3.
通路では、誰ともすれ違わなかった。フォクスライは奥へ奥へと進んでいく。先ほどのホールの壁に、建物内の見取り図があったので、ヒガナはそれをスマホロトムで撮影していた。元々が研究所ということで、ほとんどの部屋が研究室か実験室というシンプルな構造だ。灰がかってくすんだ白の壁と廊下がどこまでも続いている。
金髪の男は地下へ降りていったようだ。フォクスライは階段を降りていく。外はもうすっかり暗くなっている時刻で、地上も地下も明るさはほとんど変わらないはずだが、気のせいか、地下のほうがより暗いように感じた。照明の蛍光灯も半分くらい切れかかっているように見える。
フォクスライはペースを変えず、歩き続けている。ヒガナは周囲を警戒しながら、その後を歩いていく。
「ちょっと待って」
ヒガナは小さな声でフォクスライを制止した。廊下の途中に、気になる部屋があった。室名プレートには「第三実験室」と書かれている。それ自体はいいのだが、ドアの上方のガラス部に、「立入厳禁」と書かれた紙が貼ってあるのが気になった。建物の老朽具合と比べると、紙やテープの質感はかなり新しい。最近貼られたものだろう。
ドアノブを捻ると、鍵が掛かっていた。当たり前か。ヒガナはポケットに入れておいた小さなポシェットから一本の針金を取り出し、鍵穴に突っ込んだ。見たところ、旧式のシリンダーだ。ガラル地方の錠前事情には詳しくないが、こういうのはどこもそんなに変わらないはずだろう。三十秒ほどで鍵は開いた。ヒガナは自分がこの任務を引き受けて本当に良かったと改めて思った。
中に入って、ヒガナはまず面食らった。目の前に広がる黒いカーテンが、ヒガナの視界全体を覆っていたのだ。部屋自体も廊下よりさらに薄暗い。照明が切ってあるのではなく、意図的に光量が絞られているようだった。
黒いカーテンは天井から床まで三メートル近い長さで、横にも四、五十メートルほど続いているようだ。かなり広い部屋らしい。目が慣れてくると、カーテンの切れ目から光が漏れているのがわかった。ヒガナはカーテンを少しめくって、中を覗き見た。
それは、今まで見たことのない、異様な光景だった。
廊下からここまで薄暗いモノクロの景色を見続けてきたヒガナにとって、そのカラフルなパステルカラーはある種色彩の暴力だった。光量自体は大したことはないが、眩しくて思わず一瞬、目を閉じてしまった。
その色彩の発生源は、メテノだった。マグノリア博士から、メテノには七色の種類があると聞いていた。恐らく、ここにはその七種類のメテノが揃っている。
恐らく、と思ったのは、種類を数えられないくらい、メテノそのものの数が非常に多かったからだ。少なく見積もっても、百匹単位のメテノが、そこにいるようだった。コアが剥き出しのメテノが、風船のように部屋中に浮いていた。数十メートル四方の部屋の中の、どこを見ても色とりどりのメテノが視界に入ってくる。
薄暗い部屋の中にあって、それはイルミネーションのように美しい光景であった。小さい頃、一族の集落がホウエン地方のトクサネシティにあったときに、プラネタリウムを見に行ったことがあったが、この部屋はそれを連想させた。だが、思い出の懐かしさとは裏腹に、ヒガナはこのあまりの異質さにむしろ身震いがした。何だ、この部屋は。
部屋を見渡すと、中央部の床に黒い四角形の塊が置かれていた。遠近感がわかりにくいが、一辺が一メートルほどある立方体の塊だ。質感を見た感じ、段ボールが黒く塗られているようだ。何かの箱だろうか。ヒガナは部屋の中にメテノ以外、誰もいないのを確かめると、カーテンをくぐって、恐る恐る黒い箱へと近づこうとした。
「あーあ、お前らはホント、一番やってほしくないことからやってくるよな」
