ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~   作:世嗣

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ステラ・マギティックはつまんなそう

 

 俺の弁明を受けても尚「ふーん」みたいなことを言っていたなーちゃんがいなくなってから、俺とステラさんはコラボのための準備を始めた。

 と言っても、今日の配信枠はステラさんが作ってくれているので、告知ポストを終えてしまえば、俺はVSの細かい設定を確認しつつぼんやりとしておくしかすることがないのだが。

 

「そういえばさ~」

「はい?」

 

 配信枠を立て終わったステラさんが俺の隣にその小さな体を抱え込むように体操座りをすると、むふふと含むように笑った。

 

「お兄ちゃんとなのちゃんって仲良いんだねえ」

「ええと、それは……」

「あはは、隠さなくてもいーよ! なのちゃんの幼なじみなんでしょ? この前なのちゃんから事情説明の時に聞いたよ~」

「あー、えと。あの、それ配信では……」

「隠しておくよ。ボクもそこあたりの分別はついてますからね」

 

 俺がしどろもどろに答えるのにくすりと笑うと、今度は「あーあ」と呟いて草原に倒れ込んで空を見上げた。

 

「ボクもお兄ちゃんみたいな幼なじみ欲しかったな~。それでなくてもそういう友だちでもなんでもさ~」

「ステラさんにはそういう人はいなかったんですか?」

「ん~、Vtuberやるまであんま自覚なかったんだけど、ボク実はけっこう箱入り娘だったみたいなんだよね。だから、あんまりそういう人はいないのです」

 

 たはは、とステラさんはなにかを誤魔化すように笑った。そしてすぐに別の話題を俺に振って来た。

 

「ね、ね。このコラボってだいたいどのくらいやる予定?」

「え? まあ、二時間くらいじゃないかな。ななのさんもそのくらいだったし」

「そっかー」

 

 俺の返答に対して、すぐに興味を失ったかのようにぼーっと空を見ている。

 

「お兄ちゃんって、VS楽しい?」

「え? まあ、はい」

「あはは、そりゃそうだよね。なんたって、元チャンピオンだもんね! 楽しくなきゃやらないよねー」

「ステラさんは楽しくないんですか?」

「いや、楽しいよ? 楽しいと、思う……かな?」

 

 なぜか自分で首を傾げつつ答えるステラさん。

 

 確かステラさんの今のヴァーチャル・スクエアのランクは『ゴールド3』。

 今回の大会に呼ばれた初心者プレイヤーとしてはかなり高い方だが、その代わりに最後にプレイしたのが3カ月前らしい。

 しかもヴァーチャル・スクエアの配信自体も、それほどたくさんしたわけじゃないと聞く。

 

 明るい人だと思う。人当たりも良いし、人懐っこい。気づけば懐に入られていて、無碍にすると心が痛む。

 にこにこ笑っているだけでこちらまで楽しい気分になる。

 

 ただ、俺の勘違いでなければ、VSのことを語るステラさんは、なんだかすごくつまらなさそうな、そんな顔をしている気がした。

 

 この配信で、俺がこの子に何かしてやれるといいんだが……。

 

 

 

 

『【ヴァーチャル・スクエア】大会に向けての練習開始の巻なのだ【カレイドコア/ステラ・マギティック/ヒロ・セブンス】』

 

 

「う~、今日は下から登場! ステラだよ~!」

 

――――――

〇今日は下からだー!

〇下からひょっこりありがとう

〇かわいい~

〇久しぶりのVS回だ~

――――――

 

「ではでは、昨日のなのちゃんに引き続き、今日は先生としてあの人を呼んでるよ~。じゃあどうぞ!」

「みなさんこんばんは。5期生のヒロ・セブンスです。今日はよろしくお願いしますね」

「はーい! ということで今日は先日デビューしたばっかりのヒロお兄ちゃんにVSのことを教わりまーす!」

 

――――――

〇やったー!

〇お兄ちゃん呼び!?

