次回からコメディ回に戻るので許してください。
選挙に大きな動きがありました。
羽前組長が恋ちゃんに決闘を挑み、一分間耐えきるという結果を出しました。
これにより、少し空気が変わりました。恋ちゃんにも絶対はない、ということが示されたためです。
そして――投開票二日前になりました。今日も討論は続いています。
議題は、八雷神の危険性について。八雷神を危険だと主張する羽前組長と、いざとなれば八雷神は倒せると主張する恋ちゃんの間で討論が行われています。
しかし、贔屓目ではなく、恋ちゃんが優勢です。
その時――。
「八雷神が危険だという裏付けはあります!」
優希さんが、会議中に初めて自分から話へ入ってきました。
「優希、討論中だぞ」
羽前組長が優希さんを制止しようとしますが、彼は決然とした面持ちで手を挙げます。
覚悟を決めた人間の顔でした。
ああ……優希さん……。
ついに、公表するんですね。
「俺の中に、倒した神が宿ってるからです!」
ベルは全員の顔を見回します。
ほとんどの人が、呆気に取られています。
続けて、優希さんは体内にいる神のことをかいつまんで離しました。
ほとんどの人が否定的な意見でしたが――恋ちゃんはその存在を肯定しました。しかし、八雷神が危険であるという意見には同意しませんでした。
さらに――陰陽寮の寮長が、巌のような面持ちで口を開きます。
「本当だとしたら大変なことです。人類の為にあらゆる調査をご協力頂きたい」
……大丈夫です、優希さん。約束しましたから。貴方は、絶対にベルが守ります。
「させませ――」
「私から意見を――」
「ちょっと待ったあ!」
ベル、出雲組長、上運天組長の喋り出しがぶつかりました。
場が一瞬止まります。上運天組長は、ベルと出雲組長を順番に見ながら――。
「悪ぃベル、天花。先にこっちの意見言わせてくれ」
そして、上運天組長は自分の意見を述べ――。
「俺はこれから、京香を支持する!」
高らかに、そう宣言しました。
その瞬間、一気に空気が変わりました。
**1
投開票前日となった。
私、ワルワラ、天花の三人は、私の部屋で最終会議をしている。
「いよいよ明日ですね」
「京ちん、浮動票の三人としっかり話せた?」
「あぁ、たっぷりとな」
山城総組長も同様に三人としっかり話していたが……。
私は立ち上がる。最後の説得へ向かうために。
「誰と話すの?」
天花に尋ねられ、私は一拍間をおいて答える。
「ベルだ」
「……え?」
**2
投開票前日の夜――ベルの部屋に来客がありました。
「すまない、ベル。少し話せるだろうか」
なんと、羽前組長でした。優希さんも一緒です。
「……驚きました。ベルに時間を使うとは思っていなかったので」
「話したい事がある」
「はい。ベルも、羽前組長と話したいと思っていました」
ベル、羽前組長、優希さんは畳の上で正座し、向かい合います。
「八雷神は危険だ。奴らに降伏や協力の意思はない」
羽前組長は、八雷神の危険性を強く主張しました。
ベルは、頷きます。ベルの考えも、彼女の主張と大きくは違わないものです。
「ベルも、そう思います」
ベルは優希さんを見ます。
……信じますよ、優希さん。だって優希さんは、ベルのことを信じて、神の存在を公表してくれた。
だから、今度はベルが貴方を信じる番です。
八雷神は危険である。降伏には応じない。――という意見が一致していることを、ベルと羽前組長は確認しました。
次の話題は――恋ちゃんの人間性についてです。
「山城総組長の弱点は、強すぎて周囲の人間の諫言が届かないことだ」
「……はい。ベルも、同じことを思っています」
胸が痛いです。
恋ちゃんの話なのに、なんだか自分の弱点を責められているような気分になります。
「ベルは、山城総組長の友達という認識で合っているか?」
「はい、合っています」
「では、ベルから彼女に対して『八雷神は危険だから降伏に応じるべきでない』と伝えたとして、それを受け入れてくれると思うか?」
ベルは、首を横に振ります。
