**1
目が覚めると、見慣れない部屋のベッドに大の字で拘束されていた。手足には鎖がつけられ、ベッドの柱へと繋がれている。
「な、なんだこれ!?!?!?」
俺は脱出しようと試みるが、びくともしない。
ど、どうしてこんなことに。一体誰がこんなことを……。
その時――部屋の外から、コツコツと硬質な靴音が聞こえてきた。
身体を強張らせる。一体誰が近付いてきているのか。
そして――ドアノブがゆっくりと回され、その人物が入室してくる。
「目覚めたようね、和倉優希」
「そ、総組長!?!?!?!?!?」
現れたのは、山城恋総組長だった。
「ど、どうしてこんなことを!?」
「決まっているわ。貴方の卑劣極まる悪行を咎めるためよ」
「あ、悪行!? 俺が何をしたっていうんですか!?」
「そう……。とぼけるつもりなのね」
総組長は俺を見下ろす。彼女の眼差しには、冷ややかな軽蔑があった。
「貴方、選挙で勝つために、ベルを利用したわね?」
「えっ……」
「ベルを自分に惚れさせ、京香へ投票させた。初めから選挙で勝つためだけに、ベルに近付いたんでしょう?」
「そんなことありません!!! 俺は、ベルさんのことが本当に好きなんです!」
俺は必死で否定する。
この想いは本物だ。俺はベルさんのことが好きだ。
それを、誰かに否定してほしくない。ましてや、ベルさんの大切な友達である総組長なら特に。
だが――。
「嘘ね」
総組長は、頑とした様子で断言した。
「ど、どうしてそう思うんですか……?」
「王様ゲームの時のことを覚えているかしら? 夜雲から聞いたのだけど、貴方、あの後ベルと逢い引きしていたそうね」
「えっ……まあ、ふたりで王様ゲームはしましたけど……」
「ベルを惚れさせるために、ふたりきりになったんでしょう?」
「いや、そんな意図は……まあ、ベルさんとふたりきりになりたいとは思ってましたけど。好きなので」
「それだけじゃないわ。群馬県で突発的
「そ、それがなにか問題なんですか……?」
「休日にベルとデートしたい男なんているはずがないわ」
「いますよ! というかその言い方はあんまりですよ! 貴方はベルさんの友達じゃないんですか!?」
「友達だから誰よりもベルのことは分かってるのよ!」
総組長は頑迷にそう主張する。
だめだ、全然信じてくれない。俺がベルさんを好きな気持ちは本物なのに……。
「とにかく、貴方は私を選挙で負かすため、ベルにハニートラップを仕掛けた最低の卑怯者よ」
「違いますよ!!!」
「ベルがこのことを知ったら、きっと悲しむでしょうね。初めて男子と仲良くなれて嬉しそうにしていたから……」
総組長は目を伏せ、悲しそうな顔をする。
あ、そうなんだ……。ベルさんから総組長にそういう話をしたことがあるのかな。だとしたら嬉しいけど――今はそれどころじゃない。誤解を解かなければ。
「とにかく、総組長は誤解しています!」
「そう……まだ認めないつもりなのね。なら――こうするわ」
そういって総組長が取り出したのは、リード付きの首輪だった。
「えっ」
「躾けてあげるわ、和倉優希」
総組長が手を伸ばしてきて――俺は首輪を付けられた。わずかに首が締め付けられる感覚がある。
リードを持ち、俺を見下ろす総組長。まるで彼女のペットになったようだった。
「さて、じゃあ……分からせてあげるわ」
「えっ、なっ、なにをっ――」
総組長が、俺の腋へと手を差し入れてくる。そして――こしょこしょとくすぐり始めた。
「ふふっ、んっ、ふっ……!」
くすぐったい。けど、服越しなのでなんとか耐えられる。
すると、彼女もそれに気づいたのか、俺の服に手を伸ばして脱がし始める。
「や、やめてくださいっ!」
「下着姿くらい見られてもなんともないでしょう?」
「ありますよっ! 恥ずかしいですっ!」
「ふんっ、ベルに色仕掛けしておきながら、何を今さら清純ぶってるのよ」
あっという間に、服をめくり上げられ、下着姿を晒す形になってしまう。
