ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~ 作:世嗣
なーちゃんとの初コラボが終わって次の日。俺は夕食の片づけが終わった後、なーちゃんに質問した。
「スーちゃんがどんな子か?」
「うん。なーちゃんから見てどんな子なのかなって」
あと一時間後にはステラさんとの初コラボが待っている。小さいころから知っているなーちゃんと違ってステラさんと顔を合わせたのは一度だけ。
それもあのボヤ騒ぎの対策について話し合う場所でのことだったから、まともに人柄を掴めるほど話せてはいない。
だからそのために同期だというなーちゃんにステラさんの印象を聞いておきたかったのだが……。
「へへ、私にスーちゃんのことをね」
なーちゃんは食後のプリンを食べつつ、やさぐれた表情で「へへ」とそっぽを向いた。
「私のような雑魚VS配信者に聞かないでひなた先輩とかに聞いたらいいんでヤンスかね」
「昨日負けすぎてヤンス舎弟化してる……」
「だって見てよ! またヒロくんが私のことボコボコにするからそこ切り抜かれて笑いものだよ!」
ほら!となーちゃんが見せてきたスマホの画面に表示されているのは、昨日の俺となーちゃんの配信の切り抜きだ。
タイトルは『ななーのヴァーチャル・スクエア雑魚ぽんシーン傑作選その2』。いつぞやに見たなーちゃんのVS動画の待望の続編である。
「ウッウッウッウッ……私は所詮カレイドコアVS団のお荷物なんだよ! 上手に、プレイできない……!」
「最後の方は上手くなってたと思うけどなぁ。俺ともかなりやれるようになっていたし」
「めちゃくちゃ縛り入れたヒロくんにね! このスパルタ鬼畜教師ィ~~~」
「配信者のなーちゃんとしてはリスナーさんが面白がってくれたのは嬉しいんじゃないの?」
「それは嬉しいけど……せっかくヒロくんと遊べるんだからもっと上手くやりたかったというか……」
「最初から上手くやられたら俺が先生やる必要ないんだけれどもね」
「そうじゃないんだって! こう、ヒロくんに対してダサいところを見せ過ぎたくなかったというか、なんといいますか……」
ごにょごにょ言いつつプリンの残りをちゃっちゃか食べたなーちゃんがヨヨヨとしおれていく。
「もう貝になりたい……」
思ったよりも凹んでいる。
俺としては昨日なーちゃんをボコったのはなーちゃんの実力を俺が実際に確かめるのと、なーちゃんの思考力とキャパシティを知りたかったからちょっと無理難題を出したのだが、そのせいで自信を喪失させてしまったようだ。
そもそも新人大会に呼ばれているんだから、下手なことは気にしなくてもいいと思うんだけど、ちょっと悪いことをしてしまったかもしれない。
「カレイドコアの中でステラさんのことを一番仲良いのはなーちゃんなんだろ? だからなーちゃんの所感を教えてほしいんだ」
「配信で見た通りだと思うよ。スーちゃん裏表ないタイプだし」
「俺なーちゃん以外の配信者見たことないからよくわかんないんだって」
ぴくっとなーちゃんの耳が動いた。
「見たことないの? スーちゃんの配信」
「うん。ないね」
「この前の配信ではスーちゃんのVSの配信見たって言ってたじゃん」
「そりゃ切り抜きとかはね。でも配信をちゃんと見たことはないし、人柄の面とかはわからないからなーちゃんに聞きたかったんだよ」
「ふ、ふーん。私のだけね~」
「俺ってあんまり配信とか見てこなかったからあんまり長時間動画見ると疲れちゃってさ。なーちゃんの配信はリスナーさんも優しいし、何よりなーちゃんが楽しそうだから俺も楽しくみられるんだけどね」
「そ、そっか。そ、そっか~……」
なーちゃんは顔を上げるとにへらっと表情を緩めた。
「そっかそっか。ヒロくんが私しか頼れないというなら、それは仕方ないね。このスーちゃんと仲良しの私がヒロくんに色々教えてあげよう!」
「ほんと? ありがとう」
「いいのいいの。スーちゃんのいいところは私も知ってほしいしね。じゃあちょっと紅茶淹れて来るから待ってて」
急に機嫌よくなったなーちゃんがぱたぱたと台所に行ってティーセットで紅茶を淹れ始める。
なんか急に機嫌よくなった理由はわからないけど、まあ機嫌が直ったなら何よりだ。
今度ステラさんと一緒にコラボするときは少し優しくすることにしよう。
しばらくしてトレーの上に紅茶を淹れて帰って来たなーちゃんは俺にティーカップを渡しつつ、ステラさんの話を始める。
「スーちゃんは私と同じ『マギティック魔法学校』の生徒なんだ。ほら、公式サイトにもそう書いてあったでしょ?」
言われて俺はスマホを操作して、カレイドコアの公式サイトのステラさんのページを開いた。
ええとなになに……。
『マギティック魔法学園の学園長の孫娘。天性の魔法の才能があるが、本人はやや不真面目ぎみ。人間の世界のゲームに夢中で、配信もその一環で手を出した。人懐っこくて誰にでも可愛がられてしまう魔女っ娘の卵。』
「俺にとっての上司の孫みたいな感じになるのか……」
「魔法学校のお嬢様ってことだね~」
「ちなみにこの学園長って人は実在するの?」
