ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~   作:世嗣

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オフ会は久しぶり

 

 

 デビューしてから一週間、俺はなーちゃんやステラとの大会に向けての練習配信をする日々を行っていた。

 普通の新人だとこんな特定の人と絡み続けたり、一つのゲームをやり続けることもないらしいのだが、俺は事情が事情だ。大会が落ち着くまでは、こんな感じでVSに触れ続ける日々が続くだろう。

 

 練習開始から一週間も経てばステラも新しいスキル構成にも慣れ、なーちゃんの方も随分魔法の使い方が()()()ようになってきた。

 リスナーさんたちもその上達の様子を楽しんでいるようだし、配信としては上々だと思う。

 

 そしてそんな日々の中でも、当然のように俺に休みは存在する。

 Vtuberという職業は基本的には毎日配信することが求められるようだが、カレイドコアは全体的に週に一度ほどの休みを設けるライバーが多いとのことだ。

 先輩の中には8時間配信を週に8回やるモンスターもいるらしいが、俺にはそれは真似できない。

 いや、前職の時は俺も週6で会社に出てたりしてたしできなくはないのだが、山下さんに「そんなことライバーに強制させてたらウチの事務所は草も残さず炎上しますよ」って止められた。

 

 なのでしばらくの間俺の配信ペースは一日に平均で3時間ほどの配信を週に6回の予定となっていた。その間で適宜ミーティングなどは入るものの、大会が落ち着くまではこの感じで行くそうだ。

 

「待ち合わせはここでいいんだよな」

 

 そして今日はそんな休みの日の夕刻である。

 俺は待ち合わせ場所である人で賑わう駅前で、人を探してあたりを見回した。

 

「集合時間の10分前だし、ひな……明里(あかり)はともかく綾音(あやね)の方はもう来てそうだが」

 

 そう、今日は以前の俺の雑談配信で話していた旧『アクシア』メンバーでの焼肉会の日なのだ。

 あの雑談配信の後、俺が恐る恐るひなた経由でミヤコに連絡を取ると、爆速で『アクシアメンバー』というDiscordサーバーが誕生。そのまま恐ろしい手際の良さで三人の予定のすり合わせが行われ、今日の焼肉会が企画された。

 

 俺が言い出しっぺであるから店も選び、三人分奢れるようになけなしの預金を下ろしてきたが、これから三人で会うと思うと少し緊張する。

 

 なにせ、集まるのは5年ぶりである。

 明里(ひなた)とはカレイドコアと関わりを持ってから何度か顔を合わせたとはいえ、綾音(ミヤコ)に関しては高校卒業以来一度も話していない。

 最後に話したときも、俺が勝手にVSを辞めて就職することにかなり腹を立てていたし、正直どうやって話しかけたものか悩ましい。

 

 詳しいことは直接会って話そうと言われたから、Discordではまともに話せてないからな……。

 

「今日会ってくれるってことは、顔も見たくないって程ではないとは思うんだがな」

 

 さて、じゃあそれっぽい人はいるだろうか。

 俺がきょろきょろとあたりを見回していると、ふと少し遠くでチャラそうな男に絡まれている女性が目に映る。

 気になって少しその男性の方に行くと、彼らの話が耳に届いた。

 

「なあなあ、君かわいい服着てんね。いま暇だったりしない?」

 

 チャラそうな男性はへらへらしながら目の前の女性に話しかけていた。

 目の前にいる女性は、黒と白のふわふわふりふりの服――――いわゆる「地雷系」と言われる服装だ。かわいらしい服装だが、白とさえ言えそうな色素が薄めの金髪と、ツリ目がちな目が少し雰囲気に触れがたさのようなものを与えている。

 

「人待ってるから大丈夫です」

「ええ~? マジで~? それ、俺になったりしない?」

「……」

「ちょ、無視やめてよ~!」

 

 彼女は最初は男を適当にあしらっていたが、やがて手に持っていたスマホから目を外し、目の前の男をきろりと睨んだ。

 

「人待ってるって言ってんでしょ。あんたには興味ないからどっか行って」

「うお、服に反して態度きっち~。でもそれ嘘でしょ? おねーさん見た感じもう30分はここにいるし」

「はあ? ずっと見てたの?」

「いや~待ち合わせ相手に振られちゃったのよ。だから、寂しいもの同士でどうよ?」

「……アンタね」

 

 へらへらと笑う男にいい加減付き合い切れないとでもいうように、彼女が目をさらに鋭くさせて――――いや、流石にもう無理だなこれ!

