キバナVSダンデ ―龍と空の王者―   作:スイカバー

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「リゼルグとエゴノキが繋がってる?」マリィが驚いた。

 

「ホウエンを出て、故郷であるガラルに舞い戻ってきたはいいが、エゴノキは逃亡者の身だ。身を匿ってくれる裏社会の組織に頼らざるを得なかったと考えられる」ダイゴは淡々と述べる。「そして何らかの方法で僕とヒガナがガラルにやってきたことを知った彼は、追手である僕たちを退けるために、リゼルグの構成員を差し向けたんだ」

 

「確かにそう考えりゃ、話は通るが……」キバナが疑問を呈す。「そのリゼルグってのも謎に包まれてるんじゃなかったか? そいつらのことを一から調べるってのは、エゴノキを探すのと、手間はあんまり変わらねえ気がするぞ?」

「そこはまあ、文明の利器に頼ろう」ダイゴはにこりと笑った。

「文明の利器?」

 

「監視カメラだ。この地方のインフラの大部分はマクロコスモスが管理しているんだろう? ならば、ガラル全域の監視カメラに記録された映像をAIで解析して、この写真の男と同じ顔の人間を抽出する。そうすれば、その男がどの辺りで生活しているか、割り出せるはずだ。そこからリゼルグの拠点が掴めれば、エゴノキにも辿り着ける」

 

 全員が思わず感嘆の声を上げた。疑ったキバナも「確かにそれはアリだ」と認めざるを得なかった。

 

「もちろんエゴノキ本人の顔写真も検索にかける。デボンの関係者リストに履歴書の写真が残っていたからね。ただ、エゴノキ自身は監視カメラを警戒して外に出ず、リゼルグの拠点で匿ってもらっているんじゃないかと僕は睨んでいるけど」

 

「そのアイディアには概ね賛成だが、ひとつ確認したい」ダンデが軽く右手を挙げた。「ダイゴ、さっき君はマクロコスモスがこの件に関与することに反対していなかったか? その方法だと、マクロコスモスに解析を依頼することになると思うが」

「そう、そこが懸念点だ」ダイゴは人差し指を立てて答えた。「僕の予想だと、マクロコスモス社の情報は、再びエゴノキの手でハッキングされている」

 

「何だって?」ダンデとキバナが同時に言った。二人は思わず顔を見合わせ、キバナは「けっ」と言って顔を逸らした。

 

「最初から疑問だったんだ。どうして彼らは僕たちが乗ったジェット機の居場所がわかったんだろうって。彼らが攻撃してきたのは、ジェット機が離陸してから約二十分後。そんなの、離陸したタイミングから把握していなきゃ、追いつけるはずがない」

 

 ダンデは何か気付いたように目を見開いた。

 

「そうか、飛行場。君たちが利用した飛行場は、マクロコスモスの所有地だ」

「そうだ。当然、僕は利用する前にマクロコスモスにコンタクトを取り、飛行場の使用許可を取った。そのやり取りがエゴノキに盗聴されていたんだ。だから、僕らがジェット機に乗り込むところから見張られていた」

「なんてこった。こいつはとんだ食わせモンだぜ」ダンデは項垂れた。「しかし、一度ハッキングがバレて解雇したのに、また易々と侵入されるほど、マクロコスモスのセキュリティはザルなのか?」

 

「僕も専門的なことは詳しくないし、まだ確証が取れたわけではない。さすがに社内のネットワークすべてを見張られているとは思えないが、念のため、慎重に行ったほうがいいだろう。こっちにいるデボン社員を通じて、マクロコスモスにコンタクトを取ってみる」

「なるほど、それがさっきの監視カメラの話にも繋がってくるってわけだな」ダンデは指を鳴らした。

「話が早くて助かるよ。方法を簡潔に説明しよう」

 

 ダイゴは席を立ち、マグノリアの後ろに置いてあるホワイトボードに簡単な図を書き始めた。

 

 ダイゴの作戦はこのようなものだ。リゼルグの詳細を掴むために、ガラル一帯の監視カメラの映像を解析する。だが、マクロコスモスのネットワークはエゴノキにハッキングされている可能性を考慮すると、マクロコスモス社内で解析を行うことで、エゴノキにこちらの動きを気付かれる恐れがある。

 

 そこで、マクロコスモスとデボンが手を結ぶことにする。マクロコスモスは監視カメラの映像データを記録媒体にコピーし、それをガラルに滞在しているデボン社員にリアルで直接手渡す。そして、デボン社員がデボンのコンピュータでその映像を解析するのだ。デボンにも似たような解析ソフトはあり、デボンのデヴァイスはエゴノキにも把握されていないため、安全に解析ができるというわけである。

 

 一応、エゴノキがデボンに在籍していた過去がある以上、デボンのネットワークにもハッキングを仕掛けている可能性もゼロではないが、さすがにガラルに滞在する社員個人の端末にまでその手が及んでいるとは考えにくい。念のため、解析前にウィルスチェックは行わせ、解析ソフトもネットから切断したオフライン状態で使わせるようにする。この方法ならまず安全だろうとダイゴは保証した。

 

「そして、以上のことをマクロコスモスに伝える役目を、ダンデ、君に任せたい」

「オレが?」

 

「ネットワークが見張られていると仮定する以上、やり取りはアナログで行うべきだ。つまり、誰かがマクロコスモス本社に直接赴いて、向こうの責任者に事態を伝える必要がある。立場的には僕がやるべきだが、僕はエゴノキに顔を知られているし、彼らは昨日僕を始末したと思い込んでいる。そんな僕がマクロコスモス本社に入るところを、リゼルグの誰かに見られるのは不味い。彼らがどこで見張っているか、わからないからね。その点、君ならローズ元社長と旧知の仲だから顔が利くし、本社に出入りしても不審には思われない」

