ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~ 作:世嗣
日 ソロ配信雑談
月 ななのさんとのサシコラボ
火 ステラさんとのサシコラボ
水 魔法学校組三人初コラボ
木 おやすみ
金 魔法学校組練習コラボ
土 魔法学校組練習+雑談
「ふむ……」
初配信の次の日、カレンダーに書き込んだ予定を見て、なんとなくこれからの動きを考える。
午前中には山下さんとの打ち合わせがあったが、午後からは比較的時間がある。
今のうちに『ヒロ・セブンス』としてどういう動きをしていくべきかを整理しておこう。
普通だと一週間くらいはソロ配信か同期コラボなどを中心に配信をして、きちんと新規のファンを定着させたりするらしいが俺にはとにかく時間がない。
何せせっかく俺に声をかけてくれたロウカクさんやらにも「今度時間あるときに遊びましょう」と返信せざるを得なかったほどだ。
「正確に言えば俺には、というかなーちゃんとステラさんには、と言った方がいいか」
二週間後に迫るロウカクカップは3人チーム戦で出場することになる。
招待された初心者枠が固定で二人、そしてその初心者が選んだ経験者が一人という構成である。
今回招待されたのはなーちゃんとステラさんの二人で、その二人が選んだ経験者枠と言うのが俺……『ヒロ・セブンス』になる。
他の出場者はある程度既に練習を始めているらしく、既になーちゃんたちはそういう意味である程度の出遅れが生じているみたいだ。
「でも、これだいたい一日の配信が長くても3時間くらい? もちろんスタッフさんとの打ち合わせとかもあるけど、それも長くても拘束時間は2時間ってところ……」
つまり、新人ライバー『ヒロ・セブンス』の就業時間は一日平均五、六時間ということになる。
前職で朝から晩まで残業上等で働きまくっていたことを考えると天国みたいな職場環境である。
「は、話が上手すぎる……この職業ってめちゃくちゃ薄給だったりしないのか……?」
俺は山下さんと打ち合わせした時に貰った給料形態の書類を取り出すと薄目で読んでみる。
「俺の今のチャンネル登録者数がこんだけで、昨日の配信時間がこんだけ……俺の給料は総視聴時間を基準に支払われるということだから……」
……なんかくらくらしてきた。一旦細かいことを考えるのはやめよう。
もちろんこれは俺が新人で任されている仕事が少ないことや、初回の配信が
俺……いや、『ヒロ・セブンス』の人気はチャンネル登録者数100万を超える大人気Vtuber『陽向ひなた』のチームメイトということで注目され、そこに『100連勝』というわかりやすい話題性で火をつけたことで生まれたものだ。
俺本人―――『成宮君尋』の人間性がこの人気に関わっているかは、正直あまり自信がない。
「まあでも引き受けて、覚悟を決めたからには全力でやらないとな」
俺を拾ってくれたなーちゃんに恩を返すために、金を稼がないとな。頑張ろう。
「うっし。夜の配信まで今の環境の精査をして、あとは二人のVSのプレイ動画を見直したりしましょうかね」
軽く伸びをしてまずは軽く散歩でもして身体をほぐそうと思った時、ふと窓の外ではしとしとと雨が降っているのに気がついた。
「そっか、もう雨の季節か」
ここ数年間仕事に追われていたため、あまりこうした季節の訪れを感じたことはなかったが、なーちゃんの家に来てからこうした当たり前のことに気づくことが増えた気がする。
温かいご飯を誰かと食べること。何気ない雑談をすること。
きちんと眠って、きちんと起きること。
誰かに「いってらっしゃい」「がんばって」と言ってあげたり、言ってもらえたりすること。
朝起きた時に「今日はいい天気だ」と嬉しく思ったりすること。
