ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~   作:世嗣

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並列思考は曲者

 

 カレイドコアのレンタル鯖、いつもの草原で俺となーちゃんはVSの練習をしていた。

 

 夕飯を食べてしばらく。俺もなーちゃんも今日の配信予定まで2時間ほど時間があったため、少しVSを練習したいとなーちゃんの方から切り出してきたのだ。

 

「それで、スーちゃんの質問に対して『ヒロお兄ちゃん』はなんて答えたの、さっ!」

「直接会ったときになんでそう呼びたいのか教えてくださいって答えたよ。ハイ右」

「断らなかったんだ、ほいっ!」

「何かしたいことがあるのならそれを無下にするのも良くないだろ?」

「ふ~~ん」

 

 俺は喋りながらも、ボクサーのトレーナーがそうするように素早くミットを動かすと、そこに向かって『光の弾』が命中する。

 

「ほら、無駄口叩く余裕あるならペース上げるよ。次右。そして左。で、上」

「うひ~。脳が超混乱する~~」

「魔法を武器にするって決めたんなら頑張らないとな」

「決めたんだけども~!」

 

 俺たちが今やっているのは()()()ミット打ち。

 パンチングミットを手に装着した俺が手を動かすので、そこに向けて魔法で生み出した魔力弾を正確に命中させるという練習である。

 なーちゃんは数メートル離れたところから杖を振りながら、自分が作り出した桃色の魔力弾を二つ動かしていた。

 

「これ難しすぎるよ~」

「『魔法』を上手に使うには強固なイメージと、『並列思考』ってのが大事なんだ。この魔力弾ミット打ちはそれを鍛えるのにとても向いてるんだよ」

「そ、そうは、いっても、さぁ!」

 

 なーちゃんは武器に『魔法』を選んだ。

 扱いが難しく、一度失敗した経験もあるし避けると思っていたが、「魔法を武器にしようと思う」と言った時のなーちゃんは真剣だった。

 ならば俺はそれを全力で指導し、理想に近づくための手助けをするだけだ。

 

「よし、ちょっとペース上げるよ」

「う、ぬわー!」

 

 俺が手を動かすたびに、なーちゃんがイメージで操作した魔力弾はそれぞれ俺のミットに命中し、また俺が手を動かすと再びそこを狙って来た。

 上手く中心に当たれば気持ちの良い快音が、中心を外せばガスッというような鈍い音が聞こえる。

 

 いまのなーちゃんだと快音3の鈍い音が7くらいの割合かな。

 

「よし、一旦ここまで」

「ふー……」

 

 俺が掛け声をかけると、なーちゃんが杖を下した。

 そしてふーと細く息をつくと、今度は自分の杖を見てから大きなため息を吐き出した。

 

「中々うまくやれないなぁ」

「なーちゃんはちょっと並列思考が苦手なところはあるだろうからね」

「ちょっと心当たりがあります……」

「自分が信じることには一直線。それがなーちゃんだからね」

「いま私のこと一つのことしか集中できないぽんこつって言った?」

「言ってない言ってない」

 

 なーちゃんは決して馬鹿じゃないし、視野が狭いわけでもない。現実でも運動はできる方だ。

 でもそんななーちゃんがゲーム面では「ぽんこつ」と言われることが多いのは、この並列思考の苦手さがあると思っている。

 物理武器を使う場合はこの並列思考を強く求められることはないのだが、『魔法』は他の武器よりも強くこの並列思考を求めてくる。

 

 例えば俺の知る中で一番の『魔法』使いである陽向ひなたは、初めて遊んだ頃からこの並列思考が高いレベルでできていたように思う。

 

 自分のイメージで空を飛ぶ『飛行』のアクションスキルを使いながら、これまた自分のイメージで形のないエネルギーを操る『魔法』で攻撃を行う。

 言葉にするだけでもややこしい。俺も魔法はある程度は使えるが、ひなたのような精度で『魔法』と『飛行』を併用することはできないだろう。

 

「今やっているミット打ちは同時に二つの魔力弾を操ることになるから、自然と並列思考を鍛えることができる練習法なんだよ」

「それはわかったけど、本当に私上手くなってる?」

「最初はミットにも当たらなかったのが、今は割と狙ったところにあてられるようにはなったでしょ?」

「それは、そうかもだけど」

 