〇昨日の配信で決まったやつで本当に呼んでるのおもろい

〇マジでやったんだ……

〇ヒロ先生めっちゃ苦い顔してるじゃん

――――――

 

「ステラさん、ほんとにお兄ちゃんで行くんですか?」

「え、行くよ?」

「やっぱりやめませんか? 俺たちは生徒と教師なわけですし」

 

――――――

〇セリフがインモラルすぎる

〇ヒロ先生、えっちだ……

〇スーちゃんの迷いない判断

〇まあステラだから含むところなく素直に呼びたいのはわかる

――――――

 

「やっぱ迷惑、かな……?」

「うっ、いえそういうわけでは……」

 

 しょんぼりと肩を落とすステラさん。これをやられるとどうにも弱い。

 ステラさんが狙ってやっていないのはわかっているんだが、俺はこのままで無限にステラさんに押されてしまう。

 

「いいですか、ステラさん。私のような若輩がステラさんにお兄ちゃんと呼ばれるなど……」

「?」

「ええとですね……」

 

 きらきらした目でステラさんが俺を見上げてくる。

 まずい。断りにくくなってしまった。こうなったらなんかリスナーさん方が、こう、いい感じにステラさんを説得してくれないだろうか……。

 

 ちらっ。

 

――――――

〇逃げるなよお兄ちゃん

〇いいと思うよお兄ちゃん

〇ヒロ先生からこういう反応を引き出したかった

〇対ひなたでこの人振り回される方が面白いのはわかってた

――――――

 

 ダメだな。これみんな俺の敵だ。俺は孤立していた。

 

「……はあ、仕方ないな」

 

 俺はため息をつくと、少ししゃがんでステラさんと目線を合わせた。

 

「お兄ちゃん扱いは今日だけにしてくれるなら、呼んでもいいよ」

「え~? 今日だけ~?」

「これでも最大限譲歩してるんだ。あまり困らせないでくれよ、ステラ」

「ん~、あんま困らせたらかわいそうだし、ならそれで! よろしくねお兄ちゃん!」

 

 嬉しそうに俺の手を握ってステラさんがぶんぶんと振った。

 

――――――

〇ちっ、今日だけか

〇なんか年下の扱い手馴れてる

〇ちゃんと目線合わせてるの良いね

●心重ななの なんか楽しそうだね二人とも

〇ななーのさん!?

〇今自枠で雑談をしつつこの配信を見ているななーのさん!?

――――――

 

「あ、いまなのちゃんいたね」

「今日RPG配信やってるはずでしょ君は。さっさと自分の配信に戻ってください」

 

――――――

●心重ななの 親友と先生がなんか兄妹プレイしてるところを見せられる側の気持ちにもなってほしい

〇草

〇ごもっとも

〇ななーのの脳が!

〇これがNTRか……

――――――

 

「ななーの明日は三人で遊ぼうね~」

「これ俺がド変態みたいな扱い受けてるの全然納得できないんだけど、これ俺に釈明の機会って与えられますか?」

 

――――――

〇そこにないならないですね

〇残念ながら……

〇お前がお兄ちゃんになるんだよ!

――――――

 

 くそう……なんでこんなことに。

 

 その後、軽くステラさんとリスナーさん方と雑談がひと段落すると、俺たちはVSの本格的な練習へと移った。

 

「で、ななのさんにはだいぶ基礎的なことを教えたんだけどステラさんの場合は」

「む」

「……ステラの場合は、もうある程度戦い方は決まってるんだったか?」

「うん!」

 

 俺が呼び捨てで言い直すと、ステラさん……ステラは機嫌よさそうに頷いた。

 

――――――

〇ステラにこにこやん

〇一人っ子って言ってたもんな~

〇同期も女の子だし、あんま男の先輩と絡むこともなかったしな

――――――

 

「じゃあアビリティ構成、俺に今見せてもらうことってできるか? もちろん秘匿したいならそれでも構わないよ」

「全然いいよー。じゃあ視聴者にも見えるように出しちゃうね」

 

 ステラが出現せた半透明のウインドウをぽちぽちと操作すると、俺たちの目の前にステラのVSのアビリティ構成が投影された。

 

