ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~ 作:世嗣
俺がカレイドコアのVtuberになることを引き受けてから数日、俺はデビューに向けての準備でてんてこ舞いだった。
数年ぶりに履歴書を書いたり、自己アピールのためにVSの腕を見せたり、社長さんとの面談をしたり。
そして無事に依頼通りに配信者となることが決まってからは、山ほどの契約書の確認、そしてコンプライアンス研修などが課せられた。
契約書の書面でもコンプライアンス研修でも山ほどの「これはやってはいけません」があって、俺に『企業所属の配信者』となる責任の重さを感じさせた。
俺の周囲の環境が変わっていく。
その中でも、一番大きな出来事は俺のライバーとしてのアバターができたことだろう。
「これが俺か……」
VR空間。数日後にデビューを控えたカレイドコアのレンタルサーバーの一室。
先日なーちゃんと二人でVSの練習をしていたような草原のフィールドで、俺は目の前に浮かべてある姿見で自分のことをしげしげと確認する。
黒をメインカラー、赤を補色にした魔法使いのようなローブ。
少し長めの黒髪は低い位置で一つに結んであり、すっきりした落ち着いた顔立ちをしているがその中で赤い瞳が印象的だ。
俺が山下さんから聞いたコンセプトは『魔法学校の新任教師』。
名前は、『ヒロ・セブンス』。
名前は俺が昔から使っていたものと、名字はひなたと山下さんとかが話し合って付けたと聞いた。
これは、なんというか……。
「イケメン過ぎない?」
「そ~? 昔のアバターと雰囲気はおんなじじゃない~?」
「いや流石にもっと地味だったろ」
俺が思わずにそう言ったところ、近くで俺セットアップを手伝ってくれていたひなたがのんびりとそう言った。
最初は運営のスタッフの誰かがついてくれる予定だったのだが、こうした機械系にも明るいひなたが「私がやるよ~」と名乗り出てくれたので、俺の知り合いだったのもあってそのまま任されたとのこと。
「お前、0期生なんだよ? こんな雑務してていいのか?」
「友だちのお手伝いするくらいはなんてことはないってことなんだぜ~? だけど、恩に感じるというなら今度コンビニでグミを所望する~」
「そりゃどーも。高校生の頃と好みが変わってないな」
「ふっふっふ、私のグミへの想いは夜眠る前に思い出すトラウマと似ている……」
「普段忘れてるのに急に顔を出してしばらく忘れられなくなるあの現象か……あんま好きなものに使うものじゃなくない?」
『陽向ひなた』の姿は現実とは違う、メープル色のセミロングの少女。
流石に現実の方が見慣れていはするものの、それほど違和感があるわけではない。
むしろ、あの頃はこっちの姿で三人で遊ぶことも多かったから俺にとってはこの姿は『もう一つのひなた』って感じの認識なんだよな。
「それより~」
ひなたはずいっと俺の方に一歩近寄ってくると、後ろに手を組んだまま俺の顔を覗き込むように見上げてくる。
「動きにくかったりしないかな。デザインとしてはひらひらしてて素敵だと思うんだけど、VSするときに邪魔にならないかな~って」
「動きやすさ……ってこらこら男の身体をぺたぺた触るな。仮にもアイドルが」
「ひーくんは男というよりひーくんという生命体だからね。故に気にしなくてヨシ!」
「お前が気にしなくても俺が気にすんの」
俺のローブとか体とかを特に気にした様子もなくべたべた触ってくるひなたを引きはがすと、ひなたが急に何かに気づいたように自分の身体を抱いた。
たぶんロクでもないことを考えている。
「はっ、そうか……ひーくんも若き性欲を持て余す獣だものね……このままではひなたは薄い本みたいにされてしまう~!」
「女性から振られる下ネタって乗りにくいからやめない?」
「ちなみに『陽向ひなた』で鉄板のえっちなシチュエーションって同棲モノだったりします~」
「俺はそれを聞いてどうしたらいいの?」
「ちなみにミヤコは催眠モノだよ。あの子ほど『あたしが催眠にかかってるわけないでしょ』って言うのが似合う女はいませんからね……」
「だから俺は元チームメイトのそういうシチュエーションにどういう反応を返したらいいんだよ!」
「笑えば……良いと思うよ」
「お前みたいなシンジくん嫌だよ」
やれやれ、こいつ本当に脊髄反射だけで喋りすぎなんだよな。
俺はひなたとの会話を切りあげると、収納状態だった武器の棒を取り出すと手元でくるりと回した。
「よっ、と」
