ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~   作:世嗣

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くらげは揺蕩う

「ねえ、次、わたしがやっていい?」

 

 そう言ってつかつかとブースに近づいていく。

 

「お嬢ちゃん、悪いけどあいつは強いぜ? もし興味本位なら……」

「わたしのランクはマスター。レートは1532。あなたたちは?」

「あー、俺はプラチナ5」

「僕はプラチナ4、だね」

 

 周囲を見回したところ、今ここにいる中で一番ランクが高いのはシアラのようだった。

 

「わたしが行く、いいよね?」

「いや、しかしだな、いまマスターが負けたばっかだしなぁ……」

「大丈夫。わたし、結構強い方だから」

「そう言われても、お嬢ちゃん小さいしよ」

 

 その言葉にシアラが少しムッとする。確かにシアラのアバターは小さい。周囲の大柄な大人の男性のアバターに比べると、中学生女子くらいの身長しかない。

 だが、それで侮られるのはゲーマーとして、()()()()気に入らなかった。

 

「……大丈夫だよ。わたし、ちゃんと強いから」

 

 そう言ってシアラは、今までオンにしていた認知阻害モードをオフにして、被っていたフードを外した。

 

「あ、あんたは――――いや、あなたは――――」

 

 クリーム色の瞳。くらげを思わせるふわふわの半透明の衣。ヴァーチャル・スクエアをやっているようなオタクなら、一度はどこかで見かけたことのあるその姿。

 

「祈月シアラ!? 本物!? うっそだろ!??!」

「ふふん。わたし、戦ってもいいかな?」

「どーぞどーぞどーぞ! はは、ここ2カ月で急激にランクを上げてるあなたなら次の相手に不足ねえよ!」

「ふふ、ありがとう」

 

 シアラは周囲の観客に小さく微笑むと、ブースに入ってウインドウを操作する。これで先ほどまで近未来ガンマンと戦っていた棒使いの待っているステージに転送される。

 

「――――あ、次の人かな? よかった~。なんか中々人が来ないから何か操作をミスってるかと思っちゃった」

 

 風が、吹いていた。

 フィールドは市街地エリアC。住居が多く存在し、隠れるような車などの物陰も多い狙撃手などが有利とされるマップ。

 そのエリアの中心であるドラえもんに出てくるような空き地で、土管の上に座って待っている人がいた。

 

 独特なリーチの棒。ログインした時からまるでいじってないと言わんばかりの初期アバター。

 先ほど、マスターランクのプロに近い実力のプレイヤーを倒した謎のプレイヤー。

 

 名前は……。

 

「Hero? ヒーロー?」

「ああ、いやヒロ、ヒロでお願いします。アルファベットにすると激しくややこしいんですよね」

「名前つけるときに日本語使えばよかったのに。わたしとかはそうだよ」

「へ? あ、ほんとだ。君はカタカナで『シアラ』っていうんですね」

「ん。ヒロはわざわざアルファベット入力にしたの?」

「あー、いや俺の時はそもそも日本語入力ができなかったというか」

「? 2年以上前から名前に日本語を使えるはずだけど?」

「え? あー、あはは、そうでしたかね」

 

 ヒロ、そう名乗った男はシアラの名前と容姿を見ても特に何も反応しない。おそらくシアラがVtuberということを知らないのだろう。

 ランダムマッチのことも知らなかった人物だ。おそらくVtuberというような文化にも詳しくないと推察された。

 

「ええと、じゃあ、とりあえず戦いましょうか。確か操作は……」

「わたしがしてあげるよ。あなたはOKボタンさえ押せばいーよ」

「あはは、すみません。どうにも慣れなくて……」

 

 確かにVRの操作に慣れてなさそうな人だった。シアラの両親もこんな感じのVRの操作が苦手な人だったなーとなんとなく思い出した。

 

「戦闘終了条件はHPの全損。スキルと必殺技は公式ルール。制限時間は10分で」

「はい。問題ありません」

「連勝、シアラが止める」

「……たまたまですよ。運が良かったのと、初見殺しが上手くハマったんです」

「それが本当かは自分の目で確かめる」

「お手柔らかに」

 

 少し微笑んでからヒロが武器を構えて――――雰囲気が、一変する。

 

(――――隙が、ない)

 

 何か大きなことをしたわけではない。ただそれまで杖のようにして持っていた杖を右手に握り直し、こちらに向けただけ。それだけの簡単な構え。

 だというのに、どこを狙っても受け止められる気がするし、どこに逃げても攻撃がかわせる気がする。

 

「――――倒しがいが、ある」

 