 アビリティ構成の情報はVSに本気で取り組むプロたちにとっては生命線だ。

 スキル一つがバレるだけでも相手に対処されやすくなる。必殺技が公開されると、予測できないはずの奥の手が、相手のプランに組み込まれてしまう。

 そのためVSプレイヤーの中には極端に自分のアビリティ構成の公開を嫌う人もいるのだが、ステラは割とサクッと公開してくれた。

 

NAME 『 ステラ・マギティック 』

武器 『 刀 』

武器スキル 『 魔法付与(雷) 』

 →武器に雷の魔法属性を付与する。命中時確率で相手にスタン効果を付与する。

パッシブスキル 『 自動回復 』 

 →HPバーが半分になった時一定時間HPが僅かずつ自動回復する。

アクションスキル 『 超反応(ソニックムーブ) 』

 →致命傷になりそうな攻撃を自動で回避する。クールタイム長。

必殺技 『 転身:雷光(スタイル:ケラウノス) 』

 →10秒間自身を雷にして移動し、攻撃することができる。制限時間が終わると、一定時間スピードが大幅に落ちる。

 

――――――

〇見慣れた構成だ

〇前やった時からはいじってなさそう

〇それでもスーちゃんは勝っちゃうからすごいわ

〇最初の方から使いこなしてたもんなー

――――――

 

 なるほど。これは最近流行りの『魔法剣士』スタイルってやつだな。それに汎用性の高い回復スキルと回避スキルを入れて、生存能力を高めてるみたいだ。

 

 VSでは『必殺技』が個々人で自由に設定できるため、その環境の変化の仕方は従来の格闘ゲームなどに比べると、固定化しづらい。

 初期環境で『飛行』を入れた『魔法』使いが流行ったように。その次にそれを狩るための狙撃手が流行ったように、VSの環境は変化していくものなのである。

 

 そして今の流行の一つがステラの使う『魔法剣士』と言われるスタイル。

 通常イメージ次第で自由に操ることのできる『魔法』を、『武器』への付与効果に限定することで、より扱いやすくしたものである。

 もちろん近接戦闘をしつつ魔法を使う分の体力の減少を管理したりと、魔法剣士は魔法剣士で扱いが難しいはずなのだが、今はこういう構築で異様に勝ってる人がいるみたいだからな。

 みんなそれを真似したり、検証している時期なのだろう。

 

「にしても、魔法学校に通ってるのに刀使いなのか。アリなの?」

「ふふーん、かっこいいっしょー」

「まあかっこいいけど、魔法巫女で和風のななのさんが純粋『魔法』使いになりそうで、純正魔女っ娘っぽいステラさんが魔法刀使いって、なんかすごいソワソワするな」

「ソワソワしますか」

「うん。ななのさん風に言えば『俺とお前が逆だったかもしれねえ……』って感じだ」

「あ、なのちゃんの使うなんかよくわかんない言葉だ。お兄ちゃんもそれ喋るんだ」

「ウッ、そ、そうか……こういうネタってそりゃ若い子にはわかんないよな……」

 

――――――

〇先生が胸を抑えてしまった

〇やめてくれステラ。その技は俺に効く

〇ステラ、若い子らしく20年代アニメ全然知らない

〇ななーのがあそこまで詳しいのが変なんだよ

〇陽向チルドレンの弊害、ですかね……

――――――

 

「ま、まあいいや。このアビリティ構成にした理由とか聞いてもいいか? 何か教えるならやっぱそこを聞きたいんだ」

「理由って言われても、特にないよ?」

 

 こてん、とステラが首を傾げる。

 

「ないことはないだろう? VSは何より『自由』なゲームなんだ。何かこのアビリティ構成にするにあたって、考えたことはあるだろう?」

「考えたことって言われても、攻略サイトおすすめのやつ選んだところもあるし……」

 

 攻略サイト。てことはこれは……。

 

「これステラが自分で考えたやつじゃないのか?」

「まあ、そだね」

 

――――――

〇VS初回の時リスナーに勧められたやつでもある

〇あの時めっちゃミナトが勝ってる時期だったしなぁ

〇しょっぱなからめっちゃ物覚えよかった

〇サクサク勝っててすごかった~

――――――

 

