キバナVSダンデ ―龍と空の王者―   作:スイカバー

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「フライゴン、『すなあらし』!」

 

 バトルフィールドが砂煙に包まれた。

 今まで何度、ポケモンバトルをしてきたのだろう。そしてこれから何度、戦うことになるのだろう。過去に関しては数え切れないし、未来に関しては想像もできない。でも、できる限り戦い続けたい。戦うことで、自分の生きる意味を探していきたい。キバナはそう考えていた。

 

「キュウコン、『フリーズドライ』!」

「フライゴン、『ねっぷう』!」

 

 挑戦者のポケモンが繰り出したこおりタイプの技を、フライゴンの「ねっぷう」が溶かした。

 

「『ムーンフォース』!」

 

 しかし相手は間髪入れず、攻撃を命じる。キバナは一瞬考えて、フライゴンに指示を出した。

 

「受け止めろ、フライゴン!」

 

 フライゴンは月形のエネルギー波を両手で受け止める。しかし、エネルギーの力は強く、衝撃音と共にフライゴンは倒れてしまった。

 

「フライゴン戦闘不能、挑戦者の勝利!」

 

 審判が判定を告げ、ジムバトルは終了した。

 

 ダンデとのバトルから一か月以上経ち、キバナはようやく日常を取り戻しつつあった。未だに取材依頼などは舞い込んでくるが、それも通常業務と並行してこなせるペースになってきた。他にもリゼルグ事件の裁判のための証言など、面倒な仕事は絶えないものの、あの忙しかった日々も、少しずつ過去になろうとしている。

 

 あのバトル以来、ジムの挑戦者は格段に増え、ついには予約待ちが発生する事態となった。今は三か月先まで予約がびっしりと埋まっている。

 

ガラルのポケモンジムでこのようなことは例がないらしい。普通、ひとつのジムに人が殺到しても、みんな諦めて他のジムに行こうと分散するからだ。つまり、それだけあのキバナと戦いたいと願い出るトレーナーが多いということだろう。名誉なことではあるが、さすがにこの状態が続けば、他のジムや監査官から文句を言われてもおかしくない。厄介と言えば厄介だが、こういうのは嬉しい悲鳴と言うべきなのだろう。

 

不思議なことに、キバナはダンデに勝利して以降、ジム戦での勝率はむしろ下がっていった。これも元々監査官から注意されていたことではある。あくまでジムリーダーは挑戦者の力量を正しく測ることが本分であり、ただ打ち負かすことが目的ではないため、ジムリーダーが強すぎるのも問題だと言われていた。

 

キバナはこれまで、手を抜いて挑戦者にわざと負けるということに抵抗があり、なかなか勝率を落とすことができていなかったのだが、皮肉にもダンデに勝利して、実力を上げたことで、ジム戦では潔く負けられるようになった。

 

最初は自分でも不思議だったのだが、今回のことで程よく肩の力が抜けたのだろうと自己分析している。勝ちたいという気持ちはもちろん持ち続けているし、何ならダンデに勝ったことで勢いがつき、より強くなりたいと願うようにもなった。

 

だが、キバナ個人が強くなることと、ジムリーダーとしての仕事は別物ではないかとも思うようになった。

 

先ほどのキュウコン使いのトレーナーとのバトルも、キバナが本気を出せば、恐らく勝っていただろう。「ねっぷう」で「フリーズドライ」を打ち消した直後に「ストーンエッジ」を撃ち込む暇はあった。ダンデのポケモンと比べれば、スピードの差は歴然だったからだ。

 

しかし、あのキュウコンもダンデには及ぶべくもないにせよ、充分に育てられていた。あの「ムーンフォース」での切り返しの速さは、あのバッジの所持数なら見事なものだろう。だからキバナはそれ以上の反撃は行わず、相手の実力を認めてフライゴンを負けさせに行った。フライゴンも致命傷を負わずに済むよう、受け身を取る訓練はさせてある。以前のキバナなら考えられなかったことだ。

 

 ジムリーダーはトレーナーたちを教え導く存在だ。例えば学校の先生が子供を教えるときに、大人相手と同じ言葉遣いをしないのと同じように、ジムリーダーも相手に合わせた力量で戦うのが望ましい。考えてみれば当たり前のことである。昔は納得できなかったが、今なら自然と理解できる。人は変わるものだな、とキバナは自嘲した。

 

 午前の予約分のバトルを一通りこなし、キバナは昼休憩に入った。そのタイミングを見計らったかのように、弁当屋のオヤジがタタッコと一緒に昼食を届けに来てくれた。

 

メテノの爆発の事故に巻き込まれた弁当屋のオヤジは無事退院し、破壊された店も自治体からの補助金で修繕できたとかで、最近ようやく営業を再開したそうだ。キバナは栄養バランスの取れた弁当に舌鼓を打ち、ポケモンたちにもポケモンフードを与える。一通り終わっても、まだ午後のバトルまでは数十分ほどあった。

 

ここ最近、キバナは昼休憩の残り時間で、空を飛ぶことを新たな習慣にしていた。

 

 ナックルスタジアムの古城の最上階にあるテラスに出て、キバナはふたつのボールからレックウザとメテノを外に出した。

 

レックウザはダンデ戦でこそ言うことを聞いて活躍してくれたが、それ以来ジム戦で使うわけにもいかず、次の公式戦までも間があるため、戦いに出せてやれていなかった。伝説のポケモンとの絆は育むのも難しいし、その後繋ぎ止めていくのも一苦労だと、ヒガナから聞いていた。そのためには、定期的にボールから出して一緒に交流するのが一番いい。

 

だからキバナはレックウザに乗って空を飛ぶのが、新しい日課になっていた。天気が悪くない限り、ほとんど毎日である。そして、それはメテノも一緒だった。すっかりキバナに懐いたメテノは、レックウザと一緒に飛ぶのを楽しみにしている。さすがに彼らがいた成層圏まで行くことはできないが、それでも高い場所は居心地がいいらしい。

 

キバナも最初の飛行での寒さに凝りて、それからは防寒着に加え、フェイスマスクやネックウォーマーもしっかり着用するようにしている。ここ最近になって急激に気温が下がってきた。もう秋はすっかり過ぎて、ガラルは冬を迎えている。雪が降るという予報がそろそろ聞こえてくる頃だ。空の色からもそれが何となくわかる。

 

「よし、行こうか、レックウザ、メテノ」

 

 キバナはメテノを抱きかかえ、レックウザの背に乗って、空高く飛び上がった。

 キバナは空を見るのが好きだった。

もちろん、今でも空は大好きだ。

特に、ポケモンたちと空を飛び回る時間は格別である。

 

 そういえば、前に一度上空を飛んでいたときに、雲間にダンデとリザードンの姿を見た気がした。あれは何だったのか、今でもよくわからない。ただあれ以来、空で彼らの姿は一度も見ていない。多分、吹っ切れたからだろう。

 

「次もぜってー勝つからな、楽しみにしてろよ、ダンデ」

 

 キバナはにやりと微笑みながら、ポケモンたちと一緒に、澄み切った蒼空を自由に、どこまでも飛んでいった。

 

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