ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~ 作:世嗣
ステラとの配信が終わってから、俺はにこにこ笑顔のなーちゃんとリビングで隣り合って座っていた。
なーちゃんはチョコレート色の髪を上の方でくくっており、服装ももうすぐ寝るよって感じのもこもこのパジャマだった。
「二人でスマブラするのも久しぶりだねぇ」
「そうだね。俺が中学生の頃は、たまになーちゃんに誘われて遊んでたよね」
「懐かし~。あの頃からヒロくん下手だったけど、今も全然変わんないね」
「なーちゃん以外とやることあんまなかったから上達しようがないんだよ」
配信が終わってから一時間くらいしたところで、なーちゃんから「今会えるかな?」みたいな連絡が来た。
こんな時間にそんな誘いが来ることは今までなかったので少し悩んだものの、「いいよ」と返信したら俺の方の部屋になーちゃんががちゃがちゃとゲーム一式をもってやって来て、今に至る。
「ほれほれ、ボコボコにしちゃる~」
「げ、ちょ、それは酷いって」
「わはは、VSでボコボコにされたヒロくんに仕返しするチャンスを逃さないでか」
「く、むう……」
俺の使うよちよち歩きメタナイトがなーちゃんの使うカービィにボコられる。別になーちゃんが上手いというわけではないと思うが、俺が下手過ぎる。
やっぱ体感的に操作できるフルダイブVRゲームじゃないアナログモノは苦手だなぁ。
「にしても、こんな時間になーちゃんからゲームに誘うなんてどうしたんだ?」
「ああ、いやぁ。ヒロくん、スーちゃんとのコラボ随分楽しそうだったと思ってね」
「――――スゥーーッ」
「あはは、どうしたのそんな急に背筋を伸ばして」
は、ハメられた! これはゲームの誘いではない! 俺のキャパをゲームでいっぱいいっぱいにして行う尋問行為だ。
「い、いやそんな楽しいとかは……普通にコーチしただけだし……」
「自分のことをお兄ちゃんって呼ばせて年下の女の子いじめるのがコーチ行為なんだ」
「事実はそうなんだけど切り抜き方に悪意があると思わない?」
「まあスーちゃんがかわいいのはわかるけど、なんかライン超えてる気がしませんか?」
「違うんだ……俺もそうしたかったわけではなくて、こう、配信の流れと言いますか……」
ぷよぷよと動いたカービィが俺のメタナイトを掴んでガンガンと地面にたたきつけている。
「私が配信終わって一息ついてX見てたら、なんか『ななーのNTR』みたいなワードが目に入ってね……なんだろーって見たら、なんか『ヒロ先生に親友を寝取られたななーの』みたいに言われてるわけですよ……」
「まったくもってそんな事実はないからね?」
「配信終わったらなんか幼なじみに親友を寝取られてたんだけどこれ流石に私かわいそうじゃない!?」
「あ、俺のメタナイト負けた」
俺をフィールドから吹き飛ばしてゲームを決めると、なーちゃんがなんか泣きそうな顔でスマホの画面を見せてくる。
「ねえ見てよこのファンアート! 魔法学校組でヒロくんとスーちゃんが仲良くなって、私が一人脳破壊されてるファンアート! 既にかなりリポストも回ってる! どう思う!?」
「俺の配信が終わってまだ一時間くらいなのにこのレベルのファンアートが描かれるのがすごいって思った」
「あ、それはわかる~。こんな短い時間でイラストを描いてくれるリスナーさんってすごいよね~。ありがたい限りですよ」
「うん。俺がこの界隈に来てから驚いたのはそこかな。ファンの熱量が高いというか……非公式wikiの充実度とかもそうだし」
「あれすごいよね。私が昔ちょろっと言ったことかもソース付きでまとめてあったりとかしてるんだよ。年に一回くらい非公式wikiを見に行く配信をしてるんだけど、それも面白くて……じゃなくて!」
なーちゃんがすっと正座で俺の前に座り直したので、俺も同じように正座で向き合った。
「リスナーさんは知らないけど、私、ヒロくんの幼なじみなんですよ」
「そうですね」
「それなのにヒロくんは私の扱いがスーちゃんより距離があるのは酷い気がします」
「そんなことないって」
「でも私は『ななのさん』で、スーちゃんは『ステラ』だよ!?」
「それは仕方ないだろ。幼なじみですって明かすわけにもいかないんだし」
「それはそうだけど、それでも私とスーちゃんはおんなじ生徒って立場だよ?」
「話の流れでそうなってしまったと言いますか……なーちゃんを不快にしたいわけじゃなかったんだ。ごめんな」
俺の申し開きを聞いても、なーちゃんの機嫌は良くならずぷいっとそっぽを向いてしまう。
「やっぱヒロくんはスーちゃんみたいな元気で天然っぽい子が好きなんでしょ。ひなた先輩もあっち系だもんね」
「ひなたとステラ、言うほど似てるか?」
「似てるでしょ。愛嬌と元気でリスナーさんを明るくする感じ。私にない天性のアイドルの気質って感じだよ~」
「天性のアイドルなぁ」
「そうだよ。あの二人のアイドルソング系の歌ってみたとか結構な再生数あるからね」
「そうなのか……」
まあ、なーちゃんの言わんとすることがわからないわけではない。
『陽向ひなた』というライバーはカレイドコアにおいては常に最前線を走って来たライバーなのだといいう。