 シアラは自分を鼓舞するようにそう言って、自分の武器を取り出した。

 貝殻から削りだしたような、青白い二振りの反りのある小剣。それがシアラの武器である。

 

「――――」

「……」

 

 二人の間で、半透明の数字が表示される。

 10、9、8、7。一秒ごとに残り時間が減っていく。そして、残り時間が0になった瞬間、シアラは駆けだした。

 

 シアラの小柄な身体が加速し、半透明の衣が風になびく。地に這うようにしてヒロに肉薄して、そのまま二振りの小剣で振り上げるように十字を描く斬撃を叩き込む。

 

「――――っ」

「先手必勝、いつになってもこれが一番強いよな」

 

 だが、その一撃はヒロに容易く防がれた。片方は棒で受け止められ――――片方は振りあげる寸前、加速しきるよりも早く手首を足裏で受け止められていた。

 

(どんな動体視力――――っ!)

 

 シアラが心の中で毒づいた瞬間、視界の端に高速で何かが飛来するのが見えた。シアラはそれが見えた瞬間、何か考えるよりも早く素早くバックステップをした。

 刹那、シアラの肩に高速で振るわれた棒が命中する。回避行動をしたものの、避け切ることはできずに肩にいい一撃を食らってしまった。

 

 ジジ、とシアラのHPバーがそのまま――――指先ほどしか削れなかった。

 

「ん? 命中したのに、ダメージが少ない……おっと」

 

 不思議そうにヒロが首をかしげて今目の前で何が起きたのかを整理しようとするが、シアラはその隙を与えずにまた地を這うように駆けて一気呵成に攻め立てる。

 不意を突けたのもあってか先ほどのように容易く受け止められることはなく、シアラとヒロは近距離で武器をぶつけ合わせる。

 

「早い、なっ! 流石に、全部はさばき切れないな」

「トーゼン、だよっ! このままわたしが手数で勝つからっ」

 

 そのうち幾度かは棒がシアラをかすめることはあったが、多くの場合、シアラのHPバーはヒロが「このくらい減るだろうな」と思ったぶんの10分の1程度しか減少しなかったことだろう。

 

 代わりにシアラの攻撃は少しずつ少しずつヒロのHPバーを削り、いつの間にか半分近くまで減らしていた。

 

(いける。まだわたしのスキルはバレてない。まだ、攻め切れる!)

 

 ――――パッシブスキル『回避補正』。

 アバターにセットできる3つのスキルロットの一つ、パッシブスキルスロットにセットできるスキル。

 その効果は相手からのダメージを受ける直前に回避行動をしており、弱点攻撃でなければダメージを10分の1にするというスキル。

 

 一見デメリットのないスキルに見えるが、他のスキルに「自動回避」というほとんど上位互換のスキルが存在するため、あまり積極的に採用はされないスキルである。

 それにダメージを10分の1にするという効果は強いことは強いのだが、攻撃された際のノックバックなどは変わらずに発生するため、『回避補正』頼りで立ち回ればあっという間に押し込まれて手痛い一撃を貰うという危険性も抱えている。

 

 だが、この問題をシアラはアバターの体躯の小ささである程度克服していた。

 シアラのアバターの身長は他の人よりもかなり小柄だ。そんなシアラに攻撃を当てることは少し難しい。もちろんその分システムの補正でダメージが少なくなってしまうという問題はあるのだが、シアラにはそれをカバーできる素早くアバターを操作できるセンスがあった。

 

(あとは、他の2つのスキルを使って不意を突いて、必殺技まで繋げる!)

 

 祈月シアラは『くらげの人魚』。

 ゆらゆらと、ふわふわと、地を海のようにして自由に泳ぐ。光を透かすその身体は、攻撃すらも透過する。

 それがくらげ。誰よりも自由に揺蕩う海ノ月。

 

 そうしてシアラは勝ちへの一歩を進め――――ていたと、そう、思っていた。

 

「なるほど。ダメージ減少に補正……いや、回避時にダメージを減らす状態を自分に付与する、とかそんなところかな」

「――――」

「ん、当たりかな。少し、目が動いた。図星だ」

 

 それがわかったからどうした、とシアラは心の中で吐き捨てる。

 

「『幻踊・水月』!」

 

 シアラが叫ぶとシステム補正に従って自動で彼女の身体が動き、宙返りしながら二振りの小剣を虚空にぶん投げた。投げられた勢いそのままに、高速で回転する2つの剣はヒロを挟み込むように肉薄する。

 

「よっ、と――――」

 

