Archive No.1! 〜透き通った青き世界で少女達は指輪を巡り争う〜 作:虎武士
青い海や空が見える見慣れない教室、そこで先生の意識は覚醒する。
机の上で一人の少女がうつ伏せで眠っており、良く聞くと吐息の様な声が聞こえてくる。
どうやら本当に眠っているらしく、内心思わず安堵する己がいる。
ユウカ達の奮闘によって
エレベーターを使って地下へと向かってみると今回の騒動の主犯格たる少女、ワカモが物色する姿があった。
先生は思わず驚き、身構えた。ワカモは先生を面越しに見た後、銃を向けようとせず脱兎の如く逃げ出していった。
何がなんだか分からず去っていった彼女に呆気に取られ、入れ替わる様に部室へと赴いたリンが合流してきた(ワカモの事を話そうと思ったが、危害を加える雰囲気ではなかった為、大した事ではないと片付けた)。
リンは特に気にせず先生に向けて連邦生徒会長が残したモノを受け渡す。シッテムの箱は外見こそ何の一変の変わりないタブレット端末であるが、製造元やOS、システム構造や仕組みは全て不明。
リン達も起動させようと試みたそうだが、敢えなく起動出来ず。連邦生徒会長はこれを先生が起動出来ると信じ、先生がこれでサンクトゥムタワーの制御権を回復させられると確信しているらしい。
まだ会った事もない人物にそれ程の期待を寄せられて少し困惑するが、それでも与えられた以上は役割を果たすしかないだろう。
リンは不安を抱きつつも人払いとしてその場を離れていき、先生は端末を起動させる。
《システム接続パスワードを入力下さい》
起動させるとその一文がメッセージとして流れ込み、先生は手を顎に触れる。
パスワードを入力しろと言われても見当がつかないだろう。
だが先生は脳裏にある言葉が過る。
意識が覚醒する前──夢を見ていた様な気がする、その夢の中で一人の少女が自分に何かを語っていた気がするのだが、所詮は夢──思い出す事が出来ない。
だから無意識に、この一文を入力する。
更に続けて。
《【シッテムの箱】へようこそ、先生。生体認証及び認証書生成の為、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します》
そしてそのまま意識が遠のき、気が付けばこの教室にいた。
此処に至るまでの経緯を思い出しつつ、寝息を立てる少女に見入ってしまう。
先程まで
先程の音声の事を考えると、もしやこの少女がシステム管理者?
そんな疑問が浮かび上がる中で少女は「むにゃ……カステラには……いちごミルクよりも、バナナミルクの方が……」と可愛らしい寝言を発している。
ユウカ達より年下に見える彼女の寝顔をもう少し見るのもやぶさかではないが、今は急ぎの用がある為に先生は少女の頬を指で軽く突っつく。
何回か頬を突き、その触感に少女は身体を起こす。
寝起きで何ともだらしない顔を浮かべていたが、先生の顔を見るとその顔は段々と眠気が冴えていき、やがて驚愕の表情へと変わる。
「せ、先生!? この空間に入ってきたって言う事は、ま、ま、まさか、先生…!?」
「嗚呼、そのまさかだよ」
「う、うわああ!?そ、そうですね!?もうこんな時間…!うわあああ、落ち着いて、落ち着いて…!」
「えっと…」
動転する少女は呼吸をしながら騒ぎ立て、そして平常心を取り戻す。ひとしきり落ち着いた所で、彼女は自己紹介を始める。
彼女の名はアロナ。このシッテムの箱のシステム管理者にしてメインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書的存在……そう断言している。
アロナはずっと先生の事を待っていた様であり、彼をこれから色々とサポートすると嬉々とした様子で語る。
早速形式的に生体認証を取り行う為、アロナから近付いてきて欲しいと有言され、言われるがままにアロナの方へと歩み寄る。
OSとはいえ、年端のいかない女の子に急接近すると言うのは気恥ずかしくあるが、生体認証を行うのに必要なので平常心を保つ。
「さあ、この私の指に先生の指を当てて下さい」
やはり気恥ずかしくあるが、恐る恐る先生は己の指をアロナの指と接触させる。
彼女曰く、指切りで約束するかの如くの様だが、先生からすれば宇宙人の映画のシーンを彷彿とさせる様だ。しかしこれで生体認証の指紋を確認しているのだとか。
画面に残った指紋を目視して確認するらしく、本人は一定時間、指を見つめる。
怪訝な様子でアロナは見つめてくる。彼女は目が良いと堂々と言うが、良く分からない様だ……先生は敢えて心の中で留める事にした。
※
「成程……事情は分かりました」
これまでの経緯をアロナに説明し、彼女は納得した様子で理解したようだ。
念の為、連邦生徒会長が何者なのかを質問してみたが、アロナでも連邦生徒会長については多くは知らない。
キヴォトスの多くは知ってはいても、連邦生徒会長に関するデータはあまり記録されておらず、故にアロナ自身も彼女が何故姿を消したのかも分からないそうだ。