そしてそのまま右手だけで回し、次に肩から左腕の方に滑らせるように受け渡し、そのまま地面を強く突いた。軽くしなった棒が俺を空中に跳ね上げたのでその勢いに身体を任せると、空中で棒をまた回す。
風を切る音を立てて俺の意志通りに武器は動き、数秒後の着地の瞬間にはまた俺の右手の中に帰って来た。
うん、身体を動かす感覚はあまり変わらないな。
「おお~、お見事~」
「お粗末様でした」
ぱちぱちと手を叩いてくれたひなたに軽く頭を下げた。
今まで使っていた初期アバターとも、俺が現役のころ使っていたアバターの衣装とも違うが、動きの邪魔になったりはしない。
まあヴァーチャル・スクエアの衣装は基本的にはどんな見た目でもスペックはそれほど変わらず、当たり判定も一定だ。
なのでこうしたローブを着ているからと言って動きにくくなったりはしないのだが、テスクチャはアバター通りに描画されるので、こうしたひらひらしたパーツがあると気が散って上手く動けない、というような人もいるようだ。
俺が遊んでいた頃はそうしたVSの特性を生かしてちょっとえっちな衣装で若い男のVSプレイヤーを狩りまくってるようなプレイヤーもいたっけ。
「なあひなた」
「ん~?」
「俺のアバター、随分早くできたけど普通こんな早くできるもんか……?」
「今ってアルマギアのAIが色々補正してくれるからこういうアバターを作るの自体はあんまり難しくないんだよね~」
「そうなのか」
「昔はVtuberに3Dモデルができるってすごく特別なことだったらしいんだけどねえ。今みたいにVR空間で3Dのアバター使って配信するのが当たり前の時代だからさぁ」
「と言っても早すぎる気がするというか……。この服のデザインとか一朝一夕のやっつけ仕事感はないというか……」
まさかとは思うが……。
「ひなた、まさか
俺が問うと、ひなたは誤魔化すようにたは~と笑った。それは親にいたずらがバレた子どもの仕草に似ていた。
「にゃはは~、実はこの二日急速で仕上げました~。なので実は今ねむねむで~す」
「お前本当に相変わらず多芸だな……」
「なんでも中途半端にできちゃうだけなのですよ」
学校でもテストは常に満点で、運動神経は抜群という絵に描いたような優等生だったからな。
それだけじゃなくてピアノ、ヴァイオリンなどの音楽面はもちろんのこと、ダンスや体操も抜群にこなし、絵を描くのもめちゃくちゃ上手かった。
陽向ひなたが人気になった理由に、こうした万能性が理由にあったのは疑いようもない。
それにしても、こんなアバターのデザインできるなんてこいつ学生の頃からえらい成長してるなぁ。
ひゅんひゅんと棒を軽く回しながら身体の調子を確かめる。
「……俺がデビューしなかった場合ってどうなったと思う?」
「ん~?」
「俺が先生の役割を引き受けなかったとき。そうだな……『知り合いのVSの上手いプレイヤー』だってリスナーさんたちに説明した時の話」
「そうだなぁ」
ひなたは俺が棒を振るっているのをぼんやりと見つめつつ、俺の質問に答えてくれる。
「ななーの、割と男ファン多いからね~。ちょーっとイメージダウンして……面倒な炎上させ屋さんに目をつけられたかも~?」
「俺がデビュー発表してそれ落ち着いたか?」
「一旦はね~。『コーチで後輩だったんならそんなこともあるか』って感じかな~」
でも、とひなたが付け加える。
「その分ひーくん……『ヒロ・セブンス』には注目が集まっちゃってるねえ。『俺たちのななーのを指導するらしいができんのか!』ってなもんですよ~。
……面倒かけてごめんね。ひーくんがデビューするようなことがあるなら、もっと自由にやってくれる場をあげたかったんだけど」
「いーよ別に。こうして動く理由をくれたことには感謝してるし、そもそもなーちゃんに恩返しできるならそれでいいんだよ、俺は」
ひなたがふぅんと意味ありげに微笑んだ。
「ななーのとひーくん、仲いいよね~」
「話したろ。昔ご近所さんだったんだ」
「幼なじみってやつ~?」
「幼なじみって概念、めちゃくちゃややこしくないか? 幼いころを知ってるという意味ではそうだけど……」
まあでも『元お隣さん』って関係よくわかんないし、なーちゃん自身は幼なじみって認識みたいだから俺もそれに乗ることにしているところはある。
それで言ったら俺にとっては小中高で知り合いのミヤコの方も幼なじみになるのかもしれないが……あいつにそんなこと言ったらキレられそうだ。
「……俺、配信者としてやっていけっかなぁ」
