ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~   作:世嗣

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反響は想像以上

 

 

 

 2080年代になって『ヴァーチャル・スクエア』の配信に力を入れている事務所はいくつかある。

 

 歌やダンスがメインのアイドルVtuberを売りにしつつも、VSの確かな腕を持つ『祝部ゆずり』や『蒼真イアナ』の存在によりファンから人気を獲得する『メロウティアラ』。

 初期には『陽向ひなた』と『月綴ミヤコ』などの強豪を、近年になっては『ミナト・ジオアース』などの比較的若いメンバーがVSに力を入れ始めた『カレイドコア』。

 

 そして、現役最強との呼び声高い『ロウカク』ら複数のプレイヤーが所属するストリーマー事務所『FLAG+』。通称フラゲ。

 

 フラゲにはVtuberも所属するが、その多くは『対戦』で飯を食っている本気のプロたちであり、今の『ヴァーチャル・スクエア』の盛り上がりは彼らの尽力があったことも言うに及ばない。

 2020年代には一握りのプロたちしかできなかった『ゲームの腕で飯を食う』ということが2080年代では比較的やりやすくなっており、彼らフラゲのプロの多くはその上位層に位置していた。

 

 ヴァーチャル・スクエアにおける『プロ』と呼ばれる人たちの最低レートはおよそ1800ほど。

 初期レートが1500であり、その1500のレートを最終日に維持できるのすらマスターランク到達者の40%しかいないというのだから、そのプロの腕の凄さがよくわかる。

 

 だが、そんなヴァーチャル・スクエアのレート戦において未だ破られていない『最高レート』の記録がある。

 

 レート2812。

 多くのプロ、アマ問わずに「あれには勝てない」「あれはバケモノ」「伝説過ぎる」と言わしめるその数字。

 達成者の名前は『ロウカク』。

 

 ヴァーチャル・スクエアの帝王であり、プロプレイヤーたちのトップに立つ男。

 

 そんな男は今――――事務所で無数のサインに囲まれて沈黙していた。

 

「……もう残りは明日でいいか?」

「駄目ですよ。ロウカクさんが今日中にこのVRデバイスにサインしてくれないとファンに発送が間に合わないので」

「クソッ、なんだってそんなギリギリの日程なんだよッ」

「ロウカクさんが主宰のVS大会の調整ばっかして事務所に中々来なかったからですね」

「それも仕事だからいいじゃんかよ……」

「ええ。ですから今日まで待ったんです。ですが今日は家に返しませんよ」

「もっと色気があるときに言われてえセリフだな」

「あら、ロウカクさんは口説かれたかったんですか?」

「なんだ頼んだら口説いてくれるのか?」

「構いませんが、その場合ロウカクさんの給料一ヶ月分でも足りないくらいのフレンチの店を予約しますよ」

「軽口の代償が重すぎるだろ」

 

 はあ、とFLAG+の事務所、その一室で男はため息をつきつつ髪をかきあげた。

 染めたものではない自然な金髪。眼は鋭くツリ目がちだが、その瞳は日本人離れした青色だ。

 表情の作り方に威圧感とガラの悪さがあるものの、生来の整った顔立ちのおかげで「ちょっと怖いイケメン」くらいに留まっている青年。

彼こそが現代最強『ロウカク』。FLAG+における顔の一人である。

 

「俺のファンってもう大体VRデバイス持ってるだろ。今更こんなサイン書くの意味あるか?」

「既存ファンへのサービスに、新規層拡大。サイン付きデバイスって言うのはどちらの面から見ても嬉しいものなのですよ」

「へいへい、言ってみただけです」

「以前に比べて物分かりが良くなって頂いて助かります」

 

 隣にいる監視役のマネージャーにぶつくさ言いつつ、ロウカクは手慣れた様子でデバイスに自分のサインを書いていく。

 

(まさか、VSで食っていくって言ってもまさかここまでになるとはな)

 

 思えば、随分遠いところまで来た気がする。

 ヴァーチャル・スクエアがサービスを開始した時、ロウカクは大学生だった。

 元々ゲームは大好きで、学生の頃から様々なゲームをプレイしており、面白そうなものは発売日に購入し、仲間たちと心行くまで没頭するのが日常だった。

ヴァーチャル・スクエアもまたそうしたゲームの一つだったのだが、少しプレイするだけでロウカクはその世界に魅せられた。

 