……恋ちゃんは、ベルの意見を聞いてくれない。
陰陽寮のことも、それ以外のことも、相談してくれない。
何もかも、自分の意見を通してしまう。それが、今の恋ちゃんだから。
「彼女は力がある。それに伴う自信もある。それ故に、八雷神を倒せると侮っている」
「……はい」
「もしかしたら、その慢心が取り返しのつかない結果を招くかもしれない。山城総組長本人も、彼女の周りにいる我々も、無事では済まないかもしれない」
ベルはうつむきます。
羽前組長の言葉は痛いくらい核心を突いていて、否定する意見が何も出てきません。
「だが、この選挙で山城総組長にも伝えられるかもしれない。彼女の危うさと、敗北の危険性を」
羽前組長は、強い意思を宿した眼差しで、真っ直ぐベルを見詰めます。
「山城総組長が変われる機会があるとしたら、この選挙しかないと思っている。ベル、山城総組長のために、私に票を投じてほしい」
ベルは胸を抑えます。
そして、深く息を吐き出し――考えを口にします。
「実はベル――もともと羽前組長に投票しようか迷っていたんです」
「えっ」
「本当か!?」
「はい。選挙前から、考えていたんです」
休日に優希さんと出かけた日、川沿いで言いかけた内容はこれです。あの時は突発的
「ベルは――」
ベルは時々、考えてしまうのです。八雷神との戦いで仲間たちが命を落としてしまう光景。その屍の山と、血の海の中、ひとり健在で佇む恋ちゃんの姿。
恋ちゃんだけは死なない。最強だから。
でも、それじゃ駄目なんです。恋ちゃんだけが無事でも意味がないんです。
優希さんが死んでしまったら。大切な組員たちが死んでしまったら。他の組の仲間たちが死んでしまったら。
ベルは、それがずっと怖いんです。
けれど――この恐怖や懸念を、恋ちゃんとは共有できていません。彼女には、伝わっている気がしません。
――。
恋ちゃん。
ごめんなさい、恋ちゃん。
――覚悟を決めます。ベルの人生で、一世一代の大決断です。
もう、恋ちゃんとは友達でいられなくなるかもしれない。
それでも。
たとえ恋ちゃんに嫌われてしまうとしても、伝えなくてはいけないことがあります。
「ベルは、羽前組長に投票します」
*
――遂に迎えた、投開票当日。
冥加りうさんが、一票ずつ票を読み上げていきます。
「山城恋。投票先は、山城恋」
「羽前京香。投票先は、羽前京香」
ホワイトボードに、それぞれ一票を示すマグネットが貼られました。
「ワルワラ・ピリペンコ。羽前京香」
「矢守伊桜里。山城恋」
「出雲天花。羽前京香」
「上運天美羅。羽前京香」
「多々良木乃美。山城恋」
「蝦夷夜雲。山城恋」
「今坊玲子。山城恋」
「東風舞希。羽前京香」
ちょうど、恋ちゃんと羽前組長が、五票ずつで並びました。
そして、冥加さんが最後の一票を手に取ります。
「ベルが……最後なんですね」
この時点で既に、ベルだけは結果が分かっています。
恋ちゃん……ごめんなさい。
「月夜野ベル。羽前京香」
恋ちゃんの表情から余裕が消え、呆気に取られています。
場の空気が、一気に変わりました。
「もう一度言うよ。月夜野ベル。羽前京香」
恋ちゃんは大きく目を見開き――。
「……ベル?」
悪鬼羅刹のごとき憤怒の表情を浮かべながら、恋ちゃんは立ち上がります。溢れ出る、怒気。恋ちゃんは、ベルを射殺さんばかりの眼差しで睨みます。
「うぁ……」
恐怖で、体が震えます。けれど、拳を強く握ります。
言うんだ。
言わなくちゃ、ベルが。
「ま、間違えじゃありません。ベルは、羽前組長に投票しました」
恋ちゃんは、とてもショックを受けた表情で、ベルを見ています。
羽前組長は、そんな彼女に向けて語りかけます。
「私が最初に接触した時、ベルはこう言っていました。――山城総組長の力になるべく動きたい、と。だから昨晩ベルと相談したんです。ベルが本当に貴方の力になれる方法を」
ベルは手を上げます。自分の言葉で説明すべきだと思ったから。
