ぽんこつ美少女Vtuberと最強無職 ~元無敗王者を人気配信者が放っておいてくれない~   作:世嗣

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白瀬なぎさは憧れた

 

 

 私―――『白瀬なぎさ』は、諦めることが上手い子どもだったと、なんとなく覚えている。

 

 初めて自分のことを諦めたのは、5歳の頃、父と母が離婚した時のことだ。

 母の浮気が原因で、父と母の関係はどうしようもないほど終わってしまった。

 そんな難しいことがわからない私は、離婚しないで欲しいと泣いて頼んだが、それが聞き届けられることはなかった。

 母親が自分の荷物をまとめて、私の方を一度も振り返ることなく家を出た時に、「ああ、私の言葉なんて意味がなかったんだ」と子ども心にそう思った。

 

 次に諦めたのは、家族の輪に入ること。7歳の時、父が再婚したことがきっかけだった。

 新しい母親はとても優しい人で、いつも私のことを気にかけてくれたけど、どうしても受け入れることができなかった。

 脳裏に、いつだって私に背を向けて去っていく母親の姿が残っていた。

 それに、新しい母の前にいる父はなんだか知らない人のようで、いつだって私たちの間には透明の薄い膜が張ってあるように思えた。

 そして、しばらくして父と新しい母の間に子どもができた時、『家族』というものを諦めた。

 

 子どもができたと聞いた時の父と母の嬉しそうな顔をどこか他人事のように見つめていた。

 そんな自分に気づいた時に「ああ、私はこの家族の輪には入れないんだ」と気づいた。

 

 救いは、アニメとか漫画とか、そういうサブカル的な趣味だけ。

 そうしたものを楽しんでいる時だけは現実の自分を忘れることができた。

 家族と向き合うことよりも、そうした世界に浸っていることの方が楽だった。

 

 10歳になるころにはもうそんな自分に諦めて、ただ「良い子」でいることを心掛けた。

 学校では勉強も運動もできて、生活態度も問題ないおりこうさん。いつもたくさんのクラスメイト達に囲まれていて、悩みなんて一つもない。アニメや漫画が好きなのも隠して、ただただ優等生でいようとした。

 親にとっての「自慢の娘」となることで、せめて家族になれない自分を肯定したかった。

 

 でも、そんな私にも苦手な人が一人だけいた。

 

「あ、おかえり。今日もお疲れさま」

「……どうも」

 

 近くに住むおにーさん、『成宮君尋』さんだった。

 

 当時の君尋さんは中学2年生。

 小学生の私にとっては違う世界に住む人だったが、家が近かったことからたびたび顔を合わせる機会があった。

 

 君尋さんはいつもにこにこしていて、悩みなんてまるでなさそうだった。

 下校の時に会うときもいつもたくさんの友だちに囲まれていて、いつも楽しそうだった。

 部活でも頼りにされていて、勉強だってできるのだと、君尋さんの友人が兄にいるというクラスメイトが教えてくれた。

 

 それが、気に入らなかった。

 私が苦労してやっていることを、あんなにこにこして悩みもなさそうな人がほいほいとやっている。

 どれだけ自分が不出来か見せつけられるようでいらいらした。

 

 そんな君尋さんが、嫌いだった。

 

「あ、いま帰り? 今日もお疲れさま」

 

 そんなある日、下校が重なった時に君尋さんがにこにこしてそう言った時、私の中で何かが切れた。

 

「私に構わないでください。迷惑なので」

 

 私はキッと君尋さんを見上げるように睨んでそう言った。

 君尋さんは私に急にそう言われたことに少し驚いたように瞬きをいくつかすると、頬をかいた。

 

「ごめん、何か嫌なことをしてしまったかな」

「別に。ただあなたのことがきらいなだけです。そもそも、なんで私に構うんですか? ただのご近所さんでしょ。ロリコンなんですか?」

「言葉が鋭いな。違います」

「ロリコンはみんなそういうと聞きます」

「これ質問された時点で何と答えても詰んでるハメ技しかけられてない?」

 

 君尋さんは「ただなんというかさ」と呟いて、私に目を向けた。

 

「きみが、ちょっと俺に似てる気がして放っておけないんだ」

 

 そう言われたとき、頭にかーっと血が集まった。

 

「勝手に私のことわかったような気にならないでください! ちょっと年齢が上だからって偉そうに!」

「いや、そういうつもりじゃ」

「きらいです! あなたなんか!」

 