そのとき、ヒガナの真後ろで声がした。ヒガナが素早く振り返ると、そこに二人の男が立っていた。一人は先ほどまで尾行していた金髪の男だが、もう一人は見覚えがなかった。しかし、どこかで見たことがあるような気がする。中肉中背のやや高めの身長に、茶髪をポニーテールのように後ろでまとめている。頬が痩せこけて、やつれているようだが、目つきは不相応に鋭かった。男はボールからポケモンを出した。
「ストリンダー、『オーバードライブ』」
紫色で爬虫類のような見た目の二足歩行のポケモンが、黄色のたてがみを鋭く尖らせながら、技を繰り出した。電気を纏った音波のような攻撃を、ヒガナはまともに喰らって後ろに倒れた。側にいたメテノたちが悲鳴を上げながら脇へ逃げていく。一匹一匹は小さいが、数十匹が一斉に動くため、部屋中に声が響き渡った。
そこでヒガナは思い出した。確かメテノは危機を感じると、「じばく」するんじゃなかったか? こんな部屋の中で爆発されたら……。ヒガナは瞬時に体勢を立て直して身構えた。しかし、メテノたちはただ宙に浮き続けるだけだった。
まさか。ヒガナは素早く左右を見回した。暗くてわかりにくいが、部屋の両端に、メテノ以外のポケモンが座っていた。ニョロボンとヌオーだ。どちらも「しめりけ」という特性を持つポケモン。これらが「じばく」を封じているというわけか。
「ご苦労ご苦労」
金髪の男が二匹に向けて言った。そういえば、監視カメラにはこの男がニョロボンを連れてメテノを捕獲する場面が撮影されていた。どうやらニョロボンはこの金髪のポケモンらしい。ヌオーも恐らくそうだろう。
「やはり生きていたか」もう一人の痩せた男が言った。「確か名前はヒガナとか言ったな」
正体がバレている。別にそこまで大層な変装をしたつもりではないが、こんなに早く看過されるとは思っていなかった。少なくとも、さっきのセキュリティゲートの時点では、金髪には気付かれていなかったはずだ。
「こいつのカードを返してもらおうか」痩せた男は、隣の金髪を親指で示しながらヒガナに要求した。カードを盗んだこともバレている。
「そのカードは元々この研究所で使われていた代物だ。タイムカードも兼ねていて、入場と退出の時間がコンピュータに記録される」男は淡々と説明し出した。「こいつのカードが、間を置かず、入場してすぐにまた入場と記録された。おかしいと思って俺が直々に調べに来たら、このザマだ。一番秘密の場所に、真っ先に入っていやがった」
そういうことだったのか。カードのデータは一枚ずつ個別に管理されていた。同じカードには、普通なら入場と退出が交互に記録されるはずだが、金髪が入場したぶんとヒガナが入場したぶんで、入場が二回連続記録された。そこを不審に思われたらしい。
それに……。ヒガナは気付いた。この男は今、「俺が直々に調べに来た」と言った。そんなことを言うのは上の立場の人間だ。改めて男の顔に目を向ける。そうか、こいつがリゼルグのリーダー、バッカクか。
ネットで見た写真は二年前、彼がダンデに負ける前のもので、髪はもっと短く、顔も肉が付いていた。言われてみれば、雰囲気は多少似ている。面影はある。だが、そう言われなければ、とても同じ人物だとは思えなかった。落ち窪んだ眼窩は陰影が強く、何かに憑りつかれているかのようだった。監視カメラの解析をすり抜けたのも、単に風貌が変わり過ぎていたからだったのかもしれない。
「動くな、『でんじは』」
バッカクはストリンダーに命じた。ヒガナがポケットに手をかけ、ボールを取り出そうとしたのを、バッカクは見逃さなかったのだ。ヒガナは全身に電流を浴びて、身体が痺れ、身動きが取れなくなった。
「本当に油断も隙も無いな」バッカクは床にしゃがみ、倒れ込んだヒガナに目線を合わせた。
「まあ遅かれ早かれ来るだろうとは思っていた。仮にもチャンピオンともあろう者が、あんな攻撃でくたばるわけがないからな。そのままホウエンに帰っていれば良かったものを……」
あのジェット機の襲撃のことを言っているのだろう。バッカクは隣の金髪のほうを向いた。
