ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~ 作:世嗣
VRゲームで遊びたいけど死ぬまでに実現するのだろうか。
《 FLAG+所属 『ロウカク』の場合 》
「『最強』のプレイヤーが誰か?」
――はい。2083年、VRゲーム最盛の時を迎えた今、最もアクティブユーザーが多い「ヴァーチャル・スクエア」、通称「VS」でプロとして活動している「ロウカク」さんが思う、『最強』に興味がありまして。
「他の格ゲーとかじゃなくて、『ヴァーチャル・スクエア』でってことだよな?」
――はい。
「俺」
――ですよねー……。
「インタビュアーさんよ、俺の最高レート知ってるか? 2812で、全国一位だ。つまり最強は俺様だ」
――でも最近はレート戦してないですよね?
「うっ、痛いところを。だが、この前の全国大会で優勝したのは俺だ。つまり、現役最強は俺だ」
――それはそうですね。ミナト選手もかなり腕を上げてますけど、ロウカクさんの今までの戦績を考えると、最強は確かにロウカクさんでしょうね。
「かっかっかっ、事実とは言え褒められると嬉しいねえ。ま、経験が違うってところだよ」
――ロウカクさんはリリース時からプレイされてますもんね。やっぱり当時から負けなしだったんですか?
「……」
――ロウカクさん?
「一人」
――はい?
「俺が最強だと思うプレイヤー、だったな」
――え? 最初の質問ですか? それはロウカクさんというお話だったのでは?
「『今』はな。だが、あの頃、VS超初期環境だったなら、一人いる」
――超初期というと、サービス開始一年目とかでしょうか? すみません、私最近この部署に来たのであまり詳しくなくて……。
「あいつがやってたのは一年足らずだからな。チッ、あの時のこと思い出すだけでムカつくぜ」
――あの、その方のお名前とかって……。
「あー、あんなやつの話なんかしてやらん! もう知らん! じゃあな!」
――あ、あの、ロウカクさーん!?
《 Vtuber事務所「カレイドコア」1期生
「『最強』のプレイヤー?」
――はい。ロウカクさんにインタビューしていたのですが、詳しく知りたいなら他のやつに聞けと言われまして。なんでも、超初期環境にいたプレイヤーらしくて……。
「超初期環境~~~~?」
――わあ、とんでもなく嫌そうな顔。
「嫌って言うか、なんといいますか……」
――月綴さんは登録者100万人を超える大人気Vtuberの上にヴァーチャル・スクエアでもかなりの腕前ですし、もしかしてご存じなのではないかと。
「……たぶん、『あいつ』のことだろうけど、そんなこと知ってどうするんです?」
――純粋な興味です。あの『ロウカク』さんが一度も勝てなかったプレイヤーっていったいどんな人なんだろう、と。
「馬鹿ですよ。底抜けの。近寄らない方がいいです」
――そ、そんな危ない人なんですか?
「逆です。お人好し過ぎるんですよ。いつも自分じゃなくて人のことばっかでこっちの気持ちなんか考えなくて……。だいたいあの時だって……」
――あ、あのー、月綴さん?
「あ、えと、こほん。とにかく、ロクでもないやつですよ。探してもしょーもないと思います。たぶん、あいつがもうヴァーチャル・スクエアをやることはないでしょうし」
――で、ですが、可能性はゼロじゃないですよね。もしその人がもう一度ヴァーチャル・スクエアをやった場合はどうでしょう。
「うーん、あの時とは環境も変わってますし、アプデも何度も入ってるし……でも」
――でも?
「あいつが負けるところって言うのは、想像できないですね」
《 月刊E-spo編集長 相生謹二郎の場合 》
「お前さん、最近昔のことを調べてるらしいじゃないか」
――あ、編集長。
「フラゲのロウカクに、カレコアの月綴に、メロウの祝部に……おーおー、割とよく調べてんな。VR空間使ったとはいえ、よくこんだけのやつにインタビューできたな」
――別件もあったので、こう、ついでに聞いてみたといいますか……。
「みんな知ってる奴はだいたい微妙そうな顔してたろ」
――はい。なんかみんな複雑そうでした。
「そんだけ伝説だったのさ、あいつは」
――編集長も知ってるんですね。
「まーな。ヴァーチャル・スクエア初の全国大会の初代優勝チームのエース。その後はソロになっても連戦連勝。最後の最後、急に表舞台から消えるまで公式戦無敗だ。一種の伝説だな」
――物凄いですね。
「どこで、何やってんのかねえ。生きる伝説――『ヒロ』は」
◆
我ながらあまりにも終わっているステータスだった。
「これからどうしたもんかな……」
公園のベンチで空を見上げて、ため息をひとつ。こんな時でも空には変わらず星が輝いてる。
5年前、俺を育ててくれていたばあちゃんが病気で倒れた。その治療費を稼ぐために大学に行かずに就職することになった。ところがどっこいその会社が、なんというかこれ以上ないほどお手本通りのブラック企業だったのだ。
ヤバいと思ったときにはもう遅く、新人のはずの自分に山のように振られた仕事に縛られ抜け出せなくなっていた。例え辞めたとしても、高卒の自分を雇ってくれるところなんてほとんどないことは想像に難しくなかった。
いわゆる八方塞がり、という状態だ。