 だがヒロは僅かに身をよじるだけで迫りくる小剣を紙一重で見事に躱して見せた。まるで曲芸。これほどの身体さばきを初期アバターの人物がするとは驚きという他ないだろう。

 ヒロは今度は自分の番だとばかりに、愚かにも武器を投げ捨てたシアラを捉えようと腰だめに棒を構える。

 

(それを、待っていたの)

 

 ――――アクティブスキル『武器旋回(ブレードダンス)』。

 一度遠くに投げた武器が自動で帰ってくるスキル。通常は敵に弾き飛ばされた武器や、やむを得ない事情で捨ててしまった武器を手元に戻すためのもの。

 では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「『幻踊・水月――弐連』!」

 

 一度ヒロがかわしたはずの武器が、再び勢いを取り戻す。そして一度たどった軌道を逆再生するように再びヒロに肉薄していく。しかも一度かわした故に、背後の死角から。

 

 決まった、シアラがそう確信した。

シアラだけではない。この試合を観戦していた観客の多くがそう思った。

 

 例え回避系のスキルを使っても、死角から迫る二つの刃をかわし切るのは不可能だ。どうしても一発は食らってしまう。そして、そこに生まれた隙に手元に帰った残り一つの武器でとどめを刺される。

 

 あまりにも絶望的な状況。その中で、ヒロは――――。

 

「は、ははっ」

 

(わらっ、た……?)

 

 瞬き一回分だけの刹那の隙間、ヒロは笑った。そして、シアラを見た。

 彼は、楽しそうだった。その笑顔はまるで少年のようだった。

 

「せ、え、のっ!」

 

 そして、彼はそれまで腰だめに構えていた棒を思いっきり地面に向けて振るった。

 身体を大きくねじって、フィギュアスケーターが4回転のジャンプを飛ぶ前のように限界まで身体を回転させつつ、自分の頭上に目を向ける。

 

「――――見えた」

 

 次の瞬間、ヒロの身体が世界から消失した。

 

(これ、まさか――――!)

 

 そして、百万分の一秒(マイクロセカンド)のラグを以って、再び世界に帰ってくる。

 そこは先ほどまでヒロがいた小剣に挟まれた死地ではなく、ヒロの目線の先一メートルの上空。彼の見出した、唯一の活路。

 

「瞬間、移動のスキルっ」

 

 ヒロの限界までねじって勢いをつけた状態で転移した身体は勢いはそのままに空中で回転し、自分に肉薄しようとしていた二つの小剣を()()()()()()()()

 

「な、なにその曲芸っ!?」

「昔、ちょっとなッ!」

 

 ヒロの足がそばの電柱の側面を足場にして、ぐぐっと沈み込む。まだ武器を投げつけた体勢のまま空中にいるシアラに向けて近づこうとしていることは明らかだった。

 シアラもまた同じように近くにあった壁面を足場にして距離を取ろうとする。

 

「悪いが、これでもう詰みだ」

「な――――――あっ、くぁっ」

 

 シアラが壁面に足をつけた瞬間、素早く飛来した棒がシアラの胴に命中した。思わず体勢を崩して地面に転がったシアラが、一体この棒がいつ投げられたものかを必死に頭を巡らせる。

 

 そういえば瞬間移動してシアラの小剣を受け止める時にはもう両手は空いていた。なら投げたのはその前。棒を腰だめに構えて、その後。

 

「そうか、あの時身体を半回転させつつ転移したのは、転移した直後に勢いを殺さずに高速で棒を私に投げるため―――――」

 

 ならば、一体あの一瞬にどれだけのことを思考したというのか。

 

(頭の回転が、早すぎる……こんなの、マスターどころか、トッププロ並みの――)

 

 衝撃と共に思わずこぼれた心の中の呟きごと真っ二つにするように、ヒロはシアラから奪い取った小剣で彼女の身体を貫いた。

 

 HPがゼロになり、シアラのアバターが砕け散る。

 ランクマッチならこのあとロビーに飛ばされるが、今回はフリーデュエルのため数秒後にそのままアバターが再構成される。

 

(負けた、わたしが)

 

 完璧な必勝パターンだったのに、初見で対応されてそのまま終わりまで押し込まれてしまった。

 流石にショックが隠しきれずに言葉を失っていると、ヒロがすぐそばまでやって来た。

 

 彼は地面に倒れ伏したままのシアラを見下ろすと、スッと手を差し出してきた。

 

「対戦ありがとうございました。いいバトルでした」

「え、あ、ど、どうも……」

 

 こうして対戦後にこんな挨拶をされたことのなかったシアラは少し面食らったものの、差し出された手を握り返して立ち上がる。

 立ち上がったシアラにヒロは微笑みかけたまま話を続けた。

 