そして、下着越しにくすぐられる。総組長の指に腋を刺激され、くすぐったさに襲われる。
「あはははっ! んっ……! ふふはははっ! やめっ! やめってっ……! あはははっ……!」
彼女の指が、縦横無尽に俺の腋をくすぐる。逃げようとするが、鎖に繋がれているせいでそれも叶わず、その場で身悶えすることしかできない。
さらに――。
「じゃあ、次は直接やってあげるわ」
「え、うそっ、やめてくださいっ!」
総組長が、猛禽のような笑みを浮かべる。そして、俺の下着をガバッと胸元までめくり上げた。
俺のおっぱいが、晒されてしまう。
総組長は、じっと俺のおっぱいを見つめている。
「や、やだっ……! み、見ないでくださいっ!」
「良い体してるわね……このおっぱいでベルを誑かしたんでしょう?」
「してませんよっ!!!!!」
総組長は俺の腋に手を差し込む。直に感じる、指の感触。これからより強くくすぐられることを示す、処刑宣告だ。
「行くわよ、和倉優希」
「や、やめっ――あはははははははっ! だめっ! んっ……! あはははっ!」
爆発的なくすぐったさが身体を襲う。苦しくて暴れるが、拘束されているせいで逃げられない。
笑いすぎて、肺が苦しい。涙が出てくる。それでも、総組長はくすぐるのをやめてくれない。
「んんっ……!♡ ひっ……!♡ しんじゃうっ……!♡ やめてっ……!♡」
「貴方の声、ちょっとエロいわね……」
総組長の頬は上気し、微かな興奮の色を感じさせる。彼女の目がより鋭くなったような気がした。
「興が乗ってきたわ、もっと啼かせてあげる」
「やめてっ!♡ あっ!♡ ひっ……!♡ だめっ……!♡」
苦しい時間が続く。
俺は総組長にくすぐられ、弄ばれ続けた。
声も嗄れてきた頃――彼女は指を止めた。そして、リードを掴んで引っ張る。
「ベルを騙した償いとして、ベルに一回ヤラせてあげるのもいいかもね」
「騙してないですよ!!!」
「その後は私が飼ってあげるわ。魔防隊組長や組員に貸出して、性欲の発散相手として使わせてあげてもいいわね」
「なっ……!?!?!?」
「さあ、選びなさい。ベルに誠心誠意謝るか、魔防隊の性奴隷になるか」
総組長の、圧の強い眼差しが俺を見下ろす。
その時――バン!と扉が開かれた。
**2
ベルは羽前組長と共に、恋ちゃんの部屋へ踏み込みました。
そこにあった光景は――ベッドへ拘束され、服を脱がされた優希さんの姿と、彼へ馬乗りになり、首輪のリードを持っている恋ちゃんの姿でした。
「恋ちゃん??????」
「ベル!? 京香!? どうしてここに……!?」
「羽前組長から、優希さんが寮にいないと報告を受けて、一緒に来たんですが――これはどういうことですか?」
ベルは恋ちゃんへ近づきます。
裸で拘束された優希さん。彼を組み敷いている恋ちゃん。
真っ先に思い浮かぶのは、ご奉仕です。貸出の代償として、ご奉仕をさせられている、ということなのでしょう。
「た、助けてくださいっ! ベルさんっ!」
「えっ、ご奉仕じゃないんですか?」
「違いますっ! 総組長に突然監禁されたんですっ!」
ベルは、かつて友達だったものに向けて、殺意を向けます。羽前組長も、刀の柄に手を掛けました。
「殺します」
「そこまで堕ちたか、外道め」
「誤解よ、ふたりとも」
恋ちゃんはベッドから下ります。
「ベル、貴方はこの男に騙されてるわ。この男は、選挙で京香を勝たせるため、ベルの票を得るためだけに、貴方にハニートラップを仕掛けたのよ」
「はい?????」
「優希はそんなことをしていません! 私がそんな卑怯な手を使ったとでもいうつもりですか!」
羽前組長は当然の反論をします。それに対する恋ちゃんは――。
「そうは言っていないわ、京香。貴方はそんなことをする人間じゃない。でも、和倉優希は別。この男は貴方への忠誠心故に、独断専行でハニートラップを行ったのよ」
恋ちゃんは、指で後ろの優希さんを示しました。
