「芦花、真実、これどこに向かってんの?」
『かぐや・いろP』のチャンネルが快進撃を続けている。そんなある土曜日のこと。
かぐやは彩葉の友人である芦花と真実に連れられて、最初に二人に会ったあのパンケーキ屋が入っているにモールに訪れていた。
「ス〇バだよ〜」
「そうそう〜、美味しいケーキとかフラペチーノが食べれるところ〜」
「ケーキ!! よーし、レッツラゴー!!!」
「おおー!」
「元気だね〜」
かぐやはさっきまで二人の横を歩いていたのにケーキと聞いた途端、今度は二人を引きずるようにして前進を始める。そんな欲望に忠実なところも天真爛漫に見えて可愛らしいのだと、彼女の爆発した人気に納得してしまう。
「それにしても彩葉、残念だったね」
「夏期講習ならしょうがないよね〜」
歌まで歌い出したかぐやを尻目に芦花と真実は予定があって一緒に来れなかった友人について話をする。
彩葉は今日、夏期講習があって来れなかったのだ。華の夏休みにも勉強漬けにっている友人に思うところはあるが、それもかぐやのお陰でマシになってきている。思い掛けない変化をもたらしてくれた彼女にはできるだけ良くしたいのだ。もちろん、かぐや本人と遊びたいというのが大半だが。
「芦花〜、スタ〇ってあそこ?」
「あってるよー」
そうして到着したスタバだが、やはり土曜日の昼頃ということも相まって混雑していた。
そんな長蛇の列と云うほどではないが、それでも入店までに15〜20分程度は掛かりそうだ。
「うわー、結構並んでるね」
「どうするー、他の店いく?」
「やだー! 今は〇タバの気分!!」
「よし、じゃあ並びますか」
列の最後尾に向かい歩き出す。
列に並んでいる人の顔が見えるようになったぐらいの距離になると、芦花と真実の顔が露骨に引き攣った。いや、正確には今並び始めた自分たちの一つ前に立っている人物を見て引き攣ったと言うべきか。
「あら? 綾紬さんに諫山さん?」
「「奈月先生!? 何その服?!」」
「お古を引っ張ってきちゃいました〜」
そこに自分たちの日本史の先生がいた。ディアンドル*1を着て。
もう一度言おう。ディアンドルを着た日本史の先生がいた。
「ん? ねえねえ、この人だれ〜?」
かぐやの疑問の声だけが青空の中に響いていた。
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「う〜〜〜ま〜〜〜♡」
「美味しいですよね〜、このケーキ」
かぐやちゃんの歓喜の声と奈月先生の穏やかな声が響く。
あの後、折角なら一緒に食べようということで私達と奈月先生は一緒にス〇バを満喫していた。先生の格好が目を引くのか、周りの客の視線が時々集まってくるのは気にしないことにした。
「先生ごち〜」
「いただきまーす」
「はーい、召し上がれ〜」
お金は先生が奢ってくれた。流石に私達も先生に集るのはどうかと思ったが、本人が完全にその気な上にかぐやちゃんが真っ先に先生の提案に乗ってしまったので折角ならと、押し切られてしまった。そうは言っても女子高生は常に金欠なのだ、正直に先生の申し出はありがたい。
「そうなんですね〜。かぐやちゃん、酒寄さんと暮らしてるんですか〜」
「そうそう! 彩葉ってばチョー最高でさ!」
どうやらかぐやちゃんと奈月先生の相性は抜群に良かったようで二人とも直ぐに仲良くなっている。友達というよりかは元気いっぱいな娘と優しく受け止める母か、それか兄弟姉妹かのような距離感だが、それはかぐやちゃんが人に好かれる人物だということの証明だ。
初対面でまだ一時間も経ってないのに、いつの間にか奈月先生の膝に乗ってケーキを食べさせてもらっているのは距離の詰め方がヤバいと思わなくはないが。
「ねえ、奈月は彩葉の先生なんでしょ! 彩葉って普段どうしてんの?」
「酒寄さんはですね〜、とっても頑張り屋さんですね〜。ちょっとだけ危なっかしい面もありますけど、良いお友達がいるみたいですから」
奈月先生はそう言って私と真実を横目に見た。私達のことを言っているのだとは分かったが、そんな印象を抱かれていたと改めて言われると得も言われぬ恥ずかしさがあった。
「そういえば、かぐやちゃんの配信見てましたよ〜、とっても可愛いかったです〜。綾紬さんと諫山さんとのKASSENコラボも面白かったです〜! 思わずスーパーキャット送っちゃいました〜」
「ほんと!? えっへへ〜、サインとかあげちゃおっか〜〜?」
────ん?