「恋ちゃんは、あまりに優秀で強すぎるんです。強すぎるゆえに、皆の忠告が届かない。だからこそベルは怖かった。いつかその自信に足をすくわれて敗北するんじゃないか……その一敗が神相手の、取り返しのつかない一敗になるんじゃないかって」
まだ呆然としたままの恋ちゃんへ向けて、ベルは語り掛けます。
「たとえそれで恋ちゃんが無事でも、周囲に甚大な被害が出るかもしれない」
だから――。
「恋ちゃんも、負けることがあると知ってほしかった」
思いの丈を、すべて伝えます。
「ここでの一敗なんていくらでも取り返せる! だからベルは、羽前組長に投票しました!」
言い切りました。
恋ちゃんは、魂が抜けたように脱力します。
「以上により、羽前京香さんが、魔防隊総組長に決まりました」
こうして――総組長選挙は決着しました。
*
寮の一室。恋ちゃんは広縁の椅子に座り、閉め切った障子をじっと見つめています。
「恋ちゃん? あの~」
「しばらく口きいてあげない」
恋ちゃんはベルの方を見ずにそう答えました。
「恋ちゃんはいじけてたら駄目です!」
「まとわりつかないでよっ」
ベルは恋ちゃんを椅子から引きずり下ろし、抱えます。そして――。
「恋ちゃんらしく! しっかりしてください!」
彼女の尻を、思いっきり引っ叩きました。パァン!と快音が鳴ります。
「ベル!」
恋ちゃんは怒ってベルを押し倒してきます。
しかし――ベルの目から、大粒の涙がこぼれます。それを見た恋ちゃんは、動きを止めました。
恋ちゃんとの思い出が、脳裏をよぎります。
前回の選挙で東
三番組に強い醜鬼が現れた時、恋ちゃんが助けに来てくれたこと。なんだかんだ言いつつもベルには甘くて、あんまり厳しい訓練を強いることはできずに、ちょっとした訓練だけで終わらせてくれたこと。
数えきれないくらい、一緒にごはんを食べに行ったこと。ベルのお気に入りのお店を恋ちゃんに紹介したり、逆に恋ちゃんの好きなお店に連れて行ってくれたりしたこと。
ドジでダメなベルを支えて、親身になってくれて、ここまで導いてくれたこと。つらいときも楽しいときも、ベルと一緒にいてくれたこと。
ぜんぶが、大切な思い出です。
恋ちゃんを裏切ってしまったことが、とても苦しいです。
でも、恋ちゃんのことが大好きだから。
ベルは、伝えなきゃいけないんです。
なのに――涙と嗚咽のせいで、上手く言葉が出ません。
すると。
「その顔見てたら怒る気なくしたわ」
恋ちゃんはそういってハンカチを取り出し、ベルの涙を拭ってくれました。
「私はいじけてたわけじゃなくて、敗北の意味を考えていたのよ」
恋ちゃんは立ち上がり、障子を開け放ちました。桃源郷の穏やかな風が室内に吹き込んで来ます。
彼女は、晴れやかな顔をしていました。
「私が負けるなんて、よほど重要な結果なのよ。それを受け止めるわ」
――届いた。
初めて、ベルの想いが恋ちゃんに届いた。
この瞬間、ベルは強く実感しました。
恋ちゃんは、今回の経験で成ったのです。――真の最強に!
*
夜。ベルの部屋に優希さんがやってきました。
「ベルさん、京香さんに投票していただいて、本当にありがとうございました」
「いえ、とんでもないです」
すると、優希さんはしおらしい顔になり――。
「なんだか、ベルさんには助けられてばかりです」
「そ、そんなことないですよぉ」
「ベルさんが、俺のことを陰陽寮から命懸けで守ってくれるっていってくれたから、神の存在を公表できたんです。だから、ありがとうございます」
「えへへ……どういたしまして」
優希さんから感謝されると、飛び上がりたくなるくらい嬉しいです。ベルはよく、こういう瞬間を思い出してはひとりニヤニヤすることがあります。
「本当に、ベルさんには助けてもらってばかりですね」
優希さんはそういって、ベルに一歩近づきました。
「ベルさんにお礼がしたいです。どんなご奉仕、してほしいですか……?」
「!?!?!?!?!?!?!?」
え、え、え!?!?!?
ご、ご奉仕!?!?!?
貸出の代償でもないのに!?
