おはようございます。優希さんと恋仲になれる可能性を真剣に狙い始めているベルです。
先日、ベルは優希さんとふたりきりで王様ゲームをして、下の名前で呼び合う関係になりました。それだけなら他の人もそうなので、ようやくスタート地点に並んだだけ――と思いましたか?
なんと、さらにハグまでしました。
貸出の代償であるご奉仕ではなく、プライベートで。
強制ではなく、私的に、ベルは優希さんとハグをしたのです。
脈アリ、と考えていいのではないでしょうか。
勘違いではなく、本当にワンチャンあるのではないでしょうか。
ところで、本日は休日です。
朝からダラダラする時間の余裕があります。ベルはベッドでスマホをいじっています。
お気に入りのマンガが更新されていたので読み始めます。ちょっと肌色成分が多めのえちちなマンガです。全年齢向けですが、これはこれできわどいラインを責めていてエロいです。
主人公とクラスメイトの男子が一緒に外出し、雨に降られてしまい、急遽ホテルへ泊まることになり――寒くて風邪を引いてしまうから、という理由で一緒にシャワーを浴び始めます。
男子の硬い胸板が密着して、しかも泡に包まれて――。
あ~えっろ。
う~ん、エロい。女の夢ですね。はやくこれになりたいです。
休日はやっぱり、朝からダラダラしながらスケベなマンガを読むに限ります。楽しいです。
その時――ラインの通知が来ました。
『ベルさんって休日は何されてるんですか?』
送信主は、優希さん。
びっくりしました。
休日に男子からラインが来るなんて経験は初めてです。
というか、返事なんて返そう。正直に「エロマンガ読んでます」とは返せません。
う~~~ん。
悩みながら文章を入力し――。
『休日は美味しいお店を探すのが趣味です。外食が好きなので、休日はほぼ外へ出ています』
と返信しました。内容は本当です。こう見えて結構外出するタイプなんですよ。
すると、すぐに返信が来て――。
『いいですね! 今日も外食するんですか?』
『はい。今日はお寿司を食べに行くつもりです』
と、返すと――。
『お寿司! 俺も好きですよ! よかったら一緒に行きませんか?』
えっ!?!?!?!?!?!?
え!?!?!?!?!?!?!?
な、なに!?
もしかして今、優希さんから食事に誘われてる!?
ベルは震える手で文字を入力し――『ぜひお願いします』と返信しました。
こうして、ベルは優希さんとふたりで外出することになりました。
え、これ、デートってことで……いいですよね?
男子と二人で、休日にデート……。
さ、流石に緊張しますぅ……!
でも、やったあ……!!!!!
*
ベルは私服に着替え、車を運転し、七番組寮へ来ました。*1
玄関で、優希さんが待っています。
「おはようございます、優希さんっ」
「おはようございます、ベルさん」
ああ……。やっぱり名前で呼び合うの、いいなあ……。
なんというか、名前を呼んでもらえるだけで自尊心が満たされます。
それはそうと――。
「優希さんの私服初めて見たんですけど、すごくかわいいですっ」
「あ、ありがとうございますっ! ベルさんも素敵ですよ!」
優希さんの格好はセーターとジーンズです。
セーター越しに身体の凹凸が感じられて、なんだかえっちです。
すごい……。休日の男子の私服って感じがします。ほんとにこれから男子と外出するんだ……という実感が湧いてきます。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
助手席に優希さんが乗ります。そして、ベルは車を発進させます。
「すみませんベルさん、お迎えお願いしちゃって」
「いえいえ! いつでも呼んでくださいっ!」
男の子を乗せて走るのは初めてなんですけど、めちゃめちゃ嬉しいですねこれ。すごいテンション上がります。