 

「綾音! 待たせて悪かった!」

 

 俺はそう言って地雷系の彼女―――今日の待ち合わせの人物の一人であるカレイドコア所属ライバー月綴(つづり)ミヤコこと、都上綾音(つがみあやね)と、男性の間に割って入った。

 

「―――あんた」

 

 綾音は急に現れた俺に少し目を見開いたようだったが、俺は綾音が何かを言う前に男性に口早に話しかけた。

 

「や、ごめんなさいお兄さん。俺、この人の知り合いなんです。なので、ナンパとかは諦めて頂けると……」

「あんたが、待ち合わせ相手ぇ~?」

「ええと、はい」

「随分冴えない感じだなぁ。吊り合ってなくね?」

「あはは、綺麗な子だからそう言いたくなるのはわかりますけど……」

 

 男性はなんだか俺のことを疑わしそうに、俺のことをじろっと見つめて来る。

 疑われてもこれは事実だし、俺としてはもう言うことがないというか。どうしたもんか。

 

「……えいっ」

「あ、綾音!?」

 

 とか俺が悩んでいたら、急に綾音が俺の腕に自分の腕を絡めて、ぎゅっと胸元に引き寄せてきた。

 不意を突かれたものだから俺はちょっとふらついてしまって、肘の先が綾音の大きな胸に触れてしまい、思わず固まってしまう。

 

 だが綾音は俺のそんな様子などどこ吹く風で、淡々と男性に声をかけた。

 

「見ての通り私の待ち合わせ来たから。いい?」

「ほんとだったのかよぉ」

「ずっとそう言ってんでしょ。ほら、帰んなさいって」

 

 ちぇーっとか言って男性が人ごみに消えていくと、俺と腕を組んだままの綾音は小さく息をついた。

 

「ちょっと、いつまで固まってんのよ」

「あ、いや、その……腕が……ご、ごめん……」

「私と久しぶりに会った第一声がそれなわけ?」

「あー……それは、ごめん。えと、久しぶり、綾音」

 

 俺がそういうと綾音は腕を組んだまま、俺の顔を見上げながら目を細めて微笑んだ。

 

「ほんと、久しぶり君尋」

「あ、あの……怒って、らっしゃいます……?」

「何が?」

「いや、綾音がその顔で笑うときはだいたい俺に何か言いたいことがあるときというか」

「私は普通に笑ってるけど、君尋がそう思うのなら、私に対して何か思うところがあるのかもね?」

「うっ……」

 

 それを言われると、弱い。

 

「あの、綾音。俺――――」

 

 俺が口を開きかけた時、綾音が片目を閉じつつ、俺の唇に人差し指を添えた。

 

「ふふ、じょーだん」

 

 そう言って、少し子どもっぽい笑顔を俺に見せてくれた。

 

「あんがとね、私のこと助けてくれて。君尋、相変わらずとんでもなくお人好しだね」

「別に、たまたまだよ」

「ほんとにぃ~? 私が本格的に揉めそうなタイミングで来たけど、あんた私が危なくないか様子見てたんじゃないの?」

「いや、それは、その……」

「あははっ、わっかりやすっ。本当に変わんないな~」

 

 いや、俺がしどろもどろなのはお前が腕を組んだままなせいで、こう、肘の先に柔らかいものがふよんふよん当たったり離れたりだな……。

 俺はなるべく意識を遠くへ向けようとそっぽを向きつつ口を開いた。

 

