ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~ 作:世嗣
『アルマギア』は仮想世界の起点となる世界である。あらゆるVRゲームはまずは一旦このアルマギアを経由して、それぞれの世界に旅立っていく。
なんか安全性の確保とか、電脳ネットワークの安定化とか色々理由はあるらしいが俺に細かい理由はわからない。
昔友だちに説明されたときは「ここはプレステを起動したときのホーム画面みたいなものだよ~」と言われた。俺はプレステをしたことがなかったのよくわからなかった。
「レートは、完全に初期値だな」
五年間このアカウントには触れてなかったんだから当然だ。
仕事に集中するためにアバターのデータとかも完全に消去してしまったので、今の俺は完全に初期アバターだ。顔のパーツとかもシンプルで、服装もゆるいジャージみたいな服だ。
望むならこのあと付近の店に行って顔のパーツを調整したり、服装ももっとかっこよくしたりできるんだが、今回はいいだろう。
すこしだけ息抜きに来ただけだ。わざわざこだわるほどのものじゃない。
「色々ゲームがあるんだな~」
俺がやってた頃はまともなVRゲームなんてほとんどなかったが、今では選択肢が何個もある。
30メートル級のロボットに乗り込んで宇宙を飛び回るアクションゲー。
迫りくるゾンビたちを銃で撃ち倒していくバイオなゲーム。
現実の企業と提携してる現実そっくりの味を提供する料理屋さんシミュレーション。
勇者となって魔王のはびこる世界をゆっくりと踏破していく骨太のRPG。
「けどまあ、やるならこれしかないだろうな。新しいことができる程器用じゃないし」
俺が選んだのは、『ヴァーチャル・スクエア』。通称VS。
日本で一番人気のゲームで、昔、俺が
「お、ここで他の人のバトルを観戦できるのか」
ロビーのようなところでたぷたぷと操作をしていたら、空中に浮かぶモニターが目に入った。
そこではちょうどヴァーチャル・スクエアでバトルしている様子をライブ中継しているらしく、今はちょうど刀使いの剣士と拳を武器にするボクサーが勝負しているところだった。
「すげーなー。全国大会みたいだ」
画面の上部にあるHPバーを見たところ、どちらもHPは半分くらいまで削れている。序盤の応酬を終えて、今は軽い膠着状態で睨み合ってるってところだろう。
あとはどちらが先に仕掛けるかだろうが……お、動いた。
先に動いたのは剣士だった。刀を一度納刀すると、勢いよく踏み込んだ。そしてそのままの勢いを殺さずに滑るように抜刀、ボクサーの胴を狙う。刀に赤い光が宿る。
だがボクサーもその攻撃は読んでいたのか、腕を硬化させるとその刀の側面に拳を当てて軌道を僅かに逸らした。
赤い光――スキルが発動したことを表すその光を宿した刀は本来の狙いの胴ではなく、僅かにボクサーの頬をかするに留まる。
ジジ、とモニターの上部に表示されたボクサーのHPバーが指先くらい減る。
『――エクセリオンフィスト!』
ボクサーが何か技名のようなものを叫ぶと、ボクサーの拳の周囲にエネルギーが収束する。その光は一瞬パッと周囲を眩しく照らす。不意を突かれた剣士が思わず目を閉じた瞬間、ボクサーが拳を振りぬいた。
すると、手からぶっといビームが放たれて剣士を飲み込んで消し炭にした。
おー、今まで真面目に近接での読みあいしてたのに必殺ビームで一気にぶっ飛ばされてしまった。ご無体。
しかし、この『何でもアリ』がVSの強みだな。
選んだ武器。三つのスキル。そして、
言葉にするとシンプルだが、言葉にするだけじゃわからない深みと自由度が、多くのゲーマーを虜にした。
久々に、わくわくしていた。
「さあて、今の環境はどんな感じかな」
◆
『
深海で引きこもってゲームをしていたら、母親に海の外に叩きだされたくらげの人魚。同期に海から引き上げられて以来、一緒に配信をやっている。
それが彼女のカレイドコアの公式ホームページに書いてある説明文である。
同期の『ミナト・ジオアース』と『
シアラ――――今そう呼ばれている彼女は、生まれついてそう呼ばれていたわけではない。
しかし、シアラと呼ばれる彼女は自分がこの『祈月シアラ』とそれほど違いがあるとも思っていなかった。人魚ではないものの、自分も最低限大学に行きつつゲーム漬けの毎日を過ごしていたら、親にもっと人と関われと蹴りだされたのだ。
