キバナVSダンデ ―龍と空の王者―   作:スイカバー

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「レックウザが動いた」

 

 マリィが叫ぶのを聞いて、キバナは空を見た。

確かに、レックウザが建物の上空から移動しようとしている。東の方角……、シュートシティだ。隕石エネルギーを操作され、破壊衝動を高められたレックウザが、街明かりに引き寄せられるのは当然だろう。だが、もちろんそんな人口の密集した場所で暴れさせるわけにはいかない。

 

「ブリジュラス、『ラスターカノン』!」

 

 キバナが指示すると、ブリジュラスは腹這いになり、跳ね橋が開いて一本の橋になったかのように、頭から脚までが一直線になった。これにより全身のエネルギーの通りがよくなり、瞬時に頭の先にエネルギーが集中し、ビームが放たれた。数十メートル先のレックウザに命中する。威力も命中精度もジュラルドンのときより上がっているようだ。

 

 レックウザは攻撃された方向へと顔を向けた。眼下にキバナとブリジュラスの姿を認めると、そちらに向かって攻撃を放ってきた。

 

「ネンドール、『ひかりのかべ』!」

 

 ブリジュラスの前方にバリアが張られ、レックウザの攻撃の勢いを弱めた。

 

「ダイゴか、サンキュな」

 

 キバナはダイゴに向かってサムズアップした。ダイゴは軽く頷いて、キバナに言った。

 

「進化したブリジュラスは新しい技が使えるはずだ」

「新しい技?」

 

 キバナが訊き返すのと同時に、側に何か落ちてくる音がした。ダイゴのネンドールだ。身体中の八つの目がいずれも閉じている。「ひかりのかべ」の防御を以てしても、レックウザの攻撃は防ぎ切れなかったらしい。

 

「もうもたんばい!」

 

 マリィがファイヤーの様子を気遣いながら言った。ファイヤーも相当体力を削られているようだ。

 

「その攻撃は溜めるのに時間がかかる。僕らが何とか時間を稼ぐから、タイミングはキバナ、君に任せた」

 

 ダイゴはそう言って、ボールからメタグロスを繰り出した。先ほどの一戦で体力は残りわずかだが、メタグロスもダイゴの意思を汲み取ったようで、腕を振り回して戦意を見せた。

 

「どいつもこいつもオレ様任せかよ」キバナは足で軽く地面を蹴った。「ま、しゃーねーか。頼りにされるってのは、悪くねえ。ブリジュラス!」

 

 ブリジュラスは再び地面に這いつくばって、身体を横に伸ばした。全身にバチバチと電気が駆け巡り、そのエネルギーが頭部に集まっていく。

 

「リザードン!」

「ボーマンダ!」

 

 ダンデとヒガナも再び相棒をボールから出した。メタグロス同様、戦えるほどの力はもう残っていないが、少しの間だけでもレックウザの攻撃を防いでくれれば、それで良かった。

 

 マリィのファイヤーが、「ぼうふう」でレックウザの気を引く。またシュートシティへ向かおうとしていたレックウザは、その攻撃に反応し、ファイヤーを標的に定めた。ファイヤーは空を飛び回り、レックウザを攪乱する。地上へ飛んでくる攻撃は、メタグロスが「サイコカッター」で応戦し、リザードンもファイヤーに加勢した。

 

 レックウザは今度はリザードン目掛けて技を放つが、そうすると背後に回ったボーマンダが「りゅうのはどう」を当てに行く。ボーマンダに気を取られた隙に、リザードンの「ドラゴンダイブ」が命中。

 

四匹のコンビネーションによって、致命傷を避けつつ、確実にレックウザを足止めできている。

 

 だが、それでもやはり倒すには至らない。レックウザはまだ余裕の様子で、自身の周囲に空気の渦を作り、それを四方八方に向けて発射した。「ダイジェット」を応用した無差別攻撃だ。四匹はその攻撃を避け切れず、ダメージを受け、ついに体力の限界を迎えてしまった。