「昔出た全国大会や、ファミレスにいったら三人全員財布の中に500円しかなかった時よりは大丈夫でしょ~」
「並べるなよ、その二つ。せめて前者だけだろ」
「ひなたとしては今みたいな感じで話せたらそれでいいと思うけどね~。別に、配信だって
「まあそうだけどもよ」
ぽちぽちとウインドウをいじっていくつかスキルを入れ替えてみる。
インターネットに上がっているランカーの動画や、攻略サイトなんかに乗っているおすすめスキル構築を調べて、いくつかは実際に使ってみたりもする。
その間、ひなたは俺の近くに座ってその様子をなんだか楽しそうに見つめていた。
その様子に、なんとなく自分の中にあった疑念というか、推理みたいなものが少し形を持った。
「……お前、もしかして俺をライバーにするタイミング、伺ってた?」
「ん~?」
だってこの流れは流石に、ちょっと俺に都合がよすぎる。
俺となーちゃんが知り合い、炎上騒ぎに巻き込まれたのは偶然だが、それ以外が少し動きが早すぎる気がする。
俺のライバーのアバターが用意されていることもそうだし、デビューまでの流れが迅速すぎる。まるで、俺がその気になった時に対応できるように、誰かが準備していたような、そんな錯覚さえ覚える。
「どうなんだ、ひなた」
俺が問いかけてもひなたは何も言わなかった。
ただその名前の通り太陽みたいにほんわかにこにこ笑ったまま、俺のことを楽しそうに見つめている。
「正直に言う気はないってか」
「女の子は砂糖とスパイスと素敵なものと秘密でできているのですよ~」
「もう女の子って歳でもないだろ……」
「私はまだ22歳だも~ん。23歳のひーくんおじさんとは違うのですよ」
ころころと楽しそうにひなたが笑ってから、ゆっくりと胸に手を添えた。
その時浮かべられた表情は、今日見たどんな表情よりも優しかった。
「ただね、ひなたはひーくんがもう一度本気になれる場所があるなら、それを応援したいの」
……本気、か。
一度VSをやめて、仲間と別れたのが俺だ。
今の俺がかつてのような『チャンピオン』と言われるにふさわしい実力があるかはわからない。
「だけど、やれることは全力でやる。『ヒロ・セブンス』として」
「……そっか。…………じゃあじゃあじゃあ!」
「うおっ」
俺の返答にひなたはどこか満足げに頷くと、パッと表情を明るくさせていきなり俺に詰め寄って来た。
こいつのテンション感の振り幅はいつになっても慣れないな。
「具体的に初配信はどんなことやるつもりなの~? 初配信は大事だよ~。やっぱり自分がどんな人かを伝える場所だからね~」
「自分を、なぁ」
「最近ウチの箱で大いにバズったのはみーみん……『ミナト・ジオアース』くんだねえ。まあ彼はかなり変人感が強かったから面白がってもらえたってところはあるんだけど……」
「俺はVS系配信者、ということになるんだろうし、やっぱ初回はそれかなって。自己紹介した後に軽く何戦かランクマに潜ってみようかなという感じだ」
俺がランクマに潜る姿を見ればある程度俺の実力もわかるだろうし、見に来てくれた人たちも俺がどんな配信者になるかがわかるんじゃなかろうか。
だが、その俺の提案はカレイドコアの0期生、陽向ひなたとしては大いにお気に召さなかったらしい。
「なんか地味だね~」
「地味て」
他に何しろって言うんだよ。俺はあなた方にヴァーチャル・スクエアをやるためのライバーとして採用されたんですけども。
「いやヴァーチャル・スクエアをやるのは悪くないんだよ? でも、こう、魔法学校に赴任した実力者って感じないじゃんね?」
「それは、そうだな……」
確かに、鳴り物入りでデビューする新人が自己紹介とランクマして終わりってすごくつまらないな。
俺はなーちゃんやステラさんのボヤ騒ぎの火消しでデビューするんだし、もっと注目を浴びるようなでかいことをしなきゃダメだろう。
なら……。
「俺がこの前一人で潜ったみたいに、〇連勝チャレンジ……みたいなのをやる、か?」
「おお、いいじゃんそれ! 面白そう!」
「そ、そうか?」
「うんうん。数字って言うのはわかりやすいし、いや、それならもういっそのこと……」
ひなたは一人でぶつぶつとしばらく呟いた後、急にびしっと俺のことを指さしてきた。
「ユー、初配信は視聴者参加型で99人抜き、やっちゃいなよ!」
……はい?
更新遅刻申し訳ない。
少し前から書き溜めなくなっちゃったので今自転車操業です。
明日からもなるべく12時更新めざします。
感想とかここすきとか毎回参考になってます。ありがとうございます。
これからも頑張って更新します~。