6.
ダイゴとヒガナも、レックウザの降臨を目視した。装置から隕石エネルギーがレックウザへと照射され、二人は焦りを覚えた。
ダイゴは再びメタグロスに「ヘドロばくだん」を命じ、装置を攻撃させたが、やはり上階のイエッサンの「このゆびとまれ」に阻まれ、装置には届かない。おまけに、イエッサンの周りにいる他のポケモンが、「いやしのはどう」という技でイエッサンの体力をその都度回復させているようで、「このゆびとまれ」を止めることも難しい。
ヒガナのボーマンダと共に、イエッサンを集中攻撃できれば話は別だが、腰を据えて攻撃しようとする合間にも、ゴスロリたち三人のポケモンが攻めてくるため、そちらにも対応しなければならない。
「ならば……」
ダイゴはメタグロスの頭の上に乗って、浮遊し始めた。
「ヒガナ、少し時間を稼いでくれ」
そう言うと、そのまま上階へと上がっていく。ゴスロリのサザンドラがメタグロスに向かって「だいもんじ」を放つのと見ると、ヒガナはボーマンダに「かえんほうしゃ」を命じ、「だいもんじ」と相殺させる。マンタインとエアームドもボーマンダのほうを向いた。
「簡単に言ってくれるね……」
ダイゴは二階の装置の近くまで上昇すると、ポケットからボールを取り出し、ポケモンを繰り出そうとした。中にはポリゴンが入っている。装置のネットワークには厳重なセキュリティが掛かっているが、装置の目の前から直接侵入すれば、あるいは……。
その瞬間、左右から攻撃の気配を感じた。「バブルこうせん」、「シャドーボール」、「きあいだま」などと叫ぶ声も聞こえる。
「メタグロス、『コメットパンチ』!」
メタグロスが四本の腕を駆使して攻撃を捌こうとするが、手数があまりに多い。ダイゴはメタグロスの上でバランスを崩すと、持っていたポリゴンのボールを手から取り落とす。そのボールは攻撃に巻き込まれて高く飛び上がり、装置を超えて吹き抜けの向こうまで飛んでいってしまった。
ボールを取りに行く間もなく、ダイゴは攻撃から逃れるため、たまらずメタグロスを下降させた。どうやら、一階のフロアにいた構成員たちのポケモンが、一斉に攻撃を仕掛けてきたようだ。ざっと二十匹はいる。それはそうだ。大事な装置を守る役目をイエッサン一匹だけでまかなうはずがない。恐らく下の三人と比べれば、構成員一人一人は大したことはないだろうが、二十匹は一度に相手するには多すぎる。
ダイゴの目論見は失敗した。頼みの綱のポリゴンも失ってしまった。となると、やはり正攻法で行くしかないか……。
つまり、あくまでひとつひとつ地道に処理する。優先順位としては、ヒガナと協力して、まず三人のポケモンを退け、その後構成員たちと対峙しながらイエッサンを倒しつつ、装置を破壊するということになる。いずれにしても、残された時間はわずかだろう。
「ボーマンダ、『ハイパーボイス』!」
「マンタイン、『ワイドガード』!」
ヒガナがボーマンダに指示するが、ボーマンダの音波攻撃は、金髪のマンタインが展開するバリアに阻まれた。ジェット機のときにも見た通り、マンタインがいる限り、広範囲への攻撃は防がれてしまう。
「だったら、サザンドラに『りゅうのはどう』!」
続いてゴスロリのサザンドラへの攻撃を試みる。ボーマンダの口からエネルギーが水流のように迸った。
「エアームド、『エアスラッシュ』!」
マッチョが命じると、エアームドは翼を羽ばたかせて、空気を切り裂き、刃のように撃ち出した。「りゅうのはどう」のエネルギーは左右真っぷたつに割れて、サザンドラには届かない。
「サザンドラ、『あくのはどう』!」
サザンドラの身体から、真っ黒なエネルギーが輪のようになって周囲に放出される。ボーマンダは攻撃の隙を突かれ、そのエネルギーの輪に引っ掛かってダメージを受けた。
ダイゴも戦線に戻り、ヒガナとボーマンダに加勢する。
「メタグロス、サザンドラに『コメットパンチ』!」
メタグロスは四つの拳を前方でくっつけて、サザンドラへと突撃した。
「エアームド!」
サザンドラの前にエアームドが立ちはだかり、翼でメタグロスの拳を受け止めた。
「『きんぞくおん』!」
エアームドの口から不快な音波が発せられ、メタグロスの動きが鈍る。
「そこだよサザンドラ、『だいもんじ』!」
サザンドラの三つの口から炎が吹き出し、メタグロスに命中した。
「ははっ、痛い? 痛そうだねえ」ゴスロリが楽しげに言う。「大丈夫だよう。そのうち快感に変わるから」
ボーマンダとメタグロスはいったん相手の三匹から距離を取り、ダイゴとヒガナの下へ戻った。
「やっぱり完璧なコンビネーションだね」ヒガナは皮肉っぽく笑った。
「サザンドラが攻撃の司令塔で、それをマンタインとエアームドがサポートしているというわけか」ダイゴが分析する。「さて、どう崩したものか……」
「ちょっと、絶対に勝つんじゃなかったの?」ヒガナが呆れ気味に訊いた。しかしダイゴは黙って何も答えない。
「『こうそくいどう』!」
金髪とマッチョが同時に叫んだ。マンタインとエアームドの動きが加速し、実験室の中を縦横無尽に飛び回る。二匹の軌道はヒガナの動体視力でも追い切れない。さらに二人が同時に叫ぶ。
「『エアスラッシュ』!」
上下左右あらゆる方向から、空気の刃がボーマンダとメタグロスへと飛んできた。
「『サイコカッター』で迎撃!」
メタグロスも念波の刃で「エアスラッシュ」の勢いをかき消そうとするが、それでも二体分の攻撃は捌き切れず、少しずつ体力が消耗していく。
不味い、本当に時間がない……。ヒガナは一歩前に出て、ボーマンダに指示しようとする。しかしダイゴは右手をヒガナの前に出して、それを制した。
「焦らなくていい。勝利への道は見えた」
「え?」
「君はサザンドラを引き付けてくれ。そして、僕が指示したら、ボーマンダに動きを止めるよう命じるんだ」
ヒガナはダイゴの言っている意味が理解できなかった。しかし、今は従うしかない。詳しい説明を求める時間もない。ダイゴは「絶対に勝つ」と言った。何の根拠もない言葉だとは思えない。彼を信じる以外の選択肢はなかった。
「了解」ヒガナはにやりと笑った。「ボーマンダ、サザンドラに突っ込め。『おんがえし』!」
ボーマンダはミサイルのように一気に加速し、「エアスラッシュ」の嵐を突っ切りながら、サザンドラのほうへと向かっていく。
「馬鹿正直に向かってくるなんて……、痛みでおかしくなっちゃった?」ゴスロリがこめかみに人差し指を当てて挑発する。「サザンドラ、『ダブルウイング』で受け止めな!」
サザンドラは仰向けの姿勢になり、左右の頭を胸の前でクロスさせ、突っ込んできたボーマンダの腹の辺りを、バレーボールのトスのように思い切り弾いた。「おんがえし」の勢いが殺され、ボーマンダの身体が宙へと浮く。完全に無防備な状態だ。
「怒りをぶちまけろ、『げきりん』!」
サザンドラは左右の頭を前に突き出しながら、ボーマンダへと突撃する。まともに喰らえば、メガシンカしたボーマンダとてひとたまりもない。
「メタグロス、『サイドチェンジ』!」
瞬間、ボーマンダがサザンドラの目の前から消え、代わりにメタグロスが出現した。メタグロスがいた場所にはボーマンダが現れる。つまり、二匹の位置が瞬時に入れ替わった。
メタグロスは四本の腕で、サザンドラの攻撃を受け止めた。完全に虚を突かれ、今度はサザンドラが無防備になる。
「中央の頭へ『ヘドロばくだん』!」
四本の腕から毒性の塊が発射され、サザンドラの本体の頭に当たった。サザンドラは思わずよろめくが、左右の頭は怯まず、周囲を警戒し続けている。
「今だ、ヒガナ!」
ダイゴが叫んだ。ヒガナは一瞬意味を図りかねたが、すぐに先ほどのダイゴの指示を思い出す。彼は「ボーマンダに動きを止めるよう」言っていた。
「止まれ、ボーマンダ!」
ボーマンダは困惑しつつも、翼を休ませ、その場に静止した。
「おいおい、なーにやっちゃってんの? せっかく奇襲できたってのに」ゴスロリが笑う。「隙だらけじゃーん。マンタイン、エアームド、やっちゃいな!」
ゴスロリは勝手に二人のポケモンに指示した。「こうそくいどう」で加速した二匹は、それぞれメタグロス、ボーマンダのほうへと向かっていく。
しかし、その動きは止められた。サザンドラの攻撃によって。
サザンドラの左右の頭が、マンタインとエアームドを攻撃したのだ。
「え? 何なに? サザンドラちゃん、何してんのよう?」
双頭が二匹を無造作に殴り続ける。不意の味方からの攻撃に、二匹も訳がわからない様子だ。
「サザンドラは三つの頭を持つが、知性を持っているのは真ん中の本体だけで、残りのふたつは破壊衝動のみで動く」ダイゴが説明する。「そして凶暴な性格のサザンドラは、動くものはすべて敵と見做して攻撃するんだ」
「なるほど、通常なら本体の知性が敵をしっかり区別できるけど、『ヘドロばくだん』で本体の視界が防がれた今、左右の頭が本能だけで見境なく攻撃してるってわけか」
「そう、止まっているメタグロスとボーマンダは無視して、素早く動いているマンタインとエアームドのほうをね」
ヒガナは驚いた。ダイゴはサザンドラが攻撃の司令塔だと言った。それだけでない。サザンドラ自身においても、中央の本体こそが真の司令塔だと見抜いていたのだ。そこさえ潰せば、三匹のコンビネーションは瓦解できる。そこから逆算して、その状況を作り出すために、瞬時に作戦を立てた。
「とどめだ、メタグロス、『コメットパンチ』!」
「ボーマンダ、『りゅうのはどう』!」
暴れるサザンドラと、それに巻き込まれるマンタインとエアームド。完全に隙を晒した三匹が、メガシンカ二匹の攻撃を避けられるはずもなく、技は直撃し、三匹ともその場に倒れ込んだ。
ダイゴがヒガナのほうを向いて言う。
「ヒガナ、信じてくれてありがとう。君とのコンビネーションがなければ、この勝利はなかった」
「信じようとは思ったけど、まさかこれほどとはね」