5.
ドラパルトはゴーストとドラゴンの二タイプを併せ持つポケモン。ステルス機のようなブーメラン型の頭部が特徴的で、胴体には短い手足が、その下にはそれより遥かに長い尻尾が生えている。尻尾の先端部分は透明になっていてほとんど見えないのが、ゴーストポケモンらしい。ふわふわと宙に浮いている。
「ドラパルトか。名前は聞いたことあるけど、見るのは初めてだ」ヒガナが興味深そうに見ている。
「確かガラル以外での目撃例は少ないらしいからね」ソニアが言う。
「ドラゴン使いのキバナに対して、ドラゴンで挑むと……」マリィが膝の上のモルペコを撫でた。
フィールドではダンデのドラパルトとキバナのブリジュラスが睨み合っている。キバナはここからの作戦を考えていた。
ドラパルトはスピードに長けたポケモンで、対するブリジュラスは重量級。普通に戦えば、素早く動き回るドラパルトに、ブリジュラスが攻撃を当てるのは難しいだろう。再び、小回りの利くフライゴンに入れ替えるのもひとつの手だ。
しかし、ダンデも気付いていないようだが、ブリジュラスは先ほどのバリコオルとの攻防でパワーアップしている。「エレクトロビーム」には攻撃の際に、自身のパワーを上げる効果が隠されていた。「ラスターカノン」と「マジカルシャイン」の撃ち合いで、「ラスターカノン」の威力が上がったのも、そのためである。
この状態を活かせば、ドラパルトのスピードと渡り合うのも無茶ではない。加えて、雨雲の効果もまだわずかに残っている。雨はほとんど止んでしまったが、フィールド全体はバリアで覆われているため、水蒸気は外に逃げていかない。フィールドの湿度と、ブリジュラスの周りの水蒸気の密度を計算すれば、「エレクトロビーム」の溜めに必要な時間は、依然相当程度に短縮できる。天候を知り尽くしたキバナならではの判断だった。
「オレ様はブリジュラスのままでいい。さあ、第二ラウンドと行こうぜ!」
ダンデは腕を組み、じっとキバナとブリジュラスを見つめている。最初と同じく、キバナの攻撃を誘っているようだ。
「ブリジュラス、『ラスターカノン』!」
ブリジュラスは頭部の二本のアンテナからエネルギー体を発射した。威力、スピード共に申し分ない。
「上昇しろ、ドラパルト!」
ダンデが命じると、ドラパルトは宙を舞い上がった。翼もないのに空中で上昇姿勢を取れるのは、ゴーストポケモンならではだろう。「ラスターカノン」を悠々と避けてみせる。
「ブリジュラス、上だ!」
すると、「ラスターカノン」の軌道が急に前方から上方へと九十度捻じ曲がった。ドラパルトへと命中する。
「そんなことまでできるの?」ソニアが驚く。
「今だ、フルパワーで『エレクトロビーム』!」キバナは自身の拳を打ち上げる。
「そうだ、それを待っていた」ダンデが不敵に微笑んだ。「ドラパルト、『にほんばれ』!」
ドラパルトが空中で強い光を放つと、フィールドの天井の雨雲があった辺りに、眩い光の球体のようなものが現れた。ブリジュラスは「エレクトロビーム」を発射するために、地面に這いつくばり、全身を伸ばしてエネルギーを集中していたが、先ほどと違い、すぐにエネルギーが放出されない。
「しまった、天候を……」キバナが焦る。
「『にほんばれ』で、フィールドの天候が雨から晴れに」ソニアが声を震わせた。
「こうなるとまた溜めに時間が必要になる」ヒガナが言う。
「ドラパルト、『ドラゴンアロー』!」
ドラパルトは両目の脇にある角の中から、進化前のドラメシアというポケモンを左右合わせて二匹発射した。他のポケモンを攻撃に用いるという珍しい技だが、このドラメシアはルール上、あくまでドラパルト本体の一部として扱われ、使用ポケモンの数にはカウントされない。
進化前でありながら素早さはやはり高く、ドラパルトの砲台のような角から発射される際の勢いで、そのスピードはさらに増している。「エレクトロビーム」の溜めで隙が生まれたブリジュラスに、「ドラゴンアロー」が容赦なく直撃した。
「ダンデ君、キバナ君お得意の天候戦術にあえて被せてきてるみたい……」とソニア。