でも人見知りであるからして知らない人となんて関わりたくない。そして、選んだのがVtuberだった。
最初は親に言い訳するために受けたオーディションに何故か合格し、そして2年間特に問題なく『祈月シアラ』として活動してこれた。
それはきっと『祈月シアラ』であることが自分に向いていて、そして思ったよりも自分がこのVtuberという活動が気に入っているからなのだろう。
だってこの職業、ゲームして褒められるのだ。RPGで感想を言えば共感してもらえ、FPSでの腕を見せればかっこいいと言われ、難解なカードゲームを勉強してミスなく展開すれば才能があると驚かれる。
こんな自分を応援してくれる人がたくさんいる。『推し』と言ってくれる人たちがいる。
(ライバーでいるのって、ちょ~楽しいんだよねぇ)
社会不適合者一直線だと思っていた自分が働くことを苦に思っていないことに、少し驚いたりする毎日。
ちなみに提出物を守るのは苦手。そのせいで運営さんから怒られるし、マネージャーは時折泣いてる。
(おー、今日もヴァーチャル・スクエアは賑わってるな~……)
そんなシアラが今少しハマってやっているゲームが『ヴァーチャル・スクエア』。ライバー仲間の中でも人気のVR対戦型アクションゲームである。
デビュー直後に少しプレイした時に人気なだけあって面白いと思いはしたが、とにかくプレイヤー層が厚くモチベ意地が大変そうだったので後回しにしてしまっていた。
ところが最近同期の一人がヴァーチャル・スクエアにハマり始め、マスターランクまで到達、そのままレート2000を超えるまで腕を上げてしまった。
シアラは自認ゲーマーである。幼いころから暇さえあればゲームをやって来た、筋金入りである。そんな自分が同期に――――あろうことか、今までの人生で大してゲームをしてこなかった男に負けたというのはシアラのやる気を燃えあがらせた。
その熱によってこうして配信外でもヴァーチャル・スクエアの修行に訪れてしまうくらいには。
「ええと、フリーデュエルスペースは、と……」
クリーム色の瞳。くらげを思わせる半透明のふわふわした衣を纏いシアラはVR空間を歩く。
人気Vtuberのシアラがそんな風に好き勝手に歩いていたら普通ならファンが詰めかけてしまうのだが、今は配信外。ストリーマー用に実装されている認知阻害モードをオンにしている。
こうすることでフレンド以外には今のシアラはありふれた普通の女性アバターにでも見えていることであろう。
様々な企業の広告で満ちた雑多な市街地を通り過ぎると、人で賑わうロビーにたどり着く。
さて、いつものように軽くランダムマッチで新しいスキルの調整でも……と、思ったところで周囲の人がなんだかざわついていることに気づいた。
何か起きているのかと不思議に思い近くの人の様子を伺ってみると、このエリアにいる多くの人が空中に浮かんでいるモニターを見ているようだった。その様子に名前を付けるとするならば、「困惑」だろうか。
周囲の人と同じように空中のモニターを見上げてみると、そこではいま行われているとあるデュエルの様子を中継しているようだった。
片方は片手にハンドガン、片手にショットガンを持った変則型の二丁拳銃使い。サイバーパンクな装備を身に纏う形でカスタマイズしており、名づけるなら近未来ガンマンだろうか。身のこなしも中々のもので、おそらくランクで言えばプラチナ以上、下手すればマスターランクはあるかもしれない。
対するもう片方は、一本の棒きれを使って戦っていた。最初槍の刃の部分が吹き飛ばされてしまったのかと思ったが、そうだとするならばHPバーの残りが多すぎるし、武器にまるで傷がないのが不自然だ。
剣にするには長く、槍にするには短すぎる。ただ、『棒』と表現するしかないもの。あまり今のヴァーチャル・スクエアのランクマ環境では流行っていない武器だった。
だというのに、彼はその棒を見事に自分の手足のように使いこなしていた。振り回す、突くなどの攻撃に使うのはもちろん、その独特なリーチを生かして相手の武器の角度をズラしたり、地面に強く突いて跳び上がったり、手の中で踊るように回すことで相手の視界を遮ったり。
創意工夫を凝らしたその使い方は明らかに一朝一夕では身につかない技術で、確かな練習のあとが見て取れた。