足として使うだけでもいいので、また呼んでほしいです。
「でも往復するの、大変じゃないですか?」
「ぜんぜん平気ですよっ! 優希さんのためならいつでも車出しますから!」
ずーーーっと直進し続けます。
ベル、あんまり運転は得意じゃないんですけど、魔都でなら安心して走ることができます。交差点もないし、対向車も歩行者もいないし、難しい右左折も必要ないですからね。ずーっと走るだけです。
そして、ベルの担当である三番組の寮へ到着しました。
ここ魔都には、現世と繋がる
三番組寮のクナドが繋がる先は――。
「行きましょう、優希さん」
「はい、ベルさん」
ふたりでクナドへ入り――現世へと出ます。
政府管理下のクナドなので、出入管理の受付を済ませ、外へ出ます。徒歩0分で市街地です。真新しいビルと歴史ある木造建築が、混然と入り交じっています。
「ようこそ、優希さん。ベルの地元、群馬県みなかみ町へ」
「ここが、ベルさんの故郷……いい街ですね」
「何もない町ですけど、町内に温泉が十八か所あるんですよ」
「十八!? 町内に!?」
「はい、温泉しかない町です」
ベルと優希さんは大通りを歩いていきます。
ベル、今、男子と二人で街を歩いています。……すごくないですか??? めちゃくちゃ奇跡です。
そして、目的のお寿司屋さんに到着しました。入店し、テーブル席へ座ります。趣のある上品な内装の店内です。
優希さんは、落ち着かない様子で店内を見回しています。
「ベルさん、実は俺、回らないお寿司初めてなんです」
「あっ、そうなんですね」
「こんな格好で来てよかったんでしょうか」
「だいじょうぶですよ」
注文を済ませ、料理を待ちます。優希さんは、魚の漢字が書かれた湯呑みを見ながら――。
「こういうところでも、この湯呑みあるんですね」
「こういうのほとんど読めないですよね」
「鯛とか鮪くらいなら読めるんですけど……あ、このへん分からないです。魚へんに老人の老。ベルさん分かります?」
「
「え、すごい!!!」
「たまたまですよぉ」
「じゃあこれは? 魚へんに尋ねるみたいな字」
「
「ベルさんすごい! かっこいいです!」
「えへへ……!」
「こっちは? 魚へんに底って字」
「
「すごい!!!」
実は恋ちゃんとこの店へ来たことがあるのですが、その時教えてもらったのが役に立ちました。ありがとうございます、恋ちゃん……!
「ベルさん、ここに書いてある漢字の魚、もしかして全部食べたことあるんですか?」
「流石にないですよぉ!」
――なんて会話をしていると、料理がやってきました。
お寿司の軍艦をメインとして、味噌汁とサラダ、茶碗蒸しが付いてくるセットです。
いただきますをして、お寿司を食べます。優希さんは一口食べるとすぐ――。
「美味しいです!」
「よかったです、ベルのお気に入りのお店なんですよ」
ああ……幸せな休日です。
ベルが男子とふたりで食事をする日が来るなんて思いませんでした。
「ベルさんってデート慣れしてそうですよね」
「え? いえ、そんなことないですよ」
残念ながら、ベルは異性のお友達すらいない暗黒の学校生活を経て、そのまま魔防隊へ入隊しました。以後も当然、男性と関わる機会はありませんでした。
魔防隊は女しかいないですし、しかも忙しいので、みんな彼氏はいません。ベルだけがいないわけじゃないんです。ベルだけがいないわけじゃありませんからね。
「優希さんは、きっと学生時代モテましたよね」
「いえ、魔都に来るまで女性に触れたこともありませんでしたよ」
「えっ」
「もちろん彼女できたこともないです」
優希さんは、恥ずかしそうに苦笑しました。
えっ、マジ??????
こんな可愛い男子に彼女がいたことない???
「だ、男子校だったとか?」
「いえ、普通に共学でした」
本当になんで????????