 私に似てる? こんな人が? 冗談じゃない。私がどんな気持ちで「良い子」でいようとしてると思ってるんだ。

 

 その日から私の中の「嫌いなものランキング」の首位は「成宮君尋」になった。

 それまで圧倒的苦手だった人参すらあの人に比べると可愛いものに思えて、食べれるようになったのだから、その感情はかわいいものである。

 

 そんな君尋さんへの感情が変わったのは、夏休みに入ってしばらくたったある暑い日のことだった。

 

 その日私は習い事からの帰りだった。父は仕事で、母は妹を連れて病院に行き、夕方まで帰ってこない予定だった。

 その間私は一人で家にいて、夏休みの宿題の残りでもしようと思っていた。

 

「あっ、鍵が」

 

 もうすぐ家が見えてきたから鍵を取り出しておこうとしたときに、近くを通った自転車をよけようとしたせいで手の中の鍵を落としてしまった。

 しかも、運悪く鍵は鉄の網に蓋された側溝の中に滑り落ちてしまう。

 

「と、取らないと」

 

 慌てて側溝の中を覗き込んだところ、運よく水は流れておらず鍵は側溝の下に転がっていた。

 隙間から手を伸ばそうとしたが網の目が細かくて手が入らない。じゃあ蓋を持ち上げようと手をかけてみたが、とてもじゃないが小学生の腕力で持ち上がるような重さではなかった。

 

「じゃあなにか長いものに引っ掛けたら……」

 

 周囲を見回したら、近くの公園に植えてある木の下に剪定されたばかりの細い枝が何本か落ちていた。

 それを鍵のストラップの穴に通して拾おうと思ったのだ。

 

「んー、うう、ん~~!」

 

 だけど、想像ほどうまくいかない。細い枝は隙間を通すと先っぽがふらふらするし、側溝の奥が薄暗くて見えにくい。何度か鍵に枝が触っているようだが、ちゃりちゃりと音がするだけ上手くいってるかまるでわからない。

 しかも夏の容赦ない日差しの照り付けのせいで汗が止まらない。額には玉のような汗が浮かんで、それが頬を伝って垂れてくるのが気持ち悪い。

 

「――――っ」

 

 じわっと目が熱くなってきた。今の自分が情けなくて何故だか涙が出そうだった。唇をかんで必死にこらえてないと、いまにも泣き出してしまいそうだった。

 

「あれ、なぎさちゃん?」

 

 そんな時、君尋さんが私の前に現れた。

 あとから聞いたところによれば君尋さんは部活帰りのところ、側溝でしゃがみ込んでいる子どもに気づいて近づいたところ、それが私だったらしい。

 

 君尋さんは名前を呼ばれて自分のことを見上げた私の顔を見て、だいたいの事情を察したらしく肩にかけていた荷物を道端に置くと制服を脱いでTシャツ姿になった。

 

「俺も手伝うよ。下に落ちたんだよね?」

「大丈夫です。私一人でなんとかできます」

「ほんとに?」

「近寄らないでください。本当に私一人でいいんです。あなたの助けなんか借りません」

「でも、きみちょっと泣きそうだったでしょ」

「なっ」

 

 その指摘に思わず顔が真っ赤になる。私は雑にごしごしと目元をぬぐうと、最大限の怒りを込めて君尋さんを睨みつけた。

 

「な、泣いてなんかいません! 変なこと言わないでください!」

「勘違いなら良かった。うん、いつも通り元気そうだ」

 

 そして君尋さんはバッグから未開封のペットボトルを取り出すと私に差し出してきた。

 

「一人で大丈夫なら熱中症にも気を使えるでしょ?」

「……どうも」

 

 しぶしぶ、私はそのペットボトルを受け取ると蓋を開けて喉を潤した。暑かった体がかなりマシになった。

 君尋さんは私が飲み物を飲む傍ら側溝の下を覗き込んで「なるほどなー」みたいなことを言っていた。

 

「結構暗いね。棒で引っ掛けて取るのはかなり難しそうだ」

「ほんとうに自分で取るのでもう帰ってください。あなたの助けなんて借りません!」

「いや、これは俺のためだから。なぎさちゃんのためじゃないよ」

「何言ってるんですか! ここに落ちてるのは――――って、何してるんですか!?」

「あー、手が滑って鍵が落ちてしまったー困ったな~」

「し、白々しい……」

 

 明らかにわざと鍵を落とした君尋さんは、「困った困った」とわざとらしく言いながら側溝の蓋の隙間に指を入れると強く握った。

 