「さっきの『ゆきがくれ』といい、わざとだろうね。相手の得意分野に真正面から挑み、その上を行って、心を折っていく。強者ならではの剛腕なバトルスタイルだ」ヒガナが冷静に分析する。
「ばってん、あのキバナがそう簡単に折れるとも思えんばい」マリィが言う。
「『エレクトロビーム』、発射!」キバナが叫んだ。
「ドラゴンアロー」の土煙を吹き飛ばすように、強烈な電気エネルギーがまっすぐドラパルトに向かって襲いかかっていく。
「攻撃を喰らっても発射体勢は崩さなかったか。さすがだな……、だが」ダンデがドラパルトに目配せする。「『ゴーストダイブ』!」
ドラパルトの姿がフィールドから消えて、「エレクトロビーム」は中空を流れ、エネルギーは飛散した。
「影に隠れたか」
キバナは辺りを見渡して、ドラパルトの居場所を探す。ブリジュラスも立ち上がり、前後左右をきょろきょろと見回している。
「今だ!」
ダンデが指示すると同時に、ドラパルトは姿を現した。ブリジュラスの真後ろを取って、全身を叩き付けた。ブリジュラスが思わずつんのめる。
「怯むなブリジュラス、『ラスターカノン』!」
ブリジュラスは踏み留まり、ドラパルトが離れていく前に、素早く攻撃を行う。
「『かえんほうしゃ』!」
ドラパルトも口から炎を放出し、「ラスターカノン」に対抗する。
「パワー自体は互角だろうが……」ダンデが言う。
「わかってるよ、『晴れ』だろ!」キバナが吠える。その声には焦りが感じられた。
「『にほんばれ』でほのお技の威力が上がっている!」ヒガナが言う。
今度は「かえんほうしゃ」の勢いが「ラスターカノン」のエネルギーを打ち消していく。「かえんほうしゃ」の炎が命中し、ブリジュラスは崩れ落ちた。
「ブリジュラス!」
「その程度で倒れるお前らじゃないだろ……?」ダンデが低い声で言う。「『ゴーストダイブ』!」
またもドラパルトの姿が消えた。ブリジュラスは起き上がり、周囲を見回すが、ドラパルトの居場所は掴めず、無防備な状態だ。
「このスピードの前では、さっきみたいに『ラスターカノン』の軌道を曲げたところで届くまい」
「集中しろ、ブリジュラス。目を閉じるんだ」
キバナは指示を出す。それを聞いたブリジュラスは目を瞑って、静止した。じっと影が動く気配に耳を澄ませている。観客も息を飲んで、スタジアム全体に静寂が流れる。
「感覚を研ぎ澄ませているようだが……」ヒガナが訝しむ。「それであのスピードを捕捉できるのか?」
ダンデは腕を組んだまま動かない。キバナは最初、ダンデの様子を注視して、指示を出す瞬間を読み、ブリジュラスにタイミングを伝えるつもりでいた。
だが、キバナは直感で感じ取った。ダンデは指示を出すつもりがない。
恐らく指示なしで、影に潜んで何秒後とか、あるいはドラパルト自身のタイミングで、攻撃に転じさせる腹なのだ。そのダンデの意図は手に取るようにわかった。なぜなら、自分がもし同じ立場なら、同じ作戦を立てるだろうから。ダンデほどの実力とポケモンとの絆があれば、その程度、造作もない業だ。
上等だ。だったら……。
何かが地面から素早く飛び出した。そう、ドラパルトが影から現れた。ブリジュラスの左側だ。目を開いているキバナですら、その姿を目で追うのが困難なほど、ドラパルトのスピードは途轍もない。それを視認して、口から命令を発し、ブリジュラスに伝えるのはあまりに時間が足りない。
だから、指示は既に出してあった。
ブリジュラスの胴体の周囲から、黒いエネルギー体がドーナツ状になって飛び出した。その波動はブリジュラスの前後左右、三百六十度を埋め尽くすように高速で展開する。
「『あくのはどう』!」マリィが叫んだ。「トレーナーの指示もなく……」
「あれならどこから攻めてきても当てられる!」ソニアが言う。
「いい作戦だ。当たればの話だがな」ダンデは余裕の笑みを浮かべた。
黒い波動がドラパルトを捉えかけたそのとき、ドラパルトはスピードを上げて、空中へと急上昇した。
「ダメだ、それでも速すぎる!」ヒガナが身を乗り出した。
「ブリジュラス!」