それまでのVRゲームとは違う『自分がこの世界にいる』と心底思えるようなアバター操作の自然さと、反射行動すら可能とするような世界への没入感。

 三つのスキルと自由に設定できる必殺技の4要素からなる読み合いを含めた、戦闘の自由度。

 

 どれもそれまでのゲームにはないもので、そこで得た勝利はロウカクの脳からいけない汁をドバドバ出した。

 

 ただその世界で強くなることが楽しくて、毎日仲間と本気で取り組んで、ついには全国大会に出場するまでになって――――『彼ら』と出会った。

 

(……くだんねえことだ)

 

 心の中で舌打ちをひとつ。以前とある雑誌の記者に『最強のプレイヤーは誰か』などと聞かれてから、こうしてたまにとある人物を思い出してしまうようになった。

 

 ロウカクはがりがりと頭をかいて、そのままサイン書きを再開しようとペンを再び手に取った時、部屋の扉ががちゃりと開いた。

 

「おー、ロウカク今日もやってんね~」

「何しに来たスケコマシ。さっさと炎上して引退しろ」

「第一声からひどくない?」

 

 部屋に入って来たのは茶髪の眼鏡をかけた優男。LUdy(ルディ)という名前でプロ活動をしているFLAG+所属のストリーマーで、ロウカクとは高校からの付き合いの友人である。

 その甘いマスクと、掴みどころのないミステリアスさ、時折見せるカードゲームなどへのこだわりなどの子どもっぽさなどから高い女性人気と、それに負けず劣らずの男性の人気もある。

 

「俺は今サイン書きで忙しいんだよ。しっしっ、どっか行け。気が散るわ」

「せっかく事務所に来たから頑張っている友人を応援してあげに来た僕にひどい仕打ちだ。ね、レイちゃんもそう思わない?」

「七條です、ルディさん」

「かっかっかっ、フラれてやんの」

「うーん釣れないなぁ」

 

 ルディは苦笑いをしながら、手に持っていたたい焼きの袋を机の上においてロウカクの隣に腰かけた。

 ロウカクもロウカクのマネージャーも今の言葉がルディなりのコミュニケーションだと知っているためことさら騒ぎ立てることはない。

 

 ロウカクがルディの持って来たたい焼きをしっぽから豪快にかじりついた時、ルディが「そういえば」と話題を切り出した。

 

「ロウカク、カレイドコアの新人見たか?」

 

 ルディの質問に、ロウカクはふんと鼻を鳴らした。

 

「Vtuberの新人なんか一々確認しねーよ。コラボやら教導の予定があるならまた別だけど、別にそんな予定もねーしな」

「随分VSが強いみたいだよ。なんと、初配信で100人斬りをしたらしい」

「100人斬り~?」

 

 ロウカクが眉根を寄せたことにルディは何が面白いのか笑った。

 

「何でもVSの腕をみこまれてデビューしたらしくてね。初配信から一撃結殺モードで、挑戦してくる視聴者99人と、あの陽向ちゃんを一時間半で倒しちゃったんだってさ」

「ほぉん」

「まあ視聴者の挑戦者はほとんどゴールドかシルバー、たまーにマスターランクがいたくらいらしいんだけど、陽向ちゃんに勝ったってのはちょっとすごくない? あの子元全国三位だよ?」

「昔の話だろ。たしか、ええと……」

「二年前ですね。その時はロウカクさんが一位、ルディさんはベスト8だったでしょうか」

「そうそう。二年前。ここ一年はまともにVSしてなかったし腕鈍ってたんじゃねーの」

「厳しいね」

「事実だろ。ま、強いっつっても『Vtuberにしては』だな。ゴールドとシルバーメインのそのルールならプロなら誰でもやれんだろ」

「いや僕はできるとは断言はできないけどね……」

「できんだろ、お前なら。でも腕が立つってのは事実みたいだな。まあミナトくらい強かったらその時覚えるわ」

 

 そう言ってまたたい焼きを取ろうとしたが、気づけば隣の席に座るマネージャーがほとんど食べつくしてしまっていた。

 恨みがましくマネージャーを睨んだロウカクとそれを素知らぬ顔で受け流すマネージャーを見つつ、「じゃあ」とルディは切り出した。

 

「そのプレイヤーが、『ヒロ』って名前の棒使いで、陽向ひなたの元チームメイトだって言ったら、どうする?」

「……いま何つった?」

 

 ロウカクがルディを見た。その表情は真剣そのものだった。

 