「そういう綾音の方は、結構変わったね」

「そう? 私あんま変わんないって評判なんだけど」

「変わったよ。前より、大人になった。綺麗でびっくりした」

「―――――ふんっ」

「あいてっ」

 

 綾音が急に腕を解いて、俺の脛を蹴って来た。

 俺の方を向いてくれないのでその感情は窺い知れないが、耳の先がちょっと赤いからめっちゃ怒ってるかもしれない。

 

「前言撤回。小学生の頃のかわいいあんたとは大違いだわ。歯の浮くようなお世辞いうとか、この5年でどんな悪い女にひっかかったわけ?」

「いないよそんな相手。ずっと仕事ばっかだったんだからさ……」

「ふーーーん」

「なんだよその声はよ」

「べっつに~?」

「それは何かあるときにしか使わない返答だろ」

 

 なんだか機嫌がいいのか悪いのかわからないが俺と目線を合わせようとしない綾音と格闘していると、遠くから俺たちを呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「あ~! ひーくんに綾音~! やっほ~! おまたせ~!」

 

 きめ細やかな黒髪を風になびかせてひなた―――瑠璃川明里が俺たちのもとに走って来た。

 その姿と声を聞くと、俺の隣の綾音がため息とともにこめかみを抑えた。

 

「やほ! 時間ぴったり! じゃあ焼肉いこーよ!」

「あんたねえ。あんたの声すごい特徴的なんだからでかい声出すなって毎回言ってるでしょ」

「え~。大丈夫だよ~。歌う時とかとはトーン変えてるし、ふっふっふ、私これでやってきて一度もバレたこと……あたぁ!」

「リスクリターンの話をしてるの」

 

 いつも通りのほほんと言い放つひなたに、綾音がチョップを落とした。

 「おーのー!」とか言って大げさに痛がるひなたに、また綾音はため息をひとつ。

 

「まったく、私たちの職業なんて注意してし過ぎることはないんだから。特に今は、同じくらい自分が注目されてる自覚なさそうなのもいるから、明里だけでも気をつけなさいよね」

「……」

「何不思議そうな顔してんのよ、あんたよあんた。君尋だから」

「あ、俺?」

「そ! う! で! す!」

 

 きろりと綾音が俺を睨んだ。

 

「あのね、あんたがサプライズでーとか、正気じゃないでしょ。あんた自分の立場わかってる?」

「いや、俺が現役だったのは5年前だし。ほらね?」

「あー出た君尋の自己評価の低さ! あのね、あんたはすごいの! 何度言ったらわかるかなぁ!」

「そうは言われても現役のプロのみなさんとかに比べると俺なんてさ……」

「にゅっふっふ~」

 

 綾音に詰め寄られている俺を見て、ひなたがなんだか変な笑い声を出した。

 

「ひなた?」

「や~。なんか懐かしいな~って思ってさ~」

 

 ひなたはいつも通りのんびりにこにこと笑いながら、言葉を続けた。

 

「私、ず~~~~っとまたこうやって三人で話したかったんだよ~」

 

 あまりにもその素直な言葉に、俺は少し力が抜けてしまった。

 俺が隣を見ると、綾音も随分気の抜けた顔をしていた。たぶん、俺と同じ気持ちなんだろう。

 

 だから、俺も素直に今の気持ちをひなたに伝えることにした。

 

「俺もこうして話せるのは嬉しいよ」

「……そうね。私も」

 

 綾音もまた俺と同じように頷いてから、微笑んだ。

 

「私も、二人に私だけ仲間外れにした件についてたっぷり話を聞けるのがすごく楽しみ」

「……」

「……」

 

 違うわ、綾音だけ俺らと違う方向で今日のこと楽しみにしてたなこれ。

 

「君尋、お店に早く案内してね?」

 

 そう言って、綾音は俺とひなたに今日イチの笑顔を見せたのだった。

 




 
君尋  待ち合わせの10分前に来た
ひなた 時間ぴったりに来た
綾音  30分前からちょっとそわそわして一人で待ってた
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