「ふう……水もない、食料もない、スマホもない……かなり危機的な状況だ」
はい、遭難しました。最初の先生みたいになってんじゃねえか。
「……ん?あれは……」
緑がかった薄い水色のロングヘアー。絆創膏が多く貼られている肌。学生服に、銃。
そして、頭に浮かぶ”ヘイロー”。
「梔子ユメ──!」
──と、謎の機械仕掛けのヘビ。だがまあ今は無視して……
人命救助のほうが先だ。
一瞬息が詰まるだろうが、耐えてくれ。
「ぐえっ……!?」
「よっ……と」
梔子ユメの制服……その襟に指をかけ、フックのように持ち上げ、抱きかかえる。姫抱きというやつだ。
「ひゃああああ!?あ、あなた誰ですか!?」
「舌を噛みたくなければ、口を閉じてくれないかい?」
「ん!」
「律儀に返事するんだね君……」
この少女が、梔子ユメ。いやデカいな……何がとは言わんがデカいな……!!そしてとてもいい子だ。いやデカいな。
……とりあえず、呪力を全身、特に足に集中させて砂漠を駆け抜ける。いやデカいな。
「アビドス高等学校はどっちの方角だい!?」
「〜〜っ、多分こっち!!」
「コンパスは!?」
「忘れた!」
「何やってるんだい君!?」
なんで!?あの場面絶対遭難してたよね!?……あ、コンパスないから遭難してるのか。
全く、実にバカだな。俺もだが。
砂の津波やロボットの銃弾を避けながら走る。呪力操作が息をするように出来たのは、おそらくこの身体が夏油ボディだから……なのか?
身体能力もかなり高い。これならば、肉弾戦でモブに負けることは無さそうだ。感謝。
「あ、あれ!あそこだよ!!」
「見えた……走れるかい?」
「はい!」
「よし、落とすよ」
「へ?落とすって──」
瞬間、腕にありったけの呪力を込めて──
梔子ユメを上に投げる!
「ふっ!」
「ほぁああーー!?!?!?……〜〜っ、よいしょお!!」
「お、いいねいいね。流石戦闘慣れしてるだけはある」
「何するんですか!?私これでもおなか減っててキツイんですよ!?」
「私だっておなか減ってるんだよ。お互い様だ」
「いやそういうことじゃ……って、もう追撃来ないですね」
「ん?……ああ、本当だ」
「じゃあ歩きますか!」
「はは……私も疲れてしまったよ」
夏油の体だ。体力的にはまだまだ行けるが、呪力操作というまだ慣れない動作をしたことによる、妙な疲れが体に溜まっていた。アビドスに着いたら休ませてもらおう、そうしよう……。
・・・・・
「ホシノちゃーーん!!」
「ユメ、先輩……!?どこ行ってたんですかもう!!心配したんですからね!!」
「ごめんなさい〜〜!もうどこにも行かないからぁ……ゆるして……」
「……はぁ。わかりましたよ。その……私も、ポスター破っちゃってごめんなさい。直しとくので……」
「いやいや!2人で直そうよ!私全然怒ってないし……その、おなか減っちゃったから……」
「……ふふっ」
「ふ、あはは!」
2人は、抱き合いながら笑っていた。……先輩と後輩。それだけの関係では、この2人の間の絆は説明できない。アビドス自治区を襲った砂嵐、そしてその対策による借金返済……。『廃校間際』という状況こそが友情を育み、彼女たちを結ぶ絆を、より強固にした。
「フフ……それじゃあ、私はお暇しようかな」
「っあ、まって!」
少し休もうとも思ったが……2人の邪魔もできない。
適当に何処かに行こうと思い、アビドス高等学校を離れようとしたものの何故か梔子ユメに止められてしまった。
「あの、救けてくれてありがとうございました……!!あのままだと、私死んじゃってたから…」
「……私からも、ユメ先輩を救けてくれてありがございました。感謝しかありません……えっと、着物の人?」
「あ、私名前聞いたのに教えてくれなかったんだよ!?答えてよー!」
ああ、そういえばそうだ。……羂索か?いや、この名前はまだ取っておこう。今はまだその時じゃない。
「そうだね……”夏油”とでも名乗っておこうかな。君たちの名前は?」
「梔子ユメです!」
「……小鳥遊ホシノです」
「そっか。ユメ、ホシノ。ここは君たち2人だけだろう?……生徒という年齢でもないけれど、私もここで過ごしてもいいかい?」
「!」
「え!?」
あ、いらんこと口走ったか?
「ああ、別に嫌ならいいんだ。私は男性で大人だし、ユメを救けたとは言え、得体の知れない人だからね」
「全然!!むしろ大歓迎ですよ!アビドスはいいところですから!」
「まあ、私も別にいいですけど……」
「……君たちは、いい大人になれそうだね」
「?」
「改めて夏油スグルだ。よろしく頼むよ高校生」