「だから、新人の名前が『ヒロ』って言うんだよ。『ヒロ・セブンス』。今日デビューで今Xの方で話題になってる。僕も配信を見たけど―――」

「見せろ」

 

 ルディがスマホを取り出して話題の初配信を見せると、そのスマホをロウカクがひったくって再生した。

 

 手の中に納まるスマホの小さな画面の中で白い杖を武器にしたプレイヤーが戦っている。

 Vtuberらしい個性的ないでたちと、新人とは思えない手慣れた立ち回り。なんなら毎試合ごとに相手にアドバイスする余裕すら見せている。

 

()()()だ」

 

 覚えがある。この戦い方に。

 

「このクソ手癖の悪い戦い方と、バカみたいな軽業。間違いねえな」

 

 気づけば、ロウカクの口角は上がっていた。

 それは間違いなく笑顔ではあったものの、隣にいたルディが肩をすくめ、マネージャーが目を逸らすほど、獣のように獰猛だった。

 

「ついにやる気になったかよ、野良猿!」

 

 

 

 

 

 

「ふう、なんとか終えられたな……」

 

 ベッドに横たわったままデバイスを外して、天井を見上げる。

 99連戦、本当にやれるかどうかはわからなかったが、無事達成できてよかった。

 

 あとは上手く話題になって、なーちゃんやステラさんのボヤ騒ぎが鎮火するのを祈るだけだが、それは俺にはもうどうしようもない。

 上手くいくのを祈るしかないな。

 

 山下さんには初配信の後のうちあわせは後日やると話がついている。今は休んでもいいだろう。

 

 俺が心地よい疲労にベッドの上でうつらうつらして、そのまま眠りの世界に誘われようとしたとき、不意に勢いよく俺の寝室の扉が開いた。

 

「ヒロくん今すぐX見て反応して!」

「うわっ」

 

 いきなりなーちゃんが俺の部屋に入って来て、俺は思わず飛び起きた。

 

「や、やめてよなーちゃん俺が着替えてたらどうするつもりだったんだよ」

「はいはいはいはいそう言うのいいからXみて! ほら! ほら!」

「わかったわかったって」

 

 なーちゃんが慌てた様子で詰め寄ってくるので枕元に置いてあったライバースマホを使ってXを開いて、『ヒロ・セブンス』のアカウントのホームページを見に行った。

 俺は『ヒロ・セブンス』として初ポストで『今度デビューすることになりました。よろしくお願いします』みたいなことを呟いてからは、運営さんに任せきりだった。

 今回の初配信も運営さんが代わりに投稿しておいてくれたはずなんだけど……。

 

「ええと、これのどこを見れば……」

「あーもうヒロくんおじいちゃんすぎるよぉ! ほら! ここ! ここのリプライ欄とリツイートされたのをみるのー!」

「ああ、いつもごめんななーちゃん。助かるよ」

 

 俺がもたもたスマホを操作しているのにしびれを切らしたのか、なーちゃんが俺のスマホを代わりに操作してくれた。

 そこは俺の初投稿に直接返信できる所らしく、俺に対して直接メッセージを飛ばしてくれた人を見ることができた。

 

『おいお前ヒロ久しぶりじゃねえかおい? 俺に連絡なしとはいい度胸だな?』

『お久しぶりですヒロ選手。5年ぶりでも腕は衰えてなさそうで嬉しいです。デビューおめでとうございます! 今後の活躍を期待してます!』

『デビューおめでとう。おめでとうなんだけど……私何も聞いてないんだけど? どういうこと?』

 

「これロウカクさんに、祝部さんに、うお、ミヤコまで……」

 

 な、懐かしい名前過ぎる。他にも見覚えのある名前がいくつかある。

というかこれ、瞬きする間にこの初投稿のリポストの数値が跳ね上がっていくんだけども……。

 

「うわ、すごい反応。まともにまだ呟いてないのに……というかチャンネル登録者もものすごい勢いで増えてるね」

「あのー、こういうのってVtuberだと普通なの……?」

「そんなわけないじゃん! ヒロくん超話題になってるよ!」

「そ、そうなのか……」

 

 ちらっと俺のチャンネル登録者数を見たら既に20万とか超えてるのが見えた。

 

 20万って……20万ってこと? そんな人がこれから俺の配信を見るの?

 この前まで普通に会社員してたような、23の若造の喋りを……?

 

 俺、とんでもない世界にやって来てしまったのかもしれない。

 

 

 

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