 一番最初にミット打ちをした一時間前はまともに魔力弾を操れなかったが、今はちゃんと二つを操作して的を狙えるくらいにはなっている。

 これは間違いない進歩だ。

 

 なーちゃんはそれでもイマイチ納得してないように、「あのさ」と恐る恐るといった様子で口を開いた。

 

「今自分でやってみて記憶が繋がったんだけど、ひなた先輩ってこのミット撃ち魔力弾30個くらい同時に使ってやってなかっ……た……?」

「まあ、ひなたはそれくらいやれるだろうね」

「うわーん! 私が2個でひーひー言ってるこれを30個で!? 道が遠すぎるよぉ!」

「いやそれはひなたがおかしいだけだからね」

 

 プラチナランクくらいの『魔法』使いだと10個くらいでやれたらそれだけで褒められることだ。

 30個なんて同時に操作できるひなたを基準にしない方が良いと思う。

 

「こんなことで私、スーちゃんとヒロくんと一緒に大会になんか出られるかなぁ」

 

 しょんぼりと呟いたなーちゃんに、俺は思わず笑ってしまった。

 

「む、なんで笑うのさ。私真剣なんだけど?」

「いや、なーちゃんは真面目でがんばりやさんだなって思って」

「そう?」

「うん。近道を探そうとせずに、こうして俺の出した練習に真面目に向き合ってコツコツやれるのはなーちゃんの偉いところだよ」

「そ、そっかな?」

 

 なーちゃんがちょっと居心地悪そうに杖を手で弄んでいる。

 

「そうだよ。だって、なーちゃんこれ初心者大会なのに、『下手なことをネタにしよう』とか思ってないでしょ?」

「え? うん。だってリスナーのみんなが私の上達を応援してくれてるし、それに応えようとしないのはあり得ないでしょ?」

 

 こてん、と心底不思議そうになーちゃんが首を傾げた。

 

 ああ、本当に真面目で他人のことを思える子だな、と改めて思う。

 

 確かになーちゃんは『ロウカクカップ』の招待選手ではあるが、今回の大会は『初心者大会』なのである。

ランクもプラチナ未満の選手を集めているという話であるし、ある意味『下手なこと』が話題になることもあるだろう。

 他の出場選手のことは詳しくはないが、中には思いっきり派手に失敗することで大会を盛り上げようとする人もいるんじゃないだろうか。

 

 『配信者』としてその姿勢が間違っているとは思わないし、そうした人がいてもいいとは思う。

でも、なーちゃんがそういう道を目指すのではなく、『リスナーさんが応援してくれるんだから応えよう』とまじめに努力する道を選ぶ人間であることが、俺はとても嬉しい。

 

「なーちゃんはまだVSは上手くないけど、きっとそのうち上手くなる。こんなに頑張ってるんだから」

「ヒロくんを助けられるくらい上手くなれるかな?」

「その日を俺は期待してるよ」

「そっか。なら、もう少しがんばる」

「その意気だ」

 

 俺はにこっと笑うと、ミットをまた構え―――魔法を使って3個目のミットを空中に浮かべた。

 

「よし、では今度はミット3つでやろう」

「え?」

「時間ないしどんどんチャレンジしないとね?」

「こ、このスパルタ教師ぃ……!」

「やらない?」

「やるよぉ! やればいいんでしょぉ! こんなの勢いでやれば――――にゅわーっ!」

「あ、コントロール外れた弾がなーちゃんの腹部に命中した……」

 

 なーちゃんが自分の魔力弾で吹き飛んでいってしまったので、俺はそれを慌てて追いかけた。

 そこあたりでどちらも配信まで残り30分というところになったので、今日のところは練習を切りあげることになった。

 

 俺となーちゃんは草原で人ひとり分距離を開けて座って、お互いに今日の配信の告知や枠立てなどを始めた。

 

「なーちゃんはこのあとは?」

「普通にゲーム配信かな~。今やってるRPGがラスボス手前なんだよね。きっと全クリは近いね」

「なるほど。ラスボス戦は三日くらい先か……」

「私がラスボス前で三日躓くの前提なのやめてね?」

 