しかしサンクトゥムタワーの問題については解決出来るようで、早速アクセス権の修復に取り掛かるアロナ。
ほんの1〜3分程間際があったが、アロナの口からサンクトゥムタワーの制御権が無事回収出来た事を告げられる。
此方の権限次第でサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管可能であり、先生は躊躇いなくそれを許可する。
アロナは渡していいのかと疑問に思うが、先生が決めた以上、やむなく制御権を連邦生徒会に譲渡する事となった。
「あ……そう言えば、先程先生が仰っていた話にあった……せんたいりんぐ?の事なんですけど」
「どうかしたのかい…?」
「はい。あれは先生と同じ様に外の世界からキヴォトスに現れ、キヴォトス各地に落ちていった事が判明しました。ばら撒かれた54個の指輪ですけど、残念ながら所在地は特定出来ませんでした」
「そうか……」
ユウカ、ハスミ、チナツ、スズミが持つ指輪はまだほんの一部に過ぎない。かと言って彼女達に聞いたとしても、全ての指輪の所在を知っているとは限らないだろう。それは勿論、今回の騒動を起こしたワカモも概ね同じ。
指輪を手にした学生達による指輪を巡る不毛な抗争、手にした者によっては力に溺れていく。出来れば周囲を問わず力で他人を屈服させる様な事態は、個人的には避けたい所だ。
まだ若い生徒が力に溺れて道を踏み外し、取り返しのつかない事態へと発展する前に。
あの後、先生の意識が現実にシフトされ、サンクトゥムタワーの制御権は無事確保された。
これで連邦生徒会は行政管理を進める事が出来、リンは先生に向けて感謝を述べた。
ワカモを筆頭とする不良生徒達は連邦生徒会で対処し、討伐される事だろう。
だがワカモは指輪の戦士の一人、そう簡単に捕まる事はないと先生は察する。
それは置いとくとして、リンはこれで自分の役割は終わりだと納得する。
「あ……もう一つありました。ついて来て下さい、連邦捜査部"
ハイヒールの音を鳴らしてリンは歩き出し、先生は彼女の後を追っていく。
エレベーターで地上へと迫り上がり、建物内のとある階層へと行き着く。
この階層が
扉を開けて此処が
空室の割には清潔感があって埃が溜まっておらず、リン達連邦生徒会が定期的に掃除してくれているんだなと察し、先生は部室内を見渡す。
キヴォトスの凡ゆる学園の自治区にも自由に出入りが可能で、所属に関係なく此方が希望する生徒を
つまり何でもやっていいと言う事である。
部員として加入させるとは言っても先生としては生徒達本人の意志を尊重し、生徒達の望むままにしたいと思う。
連邦生徒会は連邦生徒会長の捜索に全力で力を入れている為、キヴォトス各地で起きる問題に対応する程の余力など皆無。
今も様々な学園から連邦生徒会に苦情が寄せられていて、ユウカ達がわざわざ訪れたのもその一環である。
「……つまり私が、所謂
「はい……理解が早くて助かります。その辺りに関する情報は先生の机の上に
要するに面倒事を全て押し付けたと言う事だ、
文句を言っても仕方がない為、全力で取り組む事にしよう。
「そう言えばリン、机の上にある
「人形…?」
先生が自らの指をデスクに指し、リンはその方向に視線を向ける。
確かにその方向には──デスクの上には人形が置かれていた。全長1/50スケールはあるであろうその人形は赤い頭部に金色の装飾が施されており、何処か神々しい雰囲気がある。
「いえ……こんな人形を置いた記憶がありません。恐らく連邦生徒会の誰か、或いは外部から持ち込んだ物でしょう。業務には不用な物でしょうし、後で処分致します──」
「いや……それは部室に置いてくれないか」
「ですが先生」
「キヴォトスの凡ゆる問題、そしてキヴォトス各地にばら撒かれたと言う指輪を巡る指輪争奪戦。その人形もそれと無関係とは私には思えないし、暇になれば人形と戯れるのも悪くない」
リンがいい歳した大人が何言ってんだ、とばかりに冷めた眼差しを向ける。絵面的にかなりイタい想像をしたんだろうが、彼女は軽く息を吐く。
「分かりました……先生の決定に従いましょう、その玩具は御自分で管理して下さい」
「嗚呼、分かった」
「それではごゆっくり……必要な時にはまた御連絡致します」
それを最後にリンは退室、ハイヒールの音は段々と遠ざかっていく。
暫くして先生もまた、部室を離れていく。今回の件に協力してくれた彼女達に挨拶する為だ。
※
「あ、先生!」
ユウカは四人を代表して建物から出てきた先生に声を掛け、彼は彼女達に近寄る。
リンが連絡してくれたのか、既にサンクトゥムタワーの事は存じている様子。ワカモは自治区に逃げ込んでしまったが、捕まるのも時間の問題だとハスミは言葉を零す。
しかしユウカ達同様彼女も指輪の戦士である以上、そう簡単に捕まるとは考えにくい。
「あの……先生、その手に持っているのは」
