ゆるぼ:親友が魔法少女になったときの対処法 作:あまぐりムリーパー
ちょっと甘め?
数日が経った。女になった親友――雨霰しずくは相変わらず女として過ごしている。
というか、俺の部屋にいる。俺のベッドで寝転んで漫画を読んでいる。
勝手に強引に入ってきて、遊ぶぞと言ってベッドを奪われている。前からよくあったからまあいいけど。
口にクッキーを咥えながら、鼻唄を歌ってる。
スラッと伸びた白い足がぱたぱたと動いている。前までは何も思わなかったこいつの肢体を自然と目で追ってしまう。少し癪だ。
「ベッドで食べるな」
だから、それを誤魔化すように言う。パクッとクッキーを全部口に含めて、「これで文句ない?」と言わんばかりにじっと睨まれた。行儀が悪いお前が悪いだろ。
もぐもぐと口が動いて、それを見て柔らかそうな頬だなと思った。
「何見てんの?」
「別に」
「……私の体になにかついてる?」
ふふ、と笑ってこちらを見る。こいつはたまにこうやって口調を変えてくる。どういうのが刺さるのか見極めてきてるらしい。嫌なやつだ。
「いや、足をぱたぱたしてたらパンツ見えるなって」
「……興味ある?」
ベッドに座り直して、スカートが捲れないように押さえている。その頬は少し赤らんでいる。お前が照れるのかよ。
「なんちゃって、どう?ドキドキした?」
べっ、と赤い舌を出す。なんかこいつだんだんガキっぽくなってきたな。
「うっさいぞちんちくりん」
「はぁ!?だーれがちんちくりんだっ!」
しなやかに白い指が伸びた。それがスッと俺の頬をつく。どういう抗議?
「お前何しに来たんだよ」
「女になってからさあ、男と遊びにいくのはリスキーじゃん?でも女同士ってのもボロが出そうで怖いからお前のそば以外に居にくいんだよ」
「自業自得すぎる」
「なんだよーっ、こっちは悩んでんのにさぁ」
またバタッとベッドに倒れた。今日も俺の親友はバカらしい。はぁ、とため息をつく。
「じゃあゲームでもするか」
「おっ、いいね。ボコボコにしてやるからな」
「言ってろ」
急に元気になった。ガバッと体を起こしてくる。
「せっかくだからなんか罰ゲームつけようぜ」
「お前そういうの好きだよな」
「お前が勝ったら、なんでもしてやるよ。どう?」
しずくが挑発的に笑う。これで本当にありえないことお願いしたらどうするつもりなんだろうか。
「お前そういうのやめとけよ本当に」
「こんなことをやるのはあなただけですよ……ってやつだよ」
ちっちっちっ、と指を振りながら得意気に話してくるけどそういうことじゃないんだよな。わかってないみたいなので、デコピンしておく。
「いだっ」
「アホなこと言ってないでやめろって」
「だったら俺に勝って、やめさせてみろよなっ!」
「どういう勝負なんだよ」
「代わりに俺が勝ったらお前に膝枕をお見舞いしてやるからな」
躍起になったしずくは胡座を組んで俺の隣に座った。ぎりぎりくっつかないぐらいの距離。ふわり、とこいつの髪から匂いがした。
気付かないふりをしてゲームを起動した。
結果は普通に負けた。こっちが有利な時にぴとっと、少しだけくっついてきてから。変に柔らかくて、それ以上の何かを想像しそうで――集中を乱されて負けてしまった。
こいつ、手段を選らばなさすぎる。
「はい、勝ち~!」
「お前、妨害してくるのはなしだろ」
「ちょっと肩くっつけただけで動揺してくる方が悪い。じゃあ、勝者の特権行きまーす」
「……っ!?」
勝者の特権?ああ、膝枕させられるんだっけ。と、思っていると背中に柔らかいものが触れる。そのままあいつの手が俺の胸元にまで回された。後ろから抱き着かれていた。
……ああ、こいつの腕ってこんなに細かったっけ。
背中越しにとくんとくん、と鼓動が伝わる。少し早くなってる気がする。
「ねえ、透。ドキドキする?」
甘く柔らかい声が耳から入り込んでくる。少しずつ、熱が伝わってくるような感覚がある。
こいつ、こんな声も出せたのか。また口調変えているし。
「膝枕をお見舞いするとか言ってなかったか?」
「なんか寂しくなったから。人肌の温もりが欲しい時ってない?」
と言って止まる。その声がやけにか細くて消えてしまいそうだったから、振り払えなかった。どくどく、と血流が巡っていく。顔が熱い。
「……ははっ、耳真っ赤」
揶揄うつもりで言う親友の言葉は少し上擦っていて、顔の熱が少し引いた。
「暑いからそろそろ離せ」
「あっ」
熱が引いて冷静になったので振りほどくと、名残惜しそうな声を零した。
振り返ると、少し赤らめた顔を背けられた。だんだん、冗談の範囲を超えてくるなこいつ。
「……そんな真っ赤になるならやんなきゃいいのに」
