キバナVSダンデ ―龍と空の王者―   作:スイカバー

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 ダンデとキバナが研究所を飛び立つ数時間前、とある森の中……。

 ヒガナは眠りから目覚めた。辺りは真っ暗で何も見えない。星明かりで辛うじて足元が見える程度だ。自分の手足を確かめると、スーツがところどころ裂けたり擦れたりしてボロボロになっていた。

 

「お、ようやく起きたようだね」聞き覚えのある声が近くから聞こえた。「ネンドール、ほんの少しだけ『フラッシュ』だ」

 

 声がそう言うと、辺りはほんのりと明るくなった。声が聞こえたほうへ目をやると、木の幹にもたれて男が座っていた。

 

「坊ちゃん」

 

 ダイゴが安堵した表情でヒガナのほうを見ている。彼の服は、ヒガナの安物のスーツの何十倍もするオーダーメイドであろうが、それもヒガナ同様、かなり傷んでいた。

 

ダイゴの側にはネンドールとボーマンダがいた。巨大な土偶にたくさんの目が付いたネンドールというポケモンは、自身から微弱な光を発し、辺りを照らしている。そしてボーマンダは腹這いになってダイゴの足元に横たわっていた。

 

「ボーマンダ!」ヒガナは反射的に立ち上がってボーマンダのほうへ駆け寄る。

「静かに」ダイゴが言う。「大丈夫、もうだいぶ良くなった」

 

 困惑するヒガナにダイゴが説明する。

 

「さっきのバトルでのダメージが気になったんでね。すまないが、勝手にボールから出させてもらった。かなりの傷を負っていたんだが、手持ちの薬をあげたら、ほとんど回復して、ついさっき眠ったところだ」

 

 ヒガナは脱力して膝から崩れ落ちた。

 

「そうか……。それ、は……、ありがとう」

「ふふ。君から礼を言われるのは初めてかもしれないな」

「そうだったっけ?」ヒガナは鼻で笑った。「寝起きだからね。まだ寝ぼけてるみたいだ」

「ボーマンダのこと、大事に思ってるんだね」

「ああ……、それはもう、うん」

 

 しばし沈黙が流れた。

 

「で、状況は?」ヒガナが訊く。

「今は、深夜の十一時半」ダイゴはスマホロトムの時計を見て答えた。「僕らが空で攻撃を受けてから、だいたい六時間が経過している」

「そんなに寝てたのか、私」

「気を失っていたのと、多分長旅の疲れもあったんだろう」

「ああ、長旅の疲れね……」ヒガナはダイゴとのエキサイティングなフライトを思い出した。「そもそも私たち、どうやって助かったんだっけか」

「僕が君を機外に突き飛ばしたのは覚えているか」

「突き飛ばし……、そうだ。あれで一瞬、死んだかと思った」

「もちろん機外ではネンドールが君を受け止める体勢に入っていた。ネンドールが君を、メタグロスが僕を支える形で、僕らは機外に脱出できた」

 

 ネンドールもメタグロスも、宙に浮くことのできるポケモンだ。

 

「その直後、機体は爆発した」

 

それを聞いて、ヒガナは肝が冷えたのを思い出した。あと数秒遅かったら……。思わず鳥肌が立つ。

 

「そりゃあ、あれだけ攻撃を喰らったら、そうもなるよね」

「で、そのまま垂直に落下して、降り立ったのがこの辺りだ」

 

 そう言われて、ヒガナは改めて立ち上がり、周囲を見渡す。ネンドールの微弱な「フラッシュ」で照らされているが、ほとんど何も見えない。

 

「どこなんだ、ここは」

「スマホロトムの圏外で、地図もネットも接続できないから、推測になるが、恐らくワイルドエリアのどこかだ」

「ワイルドエリア?」

「ガラル地方の中央部には、野生ポケモン保護のため、自然環境を極力そのまま残した広大なエリアが広がっている。それがワイルドエリアだ」

「ああ、出発前にガラルのことを軽く調べたけど、確かそんな情報があったね」

「僕も降りた直後は気を失っていて、起きたのはつい一時間ほど前だから、暗すぎてはっきりとは調べられていない。でもメタグロスに乗って空から見てみた限りだと、周囲に灯りらしきものはまったくなく、エリア外の集落と呼べそうなものは数十キロ先まで何もなさそうだった」

「とんでもないところに降り立ったもんだ」ヒガナは再び腰を下ろす。

「ワイルドエリアも全域がネット圏外というわけじゃないだろうから、圏外のここは、その中でもかなり奥まったところだろうと思われる。こんな場所じゃ、救助もまず来ない」

「運悪くない? 私たち……」

「おまけに、まあまあ危険でもある」

「危険?」

「何でさっきから『フラッシュ』をこんなに弱くしているかわかるかい?」

「そういえば……」

 

 ネンドールの「フラッシュ」は本当に微かな光で、一メートルほど離れたダイゴの顔がぎりぎり判別できる程度だった。

 

「起きた直後に、思いっきり照らしてみて、驚いた。ここは凶暴な野生ポケモンの巣でもあるんだ」

 

 ヒガナは「えっ」と声を上げかけて、慌てて手で口を塞いだ。

 

「『フラッシュ』の光で周囲の寝ていたポケモンたちを起こしてしまい、危うく襲われかけた。人が寄り付かない場所だから、人間に慣れていなくて、相当気性が荒そうだった。危なかったよ。君は気付かず寝ていたけどね」

「……わるうございましたね」

「だから今は手元がわかる程度に光量を抑えている」

 

 ヒガナは極力物音を立てないよう、神経を張り詰めた。

 