キバナは右手の人差し指を高く掲げた。次の瞬間、周囲に展開された黒い波動の円がトラバサミのように半分に折れて、上方向に畳まれた。ちょうどドラパルトを挟み込むように。
「何!」ダンデが動揺する。
「よっしゃ」キバナはガッツポーズを上げた。「効果は抜群ってな」
ドラパルトは波動に巻き込まれ、かなりのダメージを受けたようだ。
「どうかな」ダンデは表情に冷静さを取り戻した。
フィールドに重低音が鳴り響く。それは、ブリジュラスがその肢体を地面へと倒れ込ませた音だった。
「ブリジュラス、戦闘不能! ドラパルトの勝ち!」
「何だと」今度はキバナが動揺した。
「そうか、ドラパルトは影から現れると同時に『ドラゴンアロー』を放っていたんだ」ヒガナが気付いた。「ブリジュラスはドラパルトが影から出てくる瞬間にだけ意識を払って、その後は『あくのはどう』の軌道をコントロールすることに集中していた。だから『ドラゴンアロー』の気配には気付かなかったのか」
「『ラスターカノン』だけでなく、『あくのはどう』まであんなふうに軌道を操れるとはな」ダンデがキバナに話しかけた。「またも驚かされたよ。作戦や戦術で言えば、お前のほうが上かもしれないな、キバナ」
「うるせえ。さっきからお前の言葉は全部煽りにしか聞こえねーんだよ」
キバナは歯を食い縛った。だが、ダンデの言う通りだ。作戦も戦術も、自分のほうが上回っていたはず。それでも倒れたのはブリジュラスのほうだ。何が足りなかった? パワーか? 機転か? 集中力か?
ダンデという男は、こんなにも遠いのか……?
いや、日和るのはまだ早い。残りポケモンは二対二のイーヴン。それに、ドラパルトにも相当のダメージを与えることができた。依然有利なのは自分のほうだ。
「お疲れさん、ブリジュラス。いい仕事だったぜ」
キバナはブリジュラスをボールに戻した。そして、フライゴンを再びフィールドへと繰り出す。
「もういっちょ頑張ってくれ、フライゴン」
「今度はこちらから攻めさせてもらおうか。ドラパルト、『ドラゴンアロー』!」
再び、ドラパルトは左右の角からドラメシアを発射した。それぞれ大きく横に弧を描きながら、フライゴンへと飛んでいく。
「フライゴン、『すなあらし』!」
フライゴンは翼を羽ばたかせ、岩を砂に変えて嵐を発生させた。先ほどの攻防でブリジュラスが何度も足元を踏みしめており、フィールドの地面はだいぶ荒れていた。だから最初のように岩を叩き壊さなくても、ちょうどいい大きさの破片はそこらじゅうに転がっている。さっきよりも遥かに速いスピードで、フライゴンは「すなあらし」を繰り出した。
そして、「すなあらし」の中に身を隠すことで、撃ち出されたドラメシアは攻撃の対象を見失ったようだ。「ドラゴンアロー」は不発に終わったかに見えた。
「ドラパルト、『にほんばれ』!」
ドラパルトが発した光エネルギーの球体がフィールド上に出現し、「すなあらし」をかき消していく。フライゴンの姿が露わになる。空中を旋回していたドラメシアがフライゴンを見定めると、「ドラゴンアロー」となって突撃した。フライゴンは一発は何とか避けたが、もう一発はぎりぎり当たってしまった。
「フライゴン!」キバナが声を上げる。「くっ、『ストーンエッジ』!」
「『ゴーストダイブ』!」
フライゴンは岩の破片を蹴り出すが、ドラパルトがまたも影となって地面に隠れてしまい、攻撃が当たらない。
「もう一度『すなあらし』!」
フライゴンがまたしても砂を巻き上げる。
「どうしたんだキバナ、攻撃が単調すぎる」ヒガナが不安げに言った。
「何か考えばあるっちゃろうけど……」とマリィ。
しかし次の瞬間、フライゴンが悲鳴を上げた。
「どうしたフライゴン!」キバナが声をかける。
「すなあらし」によって、キバナの位置からはフライゴンの姿が見えづらい。だが辛うじて見える限りでは、何らかの攻撃を受けたようだ。
再び悲鳴。打撃音も聞こえる。二発目を受けたのか。しかし奇妙なことに、ドラパルトの姿が見えない。「ドラゴンアロー」をの遠距離攻撃を使ったにしても、ドラメシアの気配すら感じられない。おかしい。
