Archive No.1! 〜透き通った青き世界で少女達は指輪を巡り争う〜 作:虎武士
便利屋68との戦闘から一夜明け、アビドスへと通勤路を歩く先生。
住宅街を歩く中、彼の視界に見慣れた後姿を確認して声を掛ける。
「やあアヤネ、おはよう」
「あ、先生。おはよう御座います」
「こんな朝早く何処へ?」
他にはアル達に関する情報も発覚し、後に学校で詳細を確認するとの事。
先生も了承して揃って学校へ向かおうとした時、見慣れた顔が飛び出してきた。
「あっ、先生じゃん!おっはよー!」
「っ!?」
「な、ななななな!?」
音もなく現れた
やけに馴れ馴れしい彼女にアヤネは「な、何してるんですか!? 離れて下さい!」と憤慨して引き離す、対してムツキはアヤネに気付くと嬉々として挨拶。
アヤネは人懐っこく接してくるムツキを疑い、先日の報復ではないかと勘繰る。だがムツキはそんな邪な思いなど微塵もなく、アビドスとは仕事以外……プライベートでも仲良くしようと提案する。
「い、今更、公私を区別しようと言う事ですか!?」
「別にいいじゃん。それに"シャーレ"の先生は
贔屓しているつもりはないとばかりにアヤネは眉を顰めるが、ムツキの言葉も正論である故に言い返せない。
言わば先生の存在はこのキヴォトスに於いて唯一の大人の男性、人間の男性に長く触れる事のなかった少女達にとっても希少だ。
口論する彼女達を「まあまあ落ち着いて、喧嘩しないで仲良くしてくれると嬉しいな」と諭す先生だが、柔和な笑みでムツキは無理と断言。
此方も仕事である為に、手を抜けば怒られると笑顔で返すムツキ。そして去り際に先生が来てくれると他の面々も喜ぶと言い残し、彼女は嵐の様に去っていった。
その後姿をアヤネは何だったのかと愚痴り、先生と共にアビドスへ向かうのだった。
※
アビドスへ到着してから暫く、校門前に一台の大型車両が停車した。
キヴォトスが誇る大企業、カイザーコーポレーションのグループ企業の一つ、カイザーローンが所有する車両である。
アビドスが抱えている借金返済の為、今月分の借金の支払いが目的で此処を訪れた。
《お待たせしました。変動金利等を諸々と適用し、利息は788万3250円ですね》
聞くだけで気が遠くなる程の銀行員は淡々と述べ、仕事してから車両に乗って去っていく。
「……完済まであとどれくらい?」
「309年返済なので……今までの分を入れると──」
「言わなくていいわよ……正確な数字で言われると更にストレスが溜まりそう……」
相変わらず目が眩む程の大金に
到底自分達では完済出来るわけがないと一蹴、計算するだけでやり場のない怒りが募るだけ。
カイザーローンも何故現金でしか受け付けないのか、疑問に思うのはノノミだけではない筈。
「………」
「シロコ先輩、あの車は襲っちゃダメだよ」
良からぬ事を実行しようとする彼女をセリカが注意する。
「だったら……指輪はどうかな? これを売ったら多分、かなりの高価な──」
「ダメったらダメ! 争奪戦に必要でしょうが!!」
鞄の中のテガソードには既に筒抜けであり、悲しげな声音で《それは出来ない、願いが達成されるまでは手離す事は不可能だ》と呟く。
「冗談だよ」
「とても冗談には聞こえないんだが」
先生も冷汗を流し、こんな調子で大丈夫なのかと不安しか感じない。
※
教室に戻り、それぞれが席に付く。
全員の顔を見渡し、アヤネが二つの事案について情報を共有していく。
先ずは先日の襲撃者達──
彼女達はゲヘナ学園に在学する生徒達で、アヤネ曰くかなり危険で素行の悪いらしい。
先生はゲヘナ学園と聞いてシャーレ奪還の際共闘した
便利屋は頼まれた事を何でもこなすサービス業で、アルを社長に据えて下には三人の部下、ムツキ、
シロコはゲヘナでは起業が許可しているのかと疑問を浮かべるが、その線は薄く勝手に立ち上げた可能性が考えられる。
更に述べると彼女達は凡ゆる非行を繰り返していて、先方からは問題児として認知されているそうだ。
「兎に角!そんな危険な組織が私達の学園を狙っているのです!もっと気を引き締めないといけません!!」
いつになくやけに勇んだ様子のアヤネにセリカは若干引き気味だが、本人から強く何でもないと一蹴される。
次に会う際には確保して取調べを行う必要があるが、性格はアレだがアルは指輪の戦士、そう簡単に口を割って情報を引き出すのは難しいだろう。
もう一つの話題は、ヘルメット団が使っていた武器の数々。
先日の戦闘で壊れたが、戦略兵器の破片を分析した結果──現在では取引されていない型番だと判明。