「じゃあ、どうする?」ヒガナが言う。「荷物も全部ジェット機の中だったし……」

「最低限の貴重品だけは持ち出したけど、そうだね。ほとんど燃えてしまった。水も食料もない」

「今、十一時半で、日の出は……」

「多分この季節なら、五時半頃だろう。明るくなったらメタグロスとボーマンダにそれぞれ乗って、集落のある方向まで飛んでいくというのが一番無難な方法だと思う。移動途中にスマホロトム圏内に入れれば、ダンデやマグノリア博士に連絡もできる」

「うん。そうするしかないだろうね。了解ですよ」

「それまでは少しでも体力を温存しておこう。日が昇り始めたら行動開始だ」

 

 そう言うと、ダイゴはネンドールの「フラッシュ」を解いた。再び、辺りはほとんど完全な暗闇に覆われる。ヒガナは寝ているボーマンダの側に座り、身を寄せながら、ボーマンダの頭を撫でた。

 

「ご苦労様」微かな声でそう呟いた。

 

 しかし、まさかこんなことになるとは……。ヒガナは放心していた。任務という名目で来ているのだから、もちろん旅行気分というわけではなかったけど、それにしてもこの歓迎は手荒すぎる。

 

 ヒガナは考える。

 結局あの攻撃してきた三匹のポケモンたちは何だったのだろう。それぞれ人間が乗っていてチームワークで動いていたから、何らかの組織か集団ではあるはずだ。海賊みたいな……、そういうものがあるのか知らないが、空賊とでも言うような輩か? いや、だとしたらこちらの金銭を狙うはずだ。あいつらはただ攻撃だけしてきた。

 

 となると、狙いは明らかに私とダイゴ個人だ。ガラルで私たちが狙われる理由、それは私たちが追っているエゴノキという男に関係しているに違いない。あの空での攻撃、一歩間違えば私たちは死んでいたかもしれない。だがエゴノキならそれくらい、躊躇なくやってしまうだろう。そういう恐ろしい男だ。何としても奴を見つけ出し、その目的を食い止めなければ……。

 

 ヒガナは全身の力を抜き、体力の回復に努めていた。だが、その心の奥底だけは、闘志と使命感でぎらついていた。

 

 何時間か過ぎ、目の端にほんの少し眩しさを感じる。日の出に差し掛かってきたらしい。

 側でダイゴが立ち上がる音が聞こえた。ヒガナも合わせて立ち上がり、腕や脚を軽く回して筋肉をほぐす。

 

「ここじゃ木が邪魔で上昇できない」ダイゴが小さな声で言った。「この先に少し開けた場所がある。昨夜『フラッシュ』を使ったときに確認した。そこまで移動して、明るくなったら飛び立とう」

「『明るくなったら飛び立とう』……、何か歌の歌詞みたいだ」ヒガナは小さく笑う。「前向きで、なかなか悪くない」

「冗談が言えるくらいには元気になったようだね」

「ユーモアのセンスくらい、元気に関係なく持っておきたいもんだけどね」

 

 木々の間を通り抜け、池のような場所に出た。確かに、ここなら何にも邪魔されず、飛び立てそうだ。

 メタグロスがダイゴのボールから出てきて、ボーマンダと並び立った。ダイゴとヒガナはそれぞれポケモンに乗り込む。そして、ダイゴが指を鳴らしたのを合図に、二匹は同時に上昇した。

 

 まだ私のほうは指示してないのに、とヒガナは虚を突かれたが、どうやらダイゴはさっき回復薬をやったときに、ボーマンダを手なずけてしまったようだ。さすがはチャンピオンというか……、これはある種の「たらし」だね、とヒガナは独り言ちた。

 

 数十メートルほど上がっただろうか、ダイゴが再び指を鳴らすと、二匹はいったんその場に静止した。二人は空中から周囲を見回す。真下を中心に深い森があり、その先はどこまでも草原が続いている。

 

「夜と違って灯りがないから、むしろ集落は見つけにくいか……」ダイゴが言う。「ヒガナ、君のほうが目はいいだろう? 何か見えるか?」

「いや、それより何か聞こえないか?」ヒガナは耳に手を当てて集中している。

 

 それを聞いてダイゴも耳を澄ました。確かに、何やら空気を切り裂くような甲高い音がする。

 次の瞬間、空中のメタグロスとボーマンダの間を、何かが物凄い速さで通り抜けた。通った直後に、二人は大きな空気の流れが広がるのを感じた。通った後に風圧を感じる……、相当なスピードだ。

同じ方向から、またしても二度三度と素早く何かが駆け抜ける。

 

「まさか、昨日のあいつらが待ち伏せていた?」ヒガナが言った。「嘘だろ、しつこ過ぎないか?」

「いや、そういうわけではなさそうだよ」ダイゴが答える。「多分、野生のポケモンだ」

 

 ヒガナは急に辺りが暗くなったように感じた。否、これは影だ。上に何かがいて、いつの間にかその真下に自分がいる。ヒガナが空を仰ぐと、そこには大きなポケモンが羽ばたいていた。

 

「あれは確か、アーマーガア?」

 

 昨日、ガラルの空をジェット機で飛んでいるとき、何度か見た。「そらとぶタクシー」で使われているポケモンだ。だが、少し様子が違う。普通のアーマーガアは全身が濃い藍色の鳥だが、この個体は翼がところどころ赤く、全体的に少し刺々しい体つきな気がする。

 

「それに、大きさも何か違わないか?」

 

 空中だからスケール感がわかりにくいが、明らかに昨日見たアーマーガアより何倍も大きい。

 

「これが噂に聞くガラルのダイマックスか」ダイゴが言う。

 

 その言葉を聞いて、ヒガナは臨戦態勢に入った。

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