キバナVSダンデ ―龍と空の王者―   作:スイカバー

21 / 43
6.

6.

 キバナとヒガナは、マグノリア研究所の外で話をした後、エンジンシティへ行こうという話になった。

 

エンジンシティはブラッシータウンとキバナの街・ナックルシティの間に位置する、ガラルの中では比較的大きな街だ。

ブラッシータウンとナックルシティの間には、ダイゴとヒガナが迷い込んだワイルドエリアが南北に大きく広がっているのだが、その中間辺りを切り拓いてできたという歴史がある。

 

土地の高低差が激しい地域ではあるが、ガラルの主要産業のひとつである蒸気機関が発達しており、蒸気機関で上下する昇降機が街中で稼働し、住民の移動に役立っている。

 

 ヒガナがそんなエンジンシティへ行きたいと言い出したのは、自分の買いたいものがそれくらいの大きな街に行かないと売っていないからということだった。

 

 ソニアに服を借りたことで、衣服の問題はなくなったが、飛行機事件で荷物を失ったヒガナは他にもいろいろ買い足すべきものがあった。特に、作戦が上手く進んで、リゼルグの拠点を探し出した際には、そこを捜査するための道具がいろいろと必要になる。

 

 キバナが聞いた限りでは、ヒガナは以前、ホウエン地方で流星の民の末裔として、一族の使命に関わっていた頃、一時期とある組織に潜入して、諜報活動のようなことを行っていたらしい。そのときの経験から、怪しい奴らを探ることに関しては、少しばかり知見があると言う。

 

 キバナは胡散臭いものだと適当にあしらったが、ヒガナはブラッシータウンのような田舎町には自分が望む物は売っていないだろうから、もっと大きな街で買い物をしたいと言い出した。それならエンジンシティが近いとキバナが言うと、ヒガナは土地勘がないので案内してほしいとキバナに頼んできた。

 

「何でオレ様がそんなめんどくせーことしてやんなきゃいけねーんだよ?」キバナは不機嫌になってぼやいた。

「めんどくさくても、作戦が進めばいずれ必要になるものなんだ。今のうちに準備しておくに越したことはない。それにどうせ暇なんだろう? ダンデやダイゴと違って」

 

 ヒガナは最後の一文をわざと強調して言った。キバナは舌打ちをして、ヒガナを睨む。相手が男だったら胸倉を掴んでいたところだ。

 

「それが人に物を頼む態度か?」

「友愛のジョークだよ。そうそう、やっぱり私はこういう役割のほうが合ってるね。坊ちゃんといると、どうも調子が狂っていけない」

「ほう、お前が狂ってんのは調子だけじゃねーようだが?」キバナも負けじと挑発した。

「あはは。君もドラゴン使いならわかるよね。ドラゴンはドラゴンに効果抜群。お互いに弱点を突き合う。だからトレーナー同士も自然と似てくるのかもね」

 

 キバナのこめかみがぴくりと動いた。

 

「なるほど、上手いこと言うじゃねーか」キバナは顎を上げ、高い背丈からヒガナを見下すように言う。「ますます憎たらしくなってきたぜ。案内だと? まっぴらだね。一人で勝手に行ってろ」

「だったらトレーナーらしく、バトルで決めようよ」ヒガナは人差し指を前に向けて、不敵に言った。「私が勝ったら、君にショッピングの付き人をしてもらう」

 

 キバナの表情が変わった。バトルという言葉に反応したようだ。

 

「オレ様が勝ったら?」

「どうしてほしい?」

「キバナ様にもう二度と話しかけない、ってのはどうだ」

「いいね。決まりだ」

 

 研究所のウッドデッキの外に出て、数百メートル以上に広がる草原の中で、二人は対峙した。

 

 正直、ヒガナにとって、買い物にキバナがついてくるかどうかなど、どうでも良かった。第一、エンジンシティに行きたいなら、そらとぶタクシーを手配すればいいだけの話だ。街の中もスマホロトムがあればどうとでもなる。

 

ただ、ガラルに来てからダイゴに振り回されたり、敵に襲われたりと、厄介な出来事に巻き込まれっぱなしで、鬱憤が溜まっていた。ちょっとバトルでもして、憂さ晴らしをしたいと思っていたところだった。そして、それはキバナもきっと似たような気持ちだろうという確信もあった。だから挑発した。

 

 やはりお互い似た者同士で、効果抜群なのかもしれない。

 

手っ取り早く、使用ポケモンはお互い一匹ずつの一本勝負となった。二人は同時に空中へとボールを投げ、ポケモンが草原に出現する。ヒガナはボーマンダ、キバナはヌメルゴンを繰り出した。

 

「ヌメルゴン、特殊攻撃主体のポケモンか」ヒガナが分析する。「ボーマンダの特性『いかく』を警戒したね。場に出ると、相手の物理攻撃力を下げる能力を持っているから」

 

