ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~   作:世嗣

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大会は明日

 

 ヴァーチャル・スクエア市街地エリアC、近未来感が漂うサイバー都市。

 俺はそこでビルの間を縫うように走る立体道路の上を走り、そこに乗り捨ててある車の陰に隠れた。

 

 なーちゃんたちが呼ばれた『ロウカクカップ』は明日に迫り、今の俺たちは最後の追い込みと連携の確認のために、チーム戦の野良ランダムマッチを行っていた。

 

「レーダー、アクティブ」

 

 パッシブスキルの『レーダー』を起動し、30分の制限時間が終わり、収束しつつあるエリアの残りの人数を確認する。

 俺の手の中に浮かんだ半透明な三次元マップには赤いビーコンが2つ、青いビーコンが3つ光っている。

 

「残りは5人……つまり敵は二人だな」

 

 今やっているゲームは1チーム3人×4チームでの合計12人でのバトル。各チーム接敵と離脱が何度かありつつも、15分辺りで2チームが落ちた。

 今残っているチームもさっき俺が一人落としたから、残りはウチの3人と、相手が二人。合計5人ってことだ。

 

「ななのさん、今残っている二人のアビリティ構成はどんな感じかわかる?」

『えーと、一人は今流行りの魔法剣士型。ミナト先輩と同じ双剣に水を使う魔法を合わせてるタイプ。アクションもたぶん水操作系かな。もう一人はガトリングガン装備だよ。ごめん、アクションスキルはわかんない』

『あ、そっちならボクわかるよ! 遠くで見かけた時銃弾が曲がってたし、曲射系のアクションスキルだと思う!』

「なるほど。ありがとう」

 

 チーム内共通のボイスチャットを使って、俺の指示で物陰に隠れている二人と連絡を取る。

 

 ふむ、二人の教えてくれた情報から考えるに、こっちのビルの陰にいる方が遠距離攻撃ができるガトリングガンで、屋上にいるのが魔法剣士だな。

 

「よし。じゃあステラ、俺がこのままガトリングガンの射程に入るから、その不意を突けるように移動して。場所はマップにピンを刺す」

『おっけー!』

「ななのさんはそこで待機。俺がガトリングガンを釣ったあとに、屋上の魔法剣士が俺の背後を取ろうとすると思うから、そのタイミングで相手を撃ってほしい」

『了解~! ねえ、ヒロくん、撃つ弾一つ誘導弾にしてもいい? 水操作系の魔法なら前面は薄いバリアが張ってある気がするんだよね』

「確かにそうだな。よし、任せた」

 

 なーちゃんたちと手早く通信を終えると、俺はいつもの武器である棒を握り直した。

 

『お兄ちゃん位置ついたよ!』

『私も魔法弾の用意できたよー!』

「よし、出るぞ!」

 

 俺が車の陰から飛び出ると、そこを狙いすましたようにガトリングガンの掃射が行われる。

 雨のような無数の鉄の弾。命中すれば俺の残りのHPは容易く消し飛ぶのであろうが、射線がわかっているのならばかわすのはどうってことない。

 

「―――っと」

 

 俺は身を倒してそのままバク宙して跳び上がると、空中で棒を構えた。

 かわしきれなかった弾丸の一部が肩をかすめて俺のHPバーを削ったが、体力が削り切られないのなら攻撃には問題ない。

 

「せ、え、のっ!」

 

 俺が全力で棒を投げつけると、棒は風を切りながらビルの陰からガトリングガンを撃っていたプレイヤーに向かっていた。

 相手はたまらず転がるようにしてビルから飛び降りるが―――残念、そこにはもうステラがいる。

 

「アクションスキル『空中疾走(エアライナー)』……動きづらい空中に来てくれてありがと!」

「―――くそっ」

「『転身:雷光(スタイル:ケラウノス)』!」

 

 ステラは文字通り空中を蹴ると今まで温存していた必殺技を発動、俺から距離を取るために離脱しようとしていた相手を切り刻んだ。

 雷の魔法効果が付与されて攻撃力が上がったステラの一撃に耐えきれず、相手のアバターが砕け散った。

 

 これであと一人で……その魔法剣士はちょうど俺を背後から襲うところかな?

