羂索の目論見を破綻させる、天元渾身の一手   作:金鳥

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天元様、身体を張る

 

 呪術師天元は悩んでいた。

 元々あまり乗り気では無かったとはいえ星漿体、天内理子との同化が行えず呪霊のような存在に進化してしまったからだ。

 

 呪霊操術の存在を知っている天元には一連の騒動が羂索による自分を調伏する為の企みだと解っていた。

 現在呪霊操術の術式を持っている夏油傑が呪詛師に堕ち五条悟の手で葬られたことも、その後死体が盗まれて羂索に乗っ取られた事も把握した天元はいよいよ焦燥を隠せなくなってきた。

 

 焦りに焦った天元。

 何か手はないかと考えた彼女はふと自分と星漿体、そして六眼の因果を思い出した。

 

 天元が進化しそうになる度に必ず現れて星漿体との同化を成功させるべく羂索を含めたあらゆる障害を退ける六眼の持ち主。天内理子との同化は失敗してしまいその因果は崩れたと思っていたが、もしもそれがまだ続いていたら?

 世の安定の為に天によって紡がれた因果。

 それはたかが同化失敗程度で無くなる物なのか?

 

 屁理屈、こじつけ感は強い。

 だが懸けてみる価値はあると判断した天元は現代の六眼の担い手である五条悟について改めて調べ直した。

 星漿体である天内理子が死亡した以上、解決の糸口があるとしたらそこだと直感したからである。

 

 五条悟の趣味嗜好、これまでの任務等々あらゆる事を調べ尽くす天元。

 そしてとうとう、自らにとっても重要であった星漿体護衛任務でそれに気が付いた。

 

「まさか全てが終わったと思ったあの日の出来事にヒントがあるとはな・・・」

 

 皮肉な物だと思わず口にする天元。

 だが可能性を見つけた以上、それに賭けるしかなかった。

 

 時は2018年10月30日。

 奇しくも渋谷事変と呼ばれる日本史上において最大最悪のテロが行われる前日に天元は希望を見つけたのである。

 その日の当日に天元によって呼ばれた五条悟は詳しくは話せないがという前置きから始まる天元からの頼みごとに仰天したが、理由は追求せず即座に了承。

 やはりまだ因果が残っていたのか、天元からの突拍子もない頼み事を彼は躊躇無く受け入れたのである。

 

 総監部に内通者を忍ばせている羂索たが渋谷事変の最終調整の為2人が接触したことに気付くことは無くそのまま次の日を迎えるのであった。

 

 

 ◆2018年10月31日、渋谷地下ホーム。

 

「いやー、成功して良かったよ本当に」

 

 1000年に及ぶ企み。その1番の障害である六眼の持ち主を封印する事が出来たのだから喜ぶのも無理は無い。

 親友の肉体を乗っ取ったことに怒った五条悟だが、獄門疆に捕らわれながらもつい昨日の事を思い出した。

 

「あー、くそっ。そういうことかよ・・・」

「ん、どうしたんだい?」

 

 急に様子が変わった五条悟。

 思っていたのと違う反応に羂索は違和感を覚えた。

 

「思い返してみればなんで素直にあんなこと引き受けたんだか、僕らしくも無い。知ってた上で教えなかったな天元様」

「天元?」

「確かに教えられてたらあんな頼み引き受ける前にこいつを殺しに飛び出してたぜ?けど天内の事といいもっとこう、人の心とか無いのか?」

「それ君が言う?」

 

 ア゛ア゛ア゛~~~っ、と肺に溜まった空気ごと鬱憤を吐き出す五条悟。天元の企みを理解したが故の行動であった。

 色々と言いたい事はあるが油断してこんな無様を晒したのは間違いなく自分のせいであるし天元の策が有効であることも理解出来たのである。

 

 悔しくはあるが最悪の事態は防げそうなので取り敢えず目の前の男を煽ることにした。

 

「やるならさっさとやれよ。まあ最も、割とすぐに会うことになりそうだからその時は殺すけどな」

「あっはっはっ!封印されるっていうのに強気だね?そもそも君をそうそう解放する訳無いだろう?」

 

 獄門疆、閉門。

 そう唱えて五条悟を完全に封印する羂索。

 

 だが封印直前にこちらを見る五条悟が何故かざまぁみろという表情をしており、一抹の不安を感じた。

 彼が言っていた天元からの企みというのも気になる。

 計画を止める訳には行かないが渋谷でやることを終わらせたら1度調べてみるかと決めた。

 

 

 ◆渋谷突入前のやりとり。

 

「硝子ー、これ天元様からお前にだって」

「何だこれ?というか何で天元様が私に?」

 