だというのに、彼は
技術は熟達しているのに、初期アバター。あまりもアンバランスだった。
「ね、おねーさん」
「はい? どうかしましたか?」
シアラはモニターから目を動かさないまま近くにいた女性に声をかける。
「これ、どういう状況なの? なんでみんなあの初期アバターの人の戦いを見てるの?」
「ああ、私も最初から見てたわけではないんですが、なんでも1時間くらい前にあの初期アバターの人がここに来て『誰でもいいから俺とデュエルをしてくれないか』と言って来たらしいです」
「? ブースにはいればランダムマッチがあるのに?」
「ですよね! でも初期アバターの人、ランダムマッチのこと知らなかったらしくて。その後ここの人たちに操作を一から教えて貰ったそうですよ」
「そんなことも知らずにヴァーチャル・スクエア始めたんだ……」
「珍しいですよね~。今時配信を追ってれば嫌でも知識として持ってそうですけれど。だから、みんな最初は『かわいいニュービーが来たな』って見てたそうです」
でも、と女性が続ける。
「彼がかわいかったのはそこまででした。最初、彼にレクチャー代わりにデュエルを申し込んだゴールドランクのプレイヤーを僅か1分で倒しました」
「え?」
「それから彼は面白がって戦いを挑んでくる人たちを倒すこと、
「マスターランク……? うそ……」
ヴァーチャル・スクエアのランクバトルは以下のランクに分けられる。
まず最下層のアイアン。全てのプレイヤーはここからランクをスタートさせる。そこから1勝するごとに星がついていき、アイアン5まで行くとアイアン4になる。そのまま、3、2、1と上がっていき、昇格戦に勝つことで次のランクであるブロンズにランクアップする。
それをシルバー、ゴールド、プラチナまで続け、昇りつめた先に「マスターランク」は存在する。
そのマスターランクの初期レートが「1500」である。しかし、その1500というレートを維持するのが至難の業。ランクマ最終日にレートを1500に維持できているプレイヤーはマスターランク到達者内の40パーセント。
1500というラインを維持できるだけで、既にマスターランク上位50パーセントの猛者なのだ。
そして、対戦相手はそのボーダーラインである1500を大きく上回る1600オーバー、もう少しで1700に届こうかというプレイヤーである。
(1700……つまり、プロプレイヤーの下限と言われるランク帯。あの初期アバターの人は、そのプレイヤーと互角に、いや明らかに
めら、とシアラの中で興味の炎が湧き上がるのを感じた。
戦ってみたい。あの得体の知らない棒使いと。
「あ、決着つきましたね」
女性の声にモニターに意識を戻すと、画面では棒使いが近未来ガンマンを吹き飛ばしHPバーを全損させた瞬間だった。
K.O.というデカデカとした文字が空中モニターに表示され、周囲の観客がワッと盛り上がる。
「おいおい嘘だろマスターランクに勝っちまったぞ!」
「これで19連勝!? あり得なさすぎる! ランダムマッチのことも知らなかったやつだぞ!」
「おいおいマスターより上のランクなんてもういねえよ!」
「ならもうここにいるやつで行くしかないな! おい、マスターとは言わねえ、プラチナランクのやつはいないか?」
「よし次は俺が相手だ! 俺様のアンリミテッドランサーワークスで破壊してやるよ!」
「フン、近接であいつに勝てると思わないことだ。この僕のパーフェクトタクティクスで彼を打倒して見せる」
「いやいや俺だって次を待っていてだな……」
近未来ガンマンがふらふらとした足取りでブースから出てくると、次は自分だと先ほどまで見学していた観客たちが我先に駆けだす。
そして、最初に声を挙げた槍使いがブースに入ろうとしたとき、シアラは思わず声を挙げていた。
「ねえ、次、わたしが行ってもいい?」
『カレイドコア』
ここ数年で人気上昇中のVtuber事務所。
所属人数は0〜5期生を合わせておおよそ50人程度。
『心重ななの』は4期生、『祈月シアラ』は3期生である。
0期生の『陽向ひなた』はVSを古くから遊んでいる実力者とのこと。
『祈月シアラ』
元ニートのくらげの人魚のVtuber。
ゲームの腕はかなりのもので、事務所の中でもかなり上位の方。
身長が低く童顔気味のアバターのためロリ枠に入れられがちだが、ロリ扱いをすると怒るらしい。