 実際、その通りだった。キバナは先ほど、ワイルドエリアからダイゴとキバナを連れ帰る際、ヒガナがボーマンダに乗っているのを見ていた。だからヒガナがボーマンダを出すだろうと読んで、物理攻撃メインのフライゴンを出すのは避けたのだ。既に読み合いは始まっていた。

 

 また、キバナにはもう一体、特殊攻撃で戦うジュラルドンもいたが、ヌメルゴンを選んだのには別の理由もあった。

 

「ヌメルゴン、『れいとうビーム』!」

 

 キバナが技を指示する。ドラゴン・ひこうタイプのボーマンダに、こおりタイプの技は一番の弱点だ。同じドラゴン使いとして、ドラゴンの弱点はキバナ自身、誰よりも熟知している。だからこおり技を覚えたヌメルゴンが最適だと判断した。

 

「ボーマンダ、空へ上昇!」

 

 ボーマンダは背中の大きな翼をはためかせ、一気に飛び上がった。「れいとうビーム」をかわしていく。

 

「そして『どくどく』!」

 

 ボーマンダの口から紫色の粘液が吐き出され、ヌメルゴンに命中する。途端にヌメルゴンの顔色が変わり、膝から崩れ落ちた。

 

「厄介な技を使ってきやがる……」

 

 ヌメルゴンはどく状態になり、少しずつ体力が削られていく。空中にいるボーマンダに攻撃は届きにくく、このままでは決定打を与える前にヌメルゴンが倒れてしまうだろう。しかし、歴戦のジムリーダー・キバナにとって、この程度の攻撃は、考えるまでもなく対応できる範疇だった。

 

「ヌメルゴン、『ヘドロウェーブ』だ!」

 

 ヌメルゴンは身体を横に捻り、体液を放射状に打ち出した。これにより、キバナは攻撃と同時に、ヌメルゴンの体内から毒素を抜き出そうと考えたのだ。全方位に放たれた毒液の攻撃は、空を飛ぶボーマンダとて避け切ることは難しく、多少のダメージを与えることに成功した。しかし、それでも体内に毒が回るスピードのほうが速いようで、ヌメルゴンの動きが少しずつ鈍くなっていく。

 

 あまり長くはもたないか……。キバナは考える。毒を治す方法は他にもある。しかし、相手の攻撃に隙が無い。

 

「ボーマンダ、『りゅうのはどう』!」

 

 ボーマンダが空中から攻撃を仕掛けてくる。ヌメルゴンも「ヘドロウェーブ」で応戦するが、「りゅうのはどう」の威力が上回り、ダメージを受けてしまう。

 

「『れいとうビーム』!」

 

 ボーマンダの攻撃直後の間隙を突いて、弱点の技を撃ち出す。一発でも当たれば、致命傷になるはずだ。だが、キバナの見立て通り、ヒガナは間髪入れず反撃してきた。

 

「『かえんほうしゃ』!」

 

 ヒガナはボーマンダにほのおタイプの技を命じた。ドラゴンに対してほのお技はいまひとつだが、ヒガナの狙いはヌメルゴンではなく、「れいとうビーム」の技そのものだった。

 

 氷と炎の攻撃が空中で打ち消し合い、軽い爆発を起こして飛散した。氷の光線は空中で溶け切ってしまい、ボーマンダには届かなかった。やはり陸と空では地の利に差がありすぎる。何とかボーマンダを空から降ろさなければ。

 

「リスクは高いが、やるしかねーか」キバナは意を決して、右手の人差し指を空中高く掲げた。「ヌメルゴン、『りゅうせいぐん』!」

 

 ヌメルゴンは残り少ない力を振り絞り、体内からエネルギーの塊を上方へと射出した。打ち上げられたエネルギーは、上空で花火のように炸裂し、まさに流星のようにいくつもの小さなエネルギー体に分裂して、空中のボーマンダを襲った。

 

 「りゅうせいぐん」はエネルギーの消費が激しく、ここぞというときにしか使えない大技だ。しかし、これでボーマンダの動きを止められれば、わずかなパワーの「れいとうビーム」でも勝負を決められる。そう判断して、キバナはヌメルゴンに指示を出した。

 

 「りゅうせいぐん」のエネルギーは、ボーマンダのちょうど真上で炸裂し、上下左右どこに逃げられても当たるように、均等に降り注いだ。ここまでの精度で軌道をコントロールするには、相当の鍛錬が必要だっただろう。

 

「なるほど、よく育てられてる。君とヌメルゴンの絆を感じるよ」それを見ながら、ヒガナは余裕の表情だ。「それじゃあ私たちの絆も、ちょっくらお見せしますかねっと」

 

 そう言うと、ヒガナはジーンズの右の裾を捲り上げた。足首に何かの装飾品が巻き付いている。ヒガナはその右脚を空中へと高く蹴り上げた。

 

