違うし指示を聞くかどうかは別」

 

『トパーズ率いる戦略投資部特別艦隊が無事であるかどうかと、こちらの指示に従ってくれるかどうかでしょう』

 

 リュエの懸念は、正しかったと言えるだろう。彼は自分たちがメインの指示を担っていることが前提であり、反故にされては戦線崩壊の危機になると踏んでいた。そうはならなかったので、杞憂に終わったが。

 

 ジェイドは、その話を聞いてある程度納得が行ったようだ。少しばかり笑みをこぼし、手に口を当てて淑女の微笑をしながら話をした。

 

「つまり、戦略投資部の追加戦力をちゃんと動かすために、分隊長としてトパーズに頼み込んだ訳ね。確かに十の石心であれば言うことも聞くでしょうし、もっと言うのであれば第十三艦隊設立にあたって成立した商談と私事をスムーズに進めるためにオスワルドへの牽制材料も揃える必要があったのね。戦略投資部の活躍があれば、他の部署の対抗心を燃やして活発な行動を誘発させて牽制材料を増やせる」

「それもないと言えば嘘になりますがね。まいった、見抜かれていたか」

「投資の理解には『相手がどのように稼ぐか』を見極める必要があるの、それもまた債権の種類を見分けるヒントになるわ。貴方は『地球に行きたい』のが最終目的で、そのためには統一化されない旅団の政治体系の確立を必要としてる。だから、ある一定派閥が強さを持ち続けて反乱による内部崩壊を起こせば自分の目的が達成できないと考えているわ……正直、舌を巻くほどの慧眼ね」

「見抜かれては意味ないですがね」

「部下に見透かされてなければいいわ、私やトパーズがそれを理解する分には寧ろ手助けになると思うけど」

 

 アルテナ提督は、頬をかいて照れ隠し。相手の方が長く生きていて、その時間に恥じないどころか誇れるような成果を上げているのだ。正真正銘の"プロ"には若人の生半可な知恵は通じないと実感するところではあるが、理解と協力を得られるほどは好意が見られたのは嬉しかったし、それに恥じないよう行動できた自分を内心で褒め称えていた。

 

 逆を言えば、彼女から見たアルテナは若さという時間の詰めない経験不足は目立つものの、それを受け入れた上で自分が出来ることを重ねていこうとする姿勢を非常に高く評価していた。権力を持てば、人はどこかで堕落する。持たざる者でも、諦観によって堕落する。その泥の河に棲む欲望で築き上げた翡翠の城の主からすれば、アルテナがトパーズに今は届かないにしろ十分磨く価値のある原石だとするのは無理からぬ話なのだろう。

 

「そうですね。

 話を戻しますけど、トパーズに提督業をやって貰ったのにはもう一つ理由があるんです」

「ほう、聞かせてもらおうかしら」

「敵の虚を突くに必要不可欠だったからです」

 

 え、と驚いているトパーズ。自分が作戦の要になっていたのかもしれないと思うと、それを説明しないまま据えたアルテナに若干の困惑や怒りが湧いてきそうになるが、気持ちを抑えて彼の話に耳を傾けた。

 

「ジェイドさん達が言った通り、敵は幹部の抹殺を図りました。ですが、それは失敗に終わった。そこまでなら貴女の言う通りユリシーズにトパーズを乗せて脱出でも無事だった……しかしその場合は前述の艦船不足と内情把握によって、不利な状態での戦闘を強いられたはずです。戦略投資部の追加で僅かながら艦隊の艦船数は上回り、その上で暗殺対象のうちの一人だったトパーズが指揮を取っている。これが何を意味するか、分からないはずはないと思うんですが」

「んーと、それはつまり『どう考えても同じ土俵に立つ訳がないだろう暗殺しようと思った人間が自分たちと同じ形で同じ場所に出てきて攻撃を仕掛けてるのはとても怖い』ってやつかしら」

「そうだな」

 

