7.
観客席から、もはや歓声というより絶叫と言うべきだろう、無数のダンデコールに加え、リザードンの名を呼ぶ声も加わり、混沌となってスタジアム全体に反響し、増幅していく。そこはもう完全にダンデのための場所と化していた。
「リザードン、『キョダイゴクエン』!」
リザードンが口から猛烈な炎を吹き出した。それ自体が通常時の数倍の火力であるが、さらに燃え盛っている両の翼からも水平状の炎が放出され、一体となる。直線の炎に水平の炎が合わさって、まるで炎自体に翼が生えたような、文字通り「火の鳥」となって、レックウザへと襲い掛かる。
キバナはレックウザに避けるよう指示するが、まだ「エアスラッシュ」の怯みが解けないようで、動くことは叶わず、炎の塊が直撃した。
「ドラゴンタイプに炎技はいまひとつとはいえ、これはかなりの威力だぞ」ヒガナが苦々しく言った。
「ていうか、普段のバトルで見るリザードンより、威力が上がってるかも?」ソニアが疑問を呈する。
「もしかして、『もうか』が働いとーっちゃないと?」マリィが何かに気付いた様子だ。
「なるほど、リザードンの特性『もうか』か。体力が一定以上減ることで、炎技の威力が上がる」ヒガナも合点が行ったようだ。「最初の『ステルスロック』のダメージに加えて……、さっきの『スケイルショット』と『エアスラッシュ』の攻防、そういえばあのとき、リザードンは『スケイルショット』をあえて受けに行ったように見えた。あれが体力をちょうど『もうか』発動まで持っていくための調整だったとすれば……」
「最高の相棒だからこそ、ステータスも手に取るようにわかっているから」ソニアが言う。「『げんしのちから』の能力アップに『もうか』発動、すべてダイマックスのための下準備……!」
「改めて恐ろしか男ったい……」マリィは声を震わせた。
「レックウザも相当体力を削られているようだが」
「『キョダイゴクエン』は命中した後もしばらくダメージを与え続ける強力な技だよ」ソニアがヒガナに説明する。
「ここで耐えたとしてももう長くはもたないってわけか。どうするキバナ、ここまでか?」
「立て、レックウザ!」キバナが声を振り絞る。「お前はこのキバナ様が選んだポケモンだ。ダンデの野郎なんかに負けていいわけねーだろうが。もうひと踏ん張り、力を貸してくれ!」
その声に呼応したのか、レックウザは頭を振りかぶり、体勢を立て直して、再び宙へと浮かんでいく。
キバナは自分の心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。そして、レックウザの鼓動も伝わってくる。ふたつの心がシンクロする。
「レックウザ、『りゅうせいぐん』!」
レックウザの身体のところどころに埋め込まれている黄色の珠が輝きを放ち、その光がエネルギーとなって珠から放出される。いくつものエネルギーの塊がレックウザの頭上に集まっていき、大きな爆発音を生み出すと、フィールドの四方八方へと拡散した。
「『りゅうせいぐん』……、ドラゴンタイプ最強クラスの技!」ダンデが拳に力を込める。「だがリザードンの力を以てすれば、恐れることはない。リザードン、『ダイジェット』で押し返せ!」
リザードンは炎の翼をはためかせ、「らんきりゅう」をかき消すほどの凄まじい旋風を発生させた。
「誰が狙いがリザードンだと言った?」キバナがにやりと笑った。「『りゅうせいぐん』の狙いは……」
「りゅうせいぐん」のエネルギー体が次々とフィールドに落下する。その衝撃で連鎖的に小さい爆発が起こるが、到底リザードンに届くような威力ではない。キバナが何をしようとしているのか、ダンデも困惑している。
そのとき、急にフィールドが砂煙に包まれた。同時に、ポケモンの悲鳴が聞こえてくる。
「リザードン!」ダンデが叫ぶ。リザードンがダメージを受けたようだ。「まさか、『ステルスロック』か?」
「そのまさかだ。『りゅうせいぐん』の狙いは、地中に埋まった『ステルスロック』!」
「そうか」ヒガナも理解したようだ。「『りゅうせいぐん』の衝撃で地中の岩のトラップを掘り起こして、リザードンに向かって飛ばしたのか」
「それにこの『すなあらし』……」マリィもフィールドの様子をじっと見ている。「おかしか思いよったんよ。ドラパルトとのバトルで、キバナは執拗にフライゴンに『すなあらし』を使わせてた。あれはフィールドにいっぱいの砂ば溜めとく目的があったんね」
「どういうこと?」ソニアが訊いた。
「このフィールドは電磁バリアに囲まれた密閉空間。フライゴンが倒されて『すなあらし』が収まっても、落ちた砂はフィールドに残り続ける。レックウザの起こした『らんきりゅう』で砂は流れて、フィールドの隅にでも溜まっとったんやろうけど、それも今、『りゅうせいぐん』の爆発で再び舞い上がった」
「岩と砂が再びダメージとなって、リザードンへと襲い掛かっている」ヒガナが言う。
「じゃあキバナ君はここまで計算して……」
予想だにしない攻撃に、ダンデも反応が遅れている。
「フライゴンの『すなあらし』、ブリジュラスの『ステルスロック』、レックウザの『りゅうせいぐん』……、キバナの手持ち三体を合わせた合体技!」
「すなあらし」のせいで、ダンデにはフィールドの様子がほとんど見えない。時折聞こえてくるリザードンの悲鳴から、ダメージを受けていることはわかるが、レックウザの姿も見えない以上、指示の出しようがない。
だが、それはキバナも同じはず。それに……。
「フィールドが晴れていく!」ソニアが指さした。
「『デルタストリーム』の『らんきりゅう』の力が強いんだろう。『すなあらし』を起こしてもすぐかき消されてしまうんだ」ヒガナが説明する。
そう、「ステルスロック」の奇襲にこそ驚かされたが、「すなあらし」は大したダメージではないし、わずかな時間稼ぎにしかならない。視界が開ければ、攻撃のチャンスはイーヴン。それにリザードンは「ダイジェット」の効果でさらに素早さを上げている。先に攻めるのはこちらだ。ダンデはそう考えた。
しかし、晴れていく砂煙の果てにダンデの視界が捉えたのは、天空を舞うレックウザの姿だった。天井のライトに後光のように照らされた、レックウザの気高さを纏う佇まいに、ダンデも思わず息を飲んでしまう。
「いや……、そうか、合体技すら囮! レックウザが力を溜めるための時間稼ぎ……、これは『りゅうのまい』!」ダンデが声を荒らげる。「レックウザもパワーとスピードが上がっている」
「レックウザ、ありったけの力を叩き込め!」キバナは天を指さした。「『ガリョウテンセイ』!」
「らんきりゅう」の旋風がレックウザに向かって集まっていき、大きなエネルギーとなってレックウザの身体に纏っていく。スタジアムの天井ぎりぎりまで舞い上がったレックウザはそのエネルギーの一部を後方へと噴出させて加速しながら、まっすぐリザードンへと突っ込んだ。
「リザードン、『ダイドラグーン』!」
ダンデも声を張り上げてリザードンに命令する。「りゅうのはどう」の何倍ものエネルギーが、リザードンの咆哮と共に轟音を立てて、レックウザに向かって撃ち出される。
その衝撃波がレックウザに命中。しかし、レックウザは自身の旋風のエネルギーとドラゴンエネルギーを相殺させながら、衝撃波の中を猛スピードで突き抜けていく。そしてエネルギーの波を突破すると、そのままリザードンの巨体へと激突した。
リザードンの足が地面を離れる。姿勢が崩れる。翼、角、尻尾と燃え盛っていた炎の勢いが弱まっていく。そして肢体は地面へと倒れ込み、キョダイマックスが解かれた。
スタジアムにしばしの沈黙が流れる。その静寂を破ったのは、実況の一言だった。
「リザードン、戦闘不能。レックウザの勝ち!」
キバナは一瞬、ダンデと目が合った。
「よってこの勝負、勝者、キバナ選手!」
キバナはこの瞬間のために、ダンデにどんな表情を見せてやろうか、考えていたはずだった。だが、今はどんな表情をすればいいのか、わからなかった。頭がいっぱいで、胸もいっぱいで、自分が自分でないようだった。