キバナVSダンデ ―龍と空の王者―   作:スイカバー

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 不幸中の幸いで、オヤジとタタッコは無事だった。ジュラルドンの迅速な行動で、彼らはすぐに救助された。オヤジにほとんど怪我はなかった。のちのオヤジの証言によると、爆発の瞬間、タタッコが身を挺してオヤジを遮るように爆風を背に受けたおかげだそうだ。オヤジは煙を吸ったせいで一時的に気を失っていたが、救急車で病院に運ばれて、すぐに意識を取り戻した。

 

 タタッコも大ダメージを受けたものの、一般的なポケモンバトルで受けて平気なダメージの範疇であり、ポケモンセンターで治療すれば、すぐに良くなるそうだ。

 

 弁当屋は爆発の勢いで半壊したが、消防により火は消し止められ、周囲に飛び火することはなかった。総じて被害といえば被害だが、取り返しのつかない最悪の事態は避けられたと言える。その点に関して、キバナはひとまず安堵した。

 

 キバナと通行人たちは、救急と消防と共にやってきた警察に、その場で軽く事情聴取を受けた。通行人たちも怪我はなく、聴取を受けるとすぐに解放されたが、キバナは目撃者であり被害者の知人ということで、後日改めて警察署に来てほしいと言われた。

 

事故現場での聴取が終わると、キバナはその足ですぐにオヤジのいる病院に向かった。オヤジが心配だったのもあるが、何より自分があの光を避けたせいで、オヤジを巻き込んでしまったことを後悔していたからだ。

 

だが、病室でそれを伝えて謝ると、ベッドに横たわったオヤジは「気にすんな、キバちゃんこそ怪我がなくて良かったよ」と笑ってくれた。本当はキバナも手を少し火傷していたのだが、ポケットに突っ込んで何でもないふりをした。

 

 病院を出てスマホロトムで時間を確認すると、もう日付が変わる頃だった。長い一日だった。そういえば、弁当を持っていないことに今さら気付く。どうやらあの爆発の中で落としてしまったらしい。オヤジのオススメのサラダ、食いたかった……。

 

 疲労と空腹で倒れそうな中、何とかタクシーを拾い、自宅のマンションへと向かう。後部座席で大きな溜息をつきながら、キバナは運転手に聞こえないよう、独り言を言った。

 

「しかし結局、こいつは何なんだ……」

 

今のところ、この事件の最大の謎は、今自分が手にしているボールの中に入っているポケモンだ。

 

 そう、あの爆発は、ポケモンの仕業だったのである。

 

 爆発の中で、ジュラルドンはオヤジとタタッコを腕に抱え、炎に包まれた店の中から助け出してくれた。そのとき、ジュラルドンの右肩の辺りに、小さな赤い光の物体がくっついていることにキバナは気付いた。

 

爆発の原因と思われる、空中を飛んでいた謎の赤い光。爆発前よりいくらか小さくなっているようだが、これは間違いなくあの光と同じものだ。

 

爆発を起こしたことからも、ただの光ではなく、質量を持った物体であると思われる。だがこれはいったい何なんだ?

 

ジュラルドンが店から充分距離を取ったのを確かめると、キバナは恐る恐るジュラルドンに近づいた。ちょうどジュラルドンがオヤジとタタッコを地面に下ろすために屈んだので、キバナも自然と膝を曲げて、ジュラルドンを上から覗き込む形になった。

 

 そのとき、キバナの身体から、ジュラルドンの上に何かが落ちた。そのままそれはジュラルドンの身体を滑り落ち、地面へと転がる。見るとそれは、ひとつのモンスターボールだった。

 

 すぐにキバナは自分のジャケットの胸ポケットを確認した。なるほど、先ほどポケモンセンターのショップで、キバゴのために買い替えたモンスターボールを、胸ポケットに入れていた。それが今、屈んだせいで落ちてしまったのだ。

 

 キバナはそのボールを拾って、胸ポケットにしまおうとしたが、そこである異変に気付いた。

 

 ボールの中に何か入っている。

 

 モンスターボールはポケモンの質量に関係なく収納でき、数百キロものポケモンでも片手で運べる優れた代物だが、空のボールとポケモンの入ったボールでは、明らかに重さが異なる。手に持てばすぐにわかるほどの違いだ。

 

 そう、買ったときは空だったボールに、今確実に何かが入っているのだ。

 

 そして改めてジュラルドンの肩を見ると、さっきまであったはずの赤い光の物体が消えている。まさか……。

 キバナは一瞬躊躇したが、意を決してボールの開閉スイッチを押し、ボールを開いた。すると中からやはり、あの赤い光の物体が出てきた。

 

「こいつはポケモンだったのか」

 

 胸ポケットから落としたときに、たまたま当たって、入ってしまったのだろう。ボールに入ったということは、すなわちポケモンだという道理になる。だがまだ信じられなかった。