仕方ないからそのまま働き続けて5年、職場と病院と社宅を行き来する生活を続けていたが、この度ばあちゃんが眠るように息を引き取った。病気に苦しむ時期もあったが、最後は老衰と言っても良い穏やかなものだった。
孫としては最後が安らかだったのは嬉しかったのだが、問題はその後。ばあちゃんの死後の処理のために固まった休みを取ろうとしたときのことだった。
「休み下さい」
「抱えてる仕事はどうするの? 代わりにやる人いないよ?」
「でも祖母は自分にとってたった一人の家族でして……なんとか休みがいただけないかと……」
「じゃあもう辞めてくれない? そういう自己中な人いらないんだよね」
「はあ……」
仕事に穴をあけられないから休みは取れないということだったのに、なぜかクビになってしまった。仕事に穴をあけていいのだろうか。
まあ、でも正直ばあちゃんがもういない以上働く理由もない。
大人しく言われた通りに仕事をやめる手続きをして、その後ばあちゃんを弔って、墓のあるばあちゃんの実家に行って、そんでつい先ほど東京に帰ってきたところで、社宅から叩き出されて、今に至る。
「お金は……今までのばあちゃんのための入院費やら供養やらでかなり吹っ飛んで行っちゃったんだよなぁ」
ぐう、と腹が鳴った。ここ数日まともに飯を食ってない。最後に食べたのは一昨日の昼のコンビニのおにぎりだ。
「今日の宿、決めないとな」
おそらくネカフェだろう。流石に今日くらいは社宅に泊らせてくれると思っていたが、うちの会社のブラック具合を舐めてたな。もう令和が終わってからしばらくたつというのに、昭和の根性がまだ残っている。
「おっと……」
空腹を紛らわせるように気合を入れて勢いよく立ち上がったら、一瞬頭がくらっとした。まともに寝てないし、食べてないせいだ。早いところ腰を一度落ち着けなければ。
空腹と寝不足でぼやけた思考のままぬぼーっと立ち上がって公園から出る。
「あの、やめてくださいっ」
なんだろう。夜道とはいえここらへんは結構都会のはずなんだけど。
「おねーさんかわいいね~。どう、俺とこれから飲まない? いい店知ってるんだよ~」
「いや、そういうのだいじょーぶなんで」
「まあまあ、そう言わず。じゃあ連絡先だけでもいいからさ」
「あの、本当にやめてください」
今時、こんなコテコテのナンパやるやついるんだな。見た感じ、歩いていた女性にあそこの若い男が声をかけたって感じだろうか。男の方は赤ら顔だし、酒に酔ってるんだろうか。
「ほら、だからさ、軽い気持ちでさ~~」
「そこまでにしときなよ、お兄さん」
若い男が女性に手を伸ばそうとしたのを、俺が途中で腕を握って止めた。
「ああん? 誰だよ?」
「通りすがりです。でも、そこの人嫌がってそうだったんで」
若い男が握られた腕に不愉快そうに俺のことを見上げ、睨んで来た。なんかピアスとかいっぱいついてて目つきも鋭くて怖い。
でも、まだ若いな。たぶん大学生くらい。そのくらいじゃ俺も怯みませんよ。
「ここ、人通りも多いし、警察とか来たらめんどくさくないですか?」
「……」
「ダサいからやめなよ。ね?」
「チッ」
若い男は舌打ちをひとつすると、俺の手を払いながらドンと肩をぶつけて去っていった。
いてて。しかし良かった、帰ってくれて。なんか揉め事になると住所不定無職の男って怪しすぎるから。
じゃあさっさと荷物持って近くのネカフェでも探そう、今くらった肩パンが思ったよりもすきっ腹に堪えた。ぶっ倒れたりしないうちに腰を落ちつけて腹に何か入れなければ。
「あ、あのっ」
俺がその場から立ち去ろうとしたとき、声をかけられた。
ああ、そう言えば男に絡まれた女性がまだいたんだった。頭回ってないから忘れてたな。
「あの、ありがとうございます! 見ず知らずの私を……」
「ああ、いえいえ。たまたま通りがかっただけだったので。それより怪我とかないですか?」
「いえ、おかげ様で、怪我とか、は……え?」
声をかけられて初めて改めて女性の容姿にまで気が行った。
夜だって言うのにキャップを被ってるせいで細かい顔立ちまでは見えないが、とても綺麗な目をしている人だと思った。
あと、声がとても綺麗だ。日常生活で話すだけでこんなに綺麗に発声する人はいないだろう。そのことが凄く印象に残った。
「え、うそ、でも……」
そんな彼女は目をまん丸にして、何か言葉にならない音を口から溢してる。見間違いでないなら、
「あ、あの! あなたの名前ってもしかして成宮――」
彼女はやがて意を決したように、ずいっと俺に一歩近寄ってくる。
だが俺はその勢いにびっくりして思わず半歩下がろうとして、膝に力が入らなくてそのまま足を滑らせた。
「あ」
「へ?」
そしてそのまま見事にスッ転んだ。大の大人が。道端で。人の見てる前で。
しかも、その拍子に頭をぶつけてしまったせいで、急速に意識が遠のいていく。
あー、眠気と空腹と衝撃のトリプルコンボだ。これは耐えられないな。
「え、えええっ!? ちょ、ちょっと大丈夫ヒロくん!?」
地べたにスッ転んだ俺に彼女が焦った顔で駆け寄ってくる。
「は、はら、減った……」
「そんなルフィみたいなことを言い残してぶっ倒れる人きょうびそうそういないよ!?」
―――2083年。VRゲーム「ヴァーチャル・スクエア」が生まれ日本ゲーム界の覇権を取って数年後。
元無敗王者『ヒロ』こと成宮君尋と、人気Vtuber『
それが、伝説の再起へとつながる出会いだとも知らず。