「今から蓋を持ち上げるから、ちょっとなぎさちゃんどいててね」

「へ? 持ち上げるって、え? え?」

「せ、え、のっ!」

 

 掛け声とともにたぶん蓋が持ち上げられて、ゆっくりと道端に置かれる。私の力ではびくともしなかったのに、君尋さんはそれを持ち上げてしまったのだ。

 あっけにとられる私を置き去りに君尋さんはそのまま側溝に手を突っ込んで、そこに転がっていた二つの鍵を拾う。一つは君尋さんのもの、もう一つは当然私のものだ。

 

「はい、これなぎさちゃんのね」

「あ……」

 

 ころん、と手のひらの上に鍵が置かれる。

 

「……あり、がとう、ございます」

「いえいえ。俺も自分の鍵を取るついでだから」

 

 そう言ってからからと笑う君尋さんは、置きっぱなしにしていた蓋をもう一度持ち上げると元あったところに戻してしまう。

 そしてぱんぱんと手の汚れを払うと荷物を持って、もう一度私の方を見た。

 君尋さんはこんなにめんどくさくて大変なことをしたのに、いつもと何も変わらなかった。「おかえり」と言ってくれるいつもと、同じ目をしていた。

 

「じゃあこれで俺は帰るよ。すぐそこだけどなぎさちゃんも――――」

「なんで! なんで……」

 

 その目を見た時、思わず私は問いかけていた。

 

「なんで、私にそんなによくしてくれるんですか」

 

 君尋さんは私から話しかけてきたことに驚いたようだったが、少し考える様子を見せた。

 

「なぎさちゃんは苦手なアイスとかある?」

「……ありませんけど、なんでですか?」

「こんなところで話すのもなんだし、アイスでも食べながら話そうよ」

 

 君尋さんはそう言って、すぐそばのコンビニを親指で示した後に近くの公園を見た。

 

「ほい、これ注文のカップのバニラアイス。うまいよなーそれ」

「あなたは、何を選んだんですか」

「俺? 俺は雪見だいふく。この二つしかない特別感が良いよな」

「わかる、気がします」

「だよな~。それ故に雪見だいふく半分ちょうだいは相手への好感度が試される究極の質問なんだよな……」

 

 近くのコンビニで手早くアイスを買って来た君尋さんと私は近くの公園のベンチに腰掛ける。

 ぺりりと蓋を開けて付属のスプーンでバニラアイスをすくって口に運ぶ。ふわっとした甘みが冷たさと一緒に広がって、じんわりと満ちていく。

 

「おいしい……」

「ははっ」

「な、なんですか。私のことを見て笑ったりして」

「なんでも? ただ俺いっつもなぎさちゃんの仏頂面ばっかみてたから新鮮だなーって」

「なんですか? やっぱりロリコンなんですか?」

「俺をまたハメ技で追い詰めようとするのやめような?」

 

 君尋さんも自分の雪見だいふくを開けると、そのうち一つをひょいっと口の中に入れる。

 

「で、なんでなぎさちゃんを気にかけるかだっけ」

 

 君尋さんは一度アイスの器をベンチに置くと、空を見上げた。

 夏の空。息が詰まりそうなくらい高くて青い天井に、見上げるほど大きな白い雲が山のように浮かんでいる。

 

「前話した通り俺に似てる気がするから、ではあるんだけど」

「私と君尋さんが似てるとは思いません」

「そう?」

「だって、あなたは完璧な人じゃないですか」

 

 いつもにこにこ楽しそうで、周囲の人に好かれてて、勉強も運動もできて。

 悩みなんかまるでなさそうで。私みたいな近所の子どもを気にかける余裕すらある。

 

「親が再婚して以来あの人たちを家族だって思えないんです。妹ができたのに、それも喜べないんです。ずっと、私を捨てたお母さんのことばかり思い出してしまう。ま、また、あんな風に捨てられるんじゃないかって……」

 

 バニラアイスのカップをぐっと握る。私の指の熱で、少しずつカップの中のアイスが柔らかくなっていく。

 

「ずっと、自分の居場所が、わからないんです。どうしたらいいか、わからないんです」

 

 一度喋ったら我慢が効かない。ずっとこらえていた気持ちを吐き出すように叫ぶ。目の前のこの人に、どれだけ自分が辛いかを教えてやらないと気が済まない。

 