 五条悟は昨日天元から預かった2通の手紙を同期である家入硝子に手渡した。

 受け取った家入硝子は困惑する。

 呪術界の重鎮が自分に関わってくる事があるとは思っていなかったからだ。

 

 数少ない反転式式の使い手で他者にもそれを施す事が出来るとはいえ、それだけで天元が直々に手紙を出す程自分の価値は高くないと彼女は自覚していた。

 まさかこのクズが無礼を働いたから同期として何とかしろとか言うんじゃないだろうな。

 

「こっちの方は誰にも見せずにすぐに呼んで欲しいってさ。それじゃ僕はもう行くね!」

「あ、おい!・・・はぁ、全くあいつは」

 

 見るのが怖いが見ないと面倒な事になる。

 故に家入硝子はさっさと手紙を読むことにした。

 

 封を開け、取り出した手紙にはほんの数行しか書かれていない。

 だが

 

「・・・は?何だこれ?」

 

 その内容は家入硝子を困惑させるのに充分な衝撃を持っていた。

 

 

 ◆渋谷事変終盤、全員集合。

 

「うーわー・・・マジでこうなったよ」

「家入先生!?」

 

 偽夏油傑の正体がかつての加茂憲倫という最悪の呪術師であることが判明し、特級呪術師の九十九由基が参戦した渋谷跡地。

 一触即発な空気の中を場違いな声が響いた。

 思わず声を挙げたのは虎杖悠仁である。

 

「おー、久しぶりだね虎杖君。寒そうだけど元気?」

「あ、はい元気です・・・しゃなくて!?」

「硝子!?なんであんたがここに来てんのよ!」

「歌姫先輩もご無事なようで何よりですー」

「いや、軽いわね?状況見えてる!?」

 

 現れた家入硝子。

 普段と変わらないテンションで出て来た彼女にツッコミが飛んだ。

 それらを無視して偽夏油傑の姿を見た彼女は僅かに眼を細める。

 

「うっわマジであいつの死体乗っ取ってるのかよ、キッショ。よくあんな性格破綻クズの死体なんかに入れるね?マジで無いわー」

「酷い言われようだね。同期なんだろう?」

「同期ではあってもあいつら2人がクズであれなことは事実だからな。まあお前も相当なクズみたいだけど」

「はははっ!・・・なんだ、やっぱり2人の事が大切なんじゃないか怒ってるね」

「あんなんでも級友で私は2人みたいな人格破綻クズじゃないからね」

「面白い・・・けどどうやって回復役の君が私から2人を取り戻すのかな?」

「いや、私がここに来たのはあいつらの為じゃ無いよ」

「え、そうなの!?」

 

 今度は虎杖悠仁がツッコんだ。

 そんな彼を家入硝子は呆れた眼で見る。

 

「当たり前だろー、私は医者なんだ。戦闘なんて御免被る」

「いや、けど五条先生と友達なんでしょ!?」

「とも、だち・・・?」

「いやひっど!先生泣いちゃうよ!?」

「小僧貴様、あれを友として扱うとか正気か?」

「宿儺!?」

「あ、それは同意。あいつ友達にするくらいなら呪詛師となる方がまだマシ」

「歌姫先生!?」

「うーん、楽しそうなのは良いけど時と場合を考えないと駄目だよ君達」

「いや、いきなり女のタイプ聞いてくる貴方が言っても説得力無いです」

「うーん、手厳しいね」

 

 敵味方共に油断はしていないが空気が軽い。

 呪いの王にまでツッコまれるとかどんだけヤバいんだよ元最強コンビ。

 

 だがその空気を良しとしない女(肉体的には)ガいた。

 

「茶番はそこまでだ」

「うわ、冷た」

 

 裏梅である。

 元来真面目な彼女?は浮ついた空気が苦手というより嫌悪しているまである。

 敬愛している宿儺がツッコむというコメディな感じになっているのが耐えられないという理由もありそうだがそれはそれ。

 

 目的は果たしたのだからさっさと撤退するぞ羂索!と吠える。

 

「あー、待って待って。私がここに来たのは天元様からの依頼でその男に用があるからだから」

「は?天元?」

「あの引きこもりが?」

「五条の奴が昨日預かったっていう私宛の手紙をさっき受け取ってね。2通あるんだけど片方にざっくり言うと『偽夏油傑もとい羂索の前でもう1通の手紙を読み上げるように』って書いてあったんだよ」

「!」

「羂索?誰それ?」

「馬鹿、どう考えてもあの偽夏油の中身の本名だろ」

「あ、なる程」

 

