「アヤネちゃん!!」
「領域展開」
「っ、まず──」
「胎蔵遍野」
黒の結界で覆われた領域の中央に、人の顔が詰め込まれたような憎悪の花が咲く。
「”反重力機構”……術式順転、”
「うっ、ぐああああ!?」
セリカの腹部が破裂し、胴と足が泣き別れになる。
「セリカ。君と先生の話を見ていて、私は心が安らいだよ。日常が日常として機能していたあの日々は、いつ思い返しても色褪せない」
「……すまない。君は今ここで死んだほうが、この先の地獄を見なくて済むだろう」
掌に術式を発動させ、セリカの首を握りしめる。
ただ、術式の効果で首には触れられない。反重力が作用している。
そして首は徐々に締まって、指先どうしが触れるほどに細くなっていく。
「か……は……ぁ」
「セリカちゃん!、今助けるから!!」
「遅い」
拳を握りしめ、セリカの首を飛ばす。
セリカのヘイローが砕ける。
「ぁ……」
「次は君だ、ノノミ」
「まだだ……!簡易領域!!」
「……」
「誰が……誰が私に、呪術を教えたと思ってるんですか……!!」
ホシノの展開した簡易領域に、シロコとノノミも入っている。
「ホシノ、君の簡易領域は限りなく領域に近い。習得したのは最近だろうが……あの時、何故呪霊を相手にしたのがヒナだった?」
「……ヒナちゃんは、「任せて」って言ってた。だから託した」
「そうか……ヒナは死んだよ。あの呪霊の毒でね」
「!!」
「おっと、戦闘中に感情を出すなよ。只でさえ簡易領域は脆いんだ。綻ぶだろ?」
「あがぁ……!!」
「ノノミちゃん!!」
「ノノミ。君の笑顔には、何度も世話になった。けれど、今の私にとってはもう無駄なんだよ。ネフティスが撤退した、あのアビドス砂漠の現状のように」
痛みでまともに話せないだろうノノミが放った拳は、私にとってはさざれ石に触れる程度の感触しかなかった。
「お疲れ様、ノノミ」
ノノミの心臓を破裂させる。
ノノミのヘイローが砕ける。
「……悪いね、ホシノ。私は容赦をしないんだ」
「……」
返事がない。というか、生気が感じられない。
「……ああ、梔子ユメかい?」
「!」
「今は先生と一緒の所だよ。病院でぐっすりさ。……ただし、呪霊を向かわせておいた。寝ているし反抗できずに……ゆっくりと死に向かうだろう」
「この……外道がぁ!!」
「そうやって怒りに、過去に囚われるから──私に勝てないままなんだよ」
バツン。
「……あ、れ?」
「おや、もう痛みを感じないのかい?……はは、眼球って痛いんだけどな」
「?」
「ああ、脳を通じて耳も破壊されたのか。……惨いね、ホシノ。君はもう死んでるんだ」
脳。その中でも、あらゆる器官に命令を出す脳幹と呼ばれる場所が破壊されている。ホシノの心臓も肺も、何もかもが停止している。
「おやすみ、ホシノ。君はここに居てはいけない」
ホシノのヘイローが砕ける。
「……」
「シロコ、学生証いる?」
「……ん」
「空も赤いし、サンクトゥムタワーの方は色彩が顕現している。……近づかないほうがいい」
「ん」
「……すまない、シロコ。君にはこれから辛いことが待ってる」
「わかってるよ……でも」
ハイライトの潰えた目で、まっすぐこちらを見つめてくる。ホシノへの攻撃に巻き込まれて破裂した右眼が、その視神経が垂れている。
「……私は、砂狼シロコであり続けるから」
「くっくっく……それはいいね。っと」
領域が勝手に解けてしまった。
「立てる?」
「いや、無理に決まってるだろう。シロコも限界?」
「ん……少し、寝る?」
「……そうしようか」
まだ温かいホシノたちの身体と、雪に溶けて未だ凍る気配のない血液。
制服が、袈裟が汚れることなど気にもとめずに、私とシロコはうとうとと微睡んだ。
絶望のふちの、ほんのひと欠片だけ遺った心の平穏に背中を預けて。