優希さんの周りの女たちは何を考えていたんでしょうか。こんな可愛い子を放っておくなんて。
もしかして全員草食系女子だった? ベルみたいな女が100人くらいいる学校だったんでしょうか。
「だから、魔都に来てからは驚きの連続です。こんなに女性と関わることになるなんて思いませんでした」
「へ、へぇ~~……」
優希さんは絶対に恋愛経験が豊富だと思っていました。
でも、元カノとかいないんだ。魔都に来るまで、女性に触れたこともない……。
優希さんは過去も現在も、誰のものでもない。そのことを理解した途端、ベルの心に強い衝動が起こります。
彼氏にしたい。
付き合いたい。
いま、強烈に、優希さんが欲しい。
*
「お会計、ありがとうございました。ごちそうさまです」
「いえいえ」
女なので、もちろん奢りました。払わないという選択肢はありえません。
店外に出ると優希さんはベルを見て――。
「ベルさんの地元、案内してほしいです」
「何もないところですけど……」
どうしよう。あんまり目ぼしい場所ないんですよね、田舎なので。
う~ん……。
ベルは悩みながら、唯一町内で観光スポットらしい場所へ案内することにしました。電車と送迎バスを乗り継ぐこと、計十八分。
到着したのは――。
「グラスアート美術館?」
「はい、ガラス製品専門の美術館です。映えるので若者や観光客に人気なんですよ」
ふたりで館内へ入ります。
「うわ、すごい……!!!」
館内には、5000点以上のガラス製品が展示されています。ガラス製のチェスの駒や、1メートル以上ある砂時計など、色々なものがあります。
「すごい……! 綺麗ですね!」
優希さんは喜んでくれています。
ふたりで螺旋階段を上がっていきます。色付きのステンドグラスを通して、カラフルに色づいた光に照らされた空間です。優希さんは階段を上がりながら――。
「なんだか、映画の中に入ったみたいです」
「分かります。幻想的ですよね」
すると、二階に上がってすぐ、ステンドグラス全体が移り込むフォトスポットがあります。
「ベルさん、一緒に写真撮りませんか?」
「えっ、はっ、はいっ」
え、いいの? やったあ……!
優希さんが、すぐそばに近付いてきます。ふわっといい匂いがしました。
肩がくっつく距離で、優希さんがスマホを構えます。後ろのステンドグラスが映るよう角度を調整し――。
「優希さん、もうちょっとくっついてもいいですか?」
「もちろんです」
「じゃあ……」
ベルは、優希さんの腰へ腕を回し、ぎゅっと引き寄せました。
「!」
優希さんは、びっくりした表情を浮かべました。
普段のベルに、こんな積極性はありません。
でも今は、優希さんを自分のものにしたいという欲求が、ベルを少しだけ強く動かしています。
「と、撮りますね」
「はい」
優希さんがシャッターボタンを押し、撮影しました。
ベルは腕を放そうとすると――。
「あ、もうちょっとだけ……」
「は、はい」
優希さんに引き留められ、ベルは再び彼の腰に腕を回します。
続けて写真を何枚か取っているうち――だんだん恥ずかしくなってきました。
ヤバい、なんでこんなことしちゃったんでしょう。調子に乗り過ぎました。恥ずかしすぎるんですけど。
あ! インカメに映ってるベルの耳真っ赤なんですけど!
そして、撮影を終えて今度こそ離れました。優希さんはラインで今撮った写真を送ってくれます。
「なんか、俺たちカップルみたいですね」
「そ、そうですねっ」
カップルみたい……!
嬉しすぎますぅ……!!!
恥ずかしいですけど嬉しいですぅ!!!
「俺、お手洗いに行ってきますね」
「はい、どうぞ」
優希さんはトイレへと入っていきました。
ベルは彼を待ちながら、写真を見つめます。
ベルと優希さんのツーショット写真……。
えへへ……うれしいです……。一生の宝物です……。
**2
俺はお手洗いの鏡の前で、胸を抑える。鏡に映る俺の顔は、真っ赤になっていた。
急に腰を抱き寄せられ、嬉しさと緊張で、心臓が痛いくらいに跳ねた。
「好きになっちゃう……!」
元から好きではあるけど、もっと好きになってしまう。
まだ呼吸が苦しい。
胸がドキドキしてる。
はぁ……ベルさん……好きだ……。
後半に続く!