 天元から自分への伝言。

 獄門疆を奪われる危険を冒してまで聞く必要は無い。

 だが封印される直前の五条悟の表情が忘れられない羂索はこの場で退くことを躊躇った。

 

「・・・お、聞く感じ?なら良かったじゃあ読み上げるね」

「おい羂索!」

「裏梅、ここは大人しく聞いておかないと多分厄介なことになるよ」

「チッ!」

「えーと・・・『羂索。これを聞いているということは五条悟を封印することに成功したのだろう。全く、君の執念深さには呆れを通り越して感心すらするよ』」

「ふん、負け惜しみか老害め」

「『君の目的は解っている。天内理子との同化に失敗して呪霊のような存在になった私を夏油傑の呪霊操術で調伏して操ろうとしているのだろう』」

「何だと!?」

「なんだ気が付いていたのか。まあもう遅いが」

 

 日下部が声を荒げる。

 天元が敵の手に落ちればこの国がどうなってしまうか解らない。

 何としてでも阻止しなければと彼はらしくなく命懸けで羂索を討つ覚悟を決めた。

 

 だが

 

「『まあ最も、そんなことは出来ないんだけどね。既に対策済みだ』」

「は?」

「ふぅん?なんだ珍しく動いていたのかよっぽど自分の身が可愛いと見える。まあどんな手を打ってこようと私はそれを上回るだけの話だが」

「『多分ドヤ顔をしているだろう羂索よ。もう一度言うが君に私を調伏することは出来ない』」

「なんだ随分強気だな?余程強い術師でも護衛にしたか?五条悟でもあるまいし」

「『私の安全は五条悟によって保証されている』」

「・・・は?」

「えっと・・・五条先生って封印されたんだよな?もしかして偽者とか?」

「そんな馬鹿な!あれは確かに本物の五条悟だった!!」

 

 声を荒げる羂索。

 

「『勘違いしているようだが五条悟は確かに君の手によって封印された。それは確かだ』」

「ならば何故ここで五条悟が出て来る?とうとうボケたか?」

「『生憎と私はボケていないし正気だ。ところで羂索よ、知っていたか?』」

「なんだ?」

「『夏油傑の呪霊操術には、調伏に失敗した事例があることを』・・・え、私初耳なんだけど?」

 

 思わず手紙を読み上げるのを中断した家入硝子。

 彼女が記憶している限り夏油傑は特級呪霊すら問題無く調伏していた。

 そんな彼が失敗した所など見たことが無く、想像すらしていなかった。

 

 羂索は思い返す。

 身体を乗っ取ると決めたその日から夏油傑のあらゆる事を調べ上げた。

 その中で彼が失敗した記録等、無かった筈である。

 

「続きを読むぞ・・・『まあ知らないのは無理も無い。失敗したのは天内理子の護衛任務の時なのだから。伏黒甚爾に見つかることを恐れた君はあの場を直接監視していなかったからね』」

「あの時か!確かに伏黒甚爾の知覚範囲に捉えられる事を警戒して私は監視していなかった」

「『夏油傑は伏黒甚爾から武器を取り上げる為、武器庫にしている収納呪霊を奪おうとして失敗したんだよ』」

「・・・ま、まさか?」

「『そう、先に他との主従関係が成立していれば呪霊操術による調伏は失敗する』」

「それがどうした?つまり天元は適当な奴と主従関係をわざと結んだということだろう?ならばそいつを探し出して殺せば良いだけの話なのだから慌てる必要はないだろう羂索」

「違う、違うんだよ裏梅!ああちくしょう、老害め!やりやがったな!?」

 

 蒼ざめる羂索と何がマズいのかいまいち理解していない裏梅。

 呪術師側も似たような物で九十九由基と庵歌姫は理解したのかマジかよ?という表情だ。

 理解はしているが嘘だろおい正気か?と信じたくない表情なのは日下部篤也と加茂憲紀である。

 天元の策は理解したし有効であることも解るがマジでそれやったの?正気か?と不敬な感想を脳裏に浮かべている。

 

 それを昨日頼まれた張本人である五条悟ですら困惑させた天元渾身の一手。

 それは

 

「『今の私は既に五条悟と主従関係を結んでいる。つまり私を調伏するには獄門疆から彼を解放しなければならない訳だが・・・さあどうする?』・・・いや、天元様も大分性格あれだな引くわ」

 

 手紙を読み終えた家入硝子の表情は盛大に引き攣っていた。

 

 

 ◆五条悟という男とは

 

「信頼も信用もしていますが尊敬はしていません」

「悪い人ではないんですけど発想と言動がイカれ過ぎててどうしようもない」

「クズその1」

「姉共々援助してくれたことは感謝してますけど間違いなくアレな人間」

「人のスカート履くんじゃねえよ」 

「梅干し」

「パンダには人間のこと解りません」

「担任時代、胃薬が1日1瓶必要だった」

「金払いが良い上客」

「先生?良い人だよ」

「今の僕があるのは五条先生のお陰です」

 

 等々。

 1部の超善人には慕われているが基本的にはクズという印象で一致している。

 そんな性格破綻者に日本呪術界の重鎮かつ安寧を齎し続けている結界を張った術師が主従関係を結ぶとどうなるでしょうか?