「もっとも、それはお前らのツメが甘いせいでもある」
バッカクは金髪の腹部に向かって蹴りを入れた。鈍い音と共に、金髪は悶絶して、その場に蹲った。
「どいつもこいつもイライラさせる……。さっさと終わらせようぜ、全部」
そこで再びカーテンの隙間が開いて、また別の男が入ってきた。さっきホールで金髪と話していたマッチョの男だ。言われてみればこいつも、あの襲撃の三人組の一人に体格が似ている。
「準備できました。ようやく始まるようです」
「ったく、待たせやがって、あのオッサン」バッカクは金髪に唾を吐きかけて、天井を仰いだ。「そうか、いよいよか。我らリゼルグの悲願がついに叶う」
「今だ!」
ヒガナが叫んだのと同時に、ヒガナの上を黒い影が素早く飛び越えて、ストリンダーに向かっていった。フォクスライの「ふいうち」だ。
「エアームド、『はがねのつばさ』!」
しかしストリンダーの前に別のポケモンが立ち塞がり、フォクスライの攻撃は防がれた。マッチョの男が繰り出したエアームドが、自身の鋼鉄の翼で、フォクスライを受け止めている。
「聞こえなかったのか」バッカクは一歩踏み出した。「動くなっつったろ」
バッカクは足を振り上げ、うつ伏せのヒガナの背中を思い切り踏みつけた。ヒガナは思わず悲鳴を上げる。
「次は骨を折るぞ」バッカクは舌打ちした。
「『エアスラッシュ』!」
そしてマッチョがエアームドに指示し、フォクスライは後方へと吹き飛ばされた。部屋の中央部に設置された黒い箱に激突すると、箱が傾いて、横に倒れた。ヒガナは痛みに耐えながら、箱のほうを向く。箱は底面が開いており、中の何かを覆っていたようだ。中に入っていたのは……。
「あれは、タマゴ?」
箱が覆い隠していたのは、タマゴだった。直径五十センチほどのタマゴが、十個ばかり無造作に置かれていた。そして、そのタマゴの中央には、二匹のメテノが寄り添っている。どちらも赤いコアのメテノだ。
しかし、二匹の内、片方は箱が倒れた衝撃で驚いて、ぶるぶると震え出した。そして、コアがまるで沸騰したみたいに弾けると、色が赤から薄紫に変わり、氷が解けるように形を失っていく。
「まさか、メタモンか?」
片方のメテノは、メタモンが「へんしん」した姿だった。メタモンは自分の細胞組織を組み替えて、あらゆるポケモンの姿をコピーできる能力を持つ。その力でメテノに変身していたようだ。
「じゃあ、あのタマゴは……」
「おかげさまで、充分な数が確保できたよ」バッカクがヒガナの背後で言った。
「ポケモンは近しい種族のオスとメスがペアになることでタマゴができるが、メテノは性別を持たないため、その生殖は謎に包まれている。しかし、メタモンがいれば話は別だ。メタモンは、性別不明のポケモンであっても、その多くとペアになることができる」
バッカクはタマゴのほうへと歩いていく。
「エゴノキのオッサンがこういう方面に詳しかったからな。オッサンが言うには、ポケモンのタマゴってのは、ポケモンが直接産むわけじゃなく、オスとメスのつがいがいるところに、あるとき突然現れるものなんだそうだ。特に人間の目があるところでは、タマゴは絶対に出現しない。だからこうして箱で覆って見えなくしていたわけだ」
バッカクは右手でタマゴを持ち上げて言った。
ポケモンのタマゴは、その存在こそ世間に周知されてはいるが、どのようなメカニズムで発見され、そこからどのようにポケモンが産まれてくるのか、まだまだ謎が多い。しかしエゴノキはかつて研究所で遺伝子工学を専門としていた。ポケモンのタマゴについても、それなりの知識を持っていたようである。
「なるほど、全部繋がったよ」ヒガナが言う。「そうやってタマゴを量産して、孵すことでメテノを増やしていたんだな。ただ増え過ぎたメテノを管理し切れなくて、何かの拍子にこの研究室からメテノが何匹か逃げ出してしまった。それがシュートシティやナックルシティで目撃されたってことか」