 次の瞬間、足首の装飾品が不思議な光を放った。そして、それに呼応するかのように、ボーマンダの身体も同じ色の球体状の光に包まれる。「りゅうせいぐん」のエネルギーが光へとぶつかるが、光は急激に輝きを増し、エネルギーが弾き返されていく。

 

「これは、メガシンカか!」

 

 光の中からボーマンダが飛び出してきた。否、先ほどまでのボーマンダとは明らかに姿が違う。赤い二枚の翼が、大きな一枚の三日月のような形に変形している。前脚を胸の鎧のような部分に収納し、摩擦係数を減らしているらしく、スピードもさっきまでとは段違いだ。恐ろしい速さでヌメルゴンへと突っ込んでくる。

 

「『おんがえし』!」

 

 ボーマンダの三日月状の翼が、刀のようにヌメルゴンの胴体を斬りつけた。ヌメルゴンはその場に横から倒れ込んでしまった。

 

「勝者、ヒガナさんっと」

 

ヒガナが足首の装飾品に手をかざすと、ボーマンダは元の姿に戻った。

 

キバナは急いでヌメルゴンの元に駆け寄る。戦闘不能にはなったが、ダメージはそこまで大きくないようだ。ポケモンセンターへ連れていけばすぐ良くなるだろう。そして、そこでキバナはひとつ妙なことに気付いた。

 

どく状態が治っている。ヌメルゴンがどく状態になったときに見られる、顔色などの独特の生体反応が、今はなくなっているのだ。「ヘドロウェーブ」を使っても完全にどくを抜き切ることはできなかった。他にもどくを治す方法は考えていたが、戦闘中に指示は出せなかった。なのに、なぜ自然に治った? キバナは頭の中で戦闘の流れを振り返った。もしかすると……。

 

「いやあ、いいバトルだったねえ」

 

 ヒガナが、ヌメルゴンとキバナの側までやってきて言った。満面の笑みを浮かべている。そうだ、バトルを省みることも大事だが、その前にまずやらねばならないことがあった。

 

「やられたぜ。強いんだな、お前」キバナは素直に相手を称えた。「まさかメガシンカされるとは……」

「使っちゃいけないとは言われなかったからね。そっちこそ、ダイマックスを使えば良かったのに」

「いや、ダイマックスはガラル粒子が流れてる特定の場所でしか使えないからな。ジムとかスタジアムとか、ワイルドエリアとか。こんなところじゃできねえよ」

「ふーん、そうなんだそうなんだ。それは勉強になりますなあ」ヒガナはわざとらしく頭の後ろで手を組んだ。

「あ、てめ、その反応、知ってやがったな」キバナは立ち上がって、ヒガナに詰め寄る。「どうせマリィにでも聞いてたんだろ。こいつ、自分だけぬけぬけと必殺技使いやがって……」

 

 ヒガナは目を逸らし、口笛を吹いた。キバナは頭に血が昇り、拳を振り上げかけた。しかし、少し考えて、すぐに拳を下ろす。

 

「いや、違うな。別に今までだって挑戦者でメガシンカを使う奴は何人も見てきた。それにさっきの研究所での話、レックウザのメガシンカこそ初耳だったが、オレだっていっぱしのドラゴン使いだ。ドラゴンポケモンのメガシンカくらい、ある程度は知識として把握している。お前がホウエンから来たボーマンダ使いって時点で、メガシンカの可能性を考慮できなかったオレの想像力不足だ」

 

 それを聞いて、ヒガナは急にくすくすと笑い出した。

 

「何だよ」

「いや、ごめん。思い出し笑いって奴さ。気にしない気にしない」

 

 キバナは不服そうに鼻から息を漏らした。そして、改めてヒガナのボーマンダのほうへと視線をやった。

 

「正直、知らない奴だからと舐めてたところもあったかもしれねえ。でも考えてみりゃ、ホウエンのチャンピオンと一緒にやって来るような奴だもんな。只者じゃないと警戒すべきだった」

「坊ちゃんと並べられるのもいい気はしないけどね」ヒガナは皮肉っぽく笑った。「それにあんまり言いたかないけどさ、さすがに坊ちゃんのほうが私より何倍も強いよ。仮にもチャンピオンだしね」

 

「そうか……」キバナは生返事をしながら、ボーマンダに近寄った。「だが、お前のボーマンダもよく育てられてるよ。メガシンカはポケモンとトレーナーの絆が鍵だが、メガボーマンダは中でも特に扱いが難しいと聞く。生半可なトレーナーじゃ、メガシンカまではできても、力を制御できず、逆に暴れさせてしまうらしいじゃねーか。その点、このボーマンダは制御どころか、『おんがえし』まで使いこなしていた」

 

 「おんがえし」は、ポケモンとトレーナーが絆を極限まで深めることによって、最大の威力を発揮する特別な技だ。それを使いこなすところからも、ヒガナとボーマンダの絆が見て取れた。

 

「お褒めに預かり光栄だね」ヒガナはボーマンダの頭を撫でてやった。「さて、そういえば何の話だったかな?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。