 

「――――油断したな! 司令塔のお前を落としちまえばまだ可能性はある!」

「いいや、もう詰みだよ」

 

 俺の予想通り魔法剣士は武器も投げてしまった俺を狙ってきたが、そこにはもう手は打ってある。

 水の魔法で自分を薄く守りながら迫っていた魔法剣士に向かって、2つの魔力弾が襲い掛かった。

 

「な、ぐあっ!」

「よ、よーし! 当たった!」

 

 一つは真横からの直射弾。もう一つは、死角を縫うように回り込んだ誘導弾。

 直射弾の方は水の魔法に威力を減衰されたが、誘導弾の方は水の魔法で守られていない部分に命中、HPを削り切れないものの魔法剣士の体勢を大きく崩した。

 

「ステラ!」

「りょうーかいお兄ちゃんっ!」

 

 だが、それだけできれば十分だ。

 その隙をついて必殺技がまだ終わっていないステラが空中を駆けて、魔法剣士を両断した。

 

「―――――やられた、ぜ」

 

 最後の相手のアバターが砕け散り、俺たちの頭の上の方にWIN!という文字が出た。

 

「勝った~!」

「やったねスーちゃん!」

 

 必殺技の制限時間が終わって地面に降りたステラと、立体道路の方に走って来たなーちゃんが揃ってハイタッチをした。

 

――――――

〇うおー勝った~~!

〇やるね~~

〇かなり見れるようになった

〇先生の指揮、大したもんやなぁ

〇ななーの、上手くなったなぁ

――――――

 

 試合が終わると、俺たちは自動でフィールドからホーム―――俺たちが普段使っているマギティック魔法学校の教室に自動で転送される。

 

「さて、二人ともお疲れさま。試合のことを忘れないうちに軽く反省会をしようか」

「は~い」

「ヒロくんもお疲れさま~」

 

――――――

〇流れるような反省会

〇いいおへんじ

〇これは花丸ですね

〇先生お疲れさまです~

――――――

 

「まず、ステラ。ステラはスキルを変えたのがいい感じに作用してるね。必殺技の切りどころも良かったと思うよ」

「やた~」

「あとは周囲を見つつ仲間のサポートも意識してみよう。ステラはウチのチームの『アタッカー』だけど、一人だけ突出してたらいいわけじゃないからね」

「は~い」

 

 足をパタパタさせたステラが機嫌よさそうに手を挙げつつ返事をしてくれた。

 ステラに関しては、最初からある程度上手かったが、この2週間の練習でその応用力がグッと向上した。

 やはりVRネイティブなのは伊達ではないという感じだな。

 

「じゃあ次にななのさんだけど、魔法の操作数を絞ったのがいい感じに作用してると思うよ。やることをシンプルにしたから、その分ななのさんの中で取れる選択肢が増えている」

「ヒロくんのおかげです!」

 

 にこーっとなーちゃんが笑った。

 結論から言うと、なーちゃんは並列思考に関しては流石に大きく上達することはなかった。

 もちろん魔法を扱う腕は向上したし、あの切り抜きみたいに誤射することはなくなったが、流石にひなたやマスターランクの『魔法』使いのように10以上の魔力弾を操作するのは無理だ。

 なので、俺となーちゃんは話し合って攻撃に使う『魔法』を2つまでに限定することにした。

 そうすることでなーちゃんのやることをシンプルにして、その分浮いた練習時間を直射弾や誘導弾などの練習にあてることができた。

 

 その甲斐あって、チームの『遊撃』としてきちんと仕事をこなせるようになったと思う。

 

「私、『遊撃』だし、たぶん本当はヒロくんの代わりに指揮できた方がいいんだろうなぁ」

「はは、そこは俺に任せてくれればいいよ。そういうことをやるために、俺は二人の先生をしてるわけだから」

「でも、腕としてはヒロくんが一番なんだし、完全に指揮官をさせるのはもったいな~とか思ったり?」

「さっきみたいに俺の覚えてない情報を覚えていてくれるだけでも、かなり助かるよ。そんな感じでななのさんにできることを頑張っていこう」

 

――――――

〇まさかななーのがここまでなるとは

〇先生の指導の賜物ですな

〇でも魔力弾2つしか同時操作できないわけであり……

〇流石にまだぽんこつか

――――――

 