「そうだ。こいつがシクったせいでな」バッカクは立ち上がった金髪の脇腹を肘で小突いた。金髪はまた嗚咽を漏らした。
「まあお前らが気付いているってことは、こちらも重々承知の上だ。言っただろう? 遅かれ早かれお前らが乗り込んでくるとわかっていたって」
そういえば、さっきそのようなことを言っていた。だが監視カメラの解析は、ハッキングを警戒して、ダイゴが慎重に手続きを進めていたはずだ。そんな簡単に情報が漏れたとは考えにくい。
「ジェット機の件は、お前らももう察していると思うが、エゴノキのオッサンがマクロコスモスの電話回線の一部をハッキングしていたから盗聴できた。だが、さすがにハッキングも二度目となると、そんなに広範囲をカヴァはできない。監視カメラの件は、もっとシンプルな方法だ」
バッカクは手に持ったタマゴを、もう片方の手で優しく撫でる。
「内通者だよ。マクロコスモス内部にリゼルグの構成員がいた。スパイというほどじゃない。たまたまウチに入団した奴の中に、マクロコスモスの社員がいたから、そいつからいろいろ情報を回してもらっていただけのこと。それで、ダンデの奴が監視カメラの映像を解析したいと申し出てきたことがわかったってわけだ。おかげで、こうやってお前らの潜入に備えて、セキュリティを強化することができた」
バッカクは、ポケットからカードを取り出して、ヒガナに見せた。
「侵入こそ許しちまったが、こうやってすぐに気付けたんだから、効果はあったということにしてくれや」
なるほど、あのゲートの認証は、犯罪組織にしてはやけに仰々しいと思ったが、事前に乗り込んでくるという情報を得ていたから、その対策だったということか。
「結構やるじゃないか」ヒガナは苦笑いした。「ウチのチャンピオンさんたちもそこそこ頭が切れると思ってたんだけどね」
「まあ、実際思った以上に手を煩わせてくれたよ、お前らは」バッカクも鼻で笑った。「だがこれで、ようやくあのダンデに一泡吹かせられる」
バッカクはタマゴを空中へと放り投げた。タマゴは大きな音を立てて床にぶつかり、少しヒビが入ったようだ。普段はどちらかというとヒールを気取っているヒガナも、この行いには頭に来るものがあった。
「何でオレがわざわざこんなに無駄なことを喋ったかわかるか」
バッカクは金髪とマッチョのほうへと歩いていく。
「せめてもの手向けさ。これから消えゆくガラルの最期を彩る盛大な儀式……、それを間近で拝める、お前へのな」
バッカクがそう言うと、天井のほうから何かが動く大きな音がした。機械が作動する音と共に、天井の中心に切れ目が入り、天井板が左右にスライドしていく。それに合わせて、その上階である地上一階も同様に、天井が開いていく。地下一階から地上二階まで、垂直に吹き抜けのような空間ができた形だ。
空間が開いた一階の左右のへりには、大勢の人間が集まっていた。それぞれ二、三十人ずつはいるだろうか。へりから地下のこの空間を覗き込んでいる。
ヒガナは頭の中にこの建物の見取り図を思い浮かべる。この実験室の真上は確か会議室だ。そういえば、金髪かマッチョのどちらかが、皆会議室に集まっているようなことを言っていた。つまりあれが他の構成員たちということか。彼らもこの「儀式」とやらを見物する観客らしい。
そして、その真上の二階では、スライドした左右の板の間の空間に、細いパイプのようなものが渡っており、パイプの中央部には、巨大なメカニカルの球体が設置されていた。吹き抜け空間の中央に球体が浮いているような光景である。
さらに二階の天井部もまた開閉され、その上方にはすっかり暮れ落ちた夜空が広がっていた。
「さあ、祝杯を挙げよう」
バッカクがそう言うと、マッチョは持っていた袋から何かを取り出し、バッカクと金髪にそれぞれ手渡した。薄暗い部屋の中で、ヒガナは目を凝らして見た。あれは、飲料の缶か?