「まさか、透明になっているのか?」
「その通り」ダンデが言った。「お前もドラゴン使いだから、一通りの知識はあるだろう。だから今から話すのはお前のためではなく、観客や実況のための解説だ」
「何だ、急に……」
ダンデはキバナの言葉を無視して、滔々と述べ立てた。
「ドラパルトは意識を集中することで、姿を透明にすることができる。角の中のドラメシアごとな。体力を消耗するからここぞというときにしかやらないが……、お前相手なら今が使い時だと判断した」
「おいおい、ずいぶんとご親切だな。さっきオレ様がエンターテイナーをどうこう言ったのを気にしてやがんのか?」
「これがチャンピオンタイムだ」
ダンデは表情ひとつ変えず、真顔で言った。キバナも一瞬、反応に困る。
「やっぱり、前々から思ってたけど、あの人も大概天然だよね」ヒガナが呆れた顔でソニアに同意を求める。
「そういうところも含めて、ダンデ君は愛されてるから」ソニアはまんざらでもない調子で返した。
「まったく、チャンピオンって奴はどいつもこいつも……」ヒガナは不満げだ。
「見て、フライゴンが動いた」マリィが言う。
フライゴンが天井めがけて急上昇した。
「ドラパルトを振り切って、いったん間合いを取るつもりのようだね」とヒガナ。
「でも透明な相手との間合いなんて……」マリィはフライゴンの軌道を不安そうに見ている。
「『ドラゴンアロー』!」ダンデが指示を出した。
「『すなあらし』!」キバナも負けじと声を張り上げる。
フライゴンの姿が砂に包まれる。フィールドを舞う砂の量はさらに増し、観客席からはフライゴンもドラパルトもほとんど見えなくなった。
「そちらも姿を消して攻撃をかわそうというつもりだろうが、無駄な抵抗だ」ダンデが言った。
砂が舞う音に混じって、何か短く甲高い音が聞こえる。高速道路で反対車線をバイクが猛スピードで駆け抜けたときのような、刹那の移動音。それが連続であちこちから聞こえてくる。
そしてまたしても、打撃音と共に、フライゴンの悲鳴。
「無差別に攻撃してやがるな」キバナが言った。
「姿が見えないなら、当たるまで攻撃し続ければいい」ダンデが笑みを浮かべた。「このフィールドは電磁バリアに包まれた、言うなれば密室空間。発射されたドラメシアがまっすぐ飛んで、バリアに当たったら軌道を変え、また飛んでいく。フライゴンに当たるまでこれを続けるわけだ」
「無茶苦茶しやがる……」
「だがダメージは確実に蓄積していく。このまま行けば、先に倒れるのはフライゴンのほうだ」
「……なら、無差別には無差別だ。フライゴン、周囲に向かって『ストーンエッジ』!」
フライゴンは自身の周りにある岩の破片を前後左右へ次々に蹴り飛ばした。
「いくら透明でも存在そのものが消えるわけじゃねえ。当てることはできるよなあ」
「やるじゃないか。その勝負、受けて立とう!」
ダンデの言葉を聞いて、キバナは一瞬目を閉じた。そして再び刮目すると、フライゴンに向かって話しかけた。
「フライゴン、集中しろ。ここが正念場だ」
フライゴンはキバナのほうを見やると、黙って頷いた。そして攻撃をやめて、キバナの目をじっと見つめたまま、その場に佇み出した。
「どうしたんだキバナ。『ドラゴンアロー』と『ストーンエッジ』の無差別勝負に持ち込むんじゃないのか?」ヒガナが怪訝そうに見ている。
砂の音だけが鳴り響く静寂のフィールドで、キバナとフライゴンは互いに視線を交わしながら、意識を研ぎ澄ましていた。一瞬のタイミングを狙うために。そう、「ドラゴンアロー」はもう気にしなくていい。
そして、そのときは来た。
フィールドの風景は変わらないまま、キバナはその耳で変化をキャッチした。フライゴンと合わせた視線を、軽く右方向へと移動させる。
次の瞬間、ポケモンの鳴き声が聞こえた。フライゴンではない。ドラパルトの悲鳴だ。
ドラパルトの透明状態が解かれ、姿を現した。炎が風に乗って流れていく。ドラパルトがフライゴンの「ねっぷう」によってダメージを受けたようだ。