入院してばっかりの頃のばあちゃんはまだちょっとは元気だったけど、最後の方はもうあんまり話せなかったからな。
こんな当たり前のことに、すごく救われる気分になることがある。
「まあいつまでもこんな風に甘えていてはいけないんだけどさ」
なーちゃんはいい子だから「いつまででもいていいよ」なんて冗談めかして言ってくれているけど、それを馬鹿正直に信じる程俺も子どもではない。
ここを俺の居場所だと思ってはいけない。
「……そういえば、なーちゃんはちゃんと傘持って行ったかな」
朝ご飯を食べた時にはまだ雨は降っていなかった。
ちゃんと気を付けているのなら折り畳み傘なりなんなりを持っているのだろうが、なーちゃんが果たしてちゃんと持って行っているだろうか。
「ちょっと怪しいな……」
なーちゃんはいい子だが、どことなく抜けている時がある。
時間は……そろそろ大学が終わって帰ってくる時間だな。
「散歩ついでに駅まで傘持って行ってみるか。持ってるならそれはそれでいいしな」
そうと決めたら家を出よう。
雨のせいで少し肌寒いから薄手の上着を羽織って、玄関に置いてあるビニール傘と黒い傘(なーちゃんがないと不便でしょ?ってくれた。いつかこの代金も返さなければ)を持って外に出た。
「降ってるなぁ」
雨は、好きだ。
誰もが傘をさす世界では否応なく一人になることを強いられて、誰もがうっすらとした孤独を纏っている。
しとしとと耳に響く雨の音も、歩くたびに足元で跳ねる水も、水のカーテンがかかって不明瞭な視界も、やっぱり嫌いじゃない。
誰もが孤独なら、それが身近であることを殊更に寂しく思うこともない。
駅が近くなり、俺の横をランドセルを背負った小学生たちがすれ違っていく回数が増えてきた。
最寄りの駅まではだいたい5分とちょっとくらい。ちょうどいい散歩である。
さてそろそろ駅に着くけどなーちゃんはいるかな。まだならいったんスマホに連絡でも入れて……あ。
「あ、なーちゃんだ」
俺がポケットのスマホを取り出そうとしたとき、駅前の軒下で空を見上げているなーちゃんを見つけた。
なーちゃんはどんよりと重い雲を恨めしそうに見つつ、ため息交じりで近くのコンビニに歩き出そうとしているところだった。
「なーちゃん」
「え、ヒロくん? なんで?」
なーちゃんを俺が途中で呼び止めると、なーちゃんは目を丸くした。
俺はそれに対して、今俺が使うビニール傘とは別の黒い傘を軽く持ち上げてみせた。
ぱっとなーちゃんの顔が明るくなった。
「迎えに来てくれたの? ごめん、ありがとう!」
「ちょうど散歩に行こうと思っていたところだったから。役に立ったなら良かったよ。ほい、傘」
「私がビニール傘で使うよ? こっちの方が大きいんだし」
「居候の分際で良い方使ったら胃痛で俺死んじゃうからね。ほら受け取った受け取った」
俺は半ば強引に傘を押し付けると、なーちゃんは「相変わらずだなぁ」と呟いて傘を受け取ってくれた。
そして傘を広げると俺の隣に並んだ。
帰るまでの道すがら、俺たちは並んで歩いた。雨のせいか家までの道に人気はあまりなく、時折すれ違う人に道を譲れば、問題なく二人で並ぶことができた。
「大学、どうだった?」
「いつも通りかなぁ。先生の講義受けて、友だちとお昼食べて、それでまた講義受けて。空きコマは図書館で勉強して……みたいな?」
「お昼は学食で食べるの?」
「その時の気分かな? 中庭のベンチで生協で買ったパンとか食べることも多いよ」
「ほぉ~」
「やっぱ、大学、行ってみたかった……?」
「うーん、どうだろう……?」
あの日、ばあちゃんのために大学に行くことを諦めたことに後悔はない。ないが……興味がないかと言えばそれも嘘になる。
俺がもし大学に行くことができて、それでVSを続けていたら、俺も今ロウカクさんのようにプロになっていたのだろうか。
あんまり、想像つかないかも?