 

「なるほどな」

「今、手紙を書くから、それを本社のネットワーク管理者に渡してほしい。現地のデボン社員に協力してほしいという旨を書いておく」

「了解。任せてくれ」ダンデは片手を丸めて胸を叩いた。

 

 こうして、ひとまずの方針は決まった。

 

ダンデはシュートシティへ戻り、マクロコスモス社に直接事情を説明する。

 

ダイゴは現地のデボン社員に連絡を取り、マクロコスモスと連携するよう指示する。また、例の公園の倒木に付いたDNAもチェックさせる。倒木は既に回収されているだろうが、あれほどの大木が昨日の今日ですぐに処分されるとは考えにくい。シュートシティの役所の管理課にでも問い合わせれば、どこに保管されているかわかるだろう。

 

マリィはホームのスパイクタウンに戻り、兄や仲間にリゼルグの詳しい情報を聞くという。

 

 マグノリアはメテノについてより詳しいデータを調べるべく、アローラ地方の研究者に意見を仰ぐと言い、研究室に戻った。

 

 ヒガナは、リゼルグの拠点が掴めたら潜入捜査が必要になるから、そのときに備えて道具を揃えておくと言った。そもそも、昨日の事故で荷物がほとんどなくなったため、生活に必要な物も買い足す必要がある。

 

 キバナは「オレも何かする」と言ったが、現状特にすべきこともないため、待機となった。暗に自分が役立たずとされたことに苛立ったキバナは、外のウッドデッキへと出ていってしまった。

 

「まあリゼルグの拠点がわかれば、場合によっては腕ずくで乗り込むことになるかもしれない」ダンデがキバナを見送りながら言った。「そのときは、キバナにも協力してもらおう。あいつの腕前は頼りになる」

「警察に任せて解決っていうのが、最善ではあるけどね」ダイゴが言った。

 

「おばあ様」突然、ノックもなく、誰かが部屋に入ってきた。「庭にキバナ君がいたけど、何かあったの?」

「おはよう、ソニア」マグノリアが答えた。

「わっ、なになに、いっぱい」ソニアは部屋の人数の多さに驚いた。

 

 ソニアはマグノリア博士の孫娘であり、自身も研究者としてガラル地方の歴史を研究している。昨日はダンデのマネージャー代理としてシュートシティに行き、そこで一泊してから、早朝の列車でブラッシータウンの研究所まで帰ってきた。

 ソニアは部屋の面々を見渡すと、矢継ぎ早にまくしたてた。

 

「あっ、ダンデ君こんなところにいた。ちょっともう、私、マネージャーさんからメールとか電話とかでめちゃくちゃ聞かれたんだからね。ダンデの奴、仕事すっぽかしてどこ行ったんだって。私だって、もう引継ぎ終わったし、知ったこっちゃないんですけどぉ。全然電話にも出てくれないしさぁ……」

 

 さらに来客であるマリィ、ダイゴ、ヒガナにも気付いて、目を丸くした。

 

「やだマリィ、久しぶりぃ。ネズさんから聞いたよ、ジムリーダーになったんだって? おめでとー。私もね、ようやく夢だった研究者への一歩を踏み出した、って感じで、嬉しいんだけど、思ったより超忙しくて、今も自分の研究発表の準備と、おばあ様の手伝いに、もうてんやわんやでどうしたもんかってとこなのに、ダンデ君ってば、急にオレのマネージャーをやってほしいとか何とか……、ああ、別にダンデ君に文句言ってるわけじゃないのよ? きちんとお賃金ももらいましたし、そこはまあ、言葉の綾ってことで、あれ? そっちのお二人さんは初めましての方? どうもぉ、マグノリアおばあ様の孫のソニアです。研究者やってます。って、わ、二人共ボロッボロ。いったいどうしちゃったんですか? あ、もしかしてキバナ君と喧嘩でもした? だからキバナ君、不貞腐れて出ていっちゃったとか? わかりますわかります。彼もいっつもさあ……」

 

 マグノリアは大きく咳をして黙らせると、ソニアが縮こまるほど小言を並べた。

 

「とはいえ、確かに」ダイゴがその光景を横目に見ながら、自身の服装を見て呟いた。「いろいろあって忘れてたけど、この格好は酷いね。どこかで買い直さないと」

 

 ダイゴとヒガナは、昨日の一件で爆発に巻き込まれた際、服が破れたり汚れたりして、そのまま着替える暇もなかった。ダイゴはスマホロトムを取り出し、地図を検索した。

 

「駅の北のほうにブティックがあるみたいだね。そこで買ってこよう。ヒガナも来るかい?」

 

 それを聞いたソニアがすかさず割り込んだ。

 

「あ、待って待って。服なら私のを貸すよ。ここに寝泊まりするとき用に、着替えは置いてあるから。あなたならサイズ多分合うと思うし」そう言って、ヒガナの頭上に自分の手をかざし、身長を比べる。「二階にあるから、一緒に来て。あ、ごめんなさい、さすがに男物はなくて……」

 

 ダイゴに軽く頭を下げ、マグノリアに睨まれつつ、ソニアは急いで部屋を出て行った。多分、逃げたかったのだろう。ヒガナは呆れながらソニアの後をついていく。それを見届けると、ダイゴも買い物に出かけた。研究所を出るとき、ウッドデッキに佇むキバナとフライゴンの姿がちらりと見えた。

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