 その利用された本人の言に、仕掛けたやつは大きく頷いて返した。

 

「トパーズが脱出するまではまだギリ読めていたかもしれません。緊急事態で手を取り合うのを人間のバグだと思ってる相手にとっては、まだ分かること。しかし、戦略投資部が協力して艦隊による挟み撃ちを決行した場合、混乱は必然でしょうね」

 

 それに加えて、敵の内情を相手が完璧に知ってしまった場合。彼らは本来想定していた数を上回る予想外の事態の対処に加えて、自分たちの計画を完全に見透かされた上で反撃されたと言う恐怖を抱くことになる。何しろ殺そうとしてた幹部が、いつの間にか喉元にナイフを突き立ててる状態なのだ。

 

 彼らは知らないが、相手はそれを知る前よりも先に瓦解してしまった。しかし、これを知っていた場合は筆舌に尽くし難い恐怖と絶望に包まれていたことだろう。幸い、それを知らずにIXの下へと還った辺り、幸いなのかもしれない。

 

「結構抜け目がないのね、確かに名将の器になれるだけはあるわ」

「今回はそうだっただけですよ。生き物は生きてる以上、必ずどこかでミスをする。戦いにおけるターニングポイントとは、誰もが予想していなかった策で勝る()()()ではなく、予測しきれなかった可能性という()()()の発現です。戦局の変化は、そうして行われることが常なのですから」

 

 それを人為的に誘発させるのが、ウォーロック会戦で敵ルパート主義派の副官が守ろうとした『故に善く将たる者は、人を形せしめて我れに形無ければ、則ち我れは専まりて敵は分かる』である。良き将とは、敵の内情を曝け出させ、戦局における正解を敵に提示させる者のことだという法則の一種。

 

 今回は運用で虚を突き相手の上を行ったからこそ勝てたが、毎回それに縋ってはすぐに腕は鈍るだろう。故に、あまり今回の戦いの成果をアルテナは誇ろうとはしないのやも。鉄則を守り、その上でレアケースにも対応してこそ真の語られる戦であり、未来の誰かを守る知恵になると信じているのだから。

 

「なので、今回はご協力いただいた訳です。ありがとうトパーズ」

「いや、気にしないで。今回こっちに死者は出なかったし、提督業は少し楽しかったから。勉強になったし」

「なら良かった」

 

 さて、通路の時計を見ると話し込むのに一時間近くは経っているらしい。石心と呼ばれるエリートチームの時間をそれほど取った上で楽しくできたという事は、惑星ひとつ分の価値を第四艦隊の司令官は提供できたということになる。

 

「そろそろ私達は失礼するわね。何かあったら、言ってくれれば出来る限りで協力するわ」

「こちらこそ。何か荒事があれば言ってください、第十三艦隊の信用問題に関わるのでご協力致します」

「ありがとう。では」

「二人とも、またね!」

 

 ジェイドとトパーズは顔を見合わせ、戦略投資部の面白い奴らに手を振ってから軍港を去った。その背中を、アルテナとリュエはピアポイントの隆盛の光の中に、消えるまで見守った。

 

「それでは、我々も移動しましょうか。書類仕事もあるでしょう?」

「ああ。いい気分だから早めに終わらせよう、有り余ってる金で買ったヴィンテージワインを飲ませたい」

「では最高級の肉をお持ちしましょうか」

「星系規模の農園の大地主だったな、そういえば」

「ええ」

 

 男二人は、酒と肉といういつまでも心躍るような褒美を口にして、カジュアルに笑いながらそこらの学生と変わらない歩き方で軍港を去った。

 

 流石に浮黎も、氷に彼らのプライベートを刻もうとは今は思わないだろう。

 

 それが、物語の意味を持つまでは。

*1
孫子の兵法にある戦争前に両者の国と軍の質を測る五つの基準と、戦争になった時にどちらが優れているかを判断する七つの項目のこと。

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