「シアラさん、凄くお強いですね。最後のって武器を遠距離から操るスキルなんですか?」

「……ううん。あれは武器を手元に戻す補助系のスキル。超遠距離にあっても戻せるからアクティブ扱い」

「アクティブに……ああ、でも直接的破壊力がないからクールタイムが短いのか」

「そう。わたしの必勝パターンだったんだけど、初見で見切られるとは思わなかった」

「運が良かっただけです。次やればシアラさんが勝ちますよ」

 

 そんなはずがない、とシアラが心の中で否定する。

 ヒロの立ち回りはトッププロのものと遜色なかった。少なくとも初期アバターの人物が持っていていいスキルではない。

 

(いったい、何者なんだろう、この人)

 

 シアラの中にこの『ヒロ』というプレイヤーに対する興味が湧き上がってくる。

 

「あのさ、ヒロ」

「はい?」

 

 クリーム色の瞳で見上げながら、シアラは彼に一つの提案を投げかけた。

 

「キミ、わたしの先生にならない?」

 

 

 

 

 

 

 ログアウトしてデバイスをベッドの脇に置く。

 

「んー、いい人たちばっかりだったな~」

 

 軽く伸びをして戦った人たちを思い出す。右も左もわからない俺に丁寧に操作を教えてくれたし、すごく長い間みんなして俺と遊んでくれた。

 

「でも、最後の白い髪の子はちょっとしつこかったかもな」

 

 確かシアラという名前の少女だ。

 勝負が終わった後に「先生にならないか?」とお願いをしてきたため、丁重にお断りさせて頂いたら、なんか今度は「じゃあどうやって訓練したの?」「ほんとにはじめてなの?」「再戦させて、再戦」って俺の後ろをちょろちょろとついて来て、中々解放してくれなかった。

 

 仕方ないから最後は逃げるようにログアウトしてきてしまった。

 ちょっと悪いことをしたかもしれないって気持ちもあるけど、まあインターネットの出会いは一期一会だ。

 

 もう会うこともないだろう。それこそ共通の知人でもいない限り。タブン。

 

「そもそも、今日は運が良かっただけで人に何かを教えられるはずないんだよなぁ」

 

 俺には5年のブランクがある。今の環境の流行も、行われたアップデートも、どんなプレイヤーがいるのかもまるで知らない。

 

「今日やった20戦だって運が良かっただけだと思うんだよなぁ」

 

 全体的に勝ち越しこそはしたものの、どれも一本先取であることを利用した初見殺しでハメただけだ。俺の知らないスキルも多かったし、彼らが本気でやれば俺の実力なんて大したものではないはずだ。

 

 俺はしょせん、5年前にちょっとばかし人よりもうまかっただけの男だから。

 

「にしても、スキルめっちゃ増えてるなぁ。俺がやってた時の100倍くらいあるんじゃないかな」

 

 必殺技の自由度も段違いだったし、スキルが増えてることが影響して構成の組み合わせがほとんど無限だ。

 シアラさんみたいにどう考えても補助スキルを攻撃に利用してる人もいるなら、同じスキルですら一つの対処法ではケアできないだろう。

 

 そうだな、()()()()()()()()()()()――――。

 

「……そんなことしてる場合ではないか」

 

 今の俺はなーちゃんの居候。こんなちゃらちゃら遊んでていい身分ではない。

 早いところ体調を万全にして、仕事を見つけて、お金を返して、この家を出ていく。

 

「でも、楽しかったな」

 

 この気持ちを思い出させてくれたなーちゃんに感謝だな。

 おかげで、今日は少しいい夢が見れそうだ。

 

 




  
評価お気に入りありがとうございます。
大変励みになっています。


『ヴァーチャル・スクエア』
略称はVS。
VR空間を使って、3つのスキル、1つの必殺技を用いて戦うところからそう名付けられた。
アルマギアと提携した企業がスポンサーとなって多くのプロが活動している。
プロの最下限のレートは1700とされており、大会などでコーチを頼まれたり、招待枠として呼ばれるトッププロの平均レートは2000ほど。
現役最強の呼び声の高いロウカクの最高レートは2812。

アビリティ構成
NAME 『祈月シアラ』
武器 『 小剣? 』
武器スキル 『  ?  』
パッシブスキル 『回避補正』 
        →相手の攻撃命中時条件付きでダメージカット
特殊スキル 『武器旋回(ブレードダンス)』 
      →武器が自動で手元に帰ってくる
必殺技 『  ?  』
備考:『カレイドコア』所属のVtuber。くらげの人魚。ファンからの愛称は『しーぴゃ』。

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