最初は個人勢だったがVS大会で得た知名度もあり人気を獲得。多くの人を惹きつける人柄と、根強い活動の成果もあって『カレイドコア』という事務所を作るまでになった。
そんな彼女には、VSでの戦闘スタイルと同じように、まばゆい光が満ちている。
『ステラ・マギティック』というライバーは、その若さもあってリスナーさん方からは妹みたいに可愛がられている面もあると以前なーちゃんが言っていた。
いつも朗らかに笑っていて、彼女がいるだけでその場の空気が明るくなる。人懐っこい性格と、間違ったら素直に謝れるところもあって、好意を抱かずにはいられない。
どちらも多くのファンを獲得する人間性があるだろうし、その分人気なのも頷ける。
「でも、俺はなーちゃんの配信が好きだけどなぁ」
「……はへ?」
「なーちゃんの配信は確かにアイドルっぽくはないかもしれないけど、その分すごく近い感じがする。なんだろう、クラスメイトと話してるみたいな? 俺との配信の時もリスナーさんに語り掛けたり、コメント拾ったりしてるじゃん? ああいう近さを感じるのはなーちゃんの強み……って、どしたのなーちゃん」
そんな急に顔を覆って、深くため息をついたりして。
「いや、いまヒロくんにめっちゃ褒められて急速に機嫌が直った自分のちょろさ加減に反省をしていたところです」
「俺は思ったことを言っただけだぞ?」
「あーもうだめだめ。ヒロくんは急速に私の自己肯定感を満たしすぎだって~」
はあ、となーちゃんがため息をつくと足を崩して、もぞもぞと膝を抱えて座り直した。
「まあもうスーちゃんのことはいいや。もともと半分くらいは冗談だったしね」
「そうなのか? ならなんでわざわざ俺の部屋に?」
「それは……そうだなぁ」
そして膝を抱えたまま、ちょっと上目遣いで俺を見つめて微笑んだ。
「ヒロくんが私たちみたいな昔の知り合いでなくても楽しそうにコラボしてたから、それが嬉しくてさ。どんな顔してるんだろ~ってちょっと思ったんだ」
「そっか。どんな顔してた?」
「んー、なんかカレーお腹いっぱい食べた後みたいな顔?」
「どんな顔だよ、それ」
「あはは、どんな顔だろ~ね」
楽しそうになーちゃんが笑ってから、目を閉じつつゆったりと呟いた。
「ヒロくんがふつーにカレイドコアに馴染んでる感じなのは嬉しいなぁ。ヒロくん、なんだかどっかに消えちゃいそうだったから」
「俺は幽霊か何かか?」
「ここ五年は半分そんなもんだったでしょ。聞いたよ~? 私と同じようにひなた先輩とかミヤコ先輩にも連絡とってなかったんでしょ~?」
「ぐ、い、痛いところを……」
「今度焼肉行くんでしょ? ミヤコ先輩にどう謝るか決めておいた方がいいと思うよ~?」
「一発殴られるのは覚悟してるよ……」
「一発ですめばいいけどね……」
「なーちゃんの予想だと一発じゃ終わらないのかよ……」
その後、俺たちは他愛もない話をして、またちょっとスマブラをした。
ちゃんと遊ぶのは中学生ぶりだったけど、なんだか俺もなーちゃんも懐かしくて、結構夢中で遊んでしまった。
俺のメタナイトがカービィに切り刻まれたり、俺のリンクがゼルダに吹き飛ばされたり、俺のドンキーコングがヨッシーに永遠に食べられたり、俺の勇者がしずえにボコられたりした。
いやずっと俺なーちゃんに負けてるな?
そして一時間くらい遊んだところで、そろそろいい時間なのでここで終わろうという話になった。
「じゃあ、また明日……って言ってももうすぐ日付変わっちゃうけど」
「ならなおさら早く帰りなよ。明日も朝一から講義なんでしょ?」
「お母さんみたいなこと言う~」
いーっと嫌そうな顔をしてゲーム機を抱えて戻っていくなーちゃんに、ふと思い出したことを尋ねた。
「そういえばなーちゃん、買い物とかどうする予定? そろそろ材料なくなりかけてたから買いに行きたいって言ってたよね」
「ああ、そういえばそうだっけ」
「この前は俺が買いものについて行ったけど、なーちゃんさえよければ日中俺が買い出しとかは終わらせておくよ?」
「んー、でも一緒に私も……いや」
にまーっとなーちゃんがいたずらを思いついた子供のように目を細くした。
「じゃあヒロくんに買い物に行ってもらおうかな。じゃあスマホにパパッと内容送っちゃうね?」
そう言って開いていた片手で素早くスマホを操作したなーちゃんは俺のスマホに買い出しリストを送って来た。
ぴろんと通知がしたので内容を確認したが……なんかこれ長くない? LINE画面の上から下までびっちりなんですが……。
「ヒロくん……『お兄ちゃん』ならそれくらい余裕だよね? なんたって『お兄ちゃん』だもんね」
「なーちゃん、あのその呼び方は……」
「いやぁ、ちょうど具材たっぷりの本格シチューとか作りたかったんだけど、私まだお酒買えないからね。お酒とか、調味料とか、あとは足りなかった日用品とか色々買ってもらおうかな」
「別にそれはいいけど、ちょっと多くない?」
「いいじゃん。どうせ私に養われてるヒロくんは一円も出さないんだし」
「ウッ!」
そ、それを突かれると、俺は死んでしまう……。
「か、返すから……もうすぐカレイドコアから給料が出たら返すから……」
「今出せないんじゃあな~~」
……なーちゃん、ちょっと意地悪だな。
「なーちゃん、やっぱステラのことまだちょっとは怒ってるよね?」
「全然怒ってないよ~?」
絶対嘘だ……。