今なんだかとても聞き捨てならないことが聞こえた気がした。真実と目線で会話し、代表して真実が先生に聞く。
「あの、せんせ〜?」
「何ですか、諫山さん?」
「私と芦花がコラボって〜」
「ああ、そういう…………いつも見てますよ。まみまみさん、ROKAさん♪」
「ああぁぁあぁぁ!!!」
終わった。学校の先生に配信者活動知られてた。
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「ね〜んね〜んころ〜り〜よ、おこ〜ろ〜り〜よ〜。ぼ〜や〜はよい〜こ〜だ、ねん〜ね〜し〜な〜。ねん〜ね〜の──────」
遊び疲れたのか眠ってしまったかぐやちゃんを先生が膝枕して子守唄まで歌って撫でているのを尻目に、私達は作戦を練っていた。
「真実! どうする!?」
「……もういっそ開き直るしか……」
「あの〜諫山さんに綾紬さん? 別にライバーやってることを攻めたり辞めさせたりなんかしませんよ?」
「え!?」
「教師の中にもライバーやってる方は結構いますし、生徒にだけ禁止するのも〜、ってことです♪」
「よ、よかった〜」
「あ、でも勉強はちゃんとするように。お二人なら問題ないと思いますけどね」
奈月先生の言葉を聞いて一気に緊張がほぐれた。
私達が通っている武蔵川高校は進学校といってもそこまで校則はキツくないから大丈夫だと分かっていはいるのだが、それでも教師本人にそれを指摘されるのは流石に肝が冷える。
奈月先生はやらなければいけない事をきちんとやれば後は好きにして良いという放任主義的な先生だし、基本的に穏やかなために安心できる要素はあるが、それでも赤点なんて取れば休み返上の補習を覚悟しなければいけないのだ。華のJKとしてそれは御免被りたい。
「それにしても、この子と一緒にあの酒寄さんがライバーですか」
「? なにか気になることでもあるんですか?」
「酒寄さんってよく隈をコンシーラーで隠しているでしょう? そこに加えてライバー活動なんて無理しすぎなんじゃないかと思いまして」
「それは……私達も思っていました。でもっ────」
「もう大丈夫なのは分かってますよ…………この子が、元気を運んできてくれたんでしょうね〜」
そう言ってかぐやちゃんを撫でる奈月先生の目には、深い慈しみと優しさが込められているように感じた。膝の上で眠っているかぐやちゃんを含めて、まるで仲の良い休日の家族のように見えてしまう。
そんな事を思っていたら奈月先生がゆっくりと、なにか良い事を思いついたかのように人好きのする笑みを深めて、それを提案してきた。
「ねえ皆さん。せっかくの機械ですし、もしよかったら一度私の家に来てみませんか?」
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「みなさ〜ん、どうぞ入って来てくださ〜い!」
奈月先生の声に合わせて、ゴゴゴッッという重量のある門が開く時特有の重厚感のある音がする。
「おぉ……」
「でっか……」
豪邸
奈月先生の家は間違いなくそう言われるような、広大な敷地を持つ立派なお屋敷だった。
庭園には色とりどりの花が咲く花壇に加えて魚が泳いでいるような池が設置され、そのすぐ近くに文化財に指定されていそうなレンガ造りの洋館が聳え立っている。都心部からは外れているとはいえ都内だと云うのにここまでの広さを個人で持つのは相当に財力がないと無理だろう。
というか────
「………ねえ、芦花。ここ、小学校の時に社会科見学で来なかった?」
「………………うん。私も来たことあるよ」
「……………人、住んでたんだね〜」
「すっご〜〜!! 庭ひっろ!! 家でっか!!」
「かぐやちゃ〜ん、地下にはいかないようにね〜〜!そっちは夜の国に繋がってるっていう設定だから〜〜」
「アハッ、なにそれ〜〜」
かぐやちゃんが無邪気にはしゃぐ声の横で、私達はエラーを吐き出した思考をそっと放棄した。
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「はい、かぐやちゃん。配信で使えると思うから好きなの持っていってください」
「んん? なにこれ?」
「妹が昔買ったんですけど、結局使わずに放置してるのでかぐやちゃんにあげようと思って」
「まず低温調理器に成り金なりきりセットでしょ、あとはクレーンゲームの躯体にペッ〇ーくん、わたあめ機にポップコーンマシン、超大〇巨人ぬいぐるみにどじょう掬いの道具に──────」
「あと、この家本物の竈とかもあるので料理配信で使いたかったら言って下さいね〜。庭も広いですから、この前河川敷でしていたペットボトルロケットような外でやる配信とかでも使っていいですよ〜」
マジでなんなんだ、この家
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「───ってなことがあってさ〜、ウナギ裂き包丁と低温調理器もらってきたよ〜☆」
「はぁ!? あんた先生ん家でそんなことしてきたの!? てか何で包丁!?鰻ないし!!」
奈月先生の自宅は旧古河邸を想像して下さい
あんな感じのが立川にあってそれを先生が個人所有してるイメージです
最初のス〇バうんぬんは私は私の事が好きの本編映像版を見てケーキとかフラペチーノ飲んでるの見て思いつきました