「へえ、初回でもかなり勝ったんだな」

「いちおうボク『VRネイティブ』とか言われてる世代ですから? まあ、そこらへんはすいーっとね」

 

 そう言って笑うステラの顔は、配信前にVSのことを話したときのようにどこかぎこちない。

 

 なるほど。攻略サイトとリスナーに教えて貰ったスタイルなのか。

 だからやたら完成度が高いし、ステラの適性もあってサクサク勝てた、と。なるほどなるほど。

 

「なるほどね……」

「な、なにさ。急にボクのことをしげしげと見つめて」

「いや、ステラって正直VSつまんないでしょ?」

「え、ま、まさか~」

 

――――――

〇ヒロ先生!?急に何いいだしてんすか!?

〇ぶっこんだなあ!

〇めっちゃスーちゃん目が泳いでる……

――――――

 

「いや、ええと、なんというか……」

 

 じっと見つめて来る俺からの視線から逃れるように、ステラの視線がふらふらと動く。

 たぶん企業勢として「これ言ってもいいのかな」とか悩んでるんだろう。

 それはまるで怒られるのを恐れる子どものようで、俺は少し笑ってしまった。

 

「あの、ボク、正直に言っても、怒らない……?」

「怒らないよ」

「でもこう、大会前の企業勢としては言えないこともあるといいますか……」

「ロウカクさんははじめたてのニュービーが何言っても気にしないと思うよ。そういうのが見たくて呼んでるんだろうし」

 

 大会主催者のロウカクさんは多分新人が何言ってもギャハハって笑うだけなんじゃなかろうか。

 

「だから、素直に教えてよ。俺はステラの考えていることに寄り添って、もっと君がVSを楽しめるようにするのが俺の役目だと思っているから」

「強くすることじゃなくて?」

「もちろんそれも仕事だ。でも、楽しみながら強くなるのがダメだって理由はないだろ?」

 

 俺が目線を合わせてそういうと、ステラはぱちぱちと何度か瞬きをした。

 紫紺の瞳が俺のことをしばらく見つめ、やがてステラはゆっくりと、ひとつひとつ言葉を選んで話し始める。

 

「今の構築は同窓生のみんなと考えたから愛着あるけど、ボクの力があって勝ってる気はしない……というか。そもそもボクみたいな初心者がいきなり連勝できてしまうようなシステムなら、VSって正直スキルの相性ゲーなのかなー……とか思ってたり……」

「なるほど。VSのシステム面への不信みたいなものか」

「いや、いいシステムだと思うんだよ!? でも、ボク今までの人生でゲームやってこなかったから『自由度が楽しさだ』って言われても、ぴんと来ないと言いますか……」

「あはは、正直に言ったなぁ」

「ちょ、ねえ! お兄ちゃんが言えって言ったんだよ!?」

「ごめんごめん、胸を叩かないでよ」

 

 抗議するように胸をぽかぽかと叩いて来るステラさんに謝りつつ、俺は少し考える。

 

 ステラの今の悩みは、『ヴァーチャル・スクエアの楽しさがわからない』ということだ。

 なーちゃんみたいな『ヴァーチャル・スクエアが上手くプレイできないから苦手になった』のではなく、ある程度VRゲームに適性があり『序盤に勝て過ぎてしまった』ことが、彼女にVSに対するつまらなさを与えてしまった。

 

 なら、俺が大会に向けてステラに教えることは、シンプルにこれだろう。

 

「ステラ、俺と軽く試合をしてみようか」

「ボクと先生が? あ、昨日なのちゃんとしてたみたいなやつ? それだったら武器とスキルがもう決まってるボクには意味ないんじゃない?」

「いいや。ななのさんとはルールを変える」

 

 俺はステラと目線を合わせたまま、にこっと笑いかけた。

 

「ステラ、俺が今から同じスキル構成で戦うから、30試合の間で一試合でも取れたら、君が欲しいもの何でも買ってあげるよ」

「なんでも?」

「うん。なんでも」

 

 さあてVSの楽しさを知らない子どもに、今からわからせてあげるとしますかね。

 

――――――

〇急にパパ活みたいなこと言いだしたな……

――――――

 

 やめてね?

 

 

 

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