「にゃにお~~! 見てなよ、今はこうして3つの魔力弾も操作できてだね……あっ」

「って、うわあ! なのちゃんいまボクの方に弾丸1個飛んできたんだけど!?」

「へへ、ご、ごめんね……こう、ペペロンチーノを作るときにオリーブオイルなんてどれだけあってもいいかみたいなノリでオリーブオイル入れる時のように、気合が入りすぎたといいますか……」

「……」

「なにその顔?」

「いや、なんのミームなんだろーって」

「なんのミームでもありませんけど!? スーちゃんは私のことをなんだと思ってるの?」

「? ボクと話してたら10回に一回くらいよくわからない作品のよくわからないミームを話してる人」

「私はそんな悪いオタクじゃないけど!? ……ないよね?」

 

――――――

〇うーーん

〇まあ、当たり構わずはぶつけてないと思いますよ

〇やめてくれステラ、その術は俺に効く

〇ななーのがアクセル踏むのはヒロ先生とか、ひなた先輩とかと話してる時だから

〇ミームモンスター

――――――

 

「な、なんだと~!」

「はいはい、ななのさんそこまでそこまで。今反省会ですからね。リスナーさん方もななのさんで遊ばない」

 

――――――

〇はーい

〇ななーの俺らのコメントすごい拾ってくれるから楽しくなっちゃう

〇先生に怒られてしまった

〇なら先生で遊ぶか

〇先生、今日もカッコよかったぜ……

――――――

 

「え、あ、どうもありがとうございます。なんだか照れてしまいますね」

「ちょっとボクたちのお兄ちゃんにちょっかい出さないでよ!」

「お、スーちゃんが割りこんだ。そうだそうだ~」

「遊ぶならななーのにしてね! ななーのタフだし」

「スーちゃん?」

 

――――――

〇くさ

〇しゃあっ

〇ななーの、どちらにしろ遊ばれる運命

――――――

 

 その後、俺は二人に今日の試合の反省点と改善点などを伝えつつ、大会の本番に向けた話をいくつかした。

 

「明日の大会は俺たちみたいなコーチも多いけど、メインは君たちニュービーたちだ。自分ができることを全力でやって、思いっきり楽しんでほしい。俺もそのためにできることをやるよ」

「はいっ! ……お兄ちゃんも楽しんでいいんだからね?」

「そうだよ! ヒロくんもせっかくのお祭りなんだから、あんま肩肘張らずに行こうね!」

「はは、ほどほどに頑張るよ」

 

 二人の言葉に少しだけ笑い返すと、俺は手を叩いた。

 

「さて、今日の講義はここまでかな。二人とも明日のためにちゃんと休むように! では終わり!」

「はーい! じゃあみんなおっやすみ~~!

「おつななの~! 明日はみんな応援してね!」

 

――――――

〇おつななの~

〇おつななの~

〇おつ先生

〇おつステラ

〇明日がんばれ~~!

〇ついにロウカクカップか……魔法学校組はどこまでやれるかね

――――――

 

 

 

 

 

 配信が終わったマギティック魔法学校の教室で、ステラがぐぐーっと伸びをした。

 

「ん~じゃあそろそろボク落ちるね~。明日は二人ともよろしくね!」

「おけおけ~。頑張ろうね」

「じゃあね。ちゃんと寝るんだぞ?」

「も~子ども扱いし過ぎだってば。それじゃあおやすみ~」

 

 ステラがウインドウを操作するとしゅばっとステラのアバターが消えた。

 なーちゃんがそれを見送ると、俺に振り向いた。

 

「じゃあヒロくん私たちもそろそろログアウト―――」

「なーちゃん、少し話せるかな」

「ほぇ? どうかしたの?」

 

 俺が椅子に腰かけて、目の前の椅子を手で示すとなーちゃんは俺に向き合う形で腰かけた。

 

「急にどうしたの改まって?」

 

 不思議そうにぱちくりとなーちゃんが瞬きをする。

 俺は小さく息を吐くと、なーちゃんの目を真正面からしっかり見て、ここしばらく考えていたことを伝えた。

 

「今なーちゃんに貸してもらってる部屋、この大会が終わったら出ていこうかと考えている」

「え?」

「少し早いけどまとまった金額、給料を出してもらえることになったんだ。正直借りてたお金を全返済するには少し足りないけど、それは追って返済するよ」

「そ、そっか。早いね?」

 