「強制じゃないのにご奉仕なんて、い、いいんですか?」
「はい、俺がベルさんにしてあげたいんです。なんでもいいですよ」
優希さんは、微笑みながらそう言いました。
ベルは考えます。
普通、こういう時は、
でも、欲が出ます。
こういう機会でもないと、ベルは男性と深い関係になれない。もしかしたらこれは、一回きりのチャンスかもしれない。
欲望に従うなら――ヤラせてください、というお願い一択です。
なんなら、またお風呂に入りたい。
ソーププレイとかしたい。
ラブホ行きたい。
ドスケベエロランジェリーとか着てほしい。
さまざまな欲望がベルの脳内に溢れ出します。
けれど――。
「……。…………。正直に言ってしまうと、ベルは煩悩だらけなので、どんなお願いをしても引かれそうなんです。なので、なにもお願いしません……」
迷った末に、何もお願いしないという選択肢を選びました。
これがせめてもの、ちっぽけな良心であり、誠実さです。
うぅ……もったいないかなあ……?
「やっぱり、ベルさんは優しい人です」
優希さんはそういって、温かな眼差しでベルを見ます。
「もし、ハグでも、膝枕でも、ちょっとえっちなことでも、ベルさんがしたくなったら、いつでも言ってください」
「えっ、いいんですか?」
「はい。俺が、あなたにご奉仕をしたいんです」
優希さんは微笑みながらも、決然とした面持ちでそう言いました。
いつでも……今でもいいのかな。
「じゃあ……ハグしたいです」
「はい」
優希さんがベルに近付き――彼の方から、ベルを抱きしめてくれます。
男の子の、硬い感触。いい匂い。身体の温かさを直に感じます。
あぁ……。ヤバい、いい匂いする……。
「ベルさん、これからは会う度にハグしたいです」
「えっ、い、いいんですか? 真に受けますよ? 本当に毎回しますよ?」
「はい、しちゃいましょう」
ま、マジ!?!?!?!?!?!?
これ夢?????????????
ちょっと幸せすぎませんか????
――たっぷりハグをした後、ベルは追加のお願いをしてみます。
「また膝枕もしてほしいです」
「はい、おいで、ベルさん」
優希さんは正座し、ベルを迎え入れる体勢を取ります。ベルはおそるおそる横になり、彼の太ももへ頭を乗せます。
おぉ……。すごい。ベル、男子に膝枕してもらってます。
「ベルさん、いつもありがとうございます」
優希さんはそういいながら、ベルの頭を撫でてくれます。
あぁ……。極楽ですぅ……。
疲れを癒やすように、優希さんの膝枕を堪能すること数分――。
あ、ヤバい。欲が出てきました。
「……優希さん、やっぱりおっぱい触りたいです」
「……は、恥ずかしいですけど、どうぞ」
「いいんですか!?!?!?!?!?」
ベルは驚いて飛び起きます。優希さんは恥じらいながら服を脱ぎ、インナーを持ち上げてみせました。
露わになる、おっぱい。
よく鍛えられた、隆々とした胸筋。エロすぎる豊かな双丘が、圧倒的なボリュームを視界に訴えかけてきます。
うわエロぉ……。
「し、失礼しますっ」
ベルは優希さんのおっぱいに触れます。
手のひらから伝わってくる、男の硬い感触。エロすぎて鼻血が出そうです。
「優希さん、おっぱいに顔埋めてもいいですか?」
「も、もうっ、ちょっとだけですよ?」
優希さんは顔を赤らめて苦笑します。
だいぶ無茶を言っているはずなんですけど、でも許してくれるみたいです。
ベルは、ごくりと生唾を飲み込み――優希さんのおっぱいへ顔を埋めました。
あったか~~~~~~~~~!
かた~~~~! しあわせ~~~~~!
「あっ、すごっ……!!!!!」
優希さんのいい匂いを吸い込むと、すぐに脳内へ運ばれ、たちまち頭が幸せになります。
うわやっばあ……男の匂いエロぉ……。
優希さん……好き……! 大好き……!
あ~~~~~~~~~~~~~~~!
最高ですぅ~~~~~~~!!!!!
ベル、生きててよかった~~~!!!
**3
私は選挙で敗北した。人間性の未熟さと、方針の誤り。その両方を突き付けられて負けた。
京香は正々堂々と戦い、私を破った。ベルも私のために勇気を出して、大切なことを伝えてくれた。
ただ――今回の選挙で、明確な悪意を持って暗躍していた人物がひとりいる。
いや、選挙中だけではない。
王様ゲーム。突発的クナド発生時の報告。そして、桃源郷での言動。選挙の前から感じていた違和感が、点と点になって繋がる。
そう、あの人物は、私を陥れるために動いていた。
許せない。屈服させてやらなければ、気が済まない。
絶対に許さないわ、和倉優希……!!!