「乾杯」
そして三人は缶のプルタブを開け、小気味よい発泡の音と共に、缶の中身に口を付けた。マッチョの袋のロゴを見るに、さっきヒガナが尾行していたとき、金髪がスーパーで買ってきたものらしい。酒を飲んでいるようだ。
「安酒で勘弁してくれ。金がないんでな」バッカクは笑いながら、金髪の頭を無造作に撫でた。
「いいんすよ。それよりほら……」金髪も袋から何か取り出し、他の二人に渡す。
「めでたいっすねえ、今日は」
瞬間、三人の手元から破裂音がした。そして、うつ伏せのヒガナの頭に何か小さい物がひらひらと落ちてきた。色紙の細い切れ端だ。三人の手には小さい三角の筒が握られている。パーティに使うクラッカーだった。ふざけているのか? ヒガナは呆れつつも、背筋に少し冷たいものを感じた。
「始まるぞ」
二階のパイプ部分に設置された、直径十メートルほどの球体が、青白い光を放った。すると、地下のこの空間に浮遊していた百体ほどのメテノたちが、徐々に球体のほうへ吸い寄せられていく。メテノたちは一階付近の空中に固まって静止し、それぞれのコアの色に合わせたオーラのようなものを放ち始めた。その七色のオーラが球体へと吸い込まれる。それを見た一階フロアの構成員たちは歓声を上げた。
「メテノの隕石エネルギーを集めて、レックウザを呼び寄せようとしている……?」ヒガナの声に緊張が走る。
「オッサンの研究成果の賜物だ」バッカクはさらに一口酒をあおり、手の甲で口元を拭った。「おまけにエネルギーの波長を操作して、レックウザを洗脳する機構も組み込んである。これで伝説のポケモンの力も意のままよ」
「さすがに許せないね……」
ヒガナは全身の力を振り絞って、立ち上がろうとした。
「三度目だ」バッカクがヒガナのほうへと近づく。「動くな。マジで折るぞ」
「折りたきゃいくらでも折ればいいさ」ヒガナはバッカクを睨んだ。「心だけは、絶対に折れないけどね」
「ストリンダー!」バッカクが叫ぶ。「やれ、『オーバードライブ』」
「フォクスライ、『マッドショット』!」
ストリンダーが電気の音波を浴びせようとした刹那、箱の陰からフォクスライが飛び出し、泥の塊を放出した。でんき・どくタイプのストリンダーにじめんタイプのワザはてきめんに効く。「マッドショット」をまともに受けたストリンダーは、思わず後方へと退いてしまう。
「こいつ……」バッカクは歯軋りした。
「俺たちに任せてください」マッチョがエアームドと共にバッカクの前に出た。「おい」隣の金髪に顎で示す。
「わかってるよ」金髪もポケットからボールを出し、ポケモンを繰り出した。マンタインだ。
よろいどりポケモンのエアームドに、カイトポケモンのマンタイン。どちらもジェット機の襲撃の際、攻撃を加えてきたポケモンである。
「なるほど、やっぱりあんたらがあのときの……」ヒガナは得心した。
「エアームド、『はがねのつばさ』!」
「マンタイン、『ハイドロポンプ』!」
金髪とマッチョがそれぞれ指示すると、二匹のポケモンはヒガナとフォクスライに向かって技を放った。ヒガナは先ほどの「でんじは」の痺れがまだ残っており、脚が満足に動かない。反射的に腕で顔をガードしたが、直撃は避けられないだろう。ヒガナは目を瞑り、歯を食い縛った。
「メタグロス、『サイコカッター』!」
暗闇の中で、鋭い音がヒガナの耳を通り抜けた。目を開けると、エアームドとマンタインはヒガナの左右で体勢を崩している。そして、正面には見知った男がポケモンと共に立っていた。
「待たせたね。大丈夫かい? ヒガナ」
ダイゴがヒガナの下へ駆け寄ってきて、手を差し伸べた。ヒガナはその手を掴んで立ち上がる。
「余裕さ」ヒガナは微笑んだ。「まあ、危なかった可能性も、無きにしも非ずだけども」
ヒガナは着ていたジャケットやトップスをその場で脱ぎ捨てた。その下には、前にホテルで披露した怪盗風の一張羅を纏っていた。
ダイゴもガラルのブティックで気に入ったという、探偵風の衣装を相変わらず着用している。
探偵と怪盗という、相反する二人が隣に並び立つ奇妙な光景が展開された。
ヒガナは金髪とマッチョのほうを指さして言う。
「あいつらが、空で私たちを襲ってきた奴らだ。やり返すなら、こっちも二人がちょうどいい」
「なるほどね」ダイゴも状況を理解した。
「他のみんなは?」ヒガナが訊く。
「ダンデはどうしたんだろう。一緒にゲートを通ってきたんだが……」ダイゴが周囲を見回しながら言うと、彼のポケットから着信音が鳴った。ダイゴはスマホロトムを取り出す。
「ダンデか?」そう訊くと、数秒黙り、そして大声で言った。「……何だって? いや、たったこれだけの距離だよ。どうやったらそんなすぐに迷子になれるんだ?」