「ベル、おかしいとは思わなかった? なぜ、和倉優希が自分にだけこんな優しいのか。積極的なのか。桃源郷でも、王様ゲームでも、群馬県での休日デートでも、それ以外でも、不自然に貴方に対して好感度が高すぎるとは思わなかった?」
え、不自然に思わなかったんですけど。
脈アリだからだと思ってたんですけど。
「え、お、おかしいんですか?」
「おかしいでしょう。ベル、貴方は今までの人生で一度でも、男性から好かれたことがあったの?」
「まあ、ないですけど……」
「貴方は和倉優希に騙されてるのよ。この男は貴方に好意を寄せてなんていない。ただ、貴方を利用しただけ」
「そ、そうなんですか……? 優希さん」
ベルは急に不安になってきて、優希さんを見つめます。
「違いますよっ! そんなつもりはありませんっ! 俺は俺自身の本心で、ベルさんと仲良くなりたかっただけです!」
「騙されちゃダメよ、ベル。ママ活男子もレンタル彼氏も結婚詐欺師もみんなこう言うのよ」
愛する男性。大切な友達。ふたりの間で、ベルは悩みます。どっちの言うことを信じればいいのでしょうか。
と、その時――羽前組長が口を開きました。
「総組長、優希が無実である証拠があります」
「……? なに?」
「優希はベルに一目惚れしていました」
「えっ」
「ちょっ」
「は?」
ベル、優希さん、恋ちゃんが、同時に声を上げます。
「初めて優希を組長会議に同席させた日、優希から『ベルのことがタイプだから彼氏がいるのか知りたい』という旨の話をされました」
「ええっ!?!?!?!?!?」
べ、ベルのことがタイプ!?
ベルのことがタイプ!?!?!?!?!?
そんな男性がこの世にいるんですか!?
「それに、優希はベルに会える度に喜んでいました」
「ちょっ、京香さんっ! なんで言うんですかっ!?」
優希さんは顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに叫びました。
え、え、ほんとに? ほんとにそうなの……?
「あの頃、優希は魔都に来たばかりであり、また、総組長選挙の話題など一度も出ていない時期です。つまり、優希がベルを利用するために近付いたわけではない、という証左です」
羽前組長はそう言い切りました。
恋ちゃんは愕然として、震えています。
「そんな、嘘、まさか私は、とんでもない勘違いを……?」
恋ちゃんは優希さんの首輪と鎖を外し、床へ頽れるように膝を突き、頭を下げました。
「ごめんなさい、優希……。酷いことをしたわ……」
「総組長は、ベルさんのために怒ってたんですよね? なら、許しますよ」
いや、ベルは許せないんですけど。優希さんのおっぱい触ってましたよね?
「あの、それはいいんですけど……ベルさん……」
優希さんは着衣を整えながら、ベルを見ます。しかし、顔を赤らめ、すぐに目を逸らしてしまいます。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「ん? なんだ、この雰囲気は?」
羽前組長が、ベルと優希さんを交互に見ながら訝しみます。
「酷いですよ、京香さん。ベルさんの前で俺の気持ちバラすなんて……」
「……。……。まだ付き合ってなかったのか!?」
「「えっ」」
ベルと優希さんは、同時に驚きの声を漏らします。
「す、すまん優希! 申し訳ない!」
羽前組長は、優希さんに向かって頭を下げます。
「あ、いえ、大丈夫ですけど……」
優希さんは困惑しながらそういいました。羽前組長は、なんとも気の毒になるような、気まずそうな顔をしています。
ベルは、混乱しながらも、優希さんに尋ねてみます。
「あの、じゃあ……優希さんって、ほんとにベルのこと……」
「す、好きですよ……」
え?
これ……。
脈アリっていうか、両想いじゃないですか。
脈アリっていうか、両想いじゃないですか。
脈アリっていうか、両想いじゃないですか。