6.
キバナの誘導でガラルの空を飛び続けて約三十分、ダイゴとヒガナはようやくブラッシータウンのマグノリア研究所に到着した。道中で、二人はマリィという女の子から、さっきのアーマーガアとのバトルについて説明を受けていた。
あのアーマーガアはガラル地方特有の現象、ダイマックスによって巨大化していた。特にその中でも珍しい、「キョダイマックス」が行える個体だったようで、ただ大きくなるだけでなく、見た目や技も通常のアーマーガアとは少し異なるとのことだった。特に「リフレクター」などの壁を破壊して攻撃する「キョダイフウゲキ」は、キョダイマックスしたアーマーガアだけが使える珍しい技らしい。
ダイマックスのエネルギーとなるガラル粒子が漂う「パワースポット」は、ガラル地方の中でも限られた場所にしかないそうだが、ワイルドエリアの中はそのパワースポットが多数確認されており、野生のポケモンも頻繁にダイマックスするという。その危険性から、本来は許可を受けた一部のトレーナーしか立ち入れない場所なのだ。
また、マリィが使っていたポケモンは、伝説のポケモン・ファイヤーのリージョンフォームであり、他の地方で目撃例のある炎タイプのファイヤーと違い、悪タイプを持つようだ。ガラル地方でも非常に珍しいポケモンで、それを所持しているだけでも、マリィが普通のトレーナーではないことが伺える。
そんな話を聞いていたキバナが補足したところによると、マリィはガラルの東部、スパイクタウンのジムリーダーで、元々はマリィの兄が務めていたのを、最近、兄の引退を受けて、跡を継いだらしい。スパイクタウンはガラルの中でもいろいろと曰くのある異端の街だが、そんな街でマリィは幼いながらも、厄介な連中をまとめ上げ、見事にジムリーダーとしての役目を果たしているという。
今朝も、日の出からワイルドエリアでバトルのトレーニングをしており、その途中でダイゴとヒガナがアーマーガアに襲われているのを見つけたという次第だ。
そしてちょうどそこにキバナも合流した。研究所でダンデから事情を聞いたキバナは、ダンデと共に、否、ダンデと競争する形で、空から二人の捜索を始めたのだが、キバナには心当たりがあった。ダイゴたちと連絡が取れないという点、これはすなわち、二人がスマホロトムの圏外にいるということではないか? 他の可能性も考慮はしたが、これが一番ありえそうだとキバナは直感した。
マクロコスモスのインターネットインフラが整っているガラルにおいて、ネットが圏外の場所はかなり少ない。二人の移動経路を考えると、恐らくワイルドエリアの奥地が濃厚だろう。そう推測したキバナは、シュートシティからブラッシータウンへの南北の動線上と、ワイルドエリアのネット圏外区域が重複する場所を地図アプリで検索し、表示された候補地へ、フライゴンに乗って急行したのだ。
そうして、キバナ、ダイゴ、ヒガナ、マリィの四人は研究所へと無事到着し、それぞれ、フライゴン、メタグロス、ボーマンダ、ファイヤーをボールに戻した。
「改めて礼を言うよ、二人共どうもありがとう」ダイゴはキバナとマリィに頭を下げて言った。
「あ、ありがとう」ヒガナも、今度はダイゴに言われる前に言えた。「……ございました」念のため敬語も付けておく。慣れなくてむず痒い感じがした。
「礼なんかいーんだよ」キバナは適当にあしらった。「それより、アイツとの勝負に勝ったことのほうがデカい」
「勝負?」マリィが訊いた。
「お、噂をすればだ」キバナは空を見上げた。
ふわりと周囲の風を巻き上げて、ダンデとリザードンが研究所の前に降り立った。
「おうキバナ、メール見たぜ。見つかったんだってな」
ダンデはスマホロトムを片手に持ちながら、リザードンから降りた。そしてダイゴとヒガナの側に駆け寄る。