 これまでの配信を見てる感じそのくらいはかかると思うんだ。

 

「そういうヒロくん……いや、『ヒロお兄ちゃん』はこれからたのし~スーちゃんとのコラボだね~」

「そう呼ばせるつもりはないってば」

「でも断らなかったんでしょ?」

 

 じとーっとなーちゃんが俺を半目で見つめている。

 

「ヒロくんってさ、年下に甘いよね」

「何か含む意味合いがあるように感じるね」

「ロリコンなの?」

「直接言って欲しいって意味でもないからね」

 

 なんてこと言うんだ。

 

「でも小さい頃のちょー生意気な私にも優しかったしなぁ。この5年間恋人もいなかったっぽいし……やっぱそういう子の方が好きなの?」

「違うって」

 

 俺は苦く笑いながら頬をかいた。

 

「ただ、自分がしてほしかったことをしてるだけだよ」

「ヒロくんが?」

「うん。年上の人がちゃんと自分の話聞いてくれるのって嬉しいじゃん? だから俺もなるべくそうしようとは思っているんだ」

 

 俺はまだ23歳だが、今まで一応社会に出て働いてきた『大人』である。

 そんな俺から見ればなーちゃんもステラさんもまだまだ子どもだが、そういう相手だからこそ俺はちゃんと敬意をもって向き合いたいのだ。

 

 俺の答えを聞くと、なーちゃんはさっきまでの少し不満げな顔が嘘のように嬉しそうな表情に変わった。

 

「ヒロくんは変わらないなぁ」

「子どもっぽいって言ってる?」

「ずっとかっこいいってことですよ」

 

 冗談めかしたその言葉。だが、流石に面とむかって言われると居心地が悪くなる。

 

「からかわないでよ」

「いえ~い、ヒロくんから一本~」

 

 ぶいとピースサインと共にウインクを飛ばしてくるなーちゃん。

 今回は俺の負けです。

 

「ほんじゃ~そろそろ配信準備したいし私は部屋を出ようかな」

 

 立ち上がったなーちゃんがぽんぽんとスカートの裾を伸ばす。そしてログアウト操作をしようとしたとき、それを遮るように視界の下の方にぽこんっと通知が出てきた。

 

「ん、ステラさんだ。なーちゃんがいるけど入室してもいいかって」

「いいよいいよ~。ならせっかくだしスーちゃんに挨拶してからログアウトしよっかな」

 

 ならステラさんの入室を許可しよう。

 以前俺が誤って配信に映ってしまったこともあって、レンタル鯖のルームへの入室は部屋主の許可がいるように変わったのだ。

 

 ええと、ボタンは……これだな。ぽちっと。

 

「あ、なのちゃん!」

「いえ~いスーちゃん!」

 

 俺が許可のボタンを押すと、草原の空間のテスクチャの一部が崩れ、小柄な少女が現れた。

 少し幼めの顔を彩るアメジストの瞳。身に纏う黒を基調とした魔法学校の制服は、豊かな小麦のようなふわふわの金髪を引き立てるようだった。

 

 ステラ・マギティック。

 今日の俺のコラボ相手の先輩であり、俺の生徒である。

 

 まず入室してなーちゃんの姿を見つけたステラさんは、そのまま抱き着いてなーちゃんを見上げるようにしてにこっと笑った。

 

「なのちゃんVSの練習してたの?」

「わ、バレちゃった。よくわかったね~」

「えへへ、だってなのちゃんだもん。きっとそうしてるだろうな~って。どう? 上手くなった?」

 

 ステラさんの問いかけになーちゃんが芝居がかった様子でふっと結んだ髪をファサっと後ろに払った。

 

「ふっふっふっ……先ほどヒロくんに上達を褒められたところだよ。私がスーちゃんを抜いちゃう日も近いかもね?」

「わ、ほんと!? ボクそれすっごい楽しみかも!」

「そ、そう?」

「ボクなのちゃんと一緒にVS配信またやりたかったんだ! ほら、前はボクが上手くなのちゃんに教えられなかったから……それのリベンジがしたかったの!」

「うっ、あ、圧倒的無垢のオーラに殺される……!」

「なーちゃんが飛行石見た時のおじいさんみたいになってるな……」

 