「うるさい、まだお前のヒロインになるの諦めてないからなっ」
一体何がお前のやる気をそこまで引き出しているんだ。聞けないまま無言の時間が過ぎた。
「……私の体どうだった?」
と最後に冗談めかして聞いてくるので、
「柔らかった」
と正直に返すと、バカみたいに顔を赤くして「うっさいどーてーっ!」と叫んで帰っていった。お前から仕掛けてきたんじゃん。
ベッドからあいつの匂いが少し漂っていて、不意にあいつのぱたぱたしていた足を思い出して、それを振り払った。
◇◇◇
一か月が過ぎた。季節も変わって、雨で空気がじめじめしている。
さすがに俺の部屋での件はやりすぎたと思ったらしく、少しだけしずくの行動は控えめになった。たまーに手を握ってくるぐらいで。……それもちょっとどうかと思うが。
いまだになんであいつがこんなことをやりだしたのかわからない。三か月後は元に戻るのに。
あの抱き着かれた時の柔らかい感触と、後ろから伝わる吐息、早くなっていく鼓動をたまに思い出す。
「おはよー、透」
そんな風に考えていると、しずくがやってきた。邪な記憶を奥に追いやる。
「おはよう、雨大丈夫だったか?」
「忘れてんの?俺、魔法少女なんだけど」
そういやそんなものもあったな。女になるついでだったから忘れてた。
「ってか、お前魔法少女としてなんかやらないといけないとかあんの?」
「ん?ねーよ、ほぼ間違いみたいなもんだから。体験版中だよな実際」
「そうか」
危ないことがないならそれでいいか。
「ん?心配してくれた?豊月くん♡」
「……」
「おい、無視はなしだろ!」
「いでっ」
頬をつままれた。
――逆にこいつのほっぺは柔らかいんだろうか。無意識に手が伸びて触れた。すべすべした肌の感触がする。
「……ふあっ!?……あ、あの透?」
「……ごめんつい」
「ついって何!?」
パッと手を離すと、俺が触れていた場所に押さえながら一歩離れた。
ああ、そうか。こういうことか。
こいつがいつも俺を揶揄っているのはこういう反応が見たいんだろうな。そりゃああれだけ変なことしてくるわけだ。
思えばいたずらが前から好きだったし。
「なあ、しずく」
「えっ……はっ、はい……」
「照れすぎ」
「……うっさい、しねっ!」
すごい真面目な顔をしてから言ってみると、とても怒られた。反応が面白いやつだな。
「……お前らさ、付き合ってないんだよな」
隣の席のやつが聞いてくる。関口だったっけな。
「そうだけど」
「付き合ってなくてもそんな距離感になるか!?」
そりゃそうなるよな。そんなのもともと男同士なんだし。と考えてから気づいた。
……男同士でも相手のほっぺなんて触らなくないか???
「なあ、関口」
「……どうした急に真顔になって」
「俺、しずくに触りすぎたかもしれん」
「しね」
「いや聞いてくれよ。どっちかというとしずくの方がちょっかい出してきて俺をおちょくってくるんだよな」
「やっぱり死んでくれないか?」
「まあ待て。それでちょっとやり返してつい触るのは仕方ない気がしないか?」
「人類のためにここでお前を倒した方がいいな」
関口は打倒俺を掲げてしまったらしい。正当性を主張したかっただけなのに。
どうやら俺がこういう話をしていたのをしずくにバレていたみたいで、後でSNSから「あんまり変なこと話すと教室内でチューしてやるからな」と脅迫のメッセージが来ていた。
実行した場合お前の方が被害が大きいだろ。
ただ、その時はあいつの赤い唇を想像してしまってそれを振り払った。
放課後、雨がまだ降っている。そろそろ帰るかと思って下駄箱に行くと声が聞こえた。
「しずくって、豊月と友達なんだっけ」
聞いたことのある声だ。同じクラスの水無月あやめさんだったかな。少し小柄だけど綺麗なタイプの美少女。しずくと二人並んでいると画になる。
「んー、そうだけど」
「好きなの?」
「……ストレートすぎ。ライクだよライク」
「でもさ、距離近すぎじゃない?」
「いやなんか、いじってたら面白くなってきてさ」
あいつはこういう時、そっちの口調なんだ。
というか、気まずすぎるだろこの状況。なんで俺が隠れて盗み聞きしてるみたいな状態してるんだよ。
っていうか、俺の話をしてるタイミングなのもなんでなんだよ。
「へぇ、それで普段ガードが堅いしずくが楽しくなってあんなに近づいちゃうんだもんなあ」
「いや、俺たちはそういう恋だとかに当てはまる関係性じゃねーの」
「素が出てますよしずくさん。動揺したのかなー?んー?」
「うっさい……あと、透の近くが一番楽だから」
「やっぱり、しずくってかわいすぎ」
最後のしずくの消え入りそうな声は聞こえないふりをした。雨音がやけに近くに聞こえた気がした。
次回でいったん一区切りです。