「嗚呼、部室に置いてあってね。念の為に持ってきてしまったんだが」
「そ……それは…!?」
「テガソードじゃないですか!?」
「え…!?」
先生の手に持つ人形にユウカ達は驚き、先生は思わず呆けた声を上げる。
すると人形の両目が輝き、独りでに先生の手から離れて彼の肩に乗り移る。
《早瀬ユウカ、火宮チナツ、羽川ハスミ、守月スズミ。契約の時以来だな》
「あ、貴方がテガソード…?」
《そうだ……我が名はテガソード。全ての指輪を集めた者の願いを叶える者……人間は皆、私を神と崇めている》
人形から発せられる威厳ある声と神々しい雰囲気に先生は唾を飲み、唯それに先生は圧倒される。
《そして君は……周囲から"先生"と呼ばれている者だな》
「は、はい……あの、テガソードさん」
《君が言わんとしている事は分かる。何故神である私が、其方の四人を始めとするキヴォトスの生徒達に、指輪争奪戦を勧めるのかを疑問に思っているのだろう》
「………」
《私の本体は"ロボの墓場"と言う異次元空間にて眠りにつき、分身体であるこの人形をこのキヴォトスに送り込んだ。指輪争奪戦で行われているこの世界の情勢を理解する為にな》
「……神様なのにマメじゃない」
ユウカが皮肉めいた言葉を投げ掛けるも、テガソードは気にすることなく話を続ける。
《この世界の情勢を知り今すぐにでも争奪戦を止めようとも思ったのだが、この世界の中心的人物──連邦生徒会長と呼ばれる者が行方不明になり、下手に私が干渉しても根本的な解決にならないだろう》
顔は変わらないが、キヴォトスに余計な混乱を招いた事に罪悪感を感じているのだろう。ユウカ達四人を始めとする生徒を巻き込んだ事に、謝罪しきれない申し訳なさを感じている事だろう。
《だが……希望は潰えていなかった。先生……君と言う存在だ》
「私が…?」
《そうだ。此度の件で彼女達は上手く指揮し、
「……てっきり私は指輪の回収を依頼してくるのかと思っていたけど」
《それは無理に等しい。
「は、ははは……」
正論だが真正面ではっきりと言葉にされ、先生は乾いた笑みを浮かべるしかない。
だが先生と共に生徒達を教導と言っても先生に助言をしたり、生徒達の抱える悩みを聞いたりする
まあ人形が教師を務めるなんて事になれば、それこそカオス過ぎる光景になるだろうからテガソードは自ずと拒否を示した。
「……兎に角先生、お疲れ様でした。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう……直ぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」
「はははは……指輪の戦士としても戦う君達に比べたら、私の話題など些細な事さ。皆、お疲れ様」
「……これでお別れですが、近い内にぜひトリニティ総合学園に立ち寄って下さい。先生、テガソード」
そう告げて先生に背を向けて去っていくハスミ、スズミも一礼して彼女の後を追っていった。
「……私も風紀委員長に今日の事を報告に戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねて下さい」
「ミレニアムサイエンススクールに来て下されば、またお会い出来るかも? ──先生、あとついでにテガソード、ではまた!」
便乗してユウカ、チナツも彼に別れを告げてそれぞれの学園へと戻っていく。
《あははは……なんだか慌しい感じでしたが、ある程度落ち着いたみたいですね。お疲れ様でした》
連邦生徒会からサンクトゥムタワー及び
シッテムの箱の管理者たるアロナもテガソードの存在に最初は驚いていたが、彼から齎された情報を聞いて段々と受け入れていった。
《先生よ……これから君に降り掛かる困難は並大抵のものではないぞ》
《テガソードさんの言う通りです! これから私達は先生と一緒に、キヴォトスの生徒達が直面している問題を解決していくのです……! 単純に見えても決して簡単ではない……とっても重要な事です》
キヴォトス中の様々な学園が抱える問題、それを解決していく事が己の課せられた責任だ。
連邦生徒会長がどの様な意図を持ってこの様な重責を残したのか、そして何故リン達の前から姿を消したのか?
凡ゆる学園の問題に直面していけば、自ずと指輪の戦士に巡り合う事となる。戦士達が指輪を奪い合い、全ての指輪を揃えた者が願いを叶えると言うシステム、他の者達も願いを叶えようと躍起になっている事だろう。
《それではキヴォトスを、
「此方こそ……テガソードも宜しくお願いするよ」
《嗚呼。私も君の手腕と責務、これからこの目でしかと見届けさせてもらうとしよう》
こうして一人の大人が"先生"として、数多の生徒達と透き通る青き青春の日々の日々が幕を開ける。
その青春の中で行われる、スーパー戦隊の指輪を巡る戦い。
甘酸っぱい恋もあれば、互いがぶつかり合って起伏されるものがきっとある。
奇妙な秘書と別次元の神を伴い、先生は物語を刻み込んでいく。
続く