「自分が大学に行ってる姿をあんまり想像できないな……なんかバイトはたくさんしてそうか?」
「今のヒロくんなら今からでも大学通えるんじゃない? どう? 私の後輩、目指してみる?」
「なーちゃんの後輩ならもうなったじゃん。これからお世話になりますよ」
「ふっふっふっ、これからヒロくんパシっちゃうか。おい成宮……鼻でラーメン啜れよ……」
「セリフがジャイアン過ぎるだろ」
「これは僕のパパのお抱えシェフに作らせたものでね! お前のような小食でも食べられること間違いなしさ!」
「スネ夫らしき人もちゃんといるなら呼ばれる名字は成宮ではなく野比であるべきじゃない?」
二人で目線を合わせてくすくすと笑うと、なーちゃんは「でもさ」と切り出した。
「冗談じゃなくて、ヒロくんはこれから色々やりたいことをやってもいいと思うよ。だってせっかくVtuberになったんだもん! 初配信もすごかったしさ!」
なーちゃんはそう言って俺の数歩先を進んでから、振り返って俺を真正面から見つめた。
「ヒロくんは今まですごく頑張って来たから、これからはうーんと幸せになっていいと思うよ」
「俺はもう結構幸せだよ」
「ちっちっちっ、まだまだだよ。私ヒロくんがせっかく同じ箱のライバーになったんだからやりたいこと山ほどあるの!」
なーちゃんは指を折りながら、楽しそうに未来のことを語る。
「やっぱホラー配信の見守りとかやってみたいし、せっかくなら歌ってみたとかも出したいな~。というか他の先輩とかとコラボしてるのもみたいな。ヒロくん、スマブラとか下手だったから絶対撮れ高あると思うんだよね」
「VSが最初だぞ?」
「そ、それもやりたいことだから! 私をちゃんと強くしてくれるんだよね?」
「(曖昧な笑顔)」
「なんでそこ誤魔化すの!? 信じてるからね!?」
「俺は自分にやれるか日々不安ですわよ」
「うっそだ~。ヒロくんだってちょっとはわくわくしてるでしょ?」
……まあ、それは。
「まあ、流石に少しはね」
初配信は、正直楽しかった。
高校生の頃
高校に入ってからは部活をやっていなかった俺にとっては、それは青春の形そのものだった。
そんなゲームをまた本気でやるチャンスができて、自分の全てを使って難題に向かっていくことができた。
それは、やっぱり楽しかったのだ。思わず今週の予定をカレンダーに書き出してしまうくらいには。
俺の答えになーちゃんは満足そうに微笑んだ。
「でしょでしょ? 配信者って大変だけど、すっごく楽しいんだよ!」
なーちゃんは俺の答えを自分のことのように喜んで、そして一歩俺に歩み寄って来た。
傘同士が少しぶつかる。雨のカーテンが作る孤独を破り、俺だけの世界に彼女は入ってくる。
「だから、私に断りなくどっか行かないでね」
それは、どういう意味だったのだろうか。
小さい頃ご近所さんだった年上の幼なじみを心配する言葉だったのか、これから同じ会社で働く後輩に向けての先輩からのエールだったのか。
ただ、きっとなーちゃんが俺のことを思った言葉だというのは、わかった。
「ちなみに、ひなた先輩のところに行くのダメだからね」
「別に行かないよ?」
「ひなた先輩はアイドルなんだから! いくらヒロくんでも過剰なスキンシップは許さないからさ……!」
「めんどくさいオタクが出てるな……」
「私はひなた先輩の子どもみたいなものだから。私のVtuberとしての全てはあの人から始まっているから……だからあの人には最強不変のアイドルでいてほしい……」
わなわなと震えているなーちゃんを見て、俺は思わず笑ってしまった。
「はは」
あまり大きくない笑い声だったと思うのだが、なーちゃんはそれを聞き洩らさずにまたもやジトーっと俺のことを半目で睨んで来た。
「いま私のオタクっぽさを笑ったね……? 言っとくけどこれ普通だから! カレイドコアでは私みたいな陽向チルドレンがいて――――」
「ごめんごめん、なーちゃんをバカにしたつもりはなかったんだ。ただ」
「ただ?」
雨は、好きだ。孤独になれるから。誰にも平等に訪れるそれを、寂しいことだと思わなくていいから。
でも、なーちゃんが近くにいると、そんなこと思う暇すらない。
「なーちゃんといると雨が好きな理由がまるで別になってしまうなって」
「?」
なーちゃんは俺の言葉にぴんと来ないように首を傾げた。
俺は彼女に「なんでもないよ」とだけ声をかけると、家への道を歩き出した。
さあ、このあとは俺の二回目の配信だ。楽しんでいくとしよう。
「……ちなみに雑談配信って何話すのが鉄板なの? なーちゃんは何やった?」
「ん~、私は初回配信でけっこう面白がってもらえたからマシュマロ100本ノックやったかな~」
「マシュマロを……? 俺中学の時バスケ部だったけど、その場合はマシュマロスリーポイントとかやるのか?」
「どんな炎の男? いやマシュマロっていうサービスがあってね……」