 

「準備完了!」

 

 キバナが四人に聞こえるよう大声で言った。

 

「よし、リザードン!」

 

 ダンデはリザードンに目配せする。リザードンは最後の力を振り絞って翼を羽ばたかせ、レックウザに向かって渾身の「かえんほうしゃ」を放った。怒ったレックウザはリザードンの方向へ突っ込んでくるが、リザードンは口から猛火を吐きながら、翼を動かして斜め下に後退し、地面へ降り立とうとする。そしてその先には、エネルギーを蓄え切ったブリジュラスがいた。

 

「よくやった。戻れ、リザードン」

 

 リザードンがブリジュラスの目の前まで降りてきたそのとき、ダンデはボールのスイッチを押して、リザードンをボールに戻した。リザードンへと飛んできたはずのレックウザの攻撃対象が、その先のブリジュラスへと変わる。

 

「お膳立て感謝するぜ、ダンデ」キバナは右手の人差し指を高く掲げた。「ブリジュラス、『エレクトロビーム』!」

 

 ブリジュラスの頭部に溜まった電気エネルギーが、一気に放出された。あまりの眩しさに、正面から直視したら目を焼かれていたかもしれない。その高圧の光線は空からまっすぐ突っ込んできていたレックウザの全身にまともに浴びせられた。巨体のレックウザもさすがに堪えたようで、空中で動きが静止した。

 

「今だキバナ、ボールを投げろ!」

 

 ヒガナが駆け寄ってきて、ポシェットからボールをいくつか取り出して、キバナに手渡そうとした。

 

「坊ちゃんの会社謹製のボールだからね、効果は保証する」

 

 そこにはモンスターボールより性能の高いハイパーボールや、戦闘が長引くほど捕獲率が上がるタイマーボールなどがあった。

 

「いいのか?」キバナは躊躇いがちに言った。「レックウザはお前の一族にとって重要なポケモンなんだろう? お前が捕まえるべきなんじゃないか?」

 

 ヒガナは一瞬微笑んで答えた。

 

「いいんだ。私の使命はもう終わった。私はもう自由を手にすることができた。次はキバナ、君が自由を掴み取る番だ」

 

 キバナはヒガナの目をじっと見つめると、その手の中のボールをひとつ掴んで、レックウザのほうへと翻った。そして、自分の右腕に手を翳すと、手首に巻いたダイマックスバンドが輝き出す。レックウザの放つガラル粒子に反応して、たちまちボールが巨大化した。片手に収まるほどのサイズから、バスケットボール大の大きさへと変化する。

 

 キバナはまさにバスケットボールのフリースローのように、そのボールをレックウザ目掛けて放り投げた。ボールは数メートルの軌跡を描いたのち、レックウザの目の前でピタリと止まり、半分に開いて、レックウザの周りを覆うガラル粒子を吸収し始めた。それに引き寄せられる形で、レックウザの身体もボールへと吸い込まれていく。

 

全長数十メートルもの体躯が、直径わずか数十センチのボールの中に収まるのは、考えてみると不思議なことではあるが、ポケモンとはそういう不思議な生き物である。

 

レックウザも伝説とはいえポケモンに変わりない。さっきヒガナが言っていたのをキバナは思い出した。

 

 レックウザの姿が綺麗に収まると、巨大なボールは地面へと落下し、数回揺れて、元の大きさに戻り、動きを止めた。

 

「捕獲完了」

 

 ヒガナが小さく呟いた。辺りが闇と静寂に包まれる。さっきまでの喧騒が嘘だったみたいに、何の音も聞こえない。レックウザが放っていたガラル粒子も消失したため、灯りとなるものもなくなった。建物から漏れ出るわずかな光以外、何も見えない。少し遅れて、風の音や、木々がざわめく音が知覚された。現実に引き戻されたような感覚だった。

 

「捕まえたのか……?」

 

 キバナは茫然と立ち尽くしていた。彼はまだ現実を呑み込めていなかった。

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