「二人共、無事で良かった。博士と一緒に心配してたんだぜ」
「すまなかった。ちょっとトラブルに巻き込まれてしまってね」ダイゴが言う。
「ちょっとどころじゃなかったけどね」ヒガナが付け足した。
「ダンデ、君も探してくれたんだな、感謝するよ」ダイゴがそう言うと、ヒガナも慌てて頭を下げた。
「チャンピオン同士、助け合いって奴さ」ダンデは嫌味のない笑みで答えた。
「そういえばダンデって、方向音痴じゃなかったと?」マリィが訊く。
最強のチャンピオンと名高いダンデだが、方向感覚が弱く、近い場所の移動ですら、すぐ迷子になるという短所があった。ファンの間では有名な話で、完璧超人のお茶目なチャームポイントだとも思われている。
「オレ自身はそうだが、リザードンは優秀だからな。昨日もシュートシティからここまでまっすぐ飛んでこられたし、今日も迷ったりはしなかったぜ」
そう言って、ダンデはリザードンをボールに戻し、研究所の玄関へと歩を進める。
「お互いに聞きたいことはたくさんあるだろう。中に入って話そうか」
「ちょっと待て、ダンデ」キバナがそれを制した。「勝負はオレ様の勝ちってことでいいんだよな?」
「勝負?」ダンデは一瞬考えた。「ああ、あれか。そうだな。お前が先に見つけたんだから、お前の勝ちだ」
「よっしゃ」キバナは胸の前で拳を握り締めた。
「そげんことで張り合っとったと?」マリィが呆れる。「子供やねえ」
「うるせえ。オレ様の頭脳が一枚上手だったってことだよ。スマホの圏外区域やワイルドエリアのことに気付かなきゃ、あんなに早く見つけられなかったしな」
「ふーん、じゃあ何で気付いたときに、ダンデと情報共有しなかったと? したらもっと効率よく探せたとに」
「あ? 敵に塩送るわけねーだろ」
「敵じゃなか。そげんくだらん勝負より、ダイゴさんとヒガナさんの救助のほうが大事よ。何考えとーと?」マリィは語気を荒らげた。
「結局無事だったんだからいいだろうが」
「はあ? あたし、あんたのそういうとこ、いっちゃん好かんわ」
「いいよ、マリィ」ダンデが言う。「それがキバナの性格だってわかってるだろ。それにオレだって自分なりの方法で探そうとしたが、キバナには特に伝えなかった。結果、キバナが先に見つけた。だからキバナの勝ち。それで終わりだ」
「でも……」マリィは納得できないようだ。
キバナも、ダンデに自分の子供っぽさを暗に諫められているような気がして、何となく面白くなかった。
「助けてもらっておいてこんなことを言うのは、失礼だと百も承知だけど」そこへダイゴが口を挟む。「ダンデは、チャンピオン同士は助け合いだと言った。そこにはもちろんジムリーダーも含まれるんじゃないかな?」
全員の視線がダイゴに注がれる。
「個人プレイも悪くないけど、手を組むべきときは、お互いを信じて連携する姿勢も大事だと僕は思う。その点、マリィはよくわかっているようだ」
キバナは黙ってダイゴを見つめる。「何だこいつは」とでも言いたげな目だ。ヒガナも「空気の読めない奴だな」と思ったが、面白そうなので乗っかることにした。
「それは私にも言ってるのかい?」ヒガナは意地の悪い笑みを浮かべ、ダイゴに言う。「でも私はキバナに一票かな。互いを信じると言えば聞こえはいいけど、それが逆に命取りになることだってある。結局、一番信じられるのは自分自身だ」
「ちょっと……」マリィは困惑する。
「キバナはドラゴンタイプのジムリーダーなんだってね。私もドラゴン使いだから、何だかシンパシーを感じるよ」ヒガナはキバナに向かって不敵な笑みを見せた。
キバナは「ふん」と息を漏らして、研究所のドアを開け、中に入っていく。
「もう、何で仲良うできんと?」
「マリィがこの中で一番大人だな」ダンデはマリィの頭を軽く撫で、キバナの後を歩いていった。