慈悲の
空が、赤く染まる。
今日この日までに殺した生徒の数は、5ケタを超える。呪霊だって、私の持つ全ての呪霊……500体は世に放った。勿論私の指揮下に置いて、いずれうずまきで全て消費するつもりだ。
「……すまない、ネル」
「いいんだよ、夏油さん。あたしは最期まで、あたしだったんだ。それだけでいい」
「そうか」
ネルのヘイローが砕けた。
「キキキ……終末か。このマコト様の死に相応しい空だ。気高い棺に入れてくれ」
「勿論だよ、マコト。雷帝の遺産の残骸でも供えておこう」
「それはいいな……では、イブキを頼んだぞ」
マコトのヘイローが砕けた。
「……私はどこで間違ったんでしょうか」
「世界が間違えただけだよ、サクラコ。君は何一つ間違っちゃいない」
「ふふふ……貴方の歩む道に、神の加護があらんことを」
サクラコのヘイローが砕けた。
ここのところずっと、ヘイローの砕ける音を聞いている。
(すまないね。殺されるのなら、先生にでも殺されたかっただろう)
私に、生徒を導く役目など向いていない。窓辺から生徒の笑顔を見下ろすくらいが丁度いい。
「ヘイローの割れる音は、まるで職人が一生を繋けて造った硝子細工を割っているような感覚だ」
死にたくない。割らないで。そんな声が聞こえてくる。
でも、あの赤い空と未知の恐怖に脅えるくらいなら──と。
世話になった人と一緒に死ねるというのだから、むしろ嬉しいと。どうか先生を頼みましたと。
(……私にその資格はないよ、ナギサ)
羂索なんていう仏の名を冠しながら……救いの糸を垂らしながら、自らに救済という道を見せてはくれない。
でも、その先に救いがあると信じて歩んできた。昔からそうだった。
・・・・・
自分が死んだと自覚した時には、京都のどこかにいた。
自分が平安の世に転生したことなど、どうでもよかった。
友と、好敵手と歩んだ人生を忘れたくはなかった。呪いになど気づきたくはなかった。
でも、自分の力を自覚して漸く世界を見れた。
末世にて、日ノ本にて救いが必要なのは極楽浄土ではなくこの世界だと考え、羂索と名乗り、道行く人に救いを説いた。
けれど、無駄だった。
ならばと術式を用いて、世代を渡った。勿論、了承をしてくれた者の身体に入った。
1000年を生き、龍戦虎争の呪いの世を駆け巡った。
死滅回遊などというデスゲームは……人が死ぬところは、見たくなかったからしなかった。
無二の家族が死んでいく様を見送るのがこの上なく辛かった。
だから、キヴォトスに来た時は少し安堵した。
生徒が死ににくい世の中で、自分の痛みを世界に責任転嫁できたから。
……でも、こんな結末はあんまりだろう。
・・・・・
(はは、笑えるよ)
シロコの姿は視えない。アビドスだろう。今はレッドウィンターにいる。対策委員会の皆はまだ生きているけれど、私が裏切り、生徒を殺して回っていることなどとうに知れている。血眼になって私を探しているだろう。
「……見つけた」
「おや、かくれんぼはしてないけれど」
「……夏油さん。貴方に一番懐いていたのは、シロコちゃんだった」
私に一番懐いたのがシロコだった。
私にとって日常は差異でしかなかった。
1度目の生は家族に看取られ、大往生をした。
2度目は1000年を生きて回り、世界中で世界の在り方を説いた。
3度目はただ楽しげな日々に浸かって、意味もなく生徒と交流を重ねた。
もう、今の自分に何も価値などありはしないだろう。
「もう、私は地獄に堕ちる運命だ。殺してくれて構わないよ」
「……今ここで、貴方を止める!」