「そんな私とあなたのどこが似てるっていうんですか! あなたみたいな――――」

「俺も親いないんだ」

「え?」

 

 君尋さんが私を見て微笑んでいた。

 

「なぎさちゃんくらいの歳の時に事故でね。それ以来ばあちゃんが俺の親代わり。

 ……まあ、だから厳密になぎさちゃんと同じではないけど、結構気持ちはわかるつもりだよ」

「ごめん、な、さい……」

「ああ、謝らないで謝らないで。参ったな、こういう風になるから言いたくなかったんだけどなぁ」

 

 サッと顔から血の気の引いた私の態度に、君尋さんは困ったように頭をかいた。そして間をつなぐように言葉を続ける。

 

「まあ、家族の形が変わるのって結構難しいよな。今まで当たり前にあったものが目の前からなくなって……何を信じていいかわからなくなる」

 

 親が離婚して、家族でも簡単に壊れてしまうことを知った。

 壊れないと信じていた関係が、容易く変わってしまうことを知った。

 私が感じていたそんな気持ちを、君尋さんも感じていたんだろうか。

 

「あなたは、どうやって、信じられるようになったんですか」

「少しだけ、素直になることにしたんだ」

「素直に?」

「そ」

 

 君尋さんは頷いた。

 

「親が死んで『大丈夫か?』って声をかけてくれた友だち。

 学校に行った時に『力になれることはないか?』と聞いてくれた先生。

 心配して『いつでも頼ってね』と言ってくれたご近所さん。

 そういう目に見える善意、みたいなものの裏を疑わずに信じてみることにした」

「疑わずに、信じる」

「うん。そうすると、かなり生きやすくなったし、この世界は結構人の善意で回ってるんだなーって気づいた」

「私も、そうなれるかな」

 

 ぽつり、と思わずこぼれた私の言葉に君尋さんはただにこりと微笑んだ。

 

「きっとなぎさちゃんならできる。俺はそう信じてる」

「で、でも、それでお父さんたちを、信じられなかったら……」

「その時は、そうだなぁ」

 

 君尋さんは一度ベンチから立ち上がると、私の正面でしゃがんで私と目線を合わせた。

 まだ自分を信じ切れない私を勇気づけるように、言葉を続ける。

 

「また俺とアイスでも食べよう。そんでまた話を聞いて、なぎさちゃんの味方をする」

「あなたが、味方を?」

「うん。俺たち、おんなじひとりぼっち仲間だろ?」

 

 そして私の頭をぽんぽんと優しくなでてくれた。

 

 そっか。この人はどんな時でも味方でいてくれるんだ。

 似た者同士だから、この人だけは私の言葉を聞いて、信じてくれるんだ。

 

 心が、あったかくなるのを感じた。

 

「がんばって、みます」

 

 まずは今日お父さんたちが帰ってきたら、素直な気持ちを伝えてみよう。

 私は家族でいてもいいのか、私のことをどう思っているのか、尋ねてみるのだ。

 

 もし駄目だったなら、君尋さんにまた話を聞いて貰おう。

 

「じゃ、雪見だいふくを半分あげよう」

「え、ええっ!? 急になんで……」

「ほい、あーん」

「え、あ、えと、あーん……」

 

 ぱくり、と差し出されたアイスを一口かじってから、君尋さんを見ると、彼はいたずらが成功した小学生のように笑っていた。

 

「俺からのエール。俺の好物の半分を上げたんだ、ちゃんと頑張るんだぞ?」

 

 ああ、こんな人になりたい、そう思った。

 

 辛いことがあってもそれを理由に臆病になるのではなくて。

 悲しいことがあってもそれを理由に他人を遠ざけるのではなくて。

 いつだって、誰かのことを考えて優しくできるような人に。

 

「ねえ聞いて! お父さんたちと話せた! それで色々思ってたこととか伝えたら、私のことをぎゅっとしてくれて……」

「そっか。それなら良かった。白瀬さんたちどっちもすごくいい人だから心配はしてなかったけどさ」

 

 それから、私はヒロくんのことをまるで本物のお兄ちゃんのように慕うようになった。

 

「君尋さん今週末おひまですか! 前話してたガンダムの新作アニメを一緒に見たくて!」

「いいよー。でも、友だちと見た方が楽しいんじゃない?」

「友だちには、まだ隠してるので……」

「そっか。なら一緒に見ようかな。俺ロボットのアニメ昔に古いやつ見たきりだけど大丈夫かな」

「大丈夫だと思います。昔見たものによるとは思いますけど、どんな作品だったんですか?」

「青と白の身体で……」

「シンプルでかっこいいですね」

「たくさんの武装を主人公は使いこなしつつも未来を変えようとしてて……」

「シナリオにかなりメリハリがありそうです」

「ロボットは猫型なのに耳がないんだ」

「ドラえもんじゃないですかそれ?」

 