 

 

 ◆理解している人間から説明されて全員理解出来た後

 

「「「「「「「「・・・いや、何考えてるの/んだ/だよ!?」」」」」」」

 

 はい、こうなりますよね。

 正しい反応です。

 

「有効ですよ?確かに有効ですけどそれはヤバいでしょというかよくあれに調伏されるの良しとしましたね凄いよ天元様!?」

「あの人格破綻者に呪術界の、日本の命運が握られた・・・地獄かここは?」

「天元ーーー!!!それは思い付いても絶対やっちゃ駄目な手だろうが!?人の心とか無いのか!?常識的に考えて駄目だろうが!!?」

「1000年経ってやはりボケたか!?」

「・・・無いわー」

 

 敵味方問わず阿鼻叫喚。

 五条悟の傍若無人っぷりに振り回されて迷惑を被った人間は多岐に渡る。

 只でさえ最強で手が付けられない奴にヤバい物を上乗せするとかアカン奴である。

 

「え、なんで駄目?ようは五条先生が封印されたままでも最悪の事態は避けられるってことだろう。あの継ぎ目男が先生のこと倒そうにもその場合五条先生が解放されるから継ぎ目男倒すだろうし良いじゃん?」

「虎杖?それはそうなんだけどな!?」

「小僧正気か?」

 

 なお、この場で唯一の超善人かつ五条悟を慕っている虎杖悠仁からは絶賛されている模様。

 中にいる呪いの王からは正気を疑われている。

 

「おい羂索!五条悟を封印から解放することは出来るんだろうな!?」

「あ、ああ。あらゆる術式を無効化する術師に心当たりがある」

「チッ!ならばここは退くぞもう目的は果たしたのだろう!?早急にその術師を引き入れに行くぞ!」

「いやー、それなんだけどさ・・・?」

「・・・おい待てなんだその反応凄まじく嫌な予感がするぞ」

「その術師、宿儺のこと嫌っててね?多分協力して貰うには宿儺を殺すことを条件に出して来そう」

「・・・は?」

「あ、手紙に続きがあった。えっと、『なお獄門疆の解除を可能とする天逆鉾も黒縄も五条悟がすでに破壊している。術式無効の術式を持つ術師の器になっている来栖華も確保済みだ』・・・あいつ何やってんだそして天元様容赦無さ過ぎない?」

「あ、駄目だこれ打つ手無くなった」

 

 お手上げ、と文字通り両手を上げる羂索。

 呪術師達は敵の目論見が破綻したのは喜ばしいが素直には喜べない状態。

 

「・・・つまりどういうことだ?」

 

 地獄の底から湧き出てくるような悍ましい声で問い掛ける裏梅。

 そんな彼女?に羂索は爽やかな笑みで告げた。

 

「千年掛けたチャートが崩れたので今回はここまでです。頑張るけど多分次の機会は千年以上掛かると思うから待っててね❤」

 

 シン・・・と空気が固まる。

 それを破ったのはこの男。

 

「裏梅。構わんやれ」

「承知致しました。・・・歯ァ食い縛れこのド阿呆がぁぁああああーーー!!!!」

 

 黄金の右が羂索の顔面にクリーンヒット!なんなら黒い火花も微笑んだ。

 

 遥か彼方へ吹き飛ばされ、瓦礫にツッコむ羂索。

 どう反応したら良いか解らない呪術師達。

 取り敢えず彼等の内心は一致していた。

 

「「「「「「「流石千年間行きた呪術界の重鎮・・・滅茶苦茶イカれてる」」」」」」」

 

 夜蛾先生とか楽巌寺校長とか上層部の人間達の胃が壊れそう。

 

 

 なおこの後何だかんだで羂索と裏梅は逃げ切った。

 そして紛糾する五条悟を解放するか否かの話し合い。

 

 只でさえ手が付けられない男が実質呪術界トップの権力を得たに等しい状況。

 解放したら何やらかすか解らないしこのまま封印でも良いんじゃね?という意見を五条悟擁護側も否定しきれなかった。

 





 そういえば夏油って調伏失敗してた時があったよなあと思い出したのでネタにしてみました。
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