もう生産されていない筈の兵器をどうやって手に入れたかだが、そんな方法があるとすればブラックマーケットしか考えられないだろう。
ブラックマーケット……所謂闇市場ならばあり得なくはない話である。彼処は退学や休学、様々な理由で学校を辞めた生徒達が集団で彷徨いている事が多く、連邦生徒会の許可を得ていない非認可の部活の幾つかが活動している。
便利屋68の面々もそれに含まれ、度々騒動を起こしている。内容を聞くだけで今更ながら殺伐としているな、と先生は乾いた笑みを浮かべる。
兎に角、そのブラックマーケットへ行けばその二つの出来事が別々の事件ではなく、一つに結びつく可能性がある。
その関連性の手掛かりを探るべく、アビドスはブラックマーケットへ赴く事を決行した。
放課後。
先生の引率の下、アヤネを除くアビドスの面々は件のブラックマーケットへと訪れた。
明らかに違法性のある銃や火器、精密な機器などが出品されている。
他にも荒んだ性格の女生徒達が木刀や竹刀、銃などを持ち込んで此方をチラッと見ては顔を逸らして様子を伺っている。
「此処がブラックマーケット……」
てっきりもっと荒んだ雰囲気のある市場を想像していた一同は、そのスケールの大きさに驚く。
一つの街とも言えるその光景に誰もが見惚れてしまい、幾ら連邦生徒会の手が及ばないとはいえ、これだけの規模ならば初見の人は誰でも驚きを禁じ得ない。
アビドスでは絶対に拝められない光景であるが為、学区外にはこの様な場所が点在するとホシノは締まりのない顔で語る。
シロコは彼女に来た事があるのかと問うが、ホシノはやんわりと否定。だが他の学区には特殊とも言える場所があり、中でもアクアリウムと呼ばれる水族館が有名。
嬉しさのあまりホシノは寿司屋と勘違いしてるが、セリカは冷めた顔で突っ込みを入れる。
完全に遊びに来ている風に見えるが、此処は違法品が流通している闇市場。
何が起きるのかが分からないと通信越しにアヤネが苦言していると、ダダダダダッ!!ッと銃撃音が響き渡る。
「今のは…!」
「銃声だ」
シロコを先頭に一同は銃撃音が聞こえた方向へと走り、銃撃音が大分聞こえてくる程に近くなってきた。
「待てぇ!!」
「う、うわああ!まずっ、まずいですー!つ、ついて来ないで下さいー!!」
「そうはいくか!!」
街の不良達が一人の女子生徒を追い回しており、彼女に向かって銃を乱射するも、女子生徒は慌てて避けながら逃げ切ろうと走り抜ける。
「!?わわわ、そこどいて下さいー!!」
しかし急には止まれず、丁度目の前にいるシロコと衝突してしまう。
ぶつかったシロコは気にしてない様子で「大丈夫……なわけないか、追われているみたいだし」と諭し、彼女の後方から追い掛けてくる不良達を見て察する。
状況を説明しようとする彼女だが、それよりも早く不良達が追い付く。その内の一人がシロコ達に気付くと怪訝な顔で「退け!アタシ達はそこのトリニティの生徒に用がある!」と言うが、彼女の方は冷汗を流しながら否定する。
そのやり取りに通信越しのアヤネと先生は思い出した。
トリニティ総合学園。キヴォトス一を誇るマンモス校の一つ、同時に良家のお嬢様方の通う学園でもある。
先生にとってはシャーレ奪還にて共闘してくれた、
あまりにも下衆な目的を企てる彼女達に呆れ、すぐさまシロコとノノミは容赦なく昏倒。
そして詳しい事を聞き出すべく、女子生徒を連れてその場から離れる。
※
女子生徒の名は
トリニティは所謂良い所のお嬢様方が通うエリート校、そんな優等生が何故優雅とは無縁の闇市場にいるのか、シロコ達はヒフミに問い詰める。
「あ、あはは……それはですね……実は、探し物がありまして」
ヒフミの言う探し物はもう販売されておらず、下手に買う事も出来ない物で、ブラックマーケットで密かに取引されているかも知れないと考えて訪れたらしい。
シロコ達は爆弾やら化学兵器などを想像したがヒフミは否定、彼女が欲しいのはペロロ様なるものの限定グッズ。
ヒフミが端末を取り出して見せるのは、ソフトクリームを顔にぶち込んでいるような嘴を持つ白い鳥のぬいぐるみの画像。
彼女曰く、アイスクリーム屋とコラボした限定ぬいぐるみらしく、限定生産で100体しか作られていない限定グッズとの事。
ヒフミからすれば可愛いそうだが、シロコ達は微妙な反応。
「わあ⭐︎ モモフレンズですね、私も大好きです! ペロロちゃん可愛いですよね、私はミスター・ニコライが好きなんです!」