 ヒロくんは優しかった。私の他の人に見せたくない部分も受け止めてくれるような人だった。

 

「ねえ、君尋さんのこと、ヒロくんって呼んでもいいかな」

「なんで?」

「だって、私お兄ちゃんとかいないし、なんとなく、もう少し近い感じで呼んでみたいというか……だめ?」

「いいよ。じゃあ俺はなーちゃんとでも呼ぼうかな」

「な、なーちゃん!?」

 

 ヒロくんはあっという間にうちの親とも仲良くなって、気に入られてしまった。

 ヒロくんのおばあちゃんもうちに来ては、お父さんとお母さんと仲良く話していることもよくあった。

 

「あ、ヒロくん今日うちのお母さんが夕飯どうかって言ってたよ~」

「いや、この前もお世話になったしなぁ」

「ちなみにもうおばあちゃんは私の家です」

「もう逃げ道塞がれてるじゃん。はいはい、わかりました。ご相伴に預かります」

 

 そんな生活が数年続いたある日、お父さんの仕事の都合で私は引っ越すことになった。

 ヒロくんたちと別れるのは凄く悲しかったけど、でも、情報化の進んだ現代だ。連絡を取るのは難しくなかった。

 

 私もヒロくんもスマホを持っていなかったから連絡先の交換はできなかったけど、ヒロくんが高校生のときまではお父さんたちのスマホで時々話したりしていた。

 

「へー、じゃあ今その『ヴァーチャル・スクエア』ってゲームの全国大会で優勝したんだ!」

『うん。仲いい友達に誘われて始めたんだけど、かなりやり応えがあるよ』

「……その友達って女の子?」

『そうだけど、なんでわかったんだ?』

「勘、かな」

 

 でも、ある日急にヒロくんとぱったりと連絡が取れなくなった。

 何かあったのかと心配したけど、ちょうど私も受験が重なったりして、次第にヒロくんのことを考えることは減っていった。

 きっと大学が忙しいとかで、私と連絡を取る余裕がなくなったんだろうと思った。もしそうだったなら、それはそれでいいことだ。

 

 次会えた時、ちょっぴり意地悪はしようと思ったが。

 

「あの、ありがとうございます! 見ず知らずの私を……」

「ああ、いえいえ。たまたま通りがかっただけだったので。それより怪我とかないですか?」

「いえ、おかげ様で、怪我とか、は……え?」

 

 だから、再会した時は凄く驚いた。

 

 再会したヒロくんは凄く大人になっていたけど、それ以上にすごく疲れていた。

 目の下にはすごく濃いクマが浮かんでいたし、声にもあまり覇気がない。なんだか身体もふらふらしていた。

 纏う雰囲気が凄く頼りなくて、少し強く触るだけで手がすり抜けて消えてしまいそうだった。

 

 きっとまた誰かのために一生懸命生きて、それで、疲れ切ってしまったんだろう。

 

 だからこのままヒロくんと別れるなんてできなかった。

 あの時私が助けられた彼が、憧れの人が困っているんだ。なら今恩返しをしなくていつするというのだろう。

 

「なーちゃんはなんで俺のことを助けてくれるんだ?」

 

 ある日、ヒロくんが私にそんなことを聞いてきたから、私は思わず笑ってしまった。

 だって、私が子どものことに聞いたことにすごく似ていたから。

 

「ヒロくんが、昔私のことを助けてくれたからだよ」

 

 ずっと私は貴方に憧れている。

 あなたの生き方に助けられたから、あなたの言葉に救われたから。

 あの日、分けてもらったアイスの味が忘れられないから。

 

 あの時決めた生き方の通りに生きている。それだけ。

 

 ただ、それだけなんだ。

 

 

 

 




 
白瀬なぎさ人生のフルコース
・オードブル(前菜)─
・スープ───────オニオングラタンスープ
・魚料理───────
・肉料理───────お母さんのハンバーグ
・主菜(メイン)───『あの日』の雪見だいふく
・サラダ───────
・デザート────── 『あの日』のバニラアイス
・ドリンク──────むぎ茶

トリコは2083年でも人気です。
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