キヴォトスメロンパンモドキ   作:ただねこ

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慈悲の(けん)、救済の(さく)(3)

「アヤネちゃん!!」

「領域展開」

「っ、まず──」

「胎蔵遍野」

 

黒の結界で覆われた領域の中央に、人の顔が詰め込まれたような憎悪の花が咲く。

 

「”反重力機構”……術式順転、”乱奔重(らんほんじゅう)”」

「うっ、ぐああああ!?」

 

セリカの腹部が破裂し、胴と足が泣き別れになる。

 

「セリカ。君と先生の話を見ていて、私は心が安らいだよ。日常が日常として機能していたあの日々は、いつ思い返しても色褪せない」

「……すまない。君は今ここで死んだほうが、この先の地獄を見なくて済むだろう」

 

掌に術式を発動させ、セリカの首を握りしめる。

ただ、術式の効果で首には触れられない。反重力が作用している。

そして首は徐々に締まって、指先どうしが触れるほどに細くなっていく。

 

「か……は……ぁ」

「セリカちゃん!、今助けるから!!」

「遅い」

 

拳を握りしめ、セリカの首を飛ばす。

セリカのヘイローが砕ける。

 

「ぁ……」

「次は君だ、ノノミ」

「まだだ……!簡易領域!!」

「……」

「誰が……誰が私に、呪術を教えたと思ってるんですか……!!」

 

ホシノの展開した簡易領域に、シロコとノノミも入っている。

 

「ホシノ、君の簡易領域は限りなく領域に近い。習得したのは最近だろうが……あの時、何故呪霊を相手にしたのがヒナだった?」

「……ヒナちゃんは、「任せて」って言ってた。だから託した」

「そうか……ヒナは死んだよ。あの呪霊の毒でね」

「!!」

「おっと、戦闘中に感情を出すなよ。只でさえ簡易領域は脆いんだ。綻ぶだろ?」

「あがぁ……!!」

「ノノミちゃん!!」

「ノノミ。君の笑顔には、何度も世話になった。けれど、今の私にとってはもう無駄なんだよ。ネフティスが撤退した、あのアビドス砂漠の現状のように」

 

痛みでまともに話せないだろうノノミが放った拳は、私にとってはさざれ石に触れる程度の感触しかなかった。

 

「お疲れ様、ノノミ」

 

ノノミの心臓を破裂させる。

ノノミのヘイローが砕ける。

 

「……悪いね、ホシノ。私は容赦をしないんだ」

「……」

 

返事がない。というか、生気が感じられない。

 

「……ああ、梔子ユメかい?」

「!」

「今は先生と一緒の所だよ。病院でぐっすりさ。……ただし、呪霊を向かわせておいた。寝ているし反抗できずに……ゆっくりと死に向かうだろう」

「この……外道がぁ!!」

「そうやって怒りに、過去に囚われるから──私に勝てないままなんだよ」

 

バツン。

 

「……あ、れ?」

「おや、もう痛みを感じないのかい?……はは、眼球って痛いんだけどな」

「?」

「ああ、脳を通じて耳も破壊されたのか。……惨いね、ホシノ。君はもう死んでるんだ」

 

脳。その中でも、あらゆる器官に命令を出す脳幹と呼ばれる場所が破壊されている。ホシノの心臓も肺も、何もかもが停止している。

 

「おやすみ、ホシノ。君はここに居てはいけない」

 

ホシノのヘイローが砕ける。

 

「……」

「シロコ、学生証いる?」

「……ん」

「空も赤いし、サンクトゥムタワーの方は色彩が顕現している。……近づかないほうがいい」

「ん」

「……すまない、シロコ。君にはこれから辛いことが待ってる」

「わかってるよ……でも」

 

ハイライトの潰えた目で、まっすぐこちらを見つめてくる。ホシノへの攻撃に巻き込まれて破裂した右眼が、その視神経が垂れている。

 

「……私は、砂狼シロコであり続けるから」

「くっくっく……それはいいね。っと」

 

領域が勝手に解けてしまった。

 

「立てる?」

「いや、無理に決まってるだろう。シロコも限界?」

「ん……少し、寝る?」

「……そうしようか」

 

まだ温かいホシノたちの身体と、雪に溶けて未だ凍る気配のない血液。

制服が、袈裟が汚れることなど気にもとめずに、私とシロコはうとうとと微睡んだ。

絶望のふちの、ほんのひと欠片だけ遺った心の平穏に背中を預けて。

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