 俺がぼそっと呟いたら、ぱちっとステラさんと目が合った。

 

 彼女はぱちぱちと何回か瞬きをすると、ぱっと太陽に見たいに明るく笑って今度は俺の方にタタタと走り寄って来た。

 

「ボク今日お兄ちゃんとコラボできるの楽しみにしてたんだ! ボク色々助けてもらったのにちゃんとお礼も言えなかったしさ」

「あ、いや気にしないでくださいステラさん。俺もこうして就職できて助けられたところもありますし」

「あはは、敬語やめてよ~。ボク年下だし、先生から敬語使われるなんて、なんだかもぞもぞしちゃうよ」

「いや、でもステラさんは先輩ですし……」

 

 思いのほかぐいぐい来るステラさんにたじたじになってしまうが、このまま押されるわけにはいかない。

 俺は咳ばらいをひとつすると、少ししゃがんんでステラさんと目線を合わせた。

 

「すみませんステラさん。あなたと距離を作るつもりはなかったんですが、ただあなたは先輩ですし……」

「でもお兄ちゃんの方が年上だよ?」

「あと、それです。なんで俺のことをお兄ちゃんって呼びたいんですか?」

 

 俺が質問すると、「えーっと」とステラさんが何かを思い出すように少し上の方に目線を向けた。

 

「実は同窓生と一緒にお兄ちゃんに謝罪の意をひょーするためにどういうことをしたらいいか話し合ったんだ」

「どうそうせい?」

「ボクのリスナー! そしたらお兄ちゃんって呼ばれて嬉しくない男はいないからそう呼ぶといいって言われたんだよね。だから、ヒロさんはお兄ちゃんだよ? OK?」

「全然OKじゃないです……」

 

 俺は眉間を揉む。

 何がどうなったら謝罪の意を示すためにほとんど初対面の男を「お兄ちゃん」と呼ぶことになるのか。

 これ絶対リスナーさん方が俺の反応を見て楽しむために悪ノリしただろ……。

 

「いいですか、ステラさん俺をお兄ちゃんと呼ぶのはやめてください。それに教師と生徒なわけですし適切な距離を―――」

「もしかして、迷惑なことしちゃった?」

 

 俺の声が真剣なトーンなのを感じ取ってか、ステラさんが少し眉を下げた。

 

「ごめん。ボク、ちょっと世間知らずなところがあるらしくて、時々変なことしちゃうらしいんだ。もし嫌なことをしてたんだとしたら、本当にごめんなさい」

 

 そしてぺこりと頭を下げてくる。

 ああ、いやそこまでしてほしいわけではなくて……ええと、参ったな。

 

「あ、いや謝るほどではないというか。ステラさんみたいな方が慕ってくださるのは嬉しいというか……」

「ほんと!? じゃあお兄ちゃんって呼んでもいい!? ボク一人っ子だからちょっとそう呼ぶのにも憧れがあってさ~! そうだ、せっかくだしボクのこともステラって呼んでよ!」

「いや、それは……」

「だめ、だった?」

 

 水に濡れたように澄んだ紫紺の瞳に見上げられ、俺はかろうじて言葉を絞り出した。

 

「だめ、じゃないです……」

「やった!」

 

 その場でぴょんっと跳んだステラさんに、俺は思わず天を仰いだ。

 なんかこの人に頼まれると断り切れない不思議な魔性がある気がした。

 

 そして、そんな俺の耳に冷たい声が聞こえてきた。

 

「ヒロくんやっぱロリコンの傾向はあるよね」

「やめてくれ」

 

 ぼそっと呟かれたけど俺にはちゃんと聞こえてますからね?

 

 それにステラさん高校生だし言うほどロリではないだろ。

 

 




 
作中年齢順(登場済みキャラ)

40歳くらい
山P(山下)

25歳
ロウカク

23歳組
ヒロ・セブンス(成宮君尋)
月綴ミヤコ
陽向ひなた(瑠璃川明里)(ただし自称永遠の18歳)

22歳
祈月シアラ

19歳
心重ななの(白瀬なぎさ)(大学二年生)

18歳
ステラ・マギティック(高校三年生)
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