 綾音に『俺のしたいことは何なのか』と問いかけられて、少しなあなあになっていた部分を考え直した。

 今の部屋を借りていて、食事まで面倒を見てもらっていたのは俺に職も金もなく、なーちゃんに頼らざるを得なかったからだ。

 

 でも、今の俺は職も手に入れたし、今度は給料も一定金額ちゃんと出るようになるだろう。

 なら、こうしてなーちゃんの好意にずっと甘えているのは良くないと、そう思ったのだ。

 

 だから、俺はなーちゃんの家から()()()()()()はずだ。

 

 

「今までなーちゃんの好意に甘える形になってすまない」

「そんなに急がなくてもいいんだよー? 私気にしないし」

「そういうわけにはいかないよ。俺はなーちゃんより年上の大人なんだし、もっとちゃんとしなきゃさ」

「でも、新しく住む場所とか家具とか、色々大変じゃない?」

「そこも含めて今からいろいろと探すつもりだよ。ちょっと忙しくなりそうだ」

 

 俺が頭をかきつつそう言うと、なーちゃんが目を伏せた。

 そしてゆっくりと語る。子どもに何かを言い聞かせるように、ゆっくりと。

 

「……私さ、優しくて、頼られる人になりたかったんだよ」

 

 その声のトーンは凄く静かで、まるで一つ一つ心に浮かんできた言葉を丁寧に拾い上げているような、そんな喋り方だった。

 

「私、そういう人になれてないかな」

「いや、なーちゃんはすごく立派な人だと思うよ?」

「そうかな」

「そうでしょ。ステラもなーちゃんを慕っていたし、リスナーさんたちもなーちゃんの配信を見るのが楽しそうだしさ」

 

 なーちゃんはまだ19歳なのにこうして責任ある仕事をしていて、たくさんの人を楽しませている。

 毎日大学にもいき勉強して、俺みたいな昔の知り合いを気に掛ける余裕すらある。

 すごく立派だし、俺にとっては自慢の幼なじみだと思う。

 

「なーちゃんはすごくいい大人になろうとしてる。だから、そんなに迷わなくても―――」

「もー、そうじゃなくて、さ」

 

 俺の言葉を遮るように、なーちゃんが口を開いた。

 俺を見つめる瞳はゆらゆらと揺れていて、少し寂しそうな色が覗いていた。

 

「私はヒロくんに、頼ってほしかったりしたのですよ」

「―――――」

「昔から、ヒロくんは自分でなんでもやっちゃおうとし過ぎだよ~」

 

 なーちゃんはなんだか困ったようにそう言って、今度は俺の方を見てから、にへらっといつものように微笑んだ。

 

「あはは、でもヒロくんの引っ越しの件、了解しました! ヒロくんがそうしたいのなら私から言うことはなしです!」

 

 そしてぴょんっと椅子から降りるとなーちゃんはぐぐっと伸びをした。

 

「よーし、じゃあ明日がんばろうね! 目指すは優勝だ! 今までの恩を返すつもりでがんばりますから!」

「恩で言うなら俺の方が多いでしょ」

「いやいや私の方が圧倒的に感謝してるので!」

 

 そう言って笑ってから、なーちゃんはログアウトしていった。

 

「……今話すことじゃ、なかっただろうか」

 

 明日は俺が『ヒロ・セブンス』として、『ヴァーチャル・スクエアの強い誰か』としての価値が試される日だ。

 その前にちゃんと今後のことを清算して、きちんと向き合いたかったのだ。

 

「俺なりに真っすぐ向き合ってるつもりなんだが、人の心って言うのは難しいな」

 

 一人になった教室で背もたれに身体を預けて、天井を仰いだ。

 

「なんでも一人でやっちゃおうとし過ぎ、か」

 

 なら、一体どうしたらいいのだろうか。

 

 『何をするべきか』だけでしか考えられないこの俺は。

 ずっとこうやって生きてきた、この『成宮君尋』という人間は。

 

 両親からも必要とされなかった、この俺は。

 いったいどうやれば、正しい人間になれたのだろうか。

 

 そうして、俺は自分の過去を、思い起こし始めた。

 

 

 




 
次回、君尋過去編。それを挟んで一章クライマックスのロウカクカップに入ります。
一章が終わるまであと少し、お付き合いいただければ嬉しいです。

綾音ずっと書きたかったキャラだったんで評判よくてうれしいです。
いつも応援ありがとうございます。
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