「分かります! ニコライさんも哲学な所も格好良くて。最近出たニコライさんの本"善悪の彼方"も買いましたよ、それも初版で!」
ノノミとヒフミは和気藹々と共通の話題で盛り上がり、何方も天真爛漫の笑顔を見せている。
先生やシロコ達はついていけず微妙な表情を浮かべ、唯々その光景を見つめる(勝手に老け込んでいるホシノの反応にセリカが突っ込んでいるが)。
それでグッズを手に入れるべく此処を訪れたヒフミだが、アビドス生であるシロコ達がいる事に首を傾げる。
此方も似た様なものだと誤魔化すが、そこで丁度アヤネからの通信が入る。
四方八方に武装した不良達が迫っていると報告が入り、怒り心頭の彼女達が銃器を構えて前進してくる。
先程昏倒させた不良達の仲間らしく、完全に敵意を剥き出しに向かってきている。
正当防衛としてシロコとセリカは金と銀のテガソードを顕現させ、指に嵌めていた指輪を外す。
「え…? その指輪は…!?」
『エンゲージ!!』
《センタイリング!クラップ・ユア・ハンズ!》
シロコとセリカは指輪をテガソードに装填、駆け出しながら
《ゴジュウウルフ!ゲキレンジャー!》
ゴジュウウルフ(シロコ)は金のテガソードを振るい、ゲキレッド(セリカ)は体術で向かってくる不良達やロボット軍団を迎え撃つ。
単体の戦闘力はそうでもないが、数が多い為に梃子摺る。
「指輪の
ゲキレッド(セリカ)の身体の筋肉が盛り上がり、クラウチングスタートの構えで飛び出す。
「はあああああああ!!」
目に見えぬ程のスピードで殴打と足技を繰り出し、ロボットの胴体に叩き込んでいく。
胴体に拳を叩き込むと風穴が広がり、ロボットの一体はその場で崩れ落ちると爆散。
「セ、セリカちゃん……筋肉マッチョになりましたね〜」
「ある意味ドーピングっぽいね、あれって」
後方から援護射撃を行うホシノとノノミ、完全に蚊帳の外状態のヒフミはあんぐりと口を開けている。
ゲキレンジャーの指輪の能力は
ゲキレッド(セリカ)がロボット軍団を粉砕する一方、ゴジュウウルフ(シロコ)は不良達を金のテガソードで無力化させていく。
変身した彼女達を中心にアビドス(+ヒフミ)は次々に不良達を叩きのめし、その圧倒的な戦闘力を前に不良達は退却していった。
一先ず退却したが、また戦力を補充してまた攻めてくるに違いない。ゴジュウウルフ(シロコ)は意気揚々と戦意が高まっているが、ヒフミはこれ以上の武力行為は駄目だと非難。
これ以上騒ぎを起こせば、このブラックマーケットを管理する治安機関に見つかる恐れがある。
それを考慮してヒフミは戦闘行為は危険だと伝え、アビドスの面々もそれを聞いて武装解除して逃げ出し、変身解除したシロコ達もそれに続く。
※
一先ず一通りの少ない場所へと移動し、アビドスの面々に対してヒフミは忠告する。
連邦生徒会の手が及ばない場所もあってか、ブラックマーケットは学園数個分の規模に匹敵し、到底無視など出来ない。
様々な企業がこの場所で違法な事柄を巡って利権争いを行い、更には専用の金融機関や治安機関がある程であり、下手に騒動を起こせば捕縛も免れないだろう。
ホシノはやけに詳しいヒフミを怪しむが、彼女は事前に調査したお陰で知識が身に着けたからだろう。
「それに其方のお二人は、指輪の戦士だったんですね」
「へ…?」
「指輪の事…知ってるんだね」
「はい……トリニティに通う何人かがそうですから……特に
「ナギサ様…?」
「もしかして、
「は、はい、その通りです!」
ホシノの問いにヒフミは慌てて返答、その桐藤ナギサとやらがトリニティの指輪の戦士の最強格だと先生は密かに察した。
所有するどんな物かは知らないが、テガソードに聞いても彼ははぐらかすだろうし、直接対面してから判明するかと思われる。
考察する中、突然ホシノが「よし、決めたー」と思い付いた様に声を発する。
「…?」
「助けてあげたお礼に私達の探し物が手に入るまで、一緒に行動してもらうねー♪」
「……え? ええ!?」
突然の提案にヒフミは困惑、それに乗ってシロコとノノミも同意。
彼女達がヒフミに頼むのは道案内、ヒフミ自身助けてもらった恩を返す為、困惑しながらもその条件を飲んだ。
こうして他校生を交え、アビドスの面々はブラックマーケットでの探求へと乗り出す。
そして彼女達は知らない……このブラックマーケットに、とある指輪が紛れ込んでいる事を。
その所在を知るのは、
続く
どの指輪なのかはサブタイトルで答え合わせになっていますが、今はネタバレ防止しています。
指輪の戦士になるのは誰なのかは、次回で判明しますので、後編を御期待下さい。