キバナVSダンデ ―龍と空の王者―   作:スイカバー

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第二章 急襲と救出の薄明
1.


1.

 シュートスタジアムを後にしたダイゴとヒガナは、次に約束しているマグノリア博士に会うべく、ブラッシータウンへと移動を始めた。

 ブラッシータウンは、ガラル地方の南方に位置する小さな田舎町で、最北端のシュートシティからはかなりの距離がある。

 

この地方の人々の交通手段は、主に車と電車だが、他に「そらとぶタクシー」という乗り物もあるらしい。アーマーガアという鳥ポケモンに乗って空を移動するというものだが、アーマーガアは翼が重く、長時間飛べる代わりにスピードはそれほど速くない。客の安全も考慮して、ゆっくり移動するようだ。

 

その点、ダイゴの所有する自家用ジェットなら、一時間もあれば着くはずだった。だが、ヒガナは速さより安全性のほうが遥かに大事だと痛感していた。

 

「命あってのフシギダネ、ってね……」

 

 シュートシティの外れのほうに、個人のプライヴェート機専用の小さな飛行場があり、二人はモノレールでその近くまで向かった。二人がホウエンからここまでやってきたジェット機は、その飛行場に停めてある。本来はマクロコスモスの社員たちが使うための飛行場だそうだが、ダイゴは事前にマクロコスモスに連絡し、使用許可を取っていた。

 

「ねえ、やっぱり私、そらとぶタクシーで行きたいんだけど」

 

 モノレールを降りて、ヒガナはダイゴに話しかけた。彼女には珍しく、しおらしい口振りだ。

 

「急にどうしたんだい。そらとぶタクシー? それだと何時間かかるか……」

「じゃあ坊ちゃんだけジェットに乗って、私はタクシーってことで」

「いやいや、君も一緒に来てくれないと困る。博士には君でないと説明できないこともあるんだから」

「やっぱそうなっちゃうかあ。はあ、ボーマンダに乗っていこうにも、知らない土地で長距離移動は自信ないしねえ」ヒガナは溜息をつく。

「いったい何を言っているんだ」

「今までいろいろ修羅場を潜ってきたつもりだったけど、これほど命の危険を感じたのは正直初めてだよ」

 

 ヒガナは見るからに顔色が青ざめているが、ダイゴはまったくそれに気付かない。モノレールの駅を出て、五分ほど歩くと、すぐに飛行場に着いてしまった。

 ダイゴの自家用ジェットが、来たときと変わらない姿でそこに佇んでいる。

 

「ほら、早く乗って」

 

ダイゴは手元のスマホロトムの電子キーをタッチして、ジェット機のドアを開け、タラップを昇って中に入っていく。ヒガナは恨めしそうな顔をして、タラップの下に佇んでいたが、自分自身の使命を思い出し、意を決して踏み出した。

 

ババ様の命令だ、仕方ない……。

 

 ヒガナの親のような存在、流星の民の長老であるババ様から、今回の件について聞かされたとき、ふたつ驚いたことがあった。ひとつはこの件の発端である男、エゴノキの目的について。詳しくは教えてもらえなかったが、どうやらこのガラルでとんでもないことをやろうと企てているらしい。

 

 そしてもうひとつは、ダイゴと一緒に行動しろと言われたことだ。てっきり自分一人に与えられた任務だと思っていた。ババ様曰く、デボンコーポレーションもこの件に一枚嚙んでいるらしいが、そのせいでこの男を連れていく羽目になってしまった。

 

否、連れていくだけならまだ良かった。ヒガナは自分が連れていかれるほうの立場になるのが、一番納得が行かなかった。しかも、安全性を無視した形で。

 

 ホウエンを旅立つ前、ダイゴから自家用ジェットでガラルに向かうと聞かされたときは、さすがデボン、大した財力だと素直に感心した。それに、会社の御曹司が乗るのだから、当然、機内にはパイロットや世話係、現地でのボディーガードや運転手、研究員など、一流のスタッフが帯同するものだとばかり思っていた。

 

 だが、ヒガナの目の前に現れたのは二人乗りのジェット機だった。二人乗り。当然、ダイゴとヒガナの二人しか乗れるスペースはない。

 

ダイゴが言うには、「エゴノキはこちらの動向を監視している可能性があるから、あまり大所帯で動くわけにはいかない。人数は最小限のほうがいい」とのことだった。だから二人で行くということらしい。二人でコクピットに乗り込むが、ヒガナはもちろんジェット機など操縦したことはない。ホウエンを出発する前、ヒガナはダイゴに尋ねた。