「え、何? 何が起きたの」ソニアが困惑する。
「私にも何が何だか……」ヒガナも説明できない。
「『ストーンエッジ』!」キバナが吠える。
フライゴンが渾身の一撃で岩を蹴って、ドラパルトに命中させた。空中を浮遊していたドラパルトが地面へと崩れ落ち、動きを止める。
「ドラパルト、戦闘不能。フライゴンの勝ち!」
何が起きたのか理解できない観客たちの間にしばらく沈黙が流れたが、実況の判定を聞いて、困惑しつつも歓声は巻き起こった。しかしキバナは後方を振り向き、観客席に向かって両手を突き出して、その手を上下させた。「静かにしろ」というハンドサインだ。
「今度はオレ様が解説する番だな」
キバナが自慢げににやけるのを見て、ダンデの表情が険しくなった。ダンデ自身もどうしてドラパルトが倒れたのか、まだ理解できていないようだ。ドラパルトを労いながらボールに戻し、キバナの声に耳を傾けた。
「ダンデよお、お前みたいな馬鹿正直な男に、芝居は難しかったようだな」
ダンデはそれを聞き、ハッとした様子を見せた。
「わかっていたのか」
「バレバレだったぜ。お前は最初から無差別勝負なんていちかばちかを仕掛けるつもりはなかった。オレ様が『ストーンエッジ』を指示するのを読んで、そのタイミングで『ゴーストダイブ』を使うつもりでいたんだろ。フライゴンが攻撃している隙に、死角から確実にとどめを刺すために。お前が指示なしでもドラパルトに意思を伝えられるのはさっきの攻防でわかってたしな」
「『ドラゴンアロー』の無差別攻撃は、『ストーンエッジ』を使わせるための囮……」ヒガナが息を飲む。
「当然オレ様はその違和感に気付いていた。お前のその嘘くせえ演技にもな。何よりの決め手はこれだ」
そう言って、キバナは前方を指さした。未だフィールドを舞っている「すなあらし」だ。
「お前はドラパルトを透明にして姿を隠したつもりでいたんだろうが、実はオレ様とフライゴンには見えていた。『すなあらし』の中でドラパルトの周りだけ、砂が微妙に屈折して歪んでいたからな」
「そげん細かかところに気付いとったなんて……」マリィが驚く。
「透明になった最初こそ不意を突かれたが、タネがわかれば対処はできる。ただ、『ドラゴンアロー』は参ったぜ。あれのせいで攻撃の隙がなかなか掴めなかった。だがそれが布石で、本命が『ゴーストダイブ』のほうだとわかったから、手を打てた。『ゴーストダイブ』なら付け入る隙はある。砂の流れを把握して、それが乱れた瞬間が、ドラパルトが現れるサインだ。オレ様とフライゴンで分担して、フィールド全体を見張っていた。気配さえキャッチできれば、その方向に向かって攻撃すればいい。正確な位置を捉えるのは難しいから、いったん広範囲を攻撃できる『ねっぷう』を使って動きを止めつつ、『ストーンエッジ』でとどめってわけだ」
一気に言い終わって、キバナは一息ついた。以上、解説終了というポーズだ。
「理屈はわかったけど、そう簡単にできるようなことか?」ヒガナが首を傾げた。「感覚が鋭いフライゴンはともかく、普通の人間にそんな微妙な変化が読み取れるとは信じがたいけど……」
「キバナ君は天候のエキスパートだからね。さっきはダンデ君にお株を奪われそうになったけど、得意分野に関してはやっぱり負けてないみたい」ソニアが言った。
「何にしてもこれでキバナがまたリード。ダンデの残りは一体だけったい」とマリィ。
「彼の最後はやっぱり……」ヒガナはダンデの様子を伺った。
「なるほど理解したよ。見事な攻防だった」
ダンデがキバナを見据える。
「やはりここまでのバトル、作戦や戦術に関してはお前のほうが一枚上を行っているようだ。よく準備してきているし、ポケモンとの絆もばっちりだ。まさかオレのほうが先に追い詰められるとはな」
「伊達に何度も負けを重ねてはいねーよ」キバナが笑った。
「だがポケモンバトルは結局、最後まで立っていた者が勝つ。技術点や芸術点は関係ない。どんな策を弄しようと、最後に勝つのはオレたちだ」
ダンデは三つ目のボールを構える。
「行け、リザードン!」