「それはノータッチで行こう、ヒロくん。『マギティック魔法学校の教師とか他の生徒ってどうなってるの?』みたいな具体的な質問に関してはぼかすしかないんだよ」
「そうなんだ……」
「好きに答えると、スーちゃんが『魔法学校は箒で飛んで20分くらい』という証言と私の『魔法学校は魔法を使った転移でしか登校できない』という証言が食い違うなどの事故が起きるからね……」
「なんで先に設定のすり合わせをちゃんとしなかったの?」
「なので今はスーちゃんは箒で20分くらい飛んだあとに転移魔方陣まで行ってから学校に向かっていることになっています」
「学園長の孫娘なのにそんなめんどいことしてるんだ……」
改めて公式サイトのステラさんの立ち絵を見てみる。
ちょっと幼めの顔立ちと、現実ではお目にかかれないようなふわふわの金髪。アメジストのような紫紺の瞳。服装はなーちゃんと同じ魔法学校の制服だが、ロングスカートのなーちゃんに対して、ステラさんのスカートは少し短めだ。
言葉にするなら『ロリっ子魔法使いギャル』……みたいな感じだろうか? いや我ながらロリっ子魔法使いギャルってなんだ。
「ステラさんはなーちゃんより年下なんだっけか」
「そだね~。設定的には私が6年生で、スーちゃんが5年生。あ、ちなみに8年制ね、魔法学校」
「なるほど」
「リアルでもかなり若いんだよ。スーちゃんはリスナーにも公表してるけど、まだ高校生だからね~」
「高校生!? すごいね」
「だから結構みんなにかわいがられてるんだ。私とは仲良しの友だちって感じだけど、ミヤコ先輩とかはママが同じだし妹みたいに扱われてるよ」
高校生でVtuberか。アルバイトみたいな感覚なんだろうか。
なーちゃんと同じ4期生ということだから、デビューしてから今年で2年目ということだ。
学校行きながら配信するってかなり超人的な気がしてくるな。
「でもVSの腕はピカイチなんだよ。もっと時間をかけてプレイしてればマスターランクに行けてただろうって言われてるらしいし」
「ああ、それはなんか切り抜きとかで見たかもな。なんか才能が凄いとか」
「うん。なんたって、スーちゃんたちってVRネイティブの世代だからねえ」
「ああ、そういえばステラさんたちくらいの年代から教育にVR空間での学習が取り入れられてるんだっけ……」
「私はぎりぎりカスってないんだよねえ」
フルダイブ型のVR技術は2050年代にある程度確立し、2070年代には一部の企業などで一般化された技術である。
多くの企業は未だおっかなびっくりだったものの、教育現場では比較的早くVRの技術は活用され始めた。
例えば理科の時間。高解像度の現実の再現世界を作れば、火を使う実験を現実と同じように、けれど事故の危険性はゼロで行うことができる。
社会科の歴史の授業。教科書や資料集に掲載されている現実にある建造物をVR世界に作り出し、実際に自分で歩きながら身を以てその作りなどを考察する活動を取り入れる。
そうしたただ教室にいるだけではできない体験を子どもたちに体感させることができるVR技術は教育現場では重宝され、特に小学校では子どもたちの学力向上のために役立ったと聞く。
そしてそういうVR技術に子どもの頃から触れていた世代は、それより上の世代よりもVR世界で活動することに「違和感」が少ない。
VR技術が確立されていない時代を生きた大人が本能的に感じてしまう「これは自分の世界ではない」「これは自分の身体ではない」という違和感をあまり感じず、仮想空間で活動しても疲れにくく、現実と違う身体であるアバターもまた自分の身体の延長線上と思いやすい。
そして、そうしたVRの恩恵を受けて育った世代を「VRネイティブ世代」と呼んだりするのだ。
確かに、ステラさんが今高校生だというなら小学生の頃はちょうど全国的にVR技術が試験運用され始めた時期と重なるものがある。
「そうでなくてもスーちゃんはちっちゃいころからVR機器に触れてたらしいから、特にVSではぬるぬる動くよ~」
「なるほど……」
これは動画で見るだけではわからなかった情報だ。なーちゃんに聞いてよかったかもしれない。
ステラさんの動きから俺も学ぶことが多いかもとは思っていたが、これは明確に俺がVSをやっていた5年前にはいなかった世代だ。
まずは彼女がどんな風に立ち回るかから知らないと……ん? なんかなーちゃんが俺のことを疑わし気に見てる?
「なーちゃんどうかした?」
「くれぐれも、スーちゃんのことをいじめたらダメだからね」
「いじめないし、そもそもなーちゃんもいじめていたわけではないからね」
「ふーん」
あまり信頼されていない気がする。ひどいや。
「あのね、なーちゃん昨日のはね――――」
昨日のことを改めて弁明しようとすると、ライバー用スマホがてんてこなり始める。
スマホを取り出して見ると、そこには今日のコラボのためにあらかじめ連絡先を交換していたステラさんからの通話らしかった。
俺は少し慌てて通話を取ると、俺が言葉を話すよりも早くステラさんは開口一番とんでもないことを言って来た。
「もしも――――」
『あの、ヒロさん! ヒロさんのことお兄ちゃんって呼んでもいいですか!?』
「はい?」
お兄ちゃん? なんで?