 

 よく見ると、それはただの光というよりは、輝きを放つ丸い岩石のようだった。直径にして二十センチちょっとだろうか。全体は丸みを帯びつつも、周囲には五か所ほど三角の棘が突き出ており、見ようによっては星型にも見える。そして中心には一際強い光で白く輝く、一対の目のようなものも認められた。今は気を失っているようで、瞬きひとつしないが。両目の間には、小さい口もあるようだ。

 

 こうして見ると、なるほど確かに、生物のように見えてくる。本当にポケモンであるらしい。

 だがそのポケモンの正体が、キバナにはすぐに思い出せなかった。どこかで見たような記憶はあるのだが、名前が出てこない。

 

そうこうしているうちに、消防が到着し、キバナは現場活動の協力に回る羽目になった。いったんそのポケモンをボールに戻し、消防や救急を手伝った。

そして病院を後にし、タクシーに乗った今、改めてそのボールを手に取りながら、キバナは考えている。

 

 本当は事情聴取のとき、警察にこれを渡すべきだったのかもしれないが、あのときはオヤジのことが心配で、気が動転して忘れていた。まあ、後日改めて見せに行けばいいだろう。しかしこのポケモンはいったい何なのだろうか。

 先ほどは思い出せなかったが、今タクシーの中でスマホロトムを起動し、ネットを検索したことで、ようやくわかった。

 

 このポケモンはメテノだ。

キバナはネットに掲載されているポケモン図鑑の説明文を読む。

 

『ながれぼしポケモンのメテノは、成層圏で生まれ、オゾン層で暮らすポケモンである。周囲の塵を集めて岩石のような外殻を形成し、それが重くなると地表へ落ちてくる。落下の過程で外殻はほとんど燃え尽き、地上に届く頃には中のコアだけが残る』

 

なるほど、普通のポケモンとはかなり異なる生態をしているようだ。そして説明の最後に書かれている「中のコア」に添付された画像を見ると、今このボールに入っているメテノの姿とまったく同じである。コアの色は青、緑、黄色など様々あるようだが、この個体と同じ赤いコアのメテノも、確かに確認できる。

 

 メテノの覚える技の一覧によると、「じばく」や「だいばくはつ」も覚えるとあるので、弁当屋での爆発は、メテノが起こしたものと見て間違いないだろう。実際、このメテノは「じばく」を使ったポケモン特有の体力の消耗の仕方をしていた。

 

 だが……、それでもまだ疑問は残る。

 

 そもそもキバナは今ネットで調べるまで、メテノというポケモンの存在をほとんど忘れていた。それもそのはずで、メテノは本来このガラル地方には生息しないはずのポケモンだからである。

 

 本やネットでその存在こそ知ってはいたが、キバナにとって、本物のメテノを見たのはこれが初めてだった。ジムの挑戦者の中には、他の地方からやってくる者も少なくないが、それでもメテノを使うトレーナーには出会ったことがない。それくらい珍しいポケモンのようだ。

 

 メテノはオゾン層から地上に落ちてくると書かれているが、実際その落下地点は非常に限られており、そのほとんどがアローラ地方のホクラニという山岳に集中しているらしい。他の地方でも若干の目撃例はあるようだが、少なくともガラルでの生息は今まで確認されていない。

 

 つまり、ガラル地方に野生のメテノは存在しないということだ。

 それが疑問なのである。

 じゃあどうして、このメテノはオレのモンスターボールに入ったんだ?

 

 野生のメテノがガラルにいない以上、当然このメテノは誰かが他の地方から持ち込んだものということになる。しかし、モンスターボールは、他のトレーナーが既に捕まえたポケモンを二重に捕獲することはできない仕組みになっている。それなのに、キバナはこのメテノをボールに入れることができた。いったいどうして?

 

 それらしい理由を考えることはできる。元々は誰か持ち主がいたが、そいつが逃がしたことで、野生に帰ったとか。あるいは、今までは目撃例がなかっただけで、実はガラルにもメテノは存在していたとか……。

 

 世界は広い。いろいろな可能性が現実には起こり得る。だから野生のメテノがたまたまこの辺りにいたのだとしても、有り得ないことではない。

理屈の上ではそうだ。だがオレの経験が、勘が、何か違うと言っている。この件には、何か裏がある。恐ろしい何かが……。

 

 考えているうちに、いつの間にかタクシーはキバナのマンション前に到着していた。二十階建てのマンションをエレヴェータで十八階まで上がり、ワンフロア全部を所有している部屋のうち、居室としている一室に入ると、キバナはリヴィングのソファに身を預けた。

 

疲労はピークのはずだったが、キバナの頭はむしろ冴えていた。

もっと詳しく調べる必要がある。

バトルと鍛錬だけが日々のルーティンだったはずのキバナの生活に、久々にイレギュラーが発生した。

 

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