 

「つかぬことを訊くけど、坊ちゃん、君が操縦するのかい?」

「他に誰がいる?」

「失礼だが、操縦の経験は?」

「大丈夫。アローラで親父に教わったから」

「免許は?」

「免許?」

 

 その後は生きた心地がしなかった。さすがにデボン社所有の高級機だけあってか、ほとんどは自動操縦で動いてくれたが、時折ダイゴが気まぐれに操縦桿を曲げたりして、機体はあらぬ方向へ旋回したり、天地が逆さまになったりした。

 

さらに、出発日の夜は大雨と強風に見舞われ、自動操縦ではコントロールできない事態も多々発生した。そのたびにダイゴはスマホロトムのマニュアルとにらめっこしながら、ああでもないこうでもないと適当にコクピットのボタンをいじる始末。何度墜落しそうになったかわからない。

 

 出発から半日ほどかけて、やっとの思いでシュートシティの飛行場に着いたときは、ヒガナは人生のギャロップライトを見ていた。死ぬ前の一瞬に今までの人生がフラッシュバックされるというアレだ。隣でダイゴが「いやあ、エキサイティングなフライトだったね」とぬかしたときは、本気で殴ってやろうかと思った。寿命が縮むとはこのことだった。

 

 そして二人は今、再びその悪魔の機体に乗り込もうとしている。ヒガナはもうこりごりだったが、これもババ様の命令なのだと渋々受け入れた。それに今度は一時間ほどのフライトらしい。さすがに大丈夫だろう。事件を解決してホウエンに戻るときに、今度こそ普通の民間飛行機で帰ればいい。

 

 ヒガナはいつ墜落してもいいように、空を飛べる相棒のボーマンダが入ったボールを、パンツスーツのポケットの中で強く握り締めた。

 

「いざ、出発!」

 

 ダイゴは掛け声と共に、計器盤の離陸ボタンを押した。自動操縦で機体が滑走、そして離陸した。計器にセットされた目的地、ブラッシータウンに向けて飛んでいるようだ。ヒガナはダイゴがいつ余計なことをしないかと目を光らせている。

 

 あーあ、こういうのは私のキャラじゃないはずなんだけどな。

 自分はどちらかというと人を振り回すことに楽しみを覚えるタイプの人間だと自覚していたが、この状況は明らかに自分がダイゴに振り回されている。面白くない。早く任務を終わらせてホウエンに帰りたい……。

 

 途中、何度か「そらとぶタクシー」のアーマーガアを遠くに見かけた。あっちが良かったなあとヒガナは憂鬱になった。

とはいえ、しばらくは何事もなく、機体は順調に南下を続けていた。しかし、離陸して二十分ほど経った頃、急に計器のランプが赤く点滅し、警告音を鳴らし始めた。ヒガナはまたダイゴが何かやらかしたかと身構えたが、どうやらそうではないらしい。レーダーに反応があったようだ。

 

「何かがこっちに近づいている」ダイゴがレーダーを見て言った。「左後ろの方だ」

「何かって……」ヒガナは窓越しに空を見渡した。

 

 そろそろ日が暮れかける頃合いで、辺りは若干薄暗い。しかもヒガナの座席は左側。機体は南に向かっているので、ヒガナが見ているのは東側だ。太陽光はより少ない。目視するには心許ない光量ではあるが、ヒガナは視力には自信があった。

 

「いた。八時の方向」ヒガナはダイゴに伝える。「飛行機じゃなさそうだ。ポケモンが三匹……、それぞれ人間も乗ってる」

「ポケモントレーナーか?」

「旅行中って感じじゃないね。明らかにまっすぐこっちに向かってきてる」

「このジェット機、二人乗りの個人用だからそこまで速いわけじゃないけど、メーターを見る限り、時速三百キロくらい出ているようだ。それに追いつこうとは、なかなかだね」

「感心してる場合じゃない」

 

 三匹のポケモンはどんどんこちらに距離を詰めてきている。二百メートルほどまで近づいたところで、ようやくシルエットが見えた。

 

「わかった。三匹はそれぞれ、サザンドラ、エアームド、マンタインだ」ヒガナが言う。

「心当たりのない組み合わせだな。いったい何の用だ?」

 

 ヒガナがより目を凝らそうとしたそのとき、三匹の方向から青白い光が発するのを見た。

 

「危ない!」

 

 刹那、轟音と共に、機体が揺れるのを感じた。